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三人目の異常者

記念べき100話目――なのにサブタイトルがこれである。

意図した訳じゃないのにどうしてこうなった。

「ライ!」


その声にライが反射的に顔をあげる。

ライが顔をあげるとそこには心配そうな顔をするハルマンの姿があった。


「あーハルマンさん、どうかしました?」

「どうかしましたじゃねぇよ。さっきから声掛けてんのにずっと俯いてて反応が無いから心配してんだよ」

「す、すみません、ちょっと考え事をしていたもので」


申し訳なさそうに頭を掻くライにハルマンがため息を吐く。


「まぁ相手があの【豪腕】だもんな、そりゃ色々考えるわなぁ」

「………」


その言葉に肯定するように、あるいはその逆なのかライは黙り込む。

そんなライの対しハルマンが元気付けるように背中を叩く。


「そう心配すんなって!確かに【豪腕】がやられる所なんて俺には想像出来ねぇが、それ以上に大将が負ける事なんて想像どころか考えた事すらなかった。お前はそんな大将に勝ったんだ、もっと自信持てよ!」

「はい、ありがとうございます」


ハルマンの励ましにそう答えつつもライの表情はまだ浮かない様子だった。

そんな時、控室の外から扉の叩く音が聞こえてくる。


「密林仮面さん、間も無く出番ですので移動の方お願いします」

「わ、分かりました」

「くっ…密林仮面さんだってよ、あの司会の嬢ちゃんも良いネーミングセンスしてるよな、なぁライ?」

「それ、自分に聞きますか?」

「そんな仏頂面すんなって、ほらこれ被って行くぞ」


仏頂面をするライの顔を隠すようにハルマンが魔形をライの頭に被せる。


「分かってますよ」


被せられた魔形の位置を調整しながらライが立ち上がり舞台を目指す為に控室を出る。








控室を出て舞台へと繋がる細長い通路の入口にライとハルマンの姿があった。


「さてと、これでこうしてお前に付き添うのも最後になるな」

「はい、今までありがとうございました。ハルマンさんのおかげで」

「そういう照れ臭い話はよせよ。それよりもほら、皆が待ってんだ早く行ってこい!」


ライの背を叩き、ハルマンがライを通路へと押し込む。


「行ってきます!」

「おう!思いっきりやってこい!」


ハルマンの声を背に受けながらライは光あふれる通路の奥へと歩みを進める。

そして光の向こう、観客の声で溢れる舞台へとライが足を踏み入れた瞬間、ライの全身を凄まじい歓声が襲う。


リドルとの激闘以降、ライに対する評価は180度様変わりしていた。

ルミエスト、タルートとの闘いでは、観客達が最初にライに抱いていた悪印象を拭い去る事は出来なかった。

だがリドルとのあの人並外れた斬り合い、空中に漂うしかも防刃の外套を貫くその凄まじい一撃、そしてあの人食いに勝ったという事でライの実力が本物であると観客達も認めたのだ。


しかし認められたのは実力だけでは無かった。


「密林仮面ー!応援してるぞー!!」

「きゃー!密林仮面よ!私を娶ってー!!」

「カリーフロなんて連中に負けんじゃねぇぞー!!」


あの出鱈目な自己紹介も同じく本物であると誤解されていた。


カレン達、主にノーラが書いた設定であったが、ライが準決勝で見せたあの剣技、あの技を見た観客達が”あれほどの技を身に付けなければならない程の過酷な人生を送ってきたに違いない”概ね間違ってはいないその予想だったが、有ろうことかその予想はノーラが書き上げたあの支離滅裂な設定を真実として勘違いされてしまったのだ。


虐殺的敵対部族フローリカ、それに滅ぼされた一族を復興させるため、そして復讐するためにより強き番を求めやってきた。

その設定が真実として受け入れられ、リドルとの試合を見た観客から試合を見ていない他の人間へと戦いの様子と共に伝わり、人伝に伝わるうちに設定はドンドン盛られていき気が付けば吟遊詩人が一時間かけて歌い上げる超大作となっていた。


これにはライだけでなく、設定を考えたノーラも顔を覆い隠して恥ずかしがっていた。


「ノーラさん…恨みますよ」


魔形の裏で顔を引き攣らせながら観客達に答えるように手を振る中、フーバーの声が響く。


『準決勝、白老こと人食いリドルに勝利した謎の仮面の男!その実力は――え?人食い言っちゃ駄目?でももう観客の皆さん分かっちゃってますよ?準決勝の時顔もみえてたし…そういう問題ではない?あ…はい、ごめんなさい』


(司会の人、懲りないなー)


裏で何者かに怒られているのであろうフーバーに対しライがそんな事を思う。


『コホン、えーではもう一人の方も登場して貰いましょう!どうぞ舞台の中へ!!』


フーバーの声に促され、舞台内にアドレアが姿を現す。

一歩一歩、堂々とした立ち振る舞いは王者の風格を感じさせるものであり、今までの荒々しい雰囲気とは違うその姿に観客が言葉も無くその姿に、全員が今日のアドレアは何処か違う事に気が付いていた。


やがてアドレアが舞台の中央近くで歩みを止め、ライと向かい合う。


「良かったぜ、逃げないで居てくれて、お前はどうも俺達を避けてる感じがしてたからよ」

「避けてるっていうのは否定はしないです…というか追いかけられたら誰だって逃げますよ」

「そうか?俺だったら追っかけてくる奴らなんて迎え撃って叩き潰してやるけどな」

「Sランク冒険者四人相手にそんな真似する度胸は俺にはないですよ」

「はっ、その俺達が四人がかりで敵わなかった天竜を真っ二つにした挙句、粉微塵に消し飛ばした奴の言うセリフかよ。嫌味にしか聞こえねぇぜ」


あれは自分の力ではないと思わず否定しそうになるライだったが、今ここでそれを否定しまえばならば誰がやったのだと探りを入れられ、そこからフィアの正体、さらには始源の存在が露呈する可能性があった。

このまま誤解させていた方が良いだろうと結論付け、ライは別の話題を振る事にする。


「貴方はなんで俺の事を追うんですか」

「あぁ?」

「【聖壁】に【魔境】あの二人が俺を追う理由は…まぁ、何となく理解してます。本人の口から聞きましたから。でも【剣乱】と【豪腕】貴方が俺を追う理由が分からない」

「あーアリスの奴は天竜をたった一人で討伐するような危険な存在を放置は出来ないだとか何とか言ってやがったな。俺の理由は単純に天竜を倒したお前の強さに興味があって勝負を挑みたいから――って事になってる」

「なってる?」


アドレアの言葉にライが首を傾げる。


「天竜を倒したお前の強さに興味がある、それに嘘偽りはねぇ。戦いたいというのも本当に思ってる事だ。でもそれがお前を追う目的じゃない」

「じゃあ貴方が俺を追う本当の目的は一体」

「そうだな…良いぜ、教えてやっても」


勿体ぶるようにアドレアがゆっくりとした動作で右手をライに伸ばす。


「お前が俺に勝ったら――」

「勝ったら?」


伸ばした右手の人差し指でライを指しながらアドレアが言う。


「俺と結婚しろ!!」

「………は?」


アドレアの口から出た予想もしていなかった言葉にライが、フーバーが、観客達が凍り付く。

そんな凍り付いた空気の中、いち早く正気に戻ったのはライだった。


「いや、いやいやいや!!何言ってんだアンタ!?」

「何って、おいおいその歳で難聴か?」

「別に聞き取れなかった訳じゃない!!何で結婚!?」


まだ半分混乱している頭でライが何とか疑問を投げかける。


「俺はなぁ俺より強い奴、俺が守る必要もないくらい強いじゃねぇと隣に居て欲しくねぇんだ。いちいち俺が守ってやらなきゃいけないなんて煩わしくて仕方ない、そしてそれはお前も同じだろう?」

「え?同じ?」

「お前も同じ理由なんだろ?強い奴を番にするために、つまりは俺が適任って事だ」

「適任じゃねぇーよ!!いやその前にアンタもあの設定信じてるの!?しかも俺が負けたらじゃなくて勝ったら結婚させられるの!?罰ゲームか何か!?」

「俺より強い奴と結婚してぇんだから当たり前だろ?お前が勝ったら俺と結婚する。何も間違って無いだろ?」

「どこが当たり前!?間違いしかないよ!!」


不満を爆発させるライにアドレアがしょうがないとばかりにため息を吐く。


「しゃーねーなー、じゃあお前からも何か条件を出せ。俺が勝ったらお前の条件を聞いてやるよ」

「そっちが勝ったらって、もうツッコムのも疲れたよ…」


ツッコミ疲れたおかげか、先程よりも落ち着きを取り戻したライが考える素振りを見せる。


「条件か…そうだな、じゃあ俺の言う事を何でも聞くでどうだろう」

「おいおい、俺が結婚になのにそっちは何でもかよ。不公平じゃねーか?」

「不公平…じゃあこういうのはどうだろう」


そう言いながらライが腰に携えたエクレール、アムダより貰い受けた短剣一式を専用のホルダーごと地面に放る。


「何のつもりだ?」

「剣は使わないって事だよ」

「あ?」

「アンタとの試合、アンタの得意とする肉弾戦で戦ってやる。それでアンタに勝てたら俺の条件を飲んで貰う。これなら文句無いだろ?」

「………」


ライらしからぬ挑発的な物言い。

実はこの肉弾戦で戦うというのはライの考えでは無く、リドルの考えなのだ。






時を遡る事昨夜、リドルがライにある言葉を投げかける。


「ライ、お前さん剣を使わずにあの小僧と戦ってみる気はないか?」

「剣を使わずに…ですか?」

「あぁ、お前さんが普段通り戦えば明日の試合など一瞬で終わってしまう。じゃから剣を使わずに戦ってみては貰えんか?」

「それは、流石にちょっと…剣を使わないって短剣もって事ですよね?」

「勿論拳と拳、肉体と肉体での勝負じゃ」

「あの【豪腕】相手にそれは無理ですよ!第一そんな真似したら絶対ブチギレますよ!」

「それも狙いじゃ、あやつはどうも喧嘩の癖が抜けておらん。最初は相手の力を調べようと遊ぶ所があるからの、本気で怒らせないと最初から全力は出してくれん」

「全力を出させる方法なら他にもあるでしょう?剣無しの自分じゃ【豪腕】に対抗する手段なんて」

「あるじゃろ、とっておきのやつが」


勿体ぶるように酒を一口飲んでからリドルが続ける。


「お前さんの剣技は確かに凄まじい。だがそれがお前さんの全てではない。ライ、お前さんの真価は戦い方そのものにある」

「戦い方…」

「わしとの闘いの時に見せたよう状況に適応し、最も効果的な戦法を編み出すお前さんのその戦い方、それさえあればあの小僧に対抗するには十分だろうよ」







「へぇ…随分な口叩くじゃねぇか。俺相手に剣を捨てて肉弾戦で挑むだと?」


俯くアドレアの口元が愉快そうに吊り上がり


「あんま舐めた口聞いてんじゃねぇぞてめぇ…!!」


そのセリフと共に顔をあげたアドレアの表情は憤怒に満ち溢れていた。


『両者共に闘気は十分のようです!それでは始めて貰いましょう!武闘大会決勝戦!!【豪腕】のアドレア対密林仮面!!始めてください!!』

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