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一人目の異常者

ライが街を出てから数時間が経った頃、ガダルの街の南門に三人の冒険者の姿があった。

それは天竜と対峙していたあのSランク冒険者達、ルークを除くアリス、イザベラ、アドレアの三人だった。


「おいイザベラ、本当なんだろうな?アイツがこの方向に向かったって言うのは?」

「えぇ、朝早くに街を出ていくのを私の鳥たちが目撃してたわ」

「それで、今はどの辺に居るの?」

「さぁ?分からないわ」

「分からないって、鳥に後を付けさせてるんじゃねぇのかよ?」


アドレアの疑問に、イザベラを肩を竦めながら答える。


「それが南門から街を出ようとしてる所までは見てたんだけどね…途中で鳥たちが魔力に戻っちゃったのよ」

「それって」

「えぇ、ルークや天竜の魔法を解除した時と同じね…バレない自信はあったのだけど、どうやって感づいたのかしら?」

「五感まで規格外なのかよ…」


アドレアは先日の天竜とライの戦いを思い出し、口角を釣り上げ獰猛な笑みを浮かべていた。

そんなアドレアの様子にアリスとイザベラはまたかとため息を吐く。


「戦闘狂も大概にしなさい、一人で天竜を討伐するような化け物にアンタが一人挑んで勝てる訳ないじゃない」

「はっ!勝てなくたって良いんだよ!むしろ俺が歯が立たない位に強くなくっちゃ意味がねぇ」

「本当これだから脳筋は嫌なのよ、自分の実力も弁えないから質が悪い」

「んだとぉ!?」

「何よ?」


アリスとアドレアが口論を繰り広げ、イザベラがその様子を傍観していると、そんな三人に近づく一人の人間が居た。


「皆さん、ここに居たのですね」

「んお?なんだルーク、俺達に何か用か?」


アドレアが近寄ってきた人間、ルークに対してそう声を掛ける。


「いえ、私も皆さんに同行しようと思いましてね」

「ルークも?でも貴方は聖都の守護っていう役目があるはずでしょ?こんな所で油を売ってる暇なんてないんじゃ…」


イザベラがルークに向かってそう言った。

ルークは聖都を拠点とする冒険者であり、聖都に居る国王から直々に聖都の守護を言い渡されていた。


「別に誰かが攻めてくる訳でもありませんし、私が居ても居なくても何も変わりませんよ」

「だろうな…しかしルークも意外だったが、俺的にはアリスが同行するって言い出したのが意外だったぜ」

「それは私も思ったわ、普段他人に対して興味を示さないあのアリスがねぇ…」


イザベラのその言葉に、三人の視線がアリスへと注がれる。

そんな三人の視線にアリスが不愉快そうに鼻を鳴らしながら答える。


「白銀色の天竜を一人で討伐するなんて、そんな化け物を野放しに出来る訳ないでしょう?それがCランクと実力を偽っているような人間だと知れば猶更ね」


ライが天竜を討伐し姿をくらませてすぐ、アリス達は天竜を討伐したのが何者なのか探りを入れていたが、有力な情報は何も得られなかった。

それもそうだろう、あの天竜との戦闘の最中高速で動き回っていたライの外見を正確に把握出来る訳もないし、そもそも天竜を討伐出来るような人間に心当りは無いかと聞かれてライの名前を上げる人間なんて居るはずがない。


ならば何故、アリス達はライがCランクであるのかを知っているのかと言えば、あの卵を持ち運んだのは誰なのかと興味本位で聞いたのが始まりだった。

外見的な特徴も聞いたが、別にこれといった特徴がある訳でもなくそもそも天竜を討伐した冒険者の外見も正確に覚えていないため何の役にも立たなかった。

しかしクラックブーツを履いているという話を聞いた時、あの冒険者もクラックブーツらしき物を履いていた事を思い出し、そこから詳しく話を聞く内にライがあの天竜を討伐した冒険者である事を確信したのだ。


「魔法も無しでCランク冒険者やってるとか、怪しさ満点じゃない」


Cランクと言えば、一般的には強くも弱くも無い並みの魔物という扱いになる。

しかし、それはあくまで魔法を使って戦った場合の前提であり、魔法無しで戦った場合Cランク冒険者が束になった所で敵うような相手ではない。


「魔法が使えないと嘘をついていたのか、それとも魔法も無しでCランクの魔物を倒せるだけの実力が本当にあるのか…天竜の戦いを見てると後者の気がしてならないわね…本当、どんな化け物よ」

「どっちでも構いやしねぇよ、アイツには天竜を一人で狩るだけの力がある、そんだけはハッキリしてんだからよ」

「脳筋は考えなくていいから人生楽しそうね…それより、アンタ達はどうなのよ?」

「どうって、アイツを追う理由の事か?そりゃあ勿論――」

「あぁ、アンタは言わなくても分かってるから別に良いわ」

「このアマァ…」


アリスの言葉にアドレアが青筋を立てるが、アリスはそんなアドレアを気にする素振りも見せずイザベラに視線を向ける。

視線を向けられたイザベラは視線を逸らしながら答える。


「あー私はそうね…強いて言うなら暇つぶしかしら?」

「嘘ね、暇さえあれば魔法の研究してるような人間が何言ってるのよ」

「本当の事を言ってないのはお互い様でしょ?」

「まぁまぁ…二人共、そこまでにしましょう」


ルークがそう言いながら、二人の間に割って入る。

そんなルークにアリスがムっとした表情を浮かべながら問い詰める。


「そういうアンタはどうなの?なんで聖都をほっぽり出してまでアイツを追うのよ」


アリスのその言葉に、ルークは空を見上げるようにしながら言葉を漏らす。


「…忘れられないのですよ、昨日の事が…」

「確かに衝撃的だったもんな…ありゃそう簡単に忘れられねぇよ」

「いえ、確かにそれもあるのですが、私が忘れられないのはもっと別の事なんです」

「別って何よ?」


ルークの勿体ぶるような言い方に、アリスが苛立ちを隠す気も見せずに聞き返す。

そんなアリスの様子を気にすることなく、ルークはゆっくりと話し出す。


「私が忘れられなかったのは壁を強引に剥がされた事…そしてあの魔力の本流に飲み込まれかけた時の事です」


ライの持つ剣から膨大な魔力が解き放たれたあの時、ルークは自分達に迫りくる魔力の波から身を守るために、咄嗟にその魔力を自身の身体に取り込み壁を展開する事で危機を脱していた。


ルークはその事を思い出しながら言葉を続ける。


「皆さんも知ってるでしょうが、私は今まで傷と言う傷を負った事がありません、それ故に死の恐怖というものを味わった事もありませんでした…昨日までは」


ルークはSランク冒険者の中で守る事に最も長けており、事実今まで魔物との闘いで傷を負った事は一度も無い。

だからこそルークが死を実感した事は一度たりとも無かった。


「あの時私は初めて死を実感し…そして同時に生きている事を実感しました」


今まで死を実感した事が無かったルークは、魔物との闘いに、何の目標もなくただ生きるだけの日々に飽き飽きしていた。

そんなルークは死を実感する事で初めて、今自分が生きているという事を実感した。


「生まれて初めて感じた自分が生きてるという感覚…あの感覚が忘れられないのです」


自身の震える両手に視線を落としながらルークが誰に言うでもなく独り言のように呟く。

そんなルークの様子に誰も口を挟めないでいると、顔を伏せていたルークが熱にうなされたような声を上げながら天を仰ぐ。


「あの時の事を思い出すだけで私はもう…身体の火照りが収まらないのです…!」

「………ん?」


ルークの口から出た予想外の言葉に、一瞬三人の動きが止まる。

しかしそんな三人を他所にルークは身をよじりながら恍惚とした表情を浮かべる。


「全身が死によって硬直した感覚!そして死の恐怖から解放された時の全身の力が抜け落ちていくあの感覚…そう、それはまるで絶頂の後の余韻にも似た――」

「ルーク!?お前そんなキャラだったか!?」


とんでもない事を口走りそうになったルークを止めるようにアドレアが食い気味に割って入る。


「目覚めたのですよ…いえ生まれ変わったと言っても良い、あの時私は生を実感したのではなく、生を与えられたのかもしれません…そう、ここから私の本当の人生が始まるのです!」


狂気的な笑みを浮かべながらそう叫ぶルークに、アドレアは勿論、残りの二人もドン引きした様子だった。

そんな様子のルークを他所に、三人がコソコソと話し合う。


「ねぇちょっと、私アレと一緒に旅するとか絶対に嫌よ」

「奇遇ね…正直私も付いていけないわ」

「でもよ、目的は一緒なんだしわざわざ別になんか――」

「目的が一緒…?貴方本気で言ってるの?」


アドレアの言葉にイザベラはルークの方を指さしながら返す。


「早くあの人に会ってまたあの感覚を全身で感じたい…嗚呼――それを考えるだけで私の下腹部がいきり立って仕方ない…!」


「もう一度言うわよ、貴方アレと目的が一緒だと本気で言ってるの?」

「すまねぇ訂正する、目的の人物は同じなんだし、わざわざ別になんかしなくても良いんじゃねぇか?」

「あんなのと一緒に旅して仲間だなんて思われなくないのよ私は!」

「落ち着きなさいアリス、ただ同じ人間を追っているというだけであって、別に四六時中一緒に居なきゃ行けないって訳ではないわ」

「イザベラの言う通りだぜ、そもそも同じ人間を追ってる時点で一緒に旅する事になるのは半ば確定事項みたいなもんだ、嫌ならお前だけ追うのを止めればいい」


アドレアの言葉にアリスが嫌そうな、そして悔しそうな顔を浮かべる。


「ぐぅぅ…脳筋に正論は言われるんて…でもここで一人降りるなんて出来る訳ないし…私にも目的が――」


アリスがブツブツと呟いていると、一通りトリップし終え満足した表情を浮かべたルークが三人の元へと歩み寄ってくる。


「さぁ皆さん、そろそろ私達も出発しましょう。南門から出たという事は恐らくブルガスに向かっているはずです、早朝に出たという事は目標はガダルとブルガスの間にある宿場で一泊するでしょうし、今から追いかければ十分追いつけます」


先程の様子とは打って変わり、理性的に話すルークの様子に三人が微妙な表情を浮かべる。

そんな三人にルークが首を傾げる。


「どうかしましたか?」

「いや…どうかしたってお前そりゃ…」

「唐突に真面目に戻られるとねぇ…」

「どうすればいいか反応に困るのよ」

「真面目に戻るとは…心外ですね、私は常に真面目ですよ」

「あれが…真面目?」


アリスの呆れと困惑が混じった疑問の声にルークが答える。


「私は真面目にあの人に死ぬ寸前まで追いつめて貰いたいだけです、あぁ…でも寸前だとやらせ感が出てしまいますね、やっぱりここは死ぬまでやって貰った方が――」

「やっぱり頭可笑しいわコイツ!」

「諦めろアリス、俺はもう諦めた」

「アンタは最初から何も考えてないだけでしょ!?」

「まぁまぁ、人間諦めが肝心よ?それよりもいい加減出発しましょう、このままうだうだやってたんじゃ日が暮れる前に宿場に辿り着けないわよ?」


イザベラの言葉にアリスが大人しくなると、それを見計らったようにルークが声をあげる。


「ではそろそろ向かうとしましょう、皆さん準備は良いですか?」

「えぇ、必要な物は買ってあるわ」

「俺も問題無しだ」

「私も問題も問題無しよ」

「それでは向かうとしましょうか」


そうして四人のSランク冒険者はガダルの街を出て、ライの後を追う。

こうしてライとフィア、そしてライを追う四人の冒険者の世界を巡る旅が始まった。

取り合えず旅立ちまでの話でした。

とりあえずさっさと旅立たせようとしたらちょっと最後の方が雑になってしまいましたが、二章からはこういうのは少なくなると思います。


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