特別製とは
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「昨日は一方的だったが、我々が平行世界から来た事は話したな。」
「はい。二人をみてると信じられないですが。」
「まあ平行世界や異世界だと言っても同じ人間だからな。」
「で、二人はそちらからの侵略を阻止するためにやって来たと。」
「そうだ。ちゃんと理解してもらえて助かる。正直、残された時間もわからんがな。」
「随分と杜撰な作戦ですね。」
「しょうがないだろ。異界を侵略しようなんて試みに例なんてないんだ。攻め混むにしても、こちらの調査や兵を集める必要もある。今あるゲートの安定化や新たなゲートも見つけなきゃならん。今日や明日に開戦はないが一年後かもしれないし、五年、十年先かもしれん。」
「戦争やるのも大変なんですね。初めからやらなきゃいいのに。」
「それだけメリットがあるんだ。」
「平和的にはいかないんですか?」
「もちろんその案も出たが、うま味がないってことで却下された。」
「これはそちらの世界の総意なんですか?」
「もちろん反対している国はある。しかし一番の大国が主導になっていてな。取り巻きやおこぼれに預かりたい国も多くてほとんどが賛成派だ。」
「みんな身勝手ですね。」
「耳の痛い指摘だ。しかし、君たちの世界だって未発見の『資源』が見つかったら活用したいと考えるだろう?」
「資源って。まあ、それなりに躍起になりますね。」
「それと同じ様なものだ。自分たちの見えない所で行われるってのもあるがな。」
本当に身勝手な人たちばっかりの世界だな。思わずため息だって出る。
「はあ。で、残された時間にたった二人で何をするんですか?」
「この世界の各国にこの内容を伝え、可能な限りの技術や防衛の手法を提供することだ。」
「信じてもらえるんですか?」
「我々にはこちらに無い技術や、君たちが持たない魔法、魔術があるんだ。最悪、この場所を見てもらえば何とかなる。」
俺もまだ見てないけど不思議な力を目の当たりにしたり、超技術を見せつけられたら話は変わるだろうな。それと昨日から気になっていた事が。
「この場所って?」
今俺たちのいる家のことか?
「おいリサ。教えてなかったのか?」
「ゴメンゴメン。確かにまだ言ってなかった。今いるこの場所は日本の上空五千メートル。私たちが持ち込んだ『浮遊要塞』なの。」
「え?要塞ってこの家が?それに浮遊って?」
「パッと見れば草原とそこに建つ家だけど中はすごいよ。兵器だったり武器だったり。情報や環境処理の機能も備えてる。それを大地ごと魔術で持ち上げてるの。スゴいよね。私も初めて見たときは興奮しちゃった。」
「全然実感ないです。」
「この家や周りの環境は普通に生活できる様に作られてるからね。あとで端っこでも見に行こうか?浮いてるってわかるよ。」
「そんなデカイの持ち込んで大丈夫なんですか?」
「絶えず移動させたり周囲から見えなくさせているから、今のところ問題ないな。飛行機にも充分に注意している。」
「スゴすぎてもう何も言えないです。」
「わかってもらえたか。」
なぜかダニさんが嬉しそうだ。持ち込んだ中でも自慢の一品なんだろうな。
「それともう一つやることがあってな。どちらかというとこれの方が重要だ。こちらから今あるゲートと、今後開きそうなゲートを調査し、可能であればこれを封鎖すること。」
「閉鎖って。そしたら。」
「そうだ。閉鎖に成功したら我々は向こうに帰れない。計画が進められている向こう側でこんな事はできないからな。」
「二人は良いんですか?」
「覚悟の上だ。」
「それに向こうじゃ重罪人扱いだろうしね。この要塞や兵器、機密事項の持ち出しに、ゲートの無断使用。こっちに残った方が都合が良いよ。」
「強いんですね。」
強い覚悟を持ってやって来たんだ。二人の顔からはそれが窺える。ただのヘタレや変人ではなかったんだ。
「俺たちの目的については大体わかってもらえたと思う。で、もう一つ。君の体だ」
「何で女の体なんですか?それに特別製ってリサさんが漏らしてましたよ。」
ダニさんがリサさんを睨んでいる。もしかすると地雷を踏んだか?
そのリサさんはというと『やってしまった』という顔で明後日の方向を向いている。これはあとで怒られるな。
「この際だ。隠し事なく全て話す。」
「お願いします。」
「まず、その体は君の元の体を作り替えたモノではなく、全くの別人のモノだ。治療も難しく、流石に新しく肉体を造るなんて真似もできなくてな。君の魂と記憶をその体に移動させたんだ。」
「これしか方法がなかったって事ですが、そんな事が可能なんですね。」
「魂と記憶の移動に関してはリサがやった。」
「本来は禁術指定で成功のほぼ無い魔術なんだけどね。体を失った魂と、魂の無い体。あり得ない状況だったけど、互いが互いを求めるから利用してみたの。これでも一応は名の売れた魔術士だったしね。成功して良かったよ。」
「魂の無い体って。この体本来の持ち主は?」
「いない。正確には消えてしまった。」
どういうことだ?
「歩が俺たちの出現で体にダメージを負ったのと同じでな。世界を渡る際、魂にダメージを負って消えてしまったんだ。元々、魂の存在自体が希薄な奴だったからからな。だから体を奪ってしまったとか気に病むことはない。」
もしかすると三人目だったのかもしれない。気に病むことはないって言われても、その子は消えてしまい、俺はその体を使って生き残った。
「せめて、ありがとうって伝えないといけませんね。でも魂の存在が希薄って。もしかして特別製と関係あります?」
「察しがいいな。その通りだ。」
やっぱり。これが今回の話の本質だ。俺は知らないといけない。これからも、この体と生きていく為に。
「まず、そいつの名前だが、付けられていない。名付けの前にいなくなったからな。」
「え?もう十四になっているって聞きましたけど。それなのに名前がない?」
「最後まで聞いてくれ。そいつは『造られた』存在なんだ。魔法、魔術、戦う力。強さを求めて。戦争の象徴となるように。名前は然るべき時まで付けられなかったんだ。」
「名前のない、特別製…造られた存在……」
「そうだ。行動を正当化する為に女神様が欲しかったんだろうな。」
「初めてその力を見た時は戦慄を覚えたよ。一瞬にして豊かな大地が荒野と化したんだから。」
「だからこそ、侵略なんかに使えない。俺たちは施設からこいつを拐い、護る為に力を使って欲しいと訴えた。最初はロボットみたいだったが、俺たちと接していくうちに少しずつ感情も芽生え、変わってきたのにな。」
造り物の不安定な魂では、世界を超える衝撃に耐えられなかった。そして、魂の無くなったその体に、俺が入れられた。俺を助ける為に。
「もう少し体が馴染んだら魔力なんかも感じられると思う。魂は失っても、その体に宿った力は残り続けるから。」
「そういう事だったんですね。」
「重ね重ねすまない。君を巻き込んでしまった。」
「少し、一人にさせてください。」
受け入れる体制は整っていたが、流石にキャパオーバーしそうだ。冷静にさせて欲しい。
「お昼頃には戻って来ます。」
時間はある。散歩でもしながらもう一度整理しよう。
「無理はしないでね。」
心配する声を後ろに俺は一人、部屋を出た。




