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目覚め

ここはどこだろう。何だか長い間寝ていた気がする。

意識は戻ったが身体が動かせない。指先を動かすどころか目を開く事すらできない状態を意識があるなんて言って良いのだろうか。クソ!何でこんなに目に!


強烈な光に飲まれた事は覚えている。そのあとの事は全くわからない。いつの間にか家に戻って来たのか。それとも倒れて病院に運ばれたのだろうか。相変わらず身体は動かせないが思考は止めないようにしよう。


しばらく整理しようとしたところ、あることに気がついた。


『身体の感覚が戻ってきている』


今まで何も感じることはなかったのだが、少しずつ周囲の状況を感じ取れるようになってきた。だがそれにより更なる困惑が生まれた。


ゆらゆらと水に浮かんでいる感覚。それも頭から爪先まで。呼吸器具が着けられた感じはなく、間違えてなくこの身ひとつで。


呼吸なんてできないはずなのに不思議と苦しさはない。これはあれか?SF作品によくある調整槽みたいな物に入れられいるのか?


こんなものが開発されたなんてニュースは聞いたことがないが、それでもないとこの状況に納得できない。もしくは、すでに俺は死んでいて、ここはあの世みたいな場所だってことだ。それなら結果に納得はできないが状況にちょっとは理解はできる。


そんな事を考えているうちに回復は進んでいく。じわじわと、まるで馴染んでいくように。


どのくらい経っただろう。5分、10分、いや、1時間かもしれない。情報が少なすぎて考えるのも面倒だ。それでも指先程度なら動くようになった。もう少しで目も開きそうだ。目が見えれば得られる情報は桁違い。回りに人が居れば目で訴えかけることもできる。それでも、あの光で目にダメージがなければの話だけど。


そんな心配は杞憂だったようで、ゆっくりとその瞳は開かれた。


薄暗い部屋。窓ひとつない殺風景な場所。そして思った通り、液体の中で浮くようにして俺は眠っていたようだ。


続けて周囲を観察しようとするが、それは叶わない。とてつもない激痛が頭を襲ったのだ。視覚から得られた情報に脳の処理が追い付いていない。まるで過大な付加のかかって止まってしまうパソコンみたいだ。


再び訪れた闇の世界。薄れ行く意識のなか、最後に見たのは心配そうにこちらを見つめる一組の男女だった。


再び浮上した意識、初めに感じたのは自分に掛けられた布の感触だった。SFチックな水槽の次は布団かよ。落差激しすぎだぞ。しかし本当にここはどこなんだ。俺は無事なのか。家族にはあまり心配はかけたくないぞ。


不自由さは身体から綺麗サッパリ消えていた。手足は自由に動かせる。少なくとも五体満足だ。布団の中でもぞもぞと軽く運動してみて、そう結論付けた。それでも目を開くのは抵抗がある。再びあの頭痛が襲うかもしれないと考えれば当たり前だろう。しかし、いつまでも目を閉じている訳にはいかない。


恐る恐る、目を開けてみる。写り込んだのは、至って平凡な部屋だった。以前の部屋と違い、陽が差し込んでいる。

本当に落差が激しい。でも俺が知っている部屋ではないな。これが自分の部屋ならば、さっきまでの事は夢だったと言えたのに。


頭痛は襲って来なかった。身体を起こし、周囲を見渡してもみる。

差し込む光、風に揺れるカーテン、草木の揺れる音。平凡な、けれども清涼感のある場所だ。普通に訪れていたら、きっと気に入っただろう。でも、何も知らずに連れてこられ、ここで目が覚めたら思わず『知らない天井だ』と言ってしまう。タイミングを逃したから俺は言わないけど。


「やっとお目覚めですね。」


くだらない事を考えていたら突然声を掛けられた。いつの間にか開けたれた扉の先に一人の女性が立っており、状況的にこの人が俺に向けた言葉だろう。

軽く微笑みながらこちらを見つめる女性。なかなかの美人さんだ。でも俺は知っているぞ。あんた水槽の中の俺を見ていた人だろう。てことは一緒にいた男性も近くにいるハズだ。美人とこんな場所で生活しているなんてあの男が羨ましい。


でも、何でこんな所でこんな人たちにに俺は保護されているんだ。いや、もしかしたら誘拐かもしれないが。


「ここは・・・」

どこ?と続ける前に言葉が止まってしまう。単純に声が出なかったのではない。自分の声に驚き、詰まってしまった。発した声が自分のモノではないのだ。


俺は14歳だ。身体もそれなりに成長し、声変わりも済んでいる。それなのに本来発せられる男の声ではなく、女のような声が出たのだ。


「もう大丈夫そうですね。もう一人が来たら説明をします。状況と君の身体について。すぐ戻ってくるかそこで大人しくしているように!」


困惑を他所に、そう言い残して女性は扉の向こうに消えてしまった。大人しくって言われても無理だ。一度意識してしまうと違和感が気になって仕方がない。着ているものを外して確認したい。でも怖くてできない。動悸は止まらないし、冷や汗はダラダラ。内心は大暴走中だ。理解が追い付かず体が固まっているのが救いかもしれない。


頭がショートして数分後、男を引き連れ、女性が戻ってきた。男は180センチ程の長身で適度に引き締まった筋肉。悔しいけどあんた格好いいよ。お似合いのカップルだよちくしょうめ。


戻ってきた二人は、男は真剣な顔付きで、女はさっきの微笑みは消え、緊張した面持ちになっている。そして部屋に入ってくるなり


「まずは君に謝らなければならない。本当にすまなかった。」


いきなり頭を下げられた。

ちょっと待って。何に対する謝罪か知らないけど、まずはこの状況を説明して欲しい。


「頭を上げてください。なんでここにいるのか、状況が全くわからないんです。そこから説明してください!」


この声の違和感が半端ない。それでもこちらの意思を伝えなければ。


「そうだな。君にとって納得できるものではないかもしれない。けれど紛れもない真実だ。長くなるが聞いて欲しい。」


そう言って男は語り始めた。


男性はダニ、女性はリサ。これが二人の名前。二人はなんと別の宇宙からこの地に来たそうだ。この宇宙は数ある宇宙のひとつで、大木から枝分かれした枝のように無数の宇宙が存在しているとのこと。『もしも』の数だけ世界が生まれ、近接して、大元が同じであればこれらの世界は類似したモノになるという。そして、離れていたり発生自体が別であれば想像もつかないような別世界の宇宙になるという。つまり平行世界と異世界の存在が彼らの宇宙では証明されているのだ。


観測はできても、移動は困難なようで俺の生まれた宇宙をAとすると、彼らの生まれたB宇宙との『ゲート』が発見され、干渉が可能になったのは本当に奇跡らしい。


また彼らの星も地球であり、言語もかなり似ているらしい。日本語もあるためこうして交流ができるそうだ。


だが、明らかな違いが三つはあるという。

一つは環境。動植物が大きく違い、こちらでは空想上の生物である龍までいるらしい。圧倒的な強さを誇り、他の生物を寄せ付けないことで未踏の地が数多くあるそうだ。


二つ目が科学技術。B宇宙の地球は、技術開発が進んでおりA宇宙より数百年、下手すれば千年単位で差があるという。平行世界の観測ができるんだから当たり前か。


三つ目が魔力の存在。環境と被るがB宇宙では生物は魔力というエネルギーを有し、大気中にも漂っているという。それにより様々な現象は起こる。自然に溜まった魔力からは魔物が生まれ、人々が使えば魔法や魔術になるという。

ちなみに魔法と魔術はどちらも魔力をエネルギーとするが別物で、工程をすっ飛ばして現象を起こすのが魔法。呪文や道具の行使の結果、現象を起こすのが魔術とされているらしい。魔法は超能力で、魔術は学問だそうだ。

A宇宙にも魔力はあるそうだが、極僅かで使える人もまずいないみたい。


こんなB宇宙からなぜこの二人か来たのかと言うと、『戦争を止めるため』らしい。

先に述べた通り、B宇宙は発達しているが環境により資源の確保が難しく、人類の生存圏も限られている。一言で言えば『A宇宙を植民地にしてB宇宙の向上を図ろう!』という話。迷惑な話だ。


これに異を唱えたのがこの二人の所属する組織。偶然にも繋がった二つの宇宙。他の宇宙への干渉を善としない彼らは、この二人を特例としてA宇宙に送り込むことで進攻を防ぎ、もしもに備えた工作を任務としているらしい。


ゲートは俺の通学路上に開いており、あの時の光はゲートを通過した際の漏れ出した余波で、俺はそれに巻き込まれた。余波とはいえ高エネルギーを全身で浴びた俺は、死の一歩手前で彼らに保護されたようだ


男、ダニは淡々とこれらを口にした。


「守るべき現地住民の生命を脅かしてしまった。本当にすまなかった。」


あ。また謝ってきた。


「信じられない事もありますが、ここにいる理由はわかりました。あの光のあと、助けて頂いたのもわかります。ありがとうございました。」


彼らの言うことは本当だろう。命を救ってくれたのも真実だ。それについて謝罪の言葉を口にする。


「でも、体の違和感のひどいんです。これはどういう事かわかりますか?」


怖くて未だに確認できていない。覚悟を決めてその問いを繰り出した。

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