世界が終わる時
「お疲れ様でした!先に失礼します!」
今日の稽古を終え、仲間より一足先に道場を出る。山奥の僻地と言っても過言ではない場所に住む身としては、早く帰らなければ家族との食事に間に合わないのだ。これはいつの間に家族の間でできたルールであり、時間的に厳しいにも関わらずなぜか皆が守っている。
俺、『高嶺 歩』は剣道で疲れた体にムチを打ち、自転車を漕ぎ出した。
「クソー!何でうちはこんなに山奥で!遠いんだよ!」
部活後に10キロも山道を登るのは正直に言ってかなりキツイ。愚痴くらいこぼさないとやってられないのだ。車で送り迎えをしてもらえるのは雨が降った日のみ。それ以外は暑かろうが、寒かろうが自転車の日々。体力は付くが中学二年の身としては友達とおしゃべりをしながら帰路につきたいと思ったりもする。
それでも時間に間に合うよう自転車を漕ぐのは、愚痴をこぼしつつも歩が家族想いだからだろう。両親に少し年の離れた兄が二人。末っ子の彼は、それはもう可愛がられながら育ってきた。それに答えるよう、歩もまた家族に貢献しようと頑張っているのだ。
まぁ、中学二年の俺ができる事なんて限られてるけどな。
そんな事を考えながら半分程の道のりを過ぎた時、あることに気がついた。
「森が静かすぎる」
今は5月。森の中では動物たちがそれなりに活動中しているハズだ。ましては鳥が全くいないなんておかしい。
毎日この森を見ていればこの静けさが気になって仕方がない。
ついにクマでも出たか?なんてふざけた考えのあと、ソレは起こった。
『光が現れた』
そうとしか言いようがない。何も無い空間が突然強い光を放ち始めたのだ。空を見渡しても赤く染まった夕日があるのみで雲一つ無いく、人工的な光も無い。
だんだんと強まる光を目にし恐怖を感じた歩は素早くこの場を離れようとする。だが広がる光に飲み込まれたところで彼の意識は途切れてしまう。
約10分後、光が去ったその場所に残されたのは彼のカバンが一つのみ。その後、時間になっても帰ってこない歩を心配した家族が見つけた物だ。
光を不審に思った住民や消防、警察など集まった者でも捜索を行ったがこれ以上の発見は何もなかった。
次の日、もちろんこの現象は大きなニュースになった。
宇宙人の侵略が始まっただとか現代の神隠しだとか。関わりがあるかもしれない。しかし発光現象と少年の関係性を関連付けるのは科学的な面からみて証明できないとされ、たまたま謎の発光現象と不幸な事件が同時にあったとされ、人々の中から忘れ去られていった。
そして、悲しみに暮れる家族のもとに歩が戻って来ることは二度となかった。




