プロローグ
九竺はじめはここぞという時に力を出せない人間である。
例えば先週の試合がそうだ。登板したのに早々安打を打たれるし、フォアボールが目立った。
結局試合には勝てたけどその後はこっぴどく監督に怒られた。無理もない。緊張して力を出せなかったのは俺自身の責任だ。
いっつもそう。
俺はいつもそうだ。
何をするにしても自分に自信が持てない。野球部にいる時だけじゃない。テストの時も、人の前に立つ時も、誰かと話す時も、俺は俺自身に全くと言っていいほど自信が持てないのだ。
自信がない。
自信が持てないのが自慢と言っても過言でじゃない。言い過ぎじゃない。
野球部なのに、坊主姿で図体も大きいのに、俺はあんまり自信というのを持てないのだ。
コミュニケーション障害。コミュ障。
中学校の頃は同じ小学校の知り合いがいたから俺は沢山の人と喋れたし、野球部でも未経験者や初心者が多かったからそれなりに活躍できた。
まあそれもあってか高校では野球の強豪校に入ることができたのだが、そこは未知の世界だった。
ある意味で異世界。
野球をしたいと思う人達が集まり、汗を流して必死にスタメンを取ろうとする世界。
俺のいた中学ではそんなことはなかったし、そもそも中学では部活動が少なかったせいもあって野球部を選ぶ人も多かったのだ。
だからもっと強くなりたいと思っていたし、もっと練習したいとも思った。
なのに。
こうして今になって、高校二年生の夏になって、甲子園を賭けた選抜の試合も始まっているというのに、俺は何をしているのだろう。
そんなことを思う、俺の話をきいてほしい。