第五話:初登板
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・静かだ。
森下はセットポジションに入りながら思った。
此の一瞬に何とも言い難い高揚感を感じる。
最初の一球と最後の一球の時の一瞬の静寂。
足を上げて相手を見る。
最初からはないか。
足をおろしながらニコッと笑って、セットからなのは少し残念だけどやっぱ最初の一球は・・・・・・・・・・・・・
キャッチャーミットをめがけて腕を振り切る。
ボールは綺麗なバックスピンがかかりながら、・・・・・・・・ミットに収まった。
「・・・・・・・・・ど真ん中でしょ、やっぱ。」
[ストライークッ!!]
審判の掛け声とともに野球を見ている人達が騒がしくなった。
まだ一球投げただけなのに凄いなー。
さぁ、次はどうすっか、・・・・・・・・よし。
森下はセットに入ると速いテンポで二球目を投げた。
ボールは内角低めに進んでいき、またミットに収まるかに思えたが、今度はおもいっきりボールを強振した。 ボソッ、(ショート)
ボールはショートの定位置から少しセンターよりの所にライナーで飛んで行き、竹橋が左手を伸ばして地面に着く前に捕球し、ランナーはうまく反応できずに、ショートがタッチしてゲッツーになった。
あっぶね〜。打たせて取ろうと思ってしかも、思いどうり打たせてヒットとかかなりかっこ悪いし何より、・・・・・・・・・・・羽村先輩に何されるか分かったもんじゃねえよ。)
皆がショートの竹橋に声援を送ったが、その中でも森下の声は一際大きかった。
村田「・・・・・・・・・・・・・・ナイスピッチ。」
次のバッターは二球目の外角低めのボール球を引っ掛けて、この回は終わった。
森下は意気揚々とベンチに戻ったのだが、待っていたのは、
「お前!!自信満々に言い切っといて冷や冷やさせてんじゃねえ!!。」
怒鳴り声だった。
まったくもってその通りですね。これについては何も言い返す言葉がありません。
「そうだぞ!!それに何でこんな大事なことなのにあの時わざわざ俺らを返してから決めやがったんだ!!。」
はいはい、分かってましたよ。ええ、分かってましたともそのことを聞かれることはだって一番何か言ってきそうなのが羽村先輩とあなたで羽村先輩とはどのみち話さなきゃならなかったけど、先輩とは絶対じゃなかったからです。簡単に言うとあなたが邪魔だったからみんな返したんですー。とか、言ってみてー、つかこの二人マジでどうするよ。
そんな事を考えていたら、天からの助けがやって来た。
「森下君は次のバッターでしょ、早くネクストに行かなきゃ。これバットとヘルメット。皆も話す暇があるんだったらピッチャーでも見るなり他の事に時間使って。」
キャプテン、ホンットーにありがとうございます。
次のバッターは、間野か。なんとかして塁に出てくれよ。そしたら俺が何とかするから。
素振りを見てるだけだけど、バッティングも出来るみたいだな。
正直俺は今日の試合なんて本気じゃなかったし、あいつにだって断られても構わなかった。
けど、なんかこのままじゃいけない気がするんだよな。
大げさに言ってみたらこんな場面でやる気が起きないなら、もう一生何も掴めないような気が。ホントに少し大げさだな。でも、今はやる気十分だぜ。・・・・・・・・・・・・ありがとな。
「ピッチ、こーい!!。」
間野は初球から思いっきり振って行ったが、初球はボール球を、二球目はカーブをかなり見当違いの所を振って空ぶってしまい早くも追い込まれてしまった。
くそっ、当たる気がしねえ。俺中学の時からろくにヒットなんて打ったことも無かったし、・・・・・・・・・
「間野!!落ち着け、兎に角当てろ!!。」
・・・・・・・・・そうだな。ヒットなんて打てなくてもいい。兎に角当ててやる。
間野はバットをグリップいっぱいまで持ってバットを構えた。
3球目は直球をなんとか掠らせてキャッチャーがボールを取り損ねてファールになり、続く4球目はボール次も外れてカウント2−2となった。
そして、5球目のカーブを引っ掛けた。
だが、打球の方向はサード方向とよく、当てただけなのでボールも転がっていかず、結局間一髪のところで間野がボールより先にファーストベースに辿り着きセーフになった。
「ナイバッチー。」 「いいぞー。」 「続け続け―。」
よっしゃー、ナイス間野でかしたぞ。
あれ、そういえばサインとかってあるのか?
一様見ておくか。・・・うわー、何かキャプテンがサインっぽいの出してるー。どうしよ、いや待て待て落ち着け。・・・・・・・・・・・・・・そうか、初球ヒットを打てば・・・・・・
「タイム。」
そんな訳に行くか。
そして、キャプテンに聞いたところサインは一様出しているだけで俺は気にしなくていいと告げられた。
[プレイ!!]
森下はゆる〜く構えていたので初球は見逃すものだとバッテリーは思い打順も9番ということもあって真ん中に投げた、が甘かった。
ど真ん中以外ならそのまま見送っていたが、何とも予想通りに投げてくれたのでこの球を右中間に持って行った。
このグラウンドは結構広くてボールがよく跳ねるので奥の方まで転がっていき間野は悠々とホームに帰って来て、森下は無理する場面でも無いので3塁で止まって4−1と3点差になった。
「ナイスバッティング!!」
「いいぞー!!」
やっぱり点を入れると声の掛けられ方が違うよなー。
次のバッターはトップに代わって2回り目の竹橋である。
まだ序盤で3点差も付いているという事もあり、守備は定位置から少し前に出た形になった。
相手チームのピッチャーは今不用意に打たれたこともあって少し慎重に投げようと心掛けていったのだが、少し気にしすぎたのかストレートのファーボールになってしまった。
ピッチャー大分焦って来てるな。
2番バッターは瀬谷先輩で、この人は身長が低いにもかかわらず構えもコンパクトにまとめているのでストライクゾーンがかなり狭い。
だが、ランナーは一番なのでバッターにだけ気を取られる訳にもいかず、結局ランナーの方もバッターの方に対する注意も散漫になってしまって、竹橋はチーム一の足を生かして盗塁を仕掛けて瀬谷が外角高めの甘いストレートをうまくライトに流し、竹橋は三塁まで走りランナー1,3塁でまだノーアウトの2点差になった。
森下はベンチに帰ってくると直ぐに間野と一緒にブルペンに入った。
「皆よく打つなー。・・・・ボテボテの当たり打ったの俺だけじゃん。」
「ハハッ、贅沢言うなよ。ヒットだったんだからいいじゃん。・・・・・・・・・・それよりもう座ってくれ。次の回からは変化球も混ぜていきたいんだ。」
3回はストレートだけしか使っていない。
そして、森下が言うにはストレートだけだとそんなに特別スピードがある訳じゃないので2回り目からは目が慣れて打たれ始め、何より疲れるので変化球で打たせて取っていきたいらしい。
「じゃあ言われたとおり適当にストレート、スライダー、カーブのサイン出していくからな〜。」
「ああ、頼むわ。・・・・・・おっ、相川先輩飛ばしたなー。」
相川先輩の打ったボールはレフトの後方まで飛んで行ったが、ギリギリ追いつかれてアウトになった。最もその間に2人とも進塁してあと1点差でまだチャンスの場面となった。
次のバッターは4番で最初の打席からヒットを打った羽村先輩だ。
この人は他のメンバーとは違って中学の時に地元でだが、名の通るほどのバッターで期待大である。
それにピッチャーは簡単に1点差に詰められその上まだピンチを背負っているのでかなり参って来ているのだが、キャッチャーはキャッチャーでまだ1年生ということと森下のピッチングが気になるらしく、間をとると言う事もせずに構えに入った。
相手は大分焦っていたらしく、初球から内角の少しど真ん中寄りに投げてしまい羽村先輩にその球をかっ飛ばされた。
球はぐんぐん伸びて行って、・・・・・・・・・・・・・フェンスを越えて行った・・・・。
羽村先輩はいつもと違ってクールに黙ってダイアモンドを回って来てそのままベンチに帰ろうとしたのだが、その前に田崎が現れていえーい、と言いながらヘルメットをバットで結構生きよい良くこずいた。
そんなことをされてもうクールになんていられる訳もなくキャプテンも今はバッターボックスにいて、誰も止める人もいなく田崎が笑いながら逃げるのを叫びながら追いかけてどこかに行ってしまった。
相手も流石に少し冷静になったらしくキャプテンをショートゴロに打ち取り、続く田崎をアウトにして、この回を終えたが一挙に5点を取って逆転した。
竹橋「田崎先輩いつ戻って来たんだ?それに羽村先輩も?」
此処から森下は8回までを打者20人を相手にヒット3本、四球2つ、三振4つと順調に抑え、対する相手はランナーは出す者の最低限の失点にしたので2点の追加点を加えられ3点差で今最終回4番バッターでツーアウト1,2塁の一本ホームランが出れば逆転の場面を迎えた。
ふぅ、楽しいけどやっぱりピッチャーは疲れるねい。
そんでこの場面ちょっと簡単にツーアウト取ったからって油断は禁物だな。
でも、ほんと疲れたな。
久しぶりってのもあるけど、あの時以来全然体動かしてなかったからなー。
最後のバッターが4番ってのもいいもんだけどな。
そして、第一球は外角低めにストレートを投げ、バッターはこれを強振したが、ボール一個分外れていたので、ファールになった。
へへっ、いいねえそうこなくっちゃ楽しめないからな。
二球目を投げる時、バッターに集中していたのでランナーの事など頭になくダブルスチールを掛けられ、バッターはワンバウンドしたカーブを空振って、ツーアウト2,3塁ツーストライクあと一球となった。
観客席では皆があと一球コールをしている。
あら、いつの間にか大分人数増えてるな。
何人いるんだ、そっか皆部活の服着てるから部活の人が増えたのか。
あーあ、俺結構今まで地味にやってたんだけどな。
絶対目立っただろ、この分じゃ。
・・・・・・・・・・・・・観客の要望に答えてやるか。
一度息を吸い込み、大きく吐きだした。
森下は大きく振りかぶって三球目の球を投げた。
指から離れたボールは今までとスピード自体に変わりはないが、伸びが違った。
ボールはほとんど沈まずにキャッチャーミットに収まった。
そして、三振した瞬間に静かに左手を天に向かってあげた。
「ワゥァァーーーーーー。」
その瞬間に誰かが口火を切ってそのあと観客が一斉に盛り上がった。
野球部は整列をして皆で礼をする。
[ゲームセット!!]
試合は三越高校の勝ちで終わった。
この次の回からは少し試合からは離れた話しになりそうです。