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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

臓器提供欄に丸を付けたい、でも不安

作者: 千夜

あなたは鬱らないでください。

 保険証の裏に臓器提供という欄がある。

 提供する臓器に丸を付けて、死んだ後に臓器提供の意思を示すものだ。

 自分が死んだ後に誰かの生きる助けになれる。

 ボランティア精神と言うのだろうか、それとも自己犠牲だろうか。

 もしかしたら、単純に、純粋に誰かを救いたいという、崇高な気持ちかもしれない。

 とにかく、誰かの役に立てる。

 生きていて価値のない人間ならば、死んだ後に素晴らしい価値が生まれる。


 いや、生きていて価値がないじゃない。

 生きていることで周りに迷惑をかけ、人生や社会の荷物になり、死んだとしたって、死体の発見者や葬式代などで迷惑をかける。

 そんな風に感じてしまう時の自分には、この臓器提供というのはとても魅力的に感じる。


 子供のころに聞いた怪談に、事故にあって死んだ人が、自分の指が一本見つからなかったために成仏できずさまよっている、というのがあった。

 指一本失くしたために成仏できず苦しむのなら、腕一本、足一本、ひいてはその臓器提供などをした場合にはどうなるのだろうか。

 自分の身体の一部を探してさまよい続けるのか、苦しみ続けるのか。

 臓器を提供してもらった人までも、自分の身体の悪くなった一部を取ってしまうわけだから、死んだ後に苦しむことになるのか。

 それとも自分で納得して失ったものならば、探してさまようこともないのだろうか。


 また、子供の頃には人の体は神様からの借り物で、死んだ後には返さなければならない、という話も聞いたことがある。

 その時には、自分が生きている間に負った傷、すべての痛みを一気に味わうそうだ。

 だから、自分の体は大切にしなければならない、と。

 転んでできたすり傷一つで泣いて騒ぐ自分には想像もつかない痛さだ。

 考えただけで意識を失いそうである。


 これも、臓器提供で考えたら、身体を切り裂かれ、内側を切り刻まれ、借り物を返すことなく勝手に他人に与えてしまう。

 この痛みどうなのだろう。

 その痛みはやはり想像を絶する。

 それとも、提供するのは死んだ後だから大丈夫なのだろうか。


 本来生き物は、何故生きているのか、何のために生きるのか、そんなことを考えずに生きることに精一杯になるものなのではないか。

 生きることを考えるのが人間についた知恵のせいであるというなら、ありがたいものであると同時に面倒くさいものだ、とも思ってしまう。

 ただ単純に、生きるために生きたい。

 自分の細胞を、遺伝子を、残すために生き、生き、生きていく。


 うん?

 ちょっと待て、よく考えてみる。

 臓器や身体の一部を提供することは、別の誰かの中に自分の細胞を残して生きてもらうことだ。

 それはその人の一部になり、同じ血液を通して生き続けるということ。

 自分の細胞がたくさんの人の中で生きていく。

 これは子供を残すことに似ていないか?

 それが、自分の子供たちの与える痛みならば。

 耐えてみせようか。

 未来永劫と言われても、何とかなりそうな気がしてくる。


 でも実際に永遠に痛み、苦しみ続けると考えるとやっぱり不安になってくる。

 だから、今日も私は臓器提供の欄に丸をつけられないでいる。

臓器提供に関してはもうちょっと勉強してみます。

頭の中が片付いたら小説っぽく書き直したい。


暗い部屋に一人、椅子に座っている。

電気はつけていない。

家族は家にいるけれど、誰にも姿を見られたくなくて壁際に張り付くようにして気配を消している。

見えるのは自分の膝と足。

頭に浮かんで来るのは「どこに行こう」と言う言葉。

家の中に居場所はない。帰る場所もない。

いや、この世界にいるばしょがない。

どこにいても自分はお荷物だ。

いなくなった方が世の中のため。

……

『生きていて側にいてくれるだけでいい』

家族が、親しい人が同じ状況だったら、自分が言いたい言葉。

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