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兄の結婚

私朝木円香には6歳年の離れたお兄ちゃんがいる。

私が産まれてすぐに母は亡くなり、男で一つで育ててくれた父も過労が祟り私が小学校6年生の時亡くなった。


親戚に私達を心良く引き取ってくれる人達はいなく、両親の親も亡くなっていた為、私だけ施設送りになる筈だったがお兄ちゃんが大学進学を止め就職し、お兄ちゃんと離れたくないと駄々をこねる私を自分が育てると言って引き取ってくれた。


その日からお兄ちゃんと私の生活が始まった。

元々家事は私の役目だったので苦ではなかったが、お金の面に関しては何分二人とも未経験で初めはチンプンカンプンだった。


だけど、月日を重ねる毎に慣れていき、お兄ちゃんの給料もアップし、私も高校生になった頃には少しでも生活の足しになればと思いバイトをした。


私にはお兄ちゃんだけだった。


楽しい時も悲しい時も寂しい時も側に居てくれたのはお兄ちゃんだった。


私はお兄ちゃんがいれは何も要らない。

お兄ちゃんも私と同じ気持ちだと疑わなかった。


けど、そう思っていたのは私だけだったようで、20歳の誕生日を迎えた今現在、私はお兄ちゃんの婚約者を紹介された。



「初めまして円香ちゃん。本宮菜々子です。」


「円香、兄ちゃんもうすぐ菜々子と結婚するんだ。」



頭を鈍器で殴られた衝撃だった。


私の20歳になった誕生日祝いにお酒を飲ませてやると言われとても楽しみにしていた。

大学の友達の誘いも断りウキウキ気分で指定された店に着くとそこにはお兄ちゃんと見知らぬ女がいた。



「ほら、いつまでも突っ立てないで座れよ。」


「何飲む円香ちゃん。私のオススメはね…」


なんで貴女がお兄ちゃんの隣に座っているの?

なんで貴女がお兄ちゃんと楽しそうにしているの?

なんで貴女にお兄ちゃんは私にも見せた事ない顔を見せるの?



「ごめんなさい。私友達が誕生日のお祝いしてくれるって断れなくてそれを言いに来たの。それじゃ。」



上手く笑えていたか分からないが、涙は堪えた。

お兄ちゃんが呼び止めるが聞こえないフリをしその場を走り去る。


イヤだイヤだイヤだ。

私からお兄ちゃんを奪わないでよ!



「うっ…ふっ…」



とうとう涙を堪え切れずに溢れ出し、人目も気にしずその場でうずくまり泣いた。



「彼女?何泣いてるの?」


「もしかしてフラれた?」


酒臭い男達が私に触れる。

やめて、触らないでよ。



「失恋には新しい恋だよ。」


「俺なんかどう?んじゃ先ずは身体の相性確認からしますか?」


「お前は最初からそれ目当てだろ?」


「違いない。だってこの子可愛いじゃん。ヤらなきゃ損だろ。」


「ほら彼女、あそこのホテルに行こう!」



無理矢理腕を引かれズルズルと引き摺られる。

抵抗しても、男2人の力に敵うはずもなく目の前にはホテルが見えた。



「やだ!やめて!離して!」


「イヤよイヤよも好きの内ってか?」


「ギャハハ!お前最低だな!」


「お前もな!」



ゲラゲラ笑う男達が、これからの事態が怖くてさっきとはまた違った涙が出る。



「楽しそうだな。俺も混ぜろよ。」



聞き覚えのある声に咄嗟に顔をあげる。



「銀…さん…」


「あん?なんだテメー!」


「これは俺達が見つけたんだよ!欲しいなら金だしな!」



男達の要求に銀さんが来いよと手招きする。

1人の男が近付くと思いっきり鳩尾辺りに拳を喰い込ませ男は倒れた。



「おいっ何しやがる!」



もう1人の男が銀さんに襲いかかるがスマートに躱しもう一度ボディーにパンチを繰り出す。


お腹を抑え膝をつく男。

苦しそうな息遣いが聞こえるが、座り込んだ私を銀さんは抱えその場を後にした。



連れて来られたのは銀さんが住むマンション。



「貴弘から円香が居なくなったって電話来たんだが、どうする?」


「…お兄ちゃんには…言わないで…」


「貴弘には一応無事だって伝えておくな。あいつ心配性だから。」


銀さんはお兄ちゃんの親友で、私の事も本当の妹みたいにとても良く可愛がってもらった。

血の繋がりはないけど私のもう1人の兄だ。


膝を抱え込み顔を埋める。



「ほら、これ飲むか?」


「…何これ?」



コトンと机にコップを置く。



「カルーアミルクだ。今日から酒解禁だろ?これ飲んで思ってる事全部ブチまけろ。因みにミルク多めの酒少なめだ。」


「…いただきます。」



一口飲んでみると甘く、後味はほろ苦い。



「美味しい…」



泣き止んだ筈の涙がまたポロポロ零れる。

どうしてだろう?

銀さんが居てもう怖いものは無いはずなのに次から次へと涙が出て止まらない。



「…お兄ちゃん…結婚するん、だって…」


「知ってる。貴弘に相談されてたしな。」


「お兄ちゃんのあんな顔、初めて見た…」



物凄く愛おしそうな顔で菜々子さんを見ていた。

私に向けるそれより、ずっとずっと…



「わたし、本当に、お兄ちゃんが好きだった…」


「知ってる。ずっと言ってたもんな。」



優しく頭を撫でられ、更に歯止めが効かなくなる。



「お兄ちゃんが、居なくなったら、わたし、本当に、1人になっちゃうよ…」


「円香…」


「………寂しい…」



私を1人にしないで。

お願い、側にいて。

私を愛して。



「円香、おいで。」



広げられた銀さんの胸の中に、私は迷わず飛び込んだ。


そこからの記憶は頭がフワフワして曖昧で、よく覚えていないけど、求められた手を握りしめ眠りについた。

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