流れ落ちた命
辰一の意識が急速に覚醒する。
蒼の空間にいる事だけは理解できて、己の呼吸する感覚はあるが身体の感覚が戻らない。ぼぉーと蒼の空間を眺めながら考える。
んー? 本当に身体無くなってんだな。
変な感じだわ。俺に意識があるってことはもう百年経ってるのか?
ついさっきまでヴェルさんと話してんだけどなぁ。何時生まれるんだろう?
考えても仕方ないんだけど気になっちゃうよ。
リィィィン リィィィィン リィィン
空間に綺麗な音が響くと、空間の中心に濃い色をした蒼の玉が現出する。初めはBB弾ぐらいの大きさだったのにもうバスケットボール並みになった。
すると、体は無いのに存在してるような感覚が戻る。これをどうかしろと?
なんか触りたくなるよなこういうの。
触れないで下さいとか注意書きはもちろんないので躊躇なく両手で持つ、蒼が急にさっきより濃くなる。蒼をよく見るとヒビが入り始めていて、そのヒビの部分と自分がいる空間のヒビが連動している様子だった。これまじで大丈夫か? いきなり、あなたは死にました! とか飛んでも展開になるんじゃないのか?
ヒビからは蒼白い煙が漏れ出ているのに、連動した空間のヒビからはその蒼白い煙が流入してきてあっと言う間に空間は蒼の煙で満たされてしまう。
前見えない。なんだこれ。もしや毒ガスか! 色が病的なんだよ。
外国のケーキの上の青いクリームとか見るとゲェとなる感覚に通ずるものがあるわ。
リィィィィン リィィィィン リィィィン
また音が鳴る。ただ今回はその音が鳴ると、部屋を満たしていた蒼い煙が無色透明になり霧散したのだ。一体何が起こっているのかが全然分からない辰一は蒼から両手を離す。離したと同時、蒼は落下して空間に浮かずに落ちてバラバラになって砕けた。
これいける? 大丈夫? すごい不安なんですけど?
空間が振動を始めると蒼白く強い光が空間のヒビから入り辰一の意識を飲んだ。次に意識を取り戻した時、彼は暖かい何かに抱かれている感覚を覚える。
なんか暖かい。あっ? え? んん?
なになになになに! またとって喰われる系ですか? 生まれた? 身体が鈍いんだけどもしかして俺は今……えーっと誕生日おめでとう俺でいいのか? 目も見えにくい、音も聞き取りにくいし……ハッピーバースデー俺?
ヴォルマ国では龍玉が落ちた翌日に、昨晩タツノオトシゴが流れ落ちたと国民に発表が行われた。初めての事に人々は喜び、またある者は酒を浴びるように飲んでいる。街は祝福ムードで人々も賑やかだったと街の様子を聞く。
「ほら! だから言ったじゃない! 大丈夫! って」
「ルナリア様それは結果論です」
「まーいいんじゃなぁーい」
「ターニャも嬉しいの!」
フェルチは赤子を抱きルナリアに言う
「ルナリア様、本日は龍殿にお越しください」
「何かあるの?」
「はい。この子に真名を聞かねばなりませんから」
「名前って龍逢で聞けるの?」
「その辺りは書物で確認してありますから」
「分かったわ、今から行きましょうか! 早いに越したことないでしょ!」
龍殿の中にある天井も壁も床も全てが白いクレーターのように凹んでいる部屋。その中心でフェルチが水晶に両手を向け魔力を込め準備を始めた。
龍玉から生まれし落とし子の真名を御教授下さいソルナ様。心の中で祈りながら水晶に魔力を流して、魔力を帯びた水晶が薄い緑を纏い輝くのを見る。
フェルチ以外の人間は少し離れた位置でその様子を伺う。
緑を纏った水晶の天頂から一筋の光が昇り、その光がふわぁと拡散した。拡散した光が文字の形を取り言葉が紡がれる。
「何て書いてるのか読めないじゃない!」
「申し訳ありません。私も読めません」
「うん。蛇がのた打ち回ってるねぇ」
「ターニャに分かるはずないの……」
ただフェルチだけはそれが何を示しているのかを理解できでる。こんな文字は知らないはずなのに分かってしまう。
「みねし……んい……ち?」
フェルチが文字を読めていることに気が付いて駆け寄る。
「フェルチ読めるの?」
「知らないんですけど、何故か分かってしまうと言いますか……」
歯切れが悪い辺り本人も困惑しているようで
「それでなんて書いてあるのよ?」
「みねしんいちと書いてあります」
「みねしんいち? 変な名前ね!」
「時代や地域、種族や文化で価値観は変わりますからね」
「ん~でもなんか語呂悪いねぇー」
「どこからが名前かわかんないの」
言いたい放題。辰一の両親が浮かばれない。
「うーん。みねしんいちみねしん……」
「ルナリア様?」
「決めたわ! シンって呼ぶわ! 呼びやすいし分かりやすいでしょ?」
「良いのでしょうか? 落とし子の真名の呼び方を変えてしまって」
「別にいいんじゃないかな~困らないし」
「ターニャもシンがいいの! 呼びやすいの!」
「理由はないんですけど大丈夫な気がしますね」
ここに辰一の呼び名が決まった。
「やるべき事や教えるべき事がいっぱいあるわ! この子、いいえシンが生きるために必要な事は全部してあげようと思うの! だから皆も手伝ってね?」
「ルナリアさま御立派です」
「うん! 手伝うよ!」
「ターニャはいっぱい遊ぶの!」
「これから大変そうですけど、楽しみでもありますね」
辰一ことシンは受け入れられ、この世界で生きる術を学ぶ事となった。季節が流れるのはとても早く、その時間が濃密であればある程流れる月日は早く感じるもので、辰一が転生しシンと呼ばれすでに一年と少しの時間が流れた。
うーん。まともに動けるようになってきたけどまだ辛いな。二足歩行も結構できるようになってきたし色々見て周るか! 文字・文化・様々な種族・龍そして魔法と龍法、知りたい事が多くて大変だなこりゃ!
自分用の馬型の揺り篭から脱出を慣行する。
この世界にも前の世界であったような共通のモノがある。現状のシンの服装はなんと龍の着ぐるみのような服装であった。歩くたびに尻尾がフリフリして女心をくすぐる。
「では行って参るぞ! ドリドゲス!」
傍から聞いたら「でぇああいううじょ! ダァリドゲェス!」にしか聴こえないのだが、シンはすでに喋れていると思っているのだ。ユラユラ揺れる馬型の揺り篭を後にドアの方へと身体を向け旅立つ。
ふふっターニャめ毎度のことだが俺の部屋のドアをしっかり閉めないのを俺は見逃さないぜ! ドアは押せるけど重いな、右か左かどっちに行こうかな?
男は冒険が好きだからなハチャメチャが押し寄せて来るぜ! ニートでミートだった頃とはもう違うんだ。俺の探究心は最高潮よ! 部屋を出て右側に進路を向け壁に手をつけゆっくりとした足取りで前進を開始。
城であってるんだよな?あの三侍女はメイド服だし、ルナリアは様付けられてるし。フェルチは龍殿ってとこに所属してるんだったな。
尻尾をフリフリしながら進む先に階段を発見して下側を覗く。
階段はまだしんどそうだな、一段が高い、子供はこんな風に見えるんだ!
今日はこの階を調べてみよう!
ちっこい龍はちまちま歩く、階段横の部屋の扉が開いているのを見逃さない。
この部屋に決めた! 行け! 俺!
半開きの扉の隙間に滑り込むように入室し、部屋を眺め感想を漏らす。
俺の居る部屋と造りは似てるし、小物が可愛らしいモノばっかだしベットが三つもある三侍女の部屋かな? あっ! んふふふ。女性の部屋そして誰もいない……。探すしかないじゃないか! あるかなー♪ おっと? この中とか絶対入ってるだろ! 俺のサーチ能力は高いんだぜ?
クローゼットの最下段の引き出しを今出せる全力で引く。んぎぎぎ!
こりゃ大変だわ、でもこの先に夢とロマンが俺を待ってるんだ!
隙間に指突っ込んで引くか。
スーッと引き終わるとロマンが詰まっている。
うおおおおおおおおおおきたああああああ!
夢とロマン!これを求めてこそ漢だろおお!
この世界でもブラはあるのか! いやいやいや待て待て落ち着いて俺!
俺の知ってるのと少し違うぞ? 全部が布地で仕上がっている。
スポブラ系だがデカイ。この世界の技術ではまだワイヤーとかホックが採用されてないのか! ふむふむ。
この手に触れると流れるような感触、素晴らしい!何より良いのはこの大きさ! 俺の頭入るんじゃないか? 一つぐらい持っていってもいいかな?
いいよね? うんそうだね! いいさ!
ちっこい龍が手にブラを持ち部屋から逃走を図る。
尻尾をフリフリしながらブラを持っている絵が果てしなくシュールな絵を生む。
良い収穫物だ! 今後ともお世話になろうぞ?
意気揚々と違う部屋へ侵入を試みるが現行犯で捕まった。
「お部屋からで出てきてしまわれたのですか?」
後ろからすくい上げられぐにぃに頭が挟まる。
「ぐにぃきたあああ! 「ぎゅいいちゃあああ」
「ん? マーレどしたの?」
「レスタあなたシン様の部屋の扉ちゃんと閉めましたか?」
「シンちゃんじゃない。どうしたの? 脱走でもしたの? ブラ持ってるよ?」
グリんと回され、マーレと目が合う。
やべぇこいつはやべぇぜ。凄い勢いで目が泳ぐ。
「私共の部屋のドアも開いてたのでしょうか? シン様、人の物を勝手に取ってはいけませんよ?」
「ブラだなんてねぇ~シンちゃんもオトシゴとはいえ男の子ってことかな~?」
おら悪くねぇだぁ~しんじてけろ!
「おぁわぇあ。しゃああん!」
「あはは、シンちゃん言い訳してるみたいだね~」
「シン様はまだ一歳ですよ? そんな事しません! ターニャでしょうねドアを閉めなかったのは」
「あ~ウチが閉めてくるよ」
「お願いね」
ふぅーあぶなかったぜ! 俺は一歳なんだ今なら大体セーフになるんだ! 俺はつかんで見せるぜ! 手を上に伸ばしたさきにはマーレのブラが掲げられていた。
「ああっいけません!」
手を行き成り伸ばしたせいでバランスを失うがぐにぃによって救われた。
ぐにぃ! きたあ!「ぐぅああ!」
マーレめなんて凶器を持ってやがるんだ!
G級ハンターの俺ですら勝てる気がせんぞぉ!
「あぁ、シン様あまり暴れないで下さい」
と正面から抱っこされる形になり両手はぐにぃに掴まる形となった。
あ、もう幸せすぎてどうしていいか分からない。
龍之介さん俺は今ぐにぃに包まれています。
とても柔らかくて暖かいです。
これが平和なのですね。天に昇りそうです。
ふわふわぽかぽかです。
惨めで卑しい心が洗われていくようです。
「ドア閉めてきたよ?」
「ええ、ありがとう」
「シンちゃん引っ付き虫みたいに張り付いてるね」
「ほっておかれて寂しかったんでしょう」
「さぁ、シン様これから龍殿に行きますから一緒に行きましょうね?」
「マーレ! ウチもシンちゃん抱っこしたい!」
「はいはい」
シンをレスタに渡そうと剥がしにかかるが剥がれない。
「あら?」
「シンちゃん寝てる?」
「寝てますね」
「手がマーレの服をぎゅっとしてるのが可愛いね」
「安心して頂けていると言うことになるんでしょうか?」
「だろうねぇ~。しかもマーレはばいんばいんだからね」
「はしたない事を言わないのレスタ?」
「はいはい。分かってるよ。でもマーレには負けるけどウチも結構自信あるんだけどなぁ」
こうして凄く短い冒険が終わる。あの後、何度か侵入を試みたが夢とロマンを持ち帰る事はできず、ターニャがなんで自分のは捕らないのかと拗ねたのは別の話である。
無事転生しました。
転生まで長くなってしまいました。
これからは彼の成長を書いて行く事になります!
読んでくれた方、ブックマークをしてくれた方。
本当にありがとう御座います!
少しずつブクマが増えてきて嬉しく思っています!
これからも龍軌伝を宜しくお願いします。