無理なものは無理
もう嫌だ、走って帰りたい、なんでこんな事になるんだ・・。覚悟はある程度できてたけどさ?
二人からも話は聞いてたけど違うだろこれは。
朝も昼も夜もずっとじゃん!もう焼き払って道作った方が早いし楽じゃないのか?そう言ったら二人に全力で止められたんだ。正気ですか?って。
俺は正気だよ、発狂なんてしてないし冷静過ぎるほど冷静だ。ただ行き過ぎて感情が死にそうなだけなんだよ。
「あぁあああ!!ぶんぶんうっせぇええ!!」
「オトシゴ様!少し冷静に!」
「そんなに大きい声出すもダメですから!」
「無理無理!こんなん冷静も糞もねぇ!」
森に入って既に二日目の朝。
森の外で馬は野に放ってやったのはいい、徒歩のなることだってなんとなく分かってたしそれもいい。虫だって分かってた・・。
でもさ、これはもう虫って呼べないだろう?なんで蚊の癖に親指サイズなんだよ、こんなんに血を吸われたら干からびるだろうがっ!
「オトシゴ様!コイツらは血を吸ったりしませんから!大丈夫ですから!」
「穏やかにと先に言っておいたじゃないですか!」
「こんなことになるなんて聞いてねぇよ!でかい!きもい!無理!!」
それになんで俺にだけやたらと集るんだよおかしいだろ!なんで二人は普通にしてるんだよ!その方法俺にも教えて!野宿用に持っていた布を体に巻きつけて顔だけ出した俺はもう心が折れそうなんだ。
「自分もこんなに集られた光景を見るのは初めてで・・」
「普通は数引き程度で、周囲を飛んで魔力の残光を喰ってるだけなんですよ」
「嘘付くなよ・・・俺は魔力も無いし魔法だって使えないやい!!」
二人のギョッとした顔だけは面白かったけど、なんで俺だけがこんなに集られるかの理由はなんとなく理解した。魔力の残光を喰う以外に、コイツらには見えてるんだ龍力が。森に入ってからの料理も俺が担当してたんだ、火を熾す時に豆蒼煉、温くなったスープにも豆蒼煉。何度も行使したから残光が残ってたんだ、目で見てみれば少しだけぼわっとしてる。ソルナ様のお陰ですね。
ひょっとしたら、フォスキアの力で残光も喰ったらいけるじゃ?って考えもした。でもさ?フォスキアの力だって竜の力じゃん?残光を仮に喰えたとしても、フォスキアの力を使うんだからその残光も残るんじゃないの?それをまた喰おうとしたら・・・無限ループって怖くね?
ただやるだけやって見ようと、碧乱を展開して見れば飛んでいるヤツらの数が明らかに減った。
どうやら効果は十分あるようだけど、それでも数匹がぶんぶん飛んでいるのはイライラする。
数が減ったことだし、後は叩き潰してやろうと両手を構えたところでニゴスに怒られた。
「オトシゴ様!殺してはいけません!」
「え!なんで!!ぶんぶんうっさいんだけど!!」
「煩わしいかと思われますがコイツらは殺しちゃダメなんです」
両サイドから両手を掴まれ淡々と説明を受けた。
曰く、コイツらは残光を食ってそれを魔力へ再転換出来るらしい。その魔力は微々足るもので魔法を行使する側からすれば大した問題では無いようだ。
コイツらは集めた残光を森の空気中へ散布するようで、それらは巡り巡って土を肥やす肥料へと成るそうだ。さらに妖精達がそこへ噛んでいるらしく、コイツらぶっ殺そうもんなら妖精の怒りを買う羽目になるんだと。
音はうざったいけれど、さっきに比べれば圧倒的に静かになったから我慢するしかない。暫くしていれば勝手にどこかへ行くから気にする必要は無い、どうか心穏やかにとの駄目押しを頂いた。
「後どんぐらいで着くんだ~そこそこ歩いてるよな?」
「もう後半日程行けば到着出来ると思います」
「まだ半日もあるのか・・それにしても相当広い森だよな」
「妖精の庭と呼ばれてまして自分も全ての地形を把握できてないですよ」
「大丈夫なのか・・」
「ニゴスは迷子になったことがありますが自分はありませんから!」
「おい!」
現地民でも迷うって聞かされて安心できるわけ無いじゃないか、疑うことはしないけど不安。
依然としてぶんぶんと数匹が飛んでいたけど、木々を掻き分けひたすらに進んで行く。どれくらい歩いただろうか?進めば進む程に見える風景は変化しているはずなのに、ずっと木々しか見えない風景だから本当に進んでいるのかと錯覚してしまう。
それでも俺の前を行くキソロは歩みを止めず一定のスピードでただ進む。後ろからニゴスが着いてきているがこちらもペースが変わらない。もし一人でこの森を進めと言われたら俺は絶対に拒否することだろう。
鬱蒼とした木々の枝葉が屋根のようになって周囲はどんどん暗くなっているのだ。森に入った頃に見て取れた木々と違って、両手じゃ回りきらない胴回りの木々が多くなってきている。物語なら美人でぐにぃなエルフがこんにちわしてくれそうな雰囲気に俺のテンションは上がった。
「一度ここで休憩しましょう」
「ここまで来ればもう目と鼻の先ですよ」
「国から出る時は毎回こんな長い道程を通ってるのか?」
「いえ、違うルートなら一日あれば外に出れますよ」
「最初からそこ通れば良かったんじゃないのか・・」
「外から人を入れる場合はこのルートを通らないと駄目なんですよ」
「掟なんです、オトシゴ様と言えどこれだけは守ってもらわねば」
「あい、分かりました・・」
気がつけば、ぶんぶん達はどこかに消え去っていたんだけど何時消えたんだ?
集中して歩いてたから気がつかなかった。
静寂を取り戻した俺の心は晴れやかで余裕が生まれてテンションも上がる。
飯の準備をしている二人を見て一気に急下降する俺の気持、それに気がついた二人は料理は任せて下さいなんて言ってくれる。また蒼煉でも使おうものなら再びヤツらが飛来するのが見えてるからな、流石に次は捕まえて説教でもかましてやりたくなる。
薪を集めると言い残して二人は荷物を降ろして森へと消えていった。二人が消えた方角もそうだけど周囲は薄暗くて先が見えない、そんな中を躊躇無く歩くコツでもあるんだろうな。戻ってきたら聞いてみよう、地面に大の字に寝転がっていたら呻き声が響いてくるのだった。
「うっううぅ~」
腹にまで響いてくるその声は不気味で気持が悪い、デュフフフなんて笑うヤツらに対して感じる嫌悪感にも似た雰囲気。声が聞こえるのは二人が消えた方角とは別、断続的に聞こえるそれの正体を確かめようと俺は立ち上がった。
ゆっくり進んで木の陰から様子を伺いながら一本、二本と進んで行った先に何かがいた。何分辺りは薄暗くはっきりと視認は出来ないものの、地面に張り付くようにしていることだけは分かる。何時でも対応出来るように心の準備だけはしつつもそれに接近していく。
「うっううう」
ボロ布を纏った生き物が倒れていたのだ。何かの罠かもしれないと思い、ドラシャールの石突でドスドス刺してみれば動く。
「うっううぅ」ドスドスドス「うっううう」ドスドス「うっうう」ドスッ!!
「痛いわっ!!!」
「うぉっ!!」
ボロ布を纏ったそれはぐるりと回って仰向けになった。ちっさいおっさんだった、ちっさいおっさんは見た感じだとレミナぐらいの大きさだけど小汚くて近づきたくない。もう一度だけ突いてやろうとかとも思ったがその眼光は鋭く俺を捉えている。
「だっ大丈夫か・・?」
「貴様が突いたせいでもう死ぬ」
「・・・」
「こんなにも苦しむ者を目の前にしてよくもそんなことが出来たもんだ」
「さよなら・・・」
「まてぇ~い!!」
俊敏に動いたおっさんに足を掴まれたけど、俺はそれを無視して歩いた。ざざざ~呪われた装備を引きずりながらも進んだら両脚を掴まれてつんのめった。
「離して下さい!勘弁して下さい!」
「離しはせんぞ!」
「もうなんだよ!!」
「腰をやってしまったのだ!助けてくれ!」
「えぇ~」
「助けてくれたら良いものを見せてやるから!!」
「いいよ別に・・見ただけで何かを得たような気持になれるほど俺の心は広くねぇんだよ」
「ほ~ならば先に見てみるがいい!あの隙間から覗いてみよ!!」
おっさんが指を刺したのは大樹と大樹の間だった。
やたらとにんまり笑うおっさんに言われるがまま隙間から覗いてみたら・・・。
「あんたまた大きくなってない!」
「なってない!さわんな!」
「ほらみんな見てよ!」
「やめろ!見んなっ!」
「いいじゃん減るもんじゃないし!」
「うっさい!離せ殺すぞ!」
全裸の女性達が中に浮いているのだ。あの爺、覗きしてただけじゃねーかよ!確かに良いものかもしれないけど何かが足りないと感じた俺はやはりぐにぃ神に愛されているのだ。
じ~と覗いていると女性達には四枚の羽が生えていて全裸のまま飛び回っている。これは裸族かっ!大きいぐにぃに小さいぐにぃ色んなぐにぃがあるけど何か違う。
「覗きだ!!!!」
おっさんが大声を張り上げれば、隙間から見えていた女性達と目があった。
「きゃあああ!!」
「お前ふざけんなよっ!!」
咄嗟に俺は走って逃げようと試みるも、腰をやらかした割りに凄い速さで動いたおっさんが俺の背中に張り付いた。
「お前なにしてくれてんだよっ!」
「ほれ捕まるから逃げろ!小僧!!」
おっさんを背中に乗せたまま走り出すも違和感を感じる。見た目が小さいくせにやたらと重い、見た目と中身が反比例してて明らかにおかしい重さ。どう感じても百キロなんてレベルの重さでは無く、動かす足が鈍くなっているのが分かる。
「ほれ!はよ逃げろ!」
「ふざけんなっ!降りろや!!」
「わしらって一蓮托生だろ?」
「てめぇみたいな爺と一緒に生まれ変わりたくなんてねぇよっ!!」
「そう言うな!良い物が見れただろう?走れ!」
「お前!重いんだよくそが!!!」
「愛故に重いのだ!我が愛の重さを知れ!」
「きもい!きもい!きもい!」
「ほれそこを右だ!」
言われるがままに走るも重すぎて進めやしない訳で・・・。
「いたっ!いるわ!」
「捕まえて!!」「殺せ!!!」
とんでもない事になった!右に曲がったけどこのままだと二人と逸れるじゃん!無理!こんな森でこんな爺と死ぬなんて嫌だ!死ぬ時はぐにぃに包まれて死にたいんだよっ!
「ちゃっちゃと魔力で肉体強化せんかっ!追いつかれるぞ!!」
簡単に言ってくれるけど俺には魔力がねぇんだっての。もう仕方ないと割り切って体を龍力で強化すればほら簡単。あんなに重かった爺が嘘のように軽く感じる!このまま走れば逃げ切れる!!
ぶーーん。ぶーーーん。ぶーーーーーーーーーーーん。ぶんぶんぶんぶーーんぶんぶん。
残光だけに反応するかと思いきやヤツラが大群犇いて飛んできた。
「あーーーー!!!!」
「貴様!何っ・・よもや・・」
「無理無理無理!!もう無理アレ潰す!!!」
「ええいやめい!殺してはならん!走れ!!」
「きもい!きもい!きもいいいいい!!!」
背から来る指示の元に俺は走り続けた。やれ右だの左だの、大きく跳べだの言われるがままに我武者羅に走って気がついたら部屋の中にいた。
「どこ!ここどこ!」
「よしよし!逃げ切れたな!ご苦労だった!」
おっさんから解放されてようやく体が元に戻った感覚に俺は歓喜する。目の前のおっさんの部屋らしくこれでも飲めと手渡されたそれは黄色い液体。
警戒心が全快になっているけど、液体からは凄い良い香りがしてちびっと舌をつけてみれば美味だった。
「小僧のお陰で助かったぞ?」
「お前のお陰で仲間と逸れたぞ?」
「ん?なんだツレがおったのか?」
「案内を頼んでたんだって!」
「どこへ?」
「ルセルジーアって妖精の国だよ」
「ルセルには初めて来たのか!?」
「だからその道中だっての!!」
ちっさいおっさんは顎鬚を撫でながら俺を見つめて、言い放った。
「貴様はすぐにこの部屋を出て仲間と合流した方がいいな」
「戻り方なんてわかんねぇよっ!ここどこだよっ!」
「貴様が求めている妖精の国ことルセルジーアだが?」
「え・・・」
「だからルセルに貴様は到着してるんだよ」
「じゃあもういいじゃんか・・・」
「いやいや、直ぐに外に出た方が身の為だ」
「なんでさ・・・」
「良いから直ぐに行け!捕まるぞ!!」
「はぁあああああああ!!!」
外からガチャガチャと鎧の音が聞こえて扉が開けば、はいこの通り。
「侵入者めっ!動くな!!」「動けば殺す!」
「そのまま床に伏せろ!!」
やばい、やられる。やらないとやられる・・・視線を動かし窓を見ただけなのに全員から剣を向けられてしまう。侵入者かもしれんけどさ、それはちょっとご無体じゃないかい?両手を広げて敵意は無いってアピールしたけど後頭部に衝撃が走って意識が飛んだ。
本話もお読みいただきまして有難う御座います。
ブックマークにも感謝です。
本話から新章「妖精の国ルセルジーア」編に入ります。
八話構成を予定しておりますので次話以降も宜しくお願い致します。
七月から投稿を開始した「龍軌伝」も気がつけば五ヶ月も経つと今更ながら気が付きました。読んで下さる方々のお陰もありまして、八十七話まで投稿出来ました事に感謝致します。本年の最後に新章に入ることになりましたが、来年も以降も「龍軌伝」を宜しくお願い致します。




