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龍軌伝 異世界で龍に愛されるニート  作者: とみーと
第九章 偽オトシゴ 編
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本物と偽物

磔にされてどれ程の時間が経っているのか分からない。

何度も殴られて、何度も吐いた。

ここで死ぬのだろう、それはもうどうでもいい。

それでも、捕まった子もルーシャも助かって欲しい。

願ったけどどうにもならないのが現実で、きっともうどうにもならなくて。

悔しい。


「おい、この女殴られて嬉しいらしいぜ?」

「涙流して喜んでるな!」


初めは辱められてそのまま殺されると思っていたのに、こんな風に殴って気分を晴らして喜ぶヤツらの餌にされるなんて思っていなかった。

だから、途中から声なんて一切出さなくなった。

そうすれば飽きてくれると思っていたから・・・・でも、それは逆効果だった。

男達はどうやったら声を上げるかを競うように甚振りだした。

そして男達は去ってまた明日、私は殴られるのだろう。


翌日、扉が開いてまたアレが始まると思うと怖くて仕方がない。

震えていた、目を瞑って助けてと祈り続けていたら目の前に子供が立っている。

子供がこんな姿の大人を見たら恐怖で身が竦むだろうに、この子供は普通に話し掛けて来て驚いた。久しぶりに話をしたと思う、純粋な子供の表情は何故こうまで人の心を癒すのだろうか?これで今日もなんとか耐えることが出来そう・・。


こちらを労わる風でもなく子供が質問をしてくる、「どうなりたい?」そんな事決まってる。でも先に檻の中の人達を優先して欲しい、最期ぐらい自分を優先しても良いと思ったけどどうせ死ぬなら順番なんて意味は無い。なのに目の前の子供は助けて上げるなんて出来もしないことを言うのだから・・・。


子供から光りが溢れたら子供がいなくて・・・。

龍殿で、あの戦いで見たオトシゴ様が目の前に立っていた。


柱に磔にされていて顔を良く見る事が出来ないけど、気がついたら私は彼に倒れこんでいて。彼は私に来ていたローブを掛けてくれる、目線が凄く泳いでいて困ってるようにも見える。本当にオトシゴ様なのか疑ったけど見間違うなんて有りはしない。私もルーシャもオトシゴ様に命を救われて以降はずっと憧れていたから。絶対に龍殿で働けるようになって、自分達の口で感謝したいって誓ったから。


オトシゴ様のローブが汚れるから返そうとしたのに断られてしまった。

別にあなたにならどれだけ見られても恥ずかしくなんてないのに、でも困らせるのも悪いから恥ずかしがって前を隠した。オトシゴ様がご馳走を目の前で地面に叩きつけられたような、そんな勿体無いモノを見るような顔をしていたけどどうしたんだろう?



「オトシゴ様、これからどうされるのですか?」

「ん?取りあえずあの偽物イケメン野朗をぶっ飛ばしてやる、アレはやりすぎだろ」

「私は邪魔になりますからここで・・へっ!」

「ほれ行くぞ?」


ローブを貸したことは後悔してない、痣が出来ていようが何だろうがぐにぃの価値に変化は起こらない。不変なのだ。もう少しだけ見ていたかったそんな気分。例えるならば、ご馳走を目の前で地面に叩きつけられた気分。

何にしてもここから出る事が優先、扉は魔法で形成された土の扉で出来ていて出るには同じ様に魔法を行使する必要がある。が、俺に魔法なんて使えるはずもなく強化したグーでどーんしたらばーんするので余裕で脱出が可能。


外に出ればあら不思議、大男二人とご対面~なんてタイミングなんだよ・・。

なんか助けた子凄い震えてるし。大声を上げる前に一人目の腹をぱーんしたら後ろの木にどーんして落ちた。二人目は勢い余ってビンタしたらトリプルアクセル決めて地面に倒れて落ちた。感想、非常に弱い。


男が木にぶつかった音を聞いたヤツがいたらしい、火球がぴょーんと飛来して俺は実験をスタート。実験とは言っても既に成功しているからあんまり意味は無いんだけど、敵意を持った相手にしたことは無いから実質初めてと言っていいだろう。


初めはノシュネの力、朱色の炎で相手の魔法を喰う。

ソルナ命名の朱食み《あかはみ》まんまだって突っ込んだら怒られた記憶がある龍法です。本来なら魔法は喰われて消えるがこのタイミングでフォスキアの力を行使する。碧の火がぼわっと出て朱食みを包み込み琥珀色へと変化、ルビネラ命名の碧乱へきらんまんだって突っ込んだら怒られた記憶がある龍法です。


分解された魔法は元の魔力へと還元されて俺の手元で留まる。

ここからだとある事が可能だとエルジュとの実験の最中に気がついたのだ。

この魔力をそのままに。


「地を走り薙げ!ディヴェント!」


カウンターで放たれた魔法が直撃し敵は血を吹きながら飛んでいった。

俺には魔力はもう無いけど、こうすれば魔法を行使することが可能だったのだ。

ソルナから言わせれば効率が悪い普通に蒼煉で魔法ごと潰した方が早いと言われ、ルビネラからはやられる前にやれと釘を刺されたのだった。


確かにカウンターで放つ以上は後手に回るし、朱食みと碧乱を使ってから魔法を放つのは時間が掛かり過ぎて効率も速度も悪いのが事実。それでも前者の二つを効率良く使いこなせるようになれば、切れるカードが増えると信じて今は努力の最中なのだ。


目の前で倒れる男の懐からは鍵束がぽろりしていて拾い上げる、鍵は三つで答えは檻の鍵。今拾ったところで意味は無いんだけどね、皆檻から出て各々仕事に従事しているだろうし。そう言えば・・・。


「俺はランザヴェール=シンって言うんだけどまだ名前聞いてなかったよな?」

「あっのあのっえっとそのっ!」

「まぁ落ち着けって・・・」

「わったわたしゅいはトゥーラ=トルトですっ!」

「トルトか、いい響きだな」

「ありゅがとちょうごじゃいます!」

「まぁ・・落ち着こうぜ・・・」


トルトは自分で歩けるって言うから俺の後方から付いて来いって言ったらうんうん頷いてた。偽オトシゴに協力している奴らの内、本意で積極的に協力しているヤツとそうじゃないヤツがいるってのはもう分かっている。


この男達は前者、俺を抱っこしてたぐにぃの姉ちゃん達は後者だ。

まだ他にもそんな奴らがいる可能性は十分にある以上は全員倒すには早計か?

オトシゴと信じて協力しているヤツらまでぶっ飛ばすのは本意じゃないが、俺が本物のオトシゴだ!なんていっても聞いてもらえるとは到底思えない。

出来るだけ接敵は避けて頭を潰すのが吉だろうか、それとも後ろから一撃で落として行く方がいいか?考えている内にトルトが提案した。


「オトシゴ様、私が囮になりますからその間にどうか!」

「いやいやそれは無いから、あの建物で間違いないよな?」

「えぇ・・あそこです」

「ほんじゃまぁ行くか!」

「でもそっちじゃないですよ」

「いいからいいから」


建物を迂回するように回りこんで接近して行く、幸い敵と出会うこと無く進めるのだから相手はまだ気がついて無いようだ。トルトを引き連れて偽オトシゴが居た建物の真裏へ移動することに成功、壁に耳を当てれば中の音は簡単に拾うことが可能で聞き耳を立てて様子を探る。


「いいかい?君の友達は今は牢にいるけどまだ生きているから安心していい」

「・・・・」

「そのまま黙っていても進まないことぐらいは理解出来るよね?」

「オトシゴ様の女にして貰えることが光栄ってことぐらい分かるでしょ?」

「君達は少しだけ黙っててくれ子ツノツノちゃん達」


痒っ!くさっ!ツノツノちゃん?ツノツノってそんな可愛らしい生物なの?

そんなゲロが生まれてそうなセリフよく吐けるな!それも俺が言ってるみたいな感じするからやめてくれ。周りの女達の顔は勿論見えないけど、子ツノツノちゃんのセリフに女共がきゃーきゃー言ってるあたりグッときているみたい。

なんかズルイ!もし俺がルナ達にそんなこと言ったら絶対頭おかしくなったって思われるだろうな。


「君も僕のモノになってはくれないかい?そうしてくれれば彼女のことは助けてあげれるんだ」

「・・・・」

「困ったな、ソルナ様からの龍逢を曲げることは難しいけど僕なら何とかしてあげれるんだけどね」


はい、決定。ぶっ潰しますね。

俺を騙るだけならいざ知らず、ソルナを騙るのは許容出来る訳もねぇんだよ。


「トルトは後ろにいろ」

「ですが・・私が・・」


彼女は言い掛けて止めた、自分が先行するから後ろから付いて来て下さいとでも言おうと思ったのだろう。今の自分では足を引っ張るだけだって理解したから飲み込んだようだ。肩を叩いて任せとけの合図を送れば、彼女は静かに頷きで答えて数歩下がった。


「んじゃ、行くか!」

「えっ!?」


俺の行動が予想外だったらしく驚いたトルトのことは無視して、そのまま気にせず一撃を叩き込んだ。真裏から壁をぶち抜く一撃で建物の一階の壁を見事に破壊してやった。中からは女の悲鳴が聞こえてきたけど、ちゃんと巻き込まないように手は抜いてるんだから勘弁してもらいたい。この時、既に龍の手をむき出しにしている訳でこれで分かって貰えればって気持ちもあった。


建物の中に入れば偽オトシゴはコチラを見ていた、女達を盾にしてな。

さらにその後方にルーシャが目を見開いて固まっていて後ろのトルトを見て安堵した表情になる。俺は構わずズカズカ中へ踏み込んで偽オトシゴとの対面を果たした。


「だっ誰だお前は!それに後ろの女は牢に入れておいたハズだろう!」

「うっせぇよカス、女の後ろに隠れたままぎゃんぎゃん吼えるなよ」

「ちょっと!この御方が誰か分かってそんな口を聞いてるの!!」

「てかあんた何?オトシゴ様の真似でもしてるつもり?」

「なにその気色悪い手!真似するならもっとまともな格好しなさいよ!」

「偽物・・・しね」


正面から女性に罵倒なんてされた経験無いから正直申し上げまして泣きそうです。陰口叩かれたりチラチラ見られて見返したらケタケタ笑われてしまう記憶ならあるんですけどね。ホントもう何なんだろうねアレ・・・人にやられて嫌な事を平気でするようなヤツってのは巡り巡って自分に返って来るって知らないんだろうね。


「その辺りしておきなよ、どうやら彼は僕に憧れを抱いているようだ」

「憧れ?んなもん微塵もねぇよ」

「虚勢を張るのはよしたまえ。僕がオトシゴと知っているからこそ、そんな真似をしているのだろう?」

「面倒くさいな・・・まったく」

「はぁ~どうだい?僕に憧れているならこの村に住まないか?僕はこれでも寛容なんだよ争いは嫌いなんだ」

「自信ねぇだけだろ」

「あのね?僕はオトシゴなんだ。君を捻り潰してしまうことなんて簡単に出来てしまうんだ、この手をご覧?」

「薄汚い手だな、その手で何人も人を売ってきたんだろ?」

「それはソルナ様から僕に与えられた宿命に必要なことなんだよ。僕だってこんな事したくはないんだ!」

「あ?」


女の間をすり抜けて俺の前で止まった偽オトシゴは、俺に手を差し伸べて握手を求める。汚い獣の皮を貼り付けた紛い物の手を惜しげもなく、見せびらかすように、そしてその表情はまさに威を借りた馬鹿の顔。

その手に対して俺は握手を交わしてやって・・・。


「あぐっ・・」

「どうしたよ?オトシゴ様?」

「中々の握力だね、偽物にしては良く出来ているよ・・褒めてあげよう」

「まじっすか!いやー嬉しいなーオトシゴ様と握手して頂けるなんて光栄で力が入っちゃうよ!」


ボギッ、ゴギッ。

鈍い音が静寂の中に響き渡りそして・・・。


「ぐあああぁあああ!!」

「どうされましたオトシゴ様?」

「あっ!あああぁああ!」

「何?そんなに俺との握手が気持いいの?」

「あっぐっあ!はっ・・・なせっ!」

「えー俺はもっとオトシゴ様と握手したいんですよ!」

「いいから!!!離せ!!!」

「離して下さいだろう?ほれ!」

「ああっあがあっあはなっ、はなしってくだっさい!」

「え~いいよ~」


手を離す瞬間に偽オトシゴの手から獣の皮を引き剥がすことは忘れない、べろーんと捲れた獣皮をヒラヒラさせて俺は相当に驚いた声をあげてやるんだ。

「オトシゴ様って脱皮するんですね!!」

その獣の皮を見た取り巻きの四人は、皮と本人の手を交互に見て何が起こったか理解出来て居ない様子。そのまま地面に投げ捨てた皮を踏み潰してから龍の手でアイアンクロー、偽オトシゴ様をゲッツしてやったのだ。


「あぐっ!!」

「じゃあ正直に言おうか?」

「何をっ!お前は誰に何をしているか分かっているのか!」

「分からんから聞いてるんだろうが下種野朗」

「僕にこんな事してソルナ様が黙っているとでも思っているのか!!」

「てめぇがソルナを語るんじゃねーよ、このまま顔面潰して欲しいのか?あ?」


龍の爪が顔面に刺さり五箇所から血がたらりと垂れ始めて偽オトシゴは息を飲んだ。取り巻きも黙ってそれを見る中、トルトがルーシャに駆け寄り抱きしめていた。二人は泣きながら生きていることに感謝してから俺を見て言葉を出す。


「オトシゴ様、お怒りはごもっともですけれど殺してしまってはダメです!」

「トルトの言う通りです!この村で起こった事の全てを聞きだしヴォルマへ連行します!」

「う~ん仕方ないなぁ~」


取り巻きはもう完全に混乱状態でオロオロするばかりだったとさ。

ちなみにイケメン偽オトシゴは股間付近で大陸の制作を始めてじょぼじょぼ汚い音を聞かされた。飛沫がかかりそうで気持ち悪いからそのまま地面に叩きつけて上げたんだ・・・考えたくないけどこれ掛かってるよね・・・。

本話もお読み頂きまして有難う御座います。

ブックマークにも感謝です。


もう気がつけば12月も終わりで色々焦りながら大掃除を始めようかと思います。

皆様はもう掃除終わりましたでしょうか?新年を色々と切り替える絶好のチャンスなんですよね・・・新しい気持になる為に頑張ろうと思います。

次話は月曜日の投稿となりますので宜しくお願い致します。

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