sideフェルチ
ボコボコにされる日課の後、何時もの様に庭でぼっち反省会をしていた。
最近はそれなりになって来てはいるけど、それでも最後はボコボコにされて終わる。ルビネラは嬉々として喜び、ソルナは冷静にあーだのこーだの言うがお前ら化物かって思わされて煮え湯を飲む。
俺は強くなってるんだろうか? ノヴィスでの一件で色々と思う事があったから、それをどうにか払拭しようと頑張ってはいるけど。二人相手に鍛錬しているとどうしてもそうは思えなくて萎えるのだ。
ルナはマーレ達とノヴィスのことで話合いがあるとかで、俺も行くと言っても「大丈夫だから自分のことしてなさいな」で一蹴されるし。ターニャ達を覗き見したら、「この前の訓練でそれなりに皆に火が付いてるから邪魔なの」来るなと言われ、そして庭だ。ノヴィスにでも顔出しに行こうかと考えるも、タンテに捕まって腹がはち切れる可能性を考えてそれも止めた。ぼけーっと死んだ魚の目のまま、無意識の内に草を千切り弄くりながら鼻歌を歌ってた。
「それはなんと言う歌なんですか?」
「これはねー世界の草木を滅ぼす歌だよ~」
「何を訳の分からない事言ってるんですか?」
寝転がったまま目線を泳がせて、捉えた先にフェルが立っていた。
もうね、テンションあがるよ?俺に尻尾が生えていたら絶対にケツからすっぽ抜けてたね。
「フェル~~」
「小さくなるのはダメですよ?」
「っち……」
「何か言いましたか?」
「別に~」
「シンは暇なんですか?」
「皆から邪魔扱いされたからね……はは」
「なら今日は私に付き合いませんか?」
「さぁ! 行こう! 今直ぐ行こう! 何して遊ぶ!?」
「遊びません! 龍殿の巫女達と訓練するんですよ」
「おぉ~偉大なソルナ様~とか儀式の練習するの?」
「そんな事、一度もしたことないですから。竜の襲撃以降に龍殿側でも抗う術はあった方が良いとなりましてね」
フェルに連れられ付いた先は、祭壇の間。
既に数人の巫女達が待っていて、俺を見るなり目がキラキラしてる。
以前の俺ならあり得ない事態だから自然と体に力が入るのは当然で、それを見たフェルは笑ってた。彼女が笑うと俺は嬉しい、楽しいと思ってくれているから笑顔なんだ。俺で笑ってくれるならなんでもするさ。
「今日は、シンが相手をしてくれますから皆さんも本気で打ち込んで下さいね」
「やっぱり的だったのか、どうせ俺は生けるサンドバック。いや動く木人か」
「シン? 大丈夫ですか?」
「あーうん、殴られるのは慣れてるから気にせず殴ってください」
一瞬、巫女達の表情が「え?」って顔になってたけどもうどうでもいい。
そんな風だったところへフェルは、ソルナ様達と毎朝鍛錬してから本気でも平気だと変換してくれる。そして輝くキラキラ。あーあのキラキラは一等星かなぁ~あはは。
「お願いしますっ!」
「どうか命だけは勘弁して下さい」
「えっ!」
「命を取る気でかかって来いって言ってるんですよ」
何をどう翻訳したらそうなる。そんな翻訳がまかり通る世の中だったら全てが無に帰す世紀末になってしまう。チラッと見たフェルの目は笑ってなかった。
ちゃんとやれ、そんな目力で見ないでよ。目の前の巫女さんは、フェル程早くもなければ打撃も遅くて俺はヒラヒラ避け続けた。繰り返すこと数分で巫女達はもうお腹いっぱいになってしまったらしい。へたり込み驚いていて、何で一撃も通らないのか不思議な表情でそれはフェルも同じだったようだ。巫女達にもプライドはあるらしく、その後も同じ工程をしばらく続けて皆諦める。
「シンは随分と強くなりましたね」
「え? 本当?」
「気づいてなかったのですか?」
「ん~毎朝の鍛錬でソルナとルビネラにボコボコにされてるから分からないよ」
「では私と本気で試合してみましょう」
「おっ! 何時振りかな!」
疲れた巫女達はこちらは座って観戦する中、フェルと俺の師弟対決の幕が上がる。前回とは違う雰囲気をフェルから感じるなぁ~と、観察していたら急加速で行き成り接近からの掌底打ち。鳩尾狙いの一撃を彼女の手が伸びきるギリギリを見極めてバックステップ。
腕は伸びきり体の重心は前のめりで隙だらけ、腕を掴み投げのモーションに入ろうとした瞬間を見逃してはくれない。掴まれた片手をそのままに、開いた手から魔法が放たれる。接近する段階で死角から展開しているとは、いやらしいぜ。俺もそんなに簡単に一撃を貰う気なんて無く、足で彼女に対して膝カックンを仕掛ける。バランスを失い俺を狙った魔法は反れて空を切った。
「危っ!」
「今回は魔法も使いますからね」
「卑怯だぁ!」
「仮に敵だとしたらそんな事は通じませんよっ!」
一気に体勢を低くしたフェルは足払いで崩しにかかり、俺はそれに逆らわずに流れに身を任せる。
「風よ密度を上げ打ち砕け! アトモスルビヨン!」
「うぉ!」
フェルの拳が地面を穿ち抉った。見た事のある魔法だったけど明らかに威力がおかしい。自分の横にめり込んだ彼女の手を見ていたら、今度は左手も同じ様に展開して今度こそ顔面に向かって飛んできた。
こんなもん顔面に直撃してみろよぺしゃんこになる!
咄嗟に俺がとった行動は、インパクトの瞬間に顔面にぐにぃを展開して防ぐ事。
完全に捉えたと思っていた彼女の顔が一瞬だけ驚きに変わる隙を見逃さない。
「今だぁあああ!」
「っ!」
俺の大声に怯み体を仰け反らせた瞬間に、フェルだいしゅきホールドにて彼女を捕縛してやった。足を絡め、体を包み込むようにして完全に動きを止めることで強制的に試合を終了させる必殺技。
「なっ!」
「これで何もできまい!」
「それではシンも何も出来ませんよ」
「甘いな……」
「えっ!?」
「俺はこのまま安眠を手に入れる! お休み!」
「ちょっ! ちょっとシン!試合ですよ!」
「ぐーぐーがー」
「口が凄く動いてますよ」
「でも、このまま蒼煉打てば俺の勝ちだよ?」
その一言でどうやら負を認めてしまったらしい。
俺に捕まり動きを封じられてしまった以上、彼女には打つ手が無かったようだ。
現状、その手ごと抱きしめてるからまさに言葉の通りで文字通りだろう。
「私の負けですから、そろそろ離して貰えませんか?」
「そっそんなひどいこと言われるだなんて」
「何を言ってるんですか!」
そろそろ離れないと怒られるだろうと察知し、彼女を解放したのは三分後。
見学していた巫女達は何故か顔を赤らめ各々視線を合わせぬように違う方向を眺めている。フェルの「きょっ今日はこれまでにしましょうか」の声で一斉に立ち上がり礼をして解散、俺も意気揚々と帰ろうとするも止められた。
え? まだ何かあるのか? と彼女を見たらジト目で睨まれてた。
「ふぇる~お疲れさま! ミャハ!」
「何ですかそれは……」
「すいません、まだ何か用が?」
「さっきのアレは何ですか! 真面目にして下さい!」
「すいません」
拳骨が落ちるのは回避出来たけど機嫌が悪そう。
トボトボ歩く俺の姿を見つけた龍殿の長ニーナに呼び止められて部屋へ案内された。
「オトシゴ様、今日は何をなされていたのですか?」
「だからさぁ~その話方止めてくれって。ワザとして楽しむなよ」
「んふっふ、オトシゴ様だからね? 本当はこれが普通なんだよ?」
これまでニーナとはあまり関わりが無かった。
それでもチビの時から龍殿に行けば話をする機会はあったし、竜の強襲以降はそれなりに話す事もあった。ノヴィスの件以降、ヴォルマに留まっているから度々彼女の部屋に呼ばれて話すことも増えていた。
「今日はフェルと巫女さん達と鍛錬の的にされてたんだよ」
「頼られているのだろうね?まぁいいじゃないか、そう簡単に死なぬのだから」
「いやいや、刺せば死ぬだろ」
「オトシゴと知って刺す馬鹿なんざそうそうおらんだろうよ」
「刺されたから言ってるんだっての!」
出された茶をずぅーと飲みながらニーナと話す。
彼女はシルキーで五十代後半なのに凛とした綺麗さを持った人でルナでさえ口では負かされるらしい。ぐにぃバンクには登録していない。俺は熟女好きでは無いし、彼女はどちらかと言うと何でも話せる相談者のような感じの人だから。
「それで?」
「何が?」
「お前さんはこれからどうするんだい?」
「ノヴィスの件がある程度まで行ったらまた旅に出るさ」
「アテはあるのかい?」
「ねぇな~フォスキアを頼りに行ったけど空振りだったからな、出直しだわ」
「ソルナ様は何か話されてないのかい?」
「毎朝毎朝、ボコボコにされてるだけだな」
「龍であるソルナ様が直々に見てくれているんだから感謝せねばな」
「感謝ねぇ~どう見ても楽しんでるぞ、あの二人は」
「何にせよお前さんが生きる為になるのだから、あまり迷惑をかけぬことだ」
「何? 説教されてる?」
「オトシゴ様にそのような事、このニーナ申しませぬ」
「はぁ~~」
年の功には敵わん、何言っても倍以上で飛ばしてくるのは彼女ぐらいだろ。
それにしても次はどうするか?何の手がかりも無く、あても無く旅するのは良いけど、ゴールが見えないのは中々に辛いかもしれん。レミナの魂の根源たるリュウの存在は一体どこにいるのだろうか。
「この龍殿に来るよりも相当前だが……」
「何? なんかあんの?」
「若い頃はこれでもギルドで名を馳せていたんだよ、単純に目の前に出された答えより流れて探すのも悪くは無いかもしれんよ?」
「ギルドか~一応ジョコラで登録はしてるけど特に何にもしてねぇからな~」
「勿体無いことだ、登録直後に行き成り燦の位なんだろう?」
「元々は身分の証明程度になるって事だから登録しただけだよ」
「お前さんならギルドでも頂点取れるだろうよ?」
「興味ねぇなぁ~でも情報は集まりやすいんだよな?」
「そりゃそうさ、色々な所から人が集まるんだから新鮮な情報が多いさ」
「嘘も多そうだけどな」
「それを見抜く力も必要なことだ、どれこれをやろう」
ニーナが俺に手渡したのは綺麗なピンキーリング。
「何? 結婚の申し出かよ」
「はっ! いくらオトシゴ様でもちんちくりんなんざ選ばんよ」
「言うねぇ~で? これ何?」
「昔の事さ、あたしゃ元々とある国で魔術騎士をしていたことがあるんだよ」
「魔術騎士? 何それ格好いいじゃん!」
「ルセルジーア国、ジョコラと並んで魔法が中心の国さ」
「どこにあんの?」
「かなり遠い国さ、わざわざ目指して行くような場所じゃない」
「でも何かあるから言ったんだろ?」
「ルセルは妖精と生きる国、妖精国とも呼ばれていて女王は純潔のフェアリーで妖精の王だよ」
「確か、シルキーもその流れにあるんだったよな?」
「そうだ、だがフェアリーはこの世界において圧倒的な力を秘めいるんだよ」
「強いのか?」
「そうじゃない、彼女達の力の根源は癒しさ。まぁ攻撃的な種族じゃないがね怒らせると一番恐ろしい種族さ」
「へぇ~面白そうだな!」
「何か見つかるかもしれんな、ただ行くならあの二人は置いて行け」
「レミナがいねぇとどうにもならんだろ?エルジュだってアレで強いし」
「だからこそだ、あの国には多種多様な妖精が住んでいるんだ。そして力有る者を主人とし生涯を共にする」
「それがなんだよ」
「国から召集されたら最後、あの国で一生を過ごすことになるんだよ」
「ニーナはその国にいたんだろ?選ばれなかったのか?」
「選ばれたさ、ただ温床を頂いてね、あの頃は世界を見てみたくて飛び出たんだよ」
「でも妖精は……」
「あの子は妖精でありながら敵にあざむかれ殺されたんだ。あたしゃ怒り狂い、敵を滅ぼしたんだよ。それに一生をあの国で過ごす事だって悪く無いとも思っていたからね、奴隷のように聞こえるかもしれんがそうじゃないよ」
「でもなんで二人はダメなんだ?力があれば選ばれるんなら自意識過剰かもしれんけど俺もそこそこだぞ?」
「男が選ばれる事は無いから安心していい、でもレミナはタツノコでエルジュはお前さんの力を受けたニンフだ可能性は高い」
「なるほどな」
「お前さん一人ならどうにでもなるだろう」
「二人に話してから決めるわ」
「お前さんは聡く懸命だからな。ただ向かうなら気を引き締めておくことだ」
「分かった! 有難う!」
「オトシゴ様に礼を言われるなんてあたしゃ感激で涙が零れ落ちそうだよ」
「無表情で何いってんだよ」
「ふっ、後一つある。近くの者もちゃんと見てやるといい」
「?」
良く分からないけど、これで一先ずは可能性が出来た。
あの二人が納得出来るかどうか、それにレミナが居ないと仮に当たりでも分からんし。ソルナにも相談してみよう、何か教えてくれるかもしれないしな。
目的が一応一つ出来たのは少なくとも前進だと思い俺はニーナと別れて城へ帰った。
-オトシゴ様ならあの国でも大丈夫さ、それに指輪も渡してあるから何とでもなるだろうし妖精達ならあるいは……-
ニーナは在りし日を思い出すように空を眺めてから、切り替えるように仕事を始める。
本話もお読み頂きまして感謝します。
ブックマークをして下さっている皆さんにも感謝です。
フェルの話は別に用意していたんですけど、出来るだけ一話で納めようとして書いておりまして今回はボツになりました。一人で三話、二万文字までは行かないと思いますけど長いと判断しました。ただボツと言いましてもどこかのタイミングで少し内容を変更して掲載出来たらと思います。
次はsideジョコラです。次話以降も宜しくお願い致します。




