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龍軌伝 異世界で龍に愛されるニート  作者: とみーと
第七章 双子竜 編
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不快感は世界共通

竜殿地下


現在レミナはお腹が減って地面にぺたりと座り込んで行く末を見届けている。切り落とされた腕から血を流しながらエルジュの攻撃を避け続ける騎士の姿をぼけーと観察中。エルジュは微笑んだまま間髪居れずに攻撃を叩き込み、騎士は地面を転がった。


「飼い主様の敵はエルジュの敵です」

飛び上がったやや切れのキレジュは地面をトンと蹴り綺麗な跳躍を見せる。レーゼンは歯を食いしばり己の失策と一撃でやられた駒ことヴィスへの怒りを感じていた。いくつか策を練り試してみても、目の前の女にはどれもこれも通用せず全てを正面から堂々と潰されていた。


「早く飼い主様の所に行く為です、諦めなさい」

真上から聞こえた声に反応して地面を転がるも、脇腹を捉えた蹴りをモロに喰らい飛んだ。

数度のバウンドで止まった体は骨が軋み悲鳴をあげて、目に見える形として口から血がドロっと流れる。痛みを堪えて立ち上がるとレーゼンは覚悟を決めた。


「長い月日を経てこの計画があるのだよ、簡単には死ねなくてね」

「くだらない話には興味がありませんので」

「いいや、降参だよ、私は死ぬ気は無いのでね。 ここで負けを認めよう」


片手を挙げて、己の剣を投げ捨て戦う意思が無いことを大げさにアピールした。エルジュはそのまま近づいて行くがレミナは「動くな!」そう叫んだ。

レミナの方向を見たエルジュに隙を見たレーゼンは、体を魔力で強化し瞬時に剣を拾い上げて振るった。


レーゼンはこれで後一人、逃げ切ることは可能だとそう判断し走り出す。数歩進んだ所でバランスを失いそのまま地面へと倒れこみ、そこで気が付く。

己の残った腕すらも失っている事実を。

でも一体、何故?

思考した時、自分の前に剣を握ったハズの腕が落ちてきたのだった。


「お馬鹿ですね。エルジュのこと切ったとでも?」

「だが・・感触は確かに・・・」

「エルジュはニンフですよ?」

「何を・・・言っているのだね」

「人を惑わすことなんて簡単に出来るに決まっているでしょう?」

「そんな・・・」


レーゼンを横目にレミナはエルジュに歩み寄る。

「エルジュ頑張った」

「お姉様~!私めがやってやったのですよ~!」

「でも、こんな所で惑わせるのか?」

「自然の中でしか出来なかったのですよ?飼い主様のお陰だと思うのですよ!」

「主様凄いな」

「凄いのですよ!」


二人がベラベラ駄弁っている隙を見てなんとか体を起こして歩き出す。失血のせいか、はたまた己の全てをいとも容易く真正面から打ち砕かれたせいなのか、足取りは重く重心も定まらない。

どちらにせよこの状態ではもう長くは持たない事だけは確かで、それでもレーゼンからは諦めた様子は伺えない。壁を這うようになんとか地上へ上がる階段まで辿り着き、上階から差す光を見て彼は笑う。まだ大丈夫、助かることも可能だし先はあると。

階段を上がりこれからの算段を思考するも、目の前には閉じ込めたハズのラガノが立っていた。

言葉で丸めこめるか?そんな思考なんて通用するはずも無い彼へと言葉を紡ごうとした。


体を貫く衝撃にその体躯は折れ曲がり、そして見た。己の腹を騎士が持つ剣により刺し貫かれている様を。手があれば剣を掴んででも抵抗出来るのに、それすら出来ない己に呆れた。

ここが最期かと、だがこの光りの中で逝けるならそれも良いかと悟るようにラガノを見る。ラガノは貫いた剣を引き抜きレーゼンの腹を蹴り地下へと落とす。階段を滑り落ちた先、奇しくも自分が殺した男の死に顔が正面にあった。

レーゼンは絶望を感じそのまま逝った。

「馬鹿者が・・」

彼の声が聞こえたかどうかは定かでは無いが、振り返ることもせず竜殿の外へ出て空を見上げる、竜が舞う空を。



ドリドゲスの上から見上げた空には一頭の竜が飛んでいた。何かから解放されて喜ぶように飛んでいる見えるけど、彼女はまだ解放されてはいない。

出来る限り傷つけたくない、そんな気持ちはあるけど空を飛ぶ彼女に接近する手段が無い。


「お兄ちゃん、お姉ちゃんをたすけて!」

「当たり前だとは言いたいんだけど、あれだけ高く飛ばれると手出しが出来ん」


ノシュネはドリドゲスから飛び降りて俺を見る。

出会ってからここまでの中で一番力の入った目だった。絶対に助けたい、そんな意思の篭った目で俺を見て言葉を出した。


「お兄ちゃん!わたしも手伝う!」

光りに包まれた彼女は竜の姿となって俺を見つめる。

「背中に乗れってことで良いんだよな?」


ノシュネは言葉を返さず頭を垂れて合図をくれるのだった。ドリドゲスから降りて離れていろと頬を撫でながらいうと、そのまま竜殿の方角にのん気に歩いて行ってしまった。ノシュネの尻尾からよじ登り背に跨ると翼を羽ばたかせて飛翔した。


「おぉう・・これ落ちたら確実に死ぬよな・・・」

(大丈夫!お兄ちゃんを落としたりしないから!)

「へぁ!!」

(どうしたの?)

「ノシュネ・・・だよな?」

(そうだけど?どうしたの?)

「こっこいつ直接脳内に・・・」

(お兄ちゃん?なにいってるの?)

「いや、大丈夫。やってみたかっただけだから、気にしないで・・・」

(変なお兄ちゃん、でもちゃんと掴まっててね!)


その言葉を最後に一気に加速して接近を仕掛ける。

呼吸こそ出来るものの怖くて仕方ない、安全バーの無いコースターに乗るとこんな気分になるんだろうな。遠くに見えていたフォスキアがどんどん大きくなるにつれて、凄い速度で飛んでいると実感する。


「ゴォオオアア!!」

フォスキアはなんの躊躇いも無く火球を放つとノシュネは横回転でそれを避けた。へばり付いている俺の存在を忘れているんじゃないのかと不安に思う。


「ノシュネ~~回転する時は言ってくれ!!落ちるかと思ったじゃないか!!」

(あっ・・ごめんなさい!)

「ん?あの・・今さ・・俺のこと忘れてたよな?」

(わっわすれてなんかないよ!!)

「本当に?正直に言ったら俺は怒らないよ・・」

(わっ・・すれてない・・よ?)


竜と化したノシュネの頭が右に傾いたのを見た。

俺の脳内ヴィジョンでは小さくて可愛いおにゃの子が首を傾げている映像へと変換されていた。

「次は気をつけてくれたら良いよ・・」

(うん!!)

数秒後、大地に穴が穿たれていたのを見た俺は落ちなくても当たれば死ぬと悟った。彼女の背に乗っている間は信頼するしか無いのだ、文句言っても仕方ないから黙って任せることで気持ちを切り替える。


(お兄ちゃん!どうすればいいんだろう!!)

「フォスキアの真上に行けるか?首輪を外せばなんとかなると思うんだ!!」

(わかった!やってみるね!!!)


ゆっくり弧を描く様に飛ぶと思ってたのに、この子ったら急上昇するんだもん。ちびるかと思いましたわ!!背中をがっちりホールドしても吹き付ける風に剥がされそうになる、そんな状態を耐えた自分を褒めてあげたい。


フォスキアの真上数十メートル程の高さを並走し、完璧な位置づけでノシュネは速度を緩めず飛ぶ。

気合入れて行かないと潰れたトマトになるからな、頑張れ俺!

「ノシュネ!ちょっと行ってくるからさ・・もしもの時は助けてね・・・」

(なにするの!?)

「うらああああああああああ!!」


人生発のスカイダイビングがパラシュート無しだなんて思いもしなかった。いや、そもそもあの世界で生きていた頃の俺なら無縁のまま過ごしていただろう。レクチャーなんてもんは無く、見よう見真似でカバーしようとしたけどそんな上手く行くわけもない。突き刺さる程の急行化でフォスキアの横を通り過ぎた。


「あかあああああああん!!!」

落下中なんとか体を捻ってみたら、真上からフォスキアが火球を放つタイミングだった。

「え・・うそん」

目の前に迫る火球に対象すべく、朱色を展開してイメージする御炎渦の形を。そうすると円形に朱色が広がり火球の衝撃を受けずに済んだ。

どんどん火球へと絡みつく朱色を見ていたがこのままではどうにもならない、あんなに遠かった地面がどんどん近づいて来ている。焦る気持ちはあったが、横を見るとノシュネが飛来し空中で俺を背中に乗せてくれた。


背に乗せて加速しもう一度上空へ高度を上げる。

(お、お兄ちゃんなにしてるの・・あぶないよ?)

「あっあぶなかた・・しぬかとおもた・・・」

(だっ、大丈夫?言葉変だよ?)

「だっ大丈夫だ・・もn・・」

(お姉ちゃんの真上でわたしがひっくり返ればそのまま乗れると思うんだ!)

「・・・本当だ」



一方地上


竜殿地下を抜け出したレミナとエルジュはアティー達と合流を果たす。外では先ほどまでの戦いは終息しており、全員が空を見上げているのであった。

二人も揃ってそれを眺めた。


「あ!主様!」

「ノシュネちゃんに乗ってるのですよ!」

「あ!主様落ちた!!」

「ぐっちゃってなるのですよ!!」


アティーは何故この二人は心配もせずにニコニコ笑って眺めていられるのだろうか、と思ったが言葉には出さなかった。竜殿の壁に沿ってドリドゲスが近づいて来ると、今度は空を眺めることをやめてドリドゲスをもふり出す始末で少し同情心が芽生えた。


「ノシュネ~~~!!」

(どうしたの!?)

「服がこんなんだからさ、寒くてたまらないんだ」

(ちょっと待ってて!)


俺はノシュネが一気に加速してフォスキアまでの道を付けてくれるんだと期待したのに、それは裏切られた。彼女の両翼の付け根から朱色が生まれて俺を囲むように展開され、気がつくと朱色に囲まれて身動きが取れなくなってしまう。


「確かに暖かくなってきたけどさ・・火傷するんじゃないかな?」

(そんなこと言ったら今頃燃えちゃってるよ?)

「え?」

(わたしの炎でわたしが焼けどすることなんてないよ?お兄ちゃんも大丈夫だと思うよ?)

「手を突っ込んだら燃えたりしないよね・・・」


疑いながらも朱色に手を突っ込むと、もわっとした暖かさだけで手が焼けることは無かった。

でも、あの時はなんか・・・?ん?


(慣れてなかったからじゃないのかな・・)

「あ~なる~・・うぉっ!!」

(お兄ちゃん!頑張ってね!)


右に傾いているとは思っていたけど、その角度が急に勢いを増して頭から落下した。叫び声すら上げきれず息が詰まるような音を出しているのに気がついて体に風を感じた。目から涙が出てたと思うがフォスキアの姿を捉えて覚悟を決めた。


さっき落下した時より近いけど・・・背中に着地するのがベストだろうな。四肢を大きく開いて減速してはみるけどさ、衝突したら相当痛いんじゃないの?大丈夫かな?動く対象物に対してやった事無いけど・・・物は試し!

フォスキアの背中に張り付くようなイメージでぐにぃの展開を試みた、意外と上手く出来るもんで減速を止め突っ込む。俺は奇跡を体験したと思った。

凄い速度だったお陰で体全体でぐにぃを体験することが出来た。これは絶対にハマる!今度一人の時にまたやりたいと心に刻み張り付いたフォスキアの首を目指して進む。


背中に乗った俺に気がついたフォスキアは、振り落とすような挙動で飛翔するが俺も落ちる訳には行かないと必死でしがみ付く。全然落ちる気配を見せない俺に対して、フォスキアは何をしたか・・垂直に急降下して急上昇、グルっと一回転に加え捻りも入れてくれた。しがみ付くだけで精一杯で一向に進むことが出来ず、目も廻り気分も悪い・・・俺は空中で吐いた。


「おろろろろっろろろおえぇええ」


フォスキアの背中にびっしり内容物が付いて申し訳ない気分。我を忘れて暴れるように飛んでいたフォスキアにも多少の意識のようなモノがあったらしく、背中の内容物に嫌悪感を露にしている。

相当速いスピードで飛翔していたと思っていたのに、さらなる加速で俺を飛ばそうとしているらしい、いや風圧で内容物を飛ばそうとしたのかもしれん。

そしてまたもアクロバット飛行をしようとした彼女に俺は叫んだ、心の底から思っていることを伝えねばならない。


「もう一回やったら!今度はお前の背中に口付けたまま吐いてやるからなっ!」

「ガァアアアッアアア」

「何なら自分で指突っ込んで吐いてもいいだぞ!」

「!?」


それが効いたのかフォスキアは減速し難を逃れ、生まれたチャンスを生かす為に一気這う。

あれを使う時が来てしまったようだ、まさか役に立つなんて思いもしなかった。俺の特技、幼少の姿の時にしこたま怒られたアレを!!!

秘儀Gフォーム!


カサカサ動く俺にさらなる嫌悪感を抱いている様にも見えるが、心の底にある自我が恐怖を感じたのだろう。竜でもGは嫌い、確信した瞬間だった。

首まで這い上がって行くがフォスキアも限界に近いようで、飛行に乱れが生じ始めている。Gの威力で世界を変化させるなんて簡単かもしれん、竜ですらコレなんだもん。首辺りからはワザと嘔吐きながら、一層強くカサカサしてやった!ははは!

二つの不快感に襲われたフォスキアはまるで赤子の如くで大人しい、ちょろいぜ!


頭の近くにある首輪に手が届き、握った掌に朱色を展開して焼きろうと一気に握り締めた。

すると大人しくなっていたフォスキアは急激に暴れ始め、俺は首から剥がれぶら下がった。

二つの玉を収めし袋がひゅんしていてふぁ~なんて声が漏れてしまう。龍の手で掴んでいなければ恐らく直ぐに落下してしまったと思うと生きた心地がしない。


ジリジリ朱色が首輪へ這い焼いて行く感触が伝わってきて、俺は落下した。ギリギリまで首輪を見ていた、それが完全にフォスキアの首から焼き切れて落ちて行く様を。首輪から解放されたフォスキアはバランスを失いきりもみ回転のまま落下を始める。

竜と言えどこの高さ、地面に衝突すれば唯で済む筈も無い。


「ノシュネ!フォスキアをなんとかしろおおお!」

俺の声に反応を見せたノシュネは上空からの急降下でフォスキアへと迫り体を何度もぶつけていた。

数度の体当たりでバランスを取り戻したフォスキアは、ノシュネに気が付いて頭を摺り寄せ喜んでいたように見える。それでも俺は落下してたんだけどね。


地面が近い、このままだとぺしゃんこトマトになるな。嫌だな・・普通に死にたい・・。

「中身は龍のそれじゃ!」とか言われも飛べるはずも無い。いっその事、地面に衝突する瞬間に渾身のぐにぃを展開すればいけるか?とも考えたけど流石に無理があるけど。やってみて駄目ならしょうがないか、二人の竜は俺のこと忘れてるみたいだし・・いとかなし。


気合を入れて最高のぐにぃを思い浮かべて俺は衝突したけど・・・驚くことにぐにぃにめり込んでそのまま跳ね上がった。最高に気持ちが良かった、一瞬ぐにぃ天国が見えたような気さえした。

跳ね上がった俺にようやく気が付いたフォスキアが滑り込むように俺の背に乗せて、ようやくこの一件にも幕が降ろせそうだ。


(お兄ちゃん!お姉ちゃんが元に戻ったよ!!)

(お兄ちゃん!約束守ってくれんだね!)

「俺のこと忘れてたよね・・死ぬかとおもた」

(え・・しょんなことないにょ!)

(え・・しょんなことないにょ!)

「双子で同じ様に噛んだら許されると思ってるのか?」

((ごめんなさい))

「いいよ・・どうせ俺なんて・・・ぐすんぐすん」

(あとでわたしがよしよししてあげるから泣かないで?)

(ノシュネと一緒になでなでしてあげる!)

「いいよもう・・それより一先ずドリドゲス達がいる辺りに下りようか」

((うん!))


双子竜、そう呼ばれるだけあって二人の息はぴったりで付かず離れず綺麗に飛んだ。

景色が綺麗で気持ちがいい中、俺の意識はまどろみに溶けた。それでも自分が笑っていたって事だけは分かっていたと思う。

本話もお読み頂きましてありがとう御座います。

ブックマークをして下さっている方にも感謝です。


残り二話で双子竜編は終わります。

次話投稿は月曜日に出来ると思いますので宜しくお願いします。

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