それぞれの戦い方
城門付近には吹き飛ばされ意識を飛ばした兵士がゴロゴロ転がっている。魔法による攻撃は少しの誤差も無く兵士を一人、また一人と狙い撃ちその度に倒れるのだった。その中、魔術師達を指示していたアティーは思う、直ぐに行くと言ったけど数が違いすぎると。特質して強い兵士が居ないことは幸いだが、数で押されるとどうしてもこちらに荒が生まれる。
「アティー隊長!このまま数で押されるとマズいですよ!」
「場所を変える!出来るだけ狭い空間ならこちらに分がある!」
「竜殿裏側ならここより狭くなっているかと!」
アティーは竜殿の方角を見て指示を出す。
「固まって一気に移動する!足止めを作るぞ!」
その言葉にアティーの部下達は同時に同じ詠唱を始めるが、攻撃が止んだと兵士が叫び怒号と共に動き始める。数人の兵士が数メートルのところまで踏み込んで剣を槍を各々が構えたところに魔法が放たれた。
「せり上がり、行く道閉じろ!ポルタポルト!」
地面から土壁が広範囲でせり上がり順番に魔術師達は移動を開始する。五、六人の兵士が土壁に手を付き、彼らを土台に飛び越えようと兵士達も動きをみせた。ただの障害物でしかない土壁如きでは兵士達を止めることは出来ず一人、二人と壁を乗り越える兵士が増える。少しずつでも人数を送り込めば袋のねずみだと小隊長らしき男が大声で叫ぶ、周囲の兵士も叫びながらその数を増やした。
小隊長が壁を見つめた先では混乱無くスムーズな動きで対処する兵士達が映る。各々が協力している様にでも感動しているのだろうか、それとも勝ちを確信したのか顔には余裕が生まれていた。束の間だったと後悔する事態が起こるまで。
兵士の隣に居た仲間が急に倒れると続け様に数人がバタバタ倒れる。見上げた先からはディネトラによって打ち出された岩の雨が放物線を描き降り注いできている最中だった。壁付近に密集しているそこを正確に狙われた、咄嗟の指示で弓を放たせるも矢は届きさえせずに終わる。
アティーより先に竜殿側に居た魔術師は全員の合流が確認でき報告を入れる。
「面白いぐらい掌で踊ってくれてびっくりですね」
「ここまで惰弱だと何も守れないわね・・・」
一人の魔術師がアティーの名前を呼びその場へ向かうと黒い檻を発見した。
「これって結界ですよね?」
「誰か閉じ込められるのか?」
アティーは結界に触れて確かめるがどうにも奇妙だと感想を漏らす。他の魔術師もこんなの見た事ないだの、気持ち悪いだのといった具合でアティー自身も見た事が無かったようだ。結界を解く魔法を幾つか試してみると、檻を生成している黒が脆くなるものの完璧に解くことが出来ずじまいとなった。
「後回しだ!今は前方から来る兵士を対処する!ポルタポルトでもっと入り口を狭めろ!」
アティーの指示通りに空間を仕切り準備が整い迎え撃つ準備が完了する。兵士も馬鹿では無く大盾を持った兵士が並び、こちらも壁を作り数人ずつが空間へと足を踏み入れてくる。
魔法を放ち大盾に直撃するとありえない程の轟音に全員が動きを止めた。それを放った張本人も驚いていたが、大盾を見る限りそこまでの威力があるようには見えない。互いが様子見をする中に影が落ちる。その影の持ち主が誰かと理解した者から驚嘆の声が上がる。その場にいた全てが認識する、竜が飛翔する姿を。
一方城内
騎士達はクレフィアを取り囲むような形で廊下を進む。初めは騎士達が剣を抜きズカズカと進んでくることに対応仕切れず倒れる兵士が多かった。リクティフと騎士達も兵士の脆弱さに拍子抜けしてしまうほどだった。
「クレフィア様、どこへ向かわれますか!」
「まずは玉座の間へ、それからお父様方の私室が無難ですわね!」
玉座の間へと向かう途中でも外の轟音は聞こえていて焦りを生んだ。曲がり角で数名の騎士が先行し安全を確認してはまた進む、その時間がたまらなく煩わしい。本来なら走って行きたいのにそれが出来ない歯痒さも焦る要因となっているのだろう。
「出来るだけ早く全てを収集しないと民達の不安を煽ってしまいますわね」
独り言を呟いたつもりだったのにリクティフに聞こえていたらしく。
「これだけ兵の練度が低いと掌握までそれほどかからないかと」
掌握、その言葉を聞いて自分が今何をしているのかと改めて理解するクレフィアであった。
玉座の間までの間に出会った兵は両手で数えれる程度、これだけの事態が起こっているのにそれだけだとは。呆れる騎士達の前方で扉が開くと玉座には王が座っていた。言葉を失いながらも近づくが玉座に収まっていたのは王の成れの果て。当の昔に死んでいた、その事実こそが何よりの証拠であると同時にクレフィアは父を失った喪失感を得た。
喪失感。
そう聞くと失って悲しい気持ちと捉えるだろうけど、クレフィアが感じたのは父が死んで居なくなったのか、ただそれだけだった。上の姉達と違い自分は幼い頃から竜殿で育ち、成長すれば国の為に子を産んでそれでお終いとそう言う役割だったのだ。
后と姉達は度々、竜殿を尋ねてはクレフィアを可愛がってくれたが王に会った記憶は本当に数回程度。父親と言うより王でしかなかった、父と言われる事の方がかえって違和感を感じる程に。
その王であり父が死んでいたが悲しむような気持ちにはどうしてもなれず、踵を返し玉座の間を後にする。
「クレフィア様!あのままで良いのでしょうか?」
「死んでしまった王より、生きている者を優先しますわ!」
騎士達はクレフィアを強い人間だと勘違いしてることだろう。彼女は元より母と姉達の心配しかしていなかったと言えばどう思うだろう?
そんな事を考えながらも姉達を探す。
一部屋ずつ潰し一番最後に残ったのは王の私室でそれが当たりだと全員が感じた。部屋の入り口には大きな閂に加え錠がいくつもされていたのだから、ここに宝物が隠してありますよと言っているようなものだ。
クレフィアがリクティフの名を呼ぶと騎士達へ指示を出し扉の破壊を命じる。騎士達は錠そのものの破壊は難しいと断念すると、扉自体の破壊を初めあっという間に扉は外されることになった。
リクティフと数名の騎士が先行し続いてクレフィアが入室し罠の類が無いか確認しながら一番広い部屋へ辿り着く。
「グローザお姉様!エルデお姉様!!」
「・・!?」
「えっ・・」
「私ですわ!クレフィアですの!」
二人の姉はクレフィアだと分かると駆け寄り三人で抱き合いぽろぽろ涙を零して泣いた。
リクティフも騎士達もその様子に安堵と笑顔で答えるが、今は時間が惜しいく再会をただ喜ぶことは許されない。王が死に、裏で魔術師が動いていた事は姉達も理解しており互いの理解は簡単に進む。
「お姉様・・お母様は?」
その質問にだけは二人の姉も言葉に詰まりどうにか言葉を紡ごうとしたが、クレフィアは二人の涙で悟るもう死んでしまったと。本当ならここで悲しみたい、泣きたい、抱きしめたい、そんな気持ちが心の底から浮き上がってくるのを必死に抑えてなんとか底へ沈める。
「クレフィア様!外で動きがあったようです!!」
「分かりましたわ!何人かお姉様達の守護をっ!」
「クレフィア!どこに行くの!?」
「一体何が・・?」
「お姉様達はここで待っててくださいませ!」
廊下から外を見ると空には竜が高く飛んでいた。
竜殿 祭壇の間
レミナとヴィス、エルジュとレーゼンの図となり互いに距離を取り構えている。
「化物の仲間は化物か、今ここで殺してやる!」
「本当にお前は五月蝿い」
見た目は子供のレミナに躊躇無く剣を振り下ろし笑みを浮かべる。レーゼンがやってみせた歪む技、ぐにゃりと歪んだ剣は完全にレミナを捉えている。
エルジュがレミナの名前を叫ぶがレーゼンも同じく技を繰り出し対応させられてしまう。
ただ、レミナも顔には出さないが心の中では怒っている。歪む剣に対してバックステップで距離をとり簡単に回避して構えた。エルジュも同様でヴィスよりも遥かに速い剣をひらりと回転しサイドステップでかわす。
「流石は彼の仲間と言ったところだね、また一度目で見切られてしまうとは」
「所詮は化物、本能で避けたのでしょう」
「当たるお馬鹿さんはいないのですよ?」
「歪んでいても意味無い、同じだ」
ヴィスは苛立ちを感じたまま二度、三度と歪む剣を繰り出すも全てを見切られ当たることがない。
彼を苛立たせるもう一つの要因はレミナの目であった、ずっと自分のことを哀れな眼差しを持って見ているのだから怒りも覚えるだろう。
全力で振るう歪む剣は完全にレミナ捉えた、後は切った感触が手に来れば確定と口の端が吊上がる。
一向に切った感触を感じず剣の先を見ると本当に化物を相手にしていたと今更気がついた。
レミナが自分の手首を掴み完全に剣を止めてしまっていて、視線を彼女に戻すと掌が鳩尾へと食い込んでいた。
「何がしたいか分からん。剣見なくても、腕と手を見られてたら意味無い」
「きさっ・・・」
「だ~~~くえねるぎぃいいいいいふらっしゅううはりけぇええええん!」
鳩尾を完全に捉えたDEFHはインパクトと同時に拡散して爆ぜ、ヴィスは人形のように四肢をブラブラさせ壁に衝突するまで転がり続けた。
体を壁に打ち付けられたヴィスの四肢は折れ曲がり口からはごぽごぽ血が溢れ、レミナの物凄い腹パン一撃でやられてしまった。ちびっ子と言ってもやはりタツノコの根源を思えば、その力は圧倒的と言わざを得ない。
さしものレーゼンもその表情こそ冷静を装ってはいるが、内心では焦りを感じているだろう。
片手しかない自分が二人相手に戦わなければならないのだから、どう考えても分が悪い。どうしてこの場を戦うか、それを思案する必要があった。
エルジュは正面で剣を構える男のことなんて何一つ知らない。地位や名誉も彼女には関係無く、目の前にいる相手はこの国に入ってから何人も見た人間の内の一人。その程度の認識でしかなく、あえてそこに特徴を加えるならば自分を救った飼い主の敵。
強さも弱さも知らないし、興味も無ければ関係もない、等しく敵である。ただそれだけだった。
加速して跳ねるようにレーゼンへと接近し、落とされた腕側に回り込むこともせず真っ直ぐ距離を詰めた。レーゼンとしては腕が無くなり死角となった所から攻撃されるだろう、と決め付けていただけにワンテンポ反応が遅れる。
そこへ容赦の無い一撃が穿たれる。間合いに入る少し手前で彼女は跳躍し、体を回転させ遠心力で重さを加えた左の回し蹴りを放つ。
レーゼンはバックステップで距離を開けそれを確実に回避するも、間際でエルジュの一撃を受ける事になる。蹴りを回避されると同時に一撃を加えていたのだ、それも失った腕の断面を指で突き刺すという一撃を。止血こそしてあったものの傷口がズキズキ傷み、出血により血がぽたぽた滴り落ちる。
見た目とは相反する点を加味すれば、こんなエグイ攻撃なんてされるとは思わないだろう。
いかに多種族に排他的なレーゼンでもそれは同じだったようだが、この一撃でその考えは捨てる必要が生まれた。何故ならそれでも彼女はこちらを見据えて微笑を浮かべていたから。
ドリドゲスに騎乗したまま地下から脱出し元のルート、裏口を扉を蹴破り飛び出す。雄々しい嘶きと共に着地を決めたまでは良かったが、左右を見れば魔術師と大盾を装備した兵士達のど真ん中だった。
「まさに間の悪い状況っていうのはこんな事を言うんだろうな・・・」
「お兄ちゃん??」
「シン殿!こちらへ!!」
アティーの声に反応を見せたドリドゲスはゆっくり魔術師達の方へ歩き、それを普通に見守る兵士達。これで敵が精鋭ばかりの一団だったら、今頃は蜂の巣にでもされてるんじゃないのか?
これをラガノが見たらきっと悲しそうな、恥ずかしそうな、そんな表情の後に怒るだろう。ノシュネを抱えたまま下馬すると、アティーが上空に「竜が飛び出てきた」とか「現状は?」と求められ完結に答える。ヴィスの話を聞くと怒りを押し殺してはいたが相当に苛立っていた。
「シン殿!状況は分かりました!」
「隊長~シン殿ならアレが何か分かるかもしれませんよ?」
魔術師が指差す方向には黒い檻がぽつんと置かれていた。一部が剥離してボロくなっている檻からは魔力を捉えることが出来て、近寄り観察していたらノシュネが「お兄ちゃんなら開けれる?」
なんて可愛い顔して言うもんだから調子に乗って速攻で朱色を展開して絡ませる。ジジジ、音を発てながら黒色に侵食し溶かすように這って行く、朱色が絡んだ部分がどんどん壊れて最後には砕けてしまった。
中から生命が誕生した、その名はラガノ・・・。
「あんた何やってんだ・・」
「シン殿か・・手間を掛けさせてしまったようだ」
「ラガノさん大丈夫ですか・・一体何が?」
「レーゼンはどこに行ったか分かる者はいるか!!」
「竜殿の地下でエルジュ達と戦ってるぞ」
「っ!自分もそちらへ行くが良いか!!」
駄目と答えても行くくせに聞く必要なんてあるのか?全員が思ったことだろう。色々あるんだろうと勝手に決め付けて手を差し出したら、立ち上がりそのまま竜殿へと消えていってしまった。
「俺達はフォスキアを追うけどここは大丈夫か?」
「恥ずかしながらジリ貧です・・まだ持つとは思いますが」
「分かった!」
ノシュネに少し待っていろと言い残し、俺は大盾を持って並ぶ兵士達へと加速した。大盾は厄介だけどそれはあくまで兵士として立ち向かう場合にしか当てはまらない。堅い守りこそあれど速度は鈍重で死角も多い、至近距離まで近づくとシールドバッシュがくるがそれも重い盾では速度が無い。
アッパーで盾を捲り上げようと龍の手で一撃を放った、捲りあがり飛ばした盾で数人巻き込めば御の字。そう考えていたが俺の一撃で盾が飛ぶことは無かった、それどころか手が盾を貫通していたのだ。
「あれ?」
「へっ?」
盾越しではあったがお互いに素っ頓狂な表情をしていたことだろう。俺としては半端なく恥ずかしかった。人ごみを歩いている時に行き成り足をぐねったり、階段で足が引っかかり転びそうになってしまった時のような恥ずかしさだった。
周りは皆は驚いていてくれたと思うけど、もしかしたら笑われてるんじゃないかと不安な思いから力のままに腕を振り回した。盾から手が抜けず、そのまま盾を振り回し何人もの兵士を巻き込んだ果てにようやく盾から手が抜けて飛んでいった。
周囲には倒れた兵士と俺の行動に驚き腰を抜かした兵士、後ろからは静寂だけで恥ずかしい。
そんな状態を誤魔化すように地面に蒼煉を放つと土を巻上げなら大穴が穿たれる。
「死にたくない者はもう戦うにゃっ!」
もうやだ・・・皆笑っているんだろう・・・。
ぽつぽつ歩いてドリドゲスに近寄ると俺を慰めるように頭をもしゃもしゃしてくれた。
「シン殿、あたなという方はなんと・・・」
「やめてくれ・・恥ずかしいからいじらないで」
「何を仰る!本当に凄いのですね」
ドリドゲスにノシュネを乗せながら、ここで初めて周囲の反応を見た。魔術師達の顔は今まで俺に向けられることなんて無かった表情ばかりだった。
兵士達に至っては戦意喪失した者達が唖然の表情を向けていたのだった。
「お兄ちゃん凄いね!」
「ヒヒヒ~ン」
ドリドゲスだけが俺の事を笑っていたと分かった。
アティーにここは任せるから、そういい残す前に気を利かせたドリドゲスがエンジンスタートしてくれた。城の門前まで疾走して見たその先、上空にファスキアがいた。
本話もお読み頂きまして有難う御座います。
ブックーマークにも感謝してます。
双子竜編はあと三話で終了致します。
次話は明日か月曜日になると思いますので宜しくお願い致します。




