フォスキアの力
ジャラジャラ五月蝿い音が耳から離れない。
音を遠ざけて欲しいのに、そう思えば思う程に音量が増す。嫌がらせなら勘弁してくれよもう少しゆっくり寝ていたいんだ。目蓋を開ければレミナが俺を起こそうと余計な事でもしているんだな!
いいだろう!ぐにぃしてやるぜ!!!
「ひゃっ!!」
ん?今のはレミナの声じゃなかったような、いやでもこのままぐにぃしてろう!げはは!どうや!このぐにぃがええんやろ?ほれほれ!!!うへへへはははは!
「やめて!!」
おいおい、いつもなら顔面にベシって一撃の約束なのになんで鳩尾をぐーぱんするんだよ。何?機嫌悪いの?そんなに怒らなくてもいいのに遊びじゃないか!寝ぼけた振りしてさらりと起きてやろう。
目蓋を開くと俺の見知らぬ幼女が真横に座っていた。目が合うと女の子は両手で体を隠すようにして俯く、チラチラと何度か俺を見てまた顔を伏せる。体を起こしたらあの空間に俺はいた。
「あれ?ん?ここどこ?」
女の子にそう訊ねてみたけど、答えは返ってこないしどうしたものか?とりあえず立ち上がり辺りを見ようとしたら幼女に手を引っ張られる。
ここに居て、そういう意味なんだろうか?
俺は一度座り直すと女の子の方を見た。
「だれ?」
ときたもんだ、答えに困るけど相手は子供でも礼儀は大切だと思い自己紹介を始める。
「俺の名前はランザヴェール=シンっていうんだけど・・君の名前は?」
「わたし・・・フォスキアっていうの」
行き成りの事で驚いたがどうやらノシュネの姉ちゃんらしい、さっきまで俺をボコボコにしてたのがこんな可愛いおにゃのこだとは。
不特定多数の変態ならブヒブヒ鳴きながら喜びそうだ。ノシュネと瓜二つだけどフォスキアの方が少し大人っぽく見えた。
「あのさ?ノシュネの姉ちゃんで合ってるよな?さっきまで俺と戦ってたフォスキアで間違いないんだよな?」
「戦ってたのかわからないけど・・ノシュネのこと知ってるの・・・?」
懐かしい名前を聞いたせいか目から涙を流してぐずっと鼻をすする姿は保護欲をかきたてる。守りたいこの子の笑顔!頭を撫でながら俺がノシュネとお前を助けに来たこと、ノシュネと俺は契約してるってこと、絶対助けてやるからと安心させるように話してあげたら大声で泣いてしまった。
「うぅ~っぐすっ、あの時・・声聞こえたの・・・助けるって声聞こえたの」
「あの時?それにこの空間・・夢で見たぞここ・・お前だったんだな」
その言葉にフォスキアは、はっとした顔を俺に向けて抱きついてきた。
「こわかったの・・・痛かったの・・・寂しかったの・・もうやだよ・・」
ぽろぽろ流れる涙は止まらずにしばらく抱きして頭を撫でてやった。
「俺が助けてやる!絶対にな?」
「でも思うとおりに動けないの外に出れないよ・」
「この部屋にはいつもいるのか?それとも閉じ込められたのか?」
「いつもはあそこから出れてたの・・ノシュネとおしゃべりして遊んでたの」
フォスキアが指したのは天井、鎖が絡まりジャラジャラ鳴っている場所だった。そのまま抱っこして下から覗ける位置まで移動してみると、天井の一番奥に茶色の触手が見えて薄っすらと光が漏れている。
「あの鎖は自分で千切ったのか?」
「ずっと鎖のせいで動けなかったの・・でも急に鎖が千切れて落ちちゃった」
「あの奥から外に出れるんだな?」
「うん・・・でもあれがじゃましてて・・」
フォスキアを地面に立たせて少しだけ待ってろ、言い残しぶっ壊す準備を始める。あれだけ痛かった体も痛みを感じず絶好調でテンションも上がってきた。
「大丈夫なの?」
「まかせとけ!!」
自分の龍力を分けて使うイメージだ!大丈夫出来る!いつもの感じでやればいい!右手で蒼煉を展開、サイズは大きいビーチボールぐらいだろうか?
フラストレーションが溜まってた分だ思いっきり行くぜ!!
下から掬い上げるように蒼煉をぽーんと打ち上げて行方を見届けると轟音が鳴り振動で鎖がジャラジャラ鳴り響く。どうだ!見上げたその先には傷一つ付いていないままだった。
「だめなの?ぐずっ・・」
期待を裏切ってしまい申し訳ない気持ちで満たされそうになったけど、諦める訳がない!まだまだ手数は残ってるんだとばかりにドカドカ打ち込むも効果は無かった。
「う~~~」
「だっ大丈夫だって!諦めんなよ!頑張れ!」
「頑張ってるのはお兄ちゃんだよ・・」
二人の妹が出来ました!でも俺はロリコンじゃない!断じて!でも!二人の妹に抱きつかれるのは良いかもしれないっ!きっと俺は破れかぶれでどうかしてたんだと思うけど、このおかしなテンションが逆によかったのかも知れない」
深呼吸をして目蓋を閉じてあの朱色を思い出して行く。
これで駄目だったら土下座しようと心に決めて目を開く。
龍の手には朱色が纏い球形を形成して行く。
「それ・・ノシュネと同じだ!」
「いっただろ?俺はノシュネとも契約してるんだって!!」
思い切り朱色を打ち上げて今度こそと見守る。
派手な爆発や音はしなかったけど朱色は天井にびたっと張り付くと炎の根を張り触手を焼き始めた。
俺とフォスキアは黙ってそれを見守った。
徐々に焼けて行く触手はボロボロになってついに全てが消失する。
「うっし!これで大丈夫だな?」
「お兄ちゃん凄い!!」
「だろ~?」
やっと笑顔を見せてくれたのも一瞬で直ぐに暗くなってしまう。どうした?そう聞くと言葉を選ぶように俺を見つめてモジモジしていた。
「どうしたんだ?まだ何かあるのか?」
「お外に出ても大丈夫なのかな・・まだ体がしっかり動かないの」
「多分、今のフォスキアは外で暴れてるかもしれないんだ」
「えっ!!」
「大丈夫だ!絶対に俺が助けてやるから!だから俺を信じてくれ!」
「お兄ちゃんが助けてくれる?」
「あぁ絶対だ!」
そこでやっと満開の笑みを見せてくれたのだ。
大人になったら絶対美人になるだろうな~と若干の下種さが出てしまったが許して欲しい。フォスキアを抱っこしようとしたところでまたも止められる。
出た時の事を考えるとやはり怖いのだろう、でも大丈夫だと頭を撫でてやる。
「あのねお兄ちゃん・・・ノシュネとも契約したんだよね?」
「俺だけじゃなくてノシュネも手伝ってくれたんだぞ?」
「ノシュネが・・・あのねわたしとも契約して!」
「ふぁい?」
「双子の竜だから二つで一つだからわたしも!」
俺は地面に膝を付いて眼帯を外すとじーと目を見ていた。
「これはノシュネのだけど他はどうなってるの?」
「ソルナってのとルビネラてのと俺とヴェルさんのだ」
「綺麗だね~きっとわたしのはここだ!」
「分かるのか?」
「だってノシュネの紋の反対側にこないとおかしいもん」
そして彼女は目蓋にキスをしてくれる。ジワジワ暖かいものが流れ込んでくる感覚を得て目を開いてみたらフォスキアはやっぱりと笑顔で言った。
「フォスキアに聞きたいんだけどさ?」
「なに?」
「ノシュネの力はあの朱色で力を喰うものであってるんだよな?」
「ノシュネのは力を力に戻して消しちゃうんだよ?」
「ん?」
「力を自分の力で引っ張って無くしちゃうの、わたしがそれを戻すんだよ?」
「もっと具体的に説明できるか?」
「う~んとね~・・・あそこでやってみて!」
フォスキアが指したのはまだ少しだけ朱色が残った場所だった。あそこにフォスキアを力を使うって。
ノシュネの時みたいにやればいいのかと考え手に集中していく、ぼわっと碧の火がふわふわしている。試しにそれを朱色目掛けてふわっと扇ぐよう放ってみたら、朱色まで届いて琥珀色に染まりまたふわふわ戻って来た。
戻って来た琥珀は俺の手に吸い込まれて消えたがここで変化が起こる。龍力を使いすぎてガス欠のような状態に陥ることはないが、それでも今これぐらい力を使ったという感覚はある。でも今回のフォスキアの力を使ったらそれが補填されたような感覚を得て理解した。
「わかった?」
「なるほどな・・転換して吸収する感じか」
「お兄ちゃん凄いね、直ぐにできちゃった!」
「せやろ?」
フォスキアは今度こそ俺に抱きつき準備万端だ。
外に出たら俺は魔術師打った押してフォスキア助けてそれで終いだ!
「行くぞフォスキア!!」
「うん!!」
鎖を掴み一気に昇ると光りに包まれた。
「お兄ちゃん!待ってるから絶対だよ!!」
その声が聞こえて電源が切れたかのように光りが途切れていった。
祭壇の間
レミナ達はレーゼンの姿を見つけるがそのまま駆け寄ろうとする。
「新人騎士の本当の名前はシン君というのか、それで君達が助けに来たと?」
レーゼンの言葉を一応届いていたが全員が無視で倒れた本人へと向かう。
「人の話を無視するのはあまり関心出来たことではないね?」
それでも無視をしたレミナ達を微笑で見守るレーゼンだったが、レミナがノシュネの名前を呼んだ途端に大声で笑った。
「私は本当に運に恵まれているようだ・・ノシュネ様自ら御出で下さるとは」
だが当のノシュネも無視でレミナと手を繋ぎ走る。
「主様!大丈夫か!!」
「飼い主様~血がいっぱい出てるのですよ!!」
「お兄ちゃん!!」
レーゼンは彼女達に歩み寄り後ろから声をかけた。
「彼は魔術師とフォスキア様の手によってこうなってしまたのだよ。私が助けに来た時にはすでにね」
「お姉ちゃんが!!」
「そうです!ノシュネ様!どうか我々に力をお貸しください!!」
ワザとらしく仰々しく自分は敵ではないと装い、ノシュネを連れ出す算段のレーゼンはそれでも冷静であった。レミナとエルジュが同時に放った言葉にようやく少しの怒りを見せる事になるのだが・・・。
「五月蝿い黙ってろ」
「五月蝿いのですよ」
二人の言葉で顔こそポーカーフェイスであったが、内心では二人をどう排除するかしか考えていなかった。そのタイミングでヴィスは祭壇の間に踏み込んできた。
「やぁヴィス君、調度良いところへきたね」
極めて冷静にヴィスへと語りかけて下手に動かず察しろと遠まわしに合図を送る。それを感じ取ったヴィスも演技に拍車がかかりレーゼンへと駆け寄った、隠すようにあの首飾りを持って。
「レーゼン団長、一体何が起こったのですか!」
「新人騎士の彼がフォスキア様とここで事を構えたようでね」
「フォスキア様に剣を向けたのですかっ!」
「フォスキア様も並々ならぬ雰囲気であったようで様子がおかしかったのだよ」
「敵対されたと・・・?」
「彼が居なければ私もどうなっていたことか」
レーゼンはヴィスに合図を送るとノシュネへと近づき首飾りを手にした。三人の背後は完全に隙だらけで、狙ってくださいと言わんばかりでシンを見るめる。ヴィスが手にした首飾りをゆっくりノシュネに掛けようと動いた。そこへもう一つ動きが起こる。それはヴィスの手から首飾りを奪うとあっけなく破壊したのだった。
「くだらねぇ三文芝居もそこまでにしとけよ?人を笑い殺す気かよ」
「主様!「飼い主様!「お兄ちゃん!」
まったく茶番も大概にして欲しいもんだ、俺の動きに合わせてレーゼンとヴィスは剣に手をかけていたが。
「だ~くえねるぎ~~ふらっしゅ~~はりけぇえええええええん!!」
「飼い主様から離れるのですよ!!!」
レミナは禁止したアレをヴィスに打ち込み、エルジュは空気を裂くほどのボディーブローをレーゼンへと入れた。ノシュネは俺の体を支えて立たせてくれると、後ろからドリドゲスがヒンヒンと頭をこすり付けてきた。
「さて、もう十分な程に背後関係も見えたことだしな?俺はフォスキアを助けるって約束してんだ」
「人数が増えたところで君がその指輪をしている限りまともに戦えんよ?」
「レーゼン団長!指輪の力を!」
ヴィスの声にレーゼンは目を瞑り掌を俺に向けてぶつぶつ何かを唱えると、指輪からあの触手が急激に俺の手から腕へと這い上がる。痛みを堪える表情を見たレーゼンとヴィスはここに来て笑顔で俺に通告してきた。
「さてシンラ君もといシン君?このまま行くと君は直ぐに死ぬことになるが?」
「レーゼン団長!化物にも一度だけ選ぶ権利を与えてはいかがですか?」
「ほう?気持ちが移ったかね?」
「それはありませんよ気持ち悪い。アレでもクレフィアを助けた男なのですよ、我が花嫁となる前に汚らわしいものは払拭したいと」
「借りは返すか・・それが例え忌まわしき異種族でも」
「自分はクレフィアの騎士ですからね」
そして俺を見つめていたが、ここまでくるともうアホらしくて構いたくなかった。心配そうな顔を向けるノシュネに大丈夫と言い俺も本気で動く覚悟を決めた。
「ごちゃごちゃ馬鹿なこと言ってるけど急いでるからさ?とっととやるぞ?」
「私が言った言葉の意味を理解しているのかね?」
続いてヴィスが声を出そうとする。
それを無視して俺は朱色を展開し己の右腕へ押し当てる。朱色は触手を喰らいながら指輪を目指して根を張って行き指輪を破壊してしまった。そして碧の風を腕へと流すと朱色は消えて琥珀が俺の手へと戻る。
「貴様は・・・一体何をしたと言うのだ・・・」
「君は危険すぎるようだ・・・」
二人の表情から余裕を消せたようで何よりだ。
一番驚いていたのはノシュネでレミナとエルジュは今の綺麗!
と褒め称えてくれる。
「お兄ちゃん・・それって・・わたしのと・・」
「おう、ノシュネの姉ちゃんとも契約したぞ!」
笑顔なのに涙を流したノシュネをドリドゲスに乗せてドラシャールを構えた。
「俺も色々溜まってるから手加減とかする気はないけど覚悟出来てる?」
「飼い主様!!今なんと仰ったのですよ!!!」
「主様は色々溜まってる!」
「黙れ変態・・」
「はぁ///はぁ///」
「レミナ達は外でフォスキアがどうなってるか見てきてくれ!」
「無理」
「無理なのですよ?」
「え・・」
「レミナとエルジュがここの当番」
「飼い主様はノシュネちゃんとお姉ちゃんの所なのですよ~」
二人はいつも通りにしてくれると思っていた。
特にレミナは俺の言葉をちゃんと聞いてくれていたのに何でだ?フォスキアの様子見なら危険は少ないと判断したのが間違いなのか?
「いや・・それは・・」
「約束したって主様言った」
「守らないと駄目なのですよ?」
「でもさ・・」
「主様五月蝿い!レミナは主様に運ばれる荷物違う!」
「さっさと行かないとぶちかましますよ?」
レミナにも意地があるのか・・・荷物じゃないか・・・そんな風に思わせてしまっていたらしい。
エルジュもキレジュ入ってて怖いし、どこかで俺は二人には戦いとかそんな所から遠ざけていたようだ。レミナだってエルジュだって強いとは分かっていたけど、俺のエゴを擦り付けてたのか・・。
二人の俺を見る目が信じられないのか?と問うているようで、ここで止めてしまうともう今後の関係性も崩れそうでそれが怖かった。ドリドゲスが頭をもしゃもしゃしている事に気が付いて俺はドリドゲスに騎乗した。
「レミナ!エルジュ!そいつら泣かせてやれ!」
「おーー!!!」
「はいなのですよ!!」
「ノシュネちゃんと座ってろよ?」
「うん!」
「ブルルゥ!!」
「ドリドゲスお前の本気見せてくれ!!」
「ヒィイイイイン!!」
ドリドゲスエンジンが高速で始動、一気に加速して祭壇の間から脱出に成功して地上を目指す。手綱を握る手に力が入る、助けに行くと約束したんだ、今行く!俺の気持ちを理解したのだろうか?ドリドゲスはさらに加速をして走り抜けた。
本話もお読み頂きましてありがとう御座います。
ブックマークにも感謝致します。
一話から前話までスマホ側から編集を一気にしました。
PC版で編集していても反映されないんですね・・・・。
それに伴い多少の加筆・修正を加えておりますが大きな変更点は御座いません。
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