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龍軌伝 異世界で龍に愛されるニート  作者: とみーと
第五章 ドリドゲス 編
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朽ちた町

朝、天の光が昇り始めたばかりの時間帯。

宿町であるが故に町の朝は早いようで既にいくつかの店は開店している。ドリドゲスを厩舎から引き取り手綱を曳き町を出た。

本日はヴィルポルトまで一気に行く予定だ。

途中で山を二つ越えることになっているがドリドゲスの脚があれば夕刻までには到着する事が出来るだろう。昨日の事もあったからドリドゲスに「今日も一日頼むな」と頬を撫でて話かける。ドリドゲスは「ヒンッ!」一鳴きで答えさっさと行こうと服をハミハミして促してくる。


「うしっ!そんじゃ行くか!」

「お~!!」

「ヒ~ン!!」


二人と一頭で気合を入れて動き出す。

気合を入れはしたものの頑張るのはドリドゲスだけなんだけどな。地図を確認して見るとここから先はどんどん坂道が多くなるそうで休憩の数も増えそうだ。タンテ印の地図には細かい所まで押さえてあって休憩するならこの辺りが良いなんてことまで書いてあって助かる。


「主様!主様!」

「なんだ?」

「暇だな!」

「はい?」

「暇だ!」

「お、おう」


町は既に見えなくなりつつあるけど、出発したばかりと言っても良い距離で暇だと言われても困るんだけど。頭を俺の胸に預けて座るレミナは本当に暇を持て余しているようで龍の手をいじくり倒しているのだ。


「主様の手は本当に綺麗」

「レミナは綺麗って言うけど見た目はお世辞にも綺麗とは言えないと思うけど」


俺個人としてはヴェルさんとソルナから貰ったモノだから気に入ってはいる。でも世間一般的に見た場合、どちらかと言うと色味も相まって禍々しく映っているのが現実だ。そんな手をレミナは綺麗だと言うが彼女には別の何かにでも見えているんだろうか?


「綺麗は綺麗」

「抽象的過ぎて良く分からん」

「キラキラしてる感じ」

「キラキラはしてないくないか?皆は化物とかそんな風に言うんだぞ?」

「見る目無い。次にそんな事言うヤツいたらレミナがダークエネルギーフラッシュハリケーンで潰す」

「それ止めろって」

「勿体無い」

「え?何が!」


この子の頭は一体どうなっているんだ?たまに不安になる。如何に教育が大切かを教えてくれるぜ。


「なぁ主様?」

「あんだよ」

「レミナこれからどうなる?」

「いきなりどうしたんだよ」


ソルナに言われるがままにしていたら出会った彼女。主従関係なんて無いのに俺のことを主様なんて呼び方をする彼女。出会ってから時間はそれ程経ってはいないけど妹が居たらこんな感じかな?とか思ってしまうのだ。まぁ、こんなぶっ飛んだ妹を持つ兄なんてそうそう居ないだろうとは思うけど。レミナもレミナなりに不安なのだろうか?


「リュウを探してるのは分かってる・・・」

「?」

「見つけたらどうなる?」

「どうなるって言われてもな・・・」

「ルナが言ってた。主様も龍から生まれたって。レミナと同じ?」

「ヴェルさんから生まれてるって言っても魂は俺自身のだから違うかな?」

「主様はオトシゴでレミナはタツノコ。何が違う?」

「レミナの場合は魂が切り離されて生まれているから元を辿ればレミナ自身はリュウって事になるな」

「主様は龍から生まれているのに龍じゃないのか?」

「ソルナから聞いた話だと元はヒトだけど殆どは龍と変わらないらしいけど」

「分からん!」

「俺も分からん!レミナの魂の元のリュウなら何か分かるかも知れないな?」

「そうか」


話をしている最中に俺の頭に浮かんでいたのは龍之介の爺さんの存在だった。龍之介の爺さんもタツノコってことになるんだけどあの爺さんはヴェルさんの中に戻っていったけど。うーん。まぁ直接会って話しを聞いてみないことには判断出来ない。悪いリュウじゃないだろうとは思うけど答えは出ないのだった。


それから少し時間が経つとレミナは船を漕ぎ出し、俺は地図の目的地に書かれているメモを読んだりしてなんとか時間を潰す。昼頃になるとレミナはふと船から下船して開口一番に「主様!お腹空いた!これはたまらん!」なんて行き成り言い出すもんだから予定よりも早く昼食を取ることになった。地図を見るとこの先から本格的な山道になるみたいだしタイミング的には調度良さそうだ。

丘の上に大きな樹が一本だけぽつんと佇んでおり気持ちよく時間が過ごせそうだ。


「よしっドリドゲスはこれ食べな」

「ヒンッ!」

「レミナもっ!レミナもっ!」

「お前はドリドゲスの分も食べるつもりかよ・・ちゃんと用意してるから待て」

「お~!!!」


お昼は宿屋で提供されているパンとちょっとした惣菜物だ。パンに惣菜を挟んで食べていると「レミナもそれやる!」真似っ子の如くパンのキャパシティを越えて挟まれたパンは丸く膨れていく。大きな口で頬張っておいしそうに食べている。いつも美味しそうに食べるから俺も釣られて食欲が生まれてくるもんだ。


丘から見下ろす先には山へと続く道と麓を迂回する道が見えている。山の天候は気まぐれで変わりやすいとよく聞くけど、雲一つ無い青い空を見ていると大丈夫だろと楽観的に捉えてしまうものだ。

山道方向から馬に乗ったヒトが一人こちらに向かってきているのが見えた。男か女か分からないが数頭の馬には荷物が乗せられている辺り商人だろうか?

昨日の件もあるから出来るだけ関わりたく無いが。


丘を上がってきた男と当たり障りの無い挨拶を交わしお互いが様子見するかのように見合う。相手のおっさんは白い髭をもじゃもじゃ生やしていて五十代程に見て取れる。


「あんたらは山道を行くのかい?」

「そうだ」


余りこちらの事は喋らないように用心した方が良いかも知れないと俺の勘が言っている。出来る限り早く話を終わらせて切り上げるように話を持っていくが。


「山道は止めておいた方が良いぞ」

「なぜだ?山道から来た様に見えたが?」

「昨日の朝に町を出発したが二つ目の山を越える所までは行けたんだがねぇ~」

「何かあったのか?」

「あぁ、二つ目の山の中腹には片側が崖になっているんだがね、その辺りが地滑りを起こして先に進めなくなっていたんだよ」

「それで引き返してきたのか・・・」

「一日無駄にしてしまったよ。一度町に戻ってから明日にでも麓を迂回する道を行くしかない・・・」

「そうか、ここで聞けて良かったよ。俺も同じ目に合うところだった」


「それじゃあ」

片手を上げたおっさんの顔には疲労が滲み出ていた。俺の勘なんて当てにならないことが証明された瞬間だった・・・昔から人を見る目は無いのは変わらないらしい。


「しかし、困ったな」

「どうした主様?」

「山道を行く予定にだったけど無理そうだ」

「そうか」

「そうかって他人事だな・・」

「分からないから主様に任せるしかない」


腰に手を当ててドヤ顔するのが妙に腹立つが確かにレミナに言っても仕方ない。改めて地図を確認してみると麓を迂回する他に道は無さそうで迂回となると二日~三日かかるみたいだ。


「ぶーぶー言っても変わらないもんなぁ~しゃーない急ぐ旅でも無いんだし迂回してゆっくり行くか」

「ぶぅ~ぶぅ~」


荷物をドリドゲスに載せ直してレミナを乗せて出発だ。丘を下り本来の予定では無かった迂回ルートへと向かおうとした時にまたしてもそれは起こった。


「そっちの道は途中で行き止まりになってるらしいから迂回する道で行くんだ」

「ヒ~ン」

「ドリドゲスどうしたんだ?」

「主様!ドリドゲス嫌がってる?」

「ヒヒン!ヒ~ン!!」


昨日は様子がおかしかったが今日もどうやらそうらしい。一度、下馬してからドリドゲスと目が合う位置に移動し頬を撫でながら聞いてみた。


「ドリドゲス?あっちには行きたく無いのか?」

「ヒンッ!ヒヒンッ!!」

「レミナにドリドゲスの言葉が分かれば良かったのに!!」


ドリドゲスの首にしがみ付くレミナはほって置くとして問題はドリドゲスだ。

「ドリドゲス?昨日からどうしたんだ?」

「ヒン↓」

「山道が進めない以上は迂回するしか無いんだよ?向こうが怖いのか?」

「ヒ~ン↓↓」

「主様!!怖くは無いと思う!」

「なんで分かるんだ?」

「ドリドゲスだから」


なんて哲学のような事を言うんだろうかこの子は?

でもレミナが連れ去られた時には視界が悪い中でもグングン進んでいたし怖いってのは無いか?じゃあ何が問題なんだ?それが分かれば苦労はしないけど分かってやれないんだよな悔しいことに。


「迂回するしか方法が無いんだよ・・・」

「ヒン・・」

「それにもし何かあったら俺がどうにかしてやるから安心しろ!」

「ドリドゲス!主様を信じろ!救われるぞ!」


新興宗教の教祖か何かになったつもりなんて一切無いし勝手に祭り上げるような空気は止めてくれ。だがレミナが放ったその言葉を聴いたドリドゲスは俺に顔をすりすりしてから迂回ルートの方角を見た。どうやら入信したようで俺にさっさと乗れと頭で体をコツンコツンと押した。


その後はさっきまでのは一体何だったんだと言わん様子でパカパカと軽快なリズムで進む。山道では無いお陰もあって平坦な道をひたすら進むとここでレミナがまた船出の旅に出航してしまう。予定とは違ってしまったがこれも旅の醍醐味だと思えば大した事は無い。


そうして進み続け天の光がゆっくり落ち始めた頃、俺達の前方に町が見えてきて本日はその町に泊まる事になる。町が近づくに連れてドリドゲスの足が遅くなり始めてしまい最後には完全に動かなくなったのだった。


「どうしたドリドゲス?あの町に泊まろうな?」

「ヒン・・」

「ん?何かあったのか?」

「ヒヒン・・・ヒィ~ン・・・」


地面と足が一体化してしまっているようでまったく動かないドリドゲスから下馬した。顔の横に立ち目を見ると脅えているようにも見えてきて、町から顔を背けて違う方角を見てしまっているのだ。


「あの町が怖いのか?」

「ヒン!」

「じゃああの町に行きたく無いのか?」

「ヒン↓」

「そうか・・・分かった!俺が先に少し様子を見てくるからドリドゲスはここでレミナと待っててくれ?」

「ヒン・・・」


そう言い残して町へと向かおうとしたところでガクンと動きが止まった。ドリドゲスがフードを噛んで俺を止めているのだ。あの町に一体何があると言うのだろうか?俺はドリドゲスの頭を撫でてから「何かあって大丈夫だからここでおとなしく待っててくれな?」と子供を諭す親の様に言うとようやくフードを離してくれた。



宿屋を探して何か美味しい物でも食べようなんて考えていたのにその考えは消えた。町の入り口に立って分かった、この町には人なんて誰も住んでは居ないのだ。廃れた感じは無いが人が居ない状態がもう何年も続いてる、そんな様子が見て分かる。だが何故あそこまでドリドゲスは嫌がったんだ?


レスタがドリドゲスを連れてきてくれたあの日から何かに嫌がるような素振りなんて一度も見せた事が無いのに。考える。昨日の癒しの水とこの町でドリドゲスは今までに見せた事が無い行動を起こした。何かある事だけは確実だが・・・。


俺は思考しながら町の中に足を踏み入れた。人が住まなくなった家は直ぐに駄目になると聞いた事があったがどうやら本当らしい。外から見ると分からなかったけどこうして近くで見るとよく分かる。壁には植物の蔦が這い、民家だろうか窓は割れていたり雲っていたり様々なことが見えてくる。


町の中央へ出た所から山の方角に一本の道が整備されている。何かがある、そう思わせる雰囲気に俺は躊躇い無くその道を進んで山へと向かった。山に入ると周りの木々は切られていて完全に舗装さてれいるとは言えない程度の道を進む。道はかなりぬかるんでいて水っ気が多い。


二十分程行ったところで一際大きな樹と綺麗とは言えない泉を発見した。ここは一体なんだ?人々が集う場所なんだろうか?でもこんな所に態々そんな空間を造る必要なんてあるのか?泉に近づいて両手で水を掬い上げると癒しの水の事を思い出した。試しに龍力を用いて泉を見回してみると微量ではあるが魔力がある。


恐らくはこれが癒しの水だろうけどこの程度の魔力量では飲んだところで何も起こらないと思う。それ所かこの水は死んでいるとさえ思えてしまうのだ。

一体この町で何が起こった?癒しの水と廃れた町にドリドゲス・・・。ドリドゲスの故郷だったり?その答えがこの場では一番の答えだと思う。

それしか思いつかない。


俺は泉の中心にある樹も同じく視た。

泉よりも強い魔力があるがそれでも微弱なモノにしか見えないし特別な何かを感じる事も無い。いや、そもそも何で樹や水に魔力があるんだ?フェルから色々と話を聞いたがそんな話は一度も聞いて無いし読んだ本にも記されていなかった。

単純に俺が知らないだけという可能性も十分にあるが、現実にそれは目の前にある以上は嘘なんかじゃないのだ。


さらに観察して行くと樹の根が一部だけ地面から露出しておりそこから魔力が水に溶け込んでいるのを発見した。樹から溢れた魔力が水に溶けて癒しの水になっているらしい。でもそんな単純なら魔力を持つ者なら簡単に造れてしまうハズなんだけど。ターニャからもそんな話は聞いたことなんて一度も無い。何かの条件があるんだろうか?もっと色々調べておけば良かったかもしれないな。


気が付くと日は橙に輝き夜の帳が下り始めようとしていた。今日は野宿するしかないか?そう思いながらその場を後にレミナとドリドゲスの居場所まで戻る事にした。樹と泉に背を向けて歩き出すと何故だろう?何か寂しい気持ちを感じたが気のせいだろうとその場を後にした。


本話もお読みいただき感謝します。

ブックマークの方も有難う御座います。


気が付けばもう十月・・・。

今年も後二ヶ月しかないと思うと色々焦ってしまいます。

再来週ぐらいにはドリドゲス編も終わるかと思います。

次話以降も宜しくお願い致します。


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