重なる紋様
ソルナの結界に呼ばれてどれぐらい経ったのか分からない。どこまでも伸びる白い空間には朝もなければ夜も無くて、腹が減ることも無ければ睡魔に襲われることすら無かった。龍法のイロハを学ぶに当たっては最適な空間でありがたいのだが・・・・。
「さっきから何度吹き飛べば気が済むんじゃ?」
「蹴りたくなりますね」
「うふぇ~」
龍法を学ぶ環境を手に入れたのはいいけど、超が付くほどのスパルタで心がミシミシ言ってる。体の傷は癒えてはいるが手も無ければ目も無い状態でボロksにやれれる理不尽さに体も悲鳴を上げている。
「ちょっとまだ聞きたい事とかあるんだけど・・」
「なんじゃ?」
「休憩する口実ですね・・・このヘタレ蛆虫!」
「噛むの止めた途端にマジで毒しか吐かねぇのな」
「五月蝿い!ゴミ虫!踏み潰しますよ!」
「せっかく妾が可愛らしい方向へ導いたのに・・まだマシなんじゃよ・・」
これでマシとか本来のコイツはどんだけ口悪いんだよ。
「で?聞きたいことはなんじゃ?」
「さっさと言いやがれ!」
「俺を見てたのは理解出来るんだけど、どうやって呼んだんだよ?」
「その首からぶら下がってる首飾りに圧縮しておった力をどーんしたんじゃよ」
「そのどーんの部分を詳しく聞きたいんだけど」
「どーんしてばーんしたら出来るんだにょ!」
「噛んでんじゃねーよ」
「簡単な話じゃよ。その首飾りは誰から貰ったんじゃった?」
「ジョコラの王様から貰った、ってか無理矢理押し付けられた感あったけど」
「そのレムトはこのルビネラ様が造った物なんだよ?分かったかこの虫ケラ!」
「あのさ俺が言ったから仕方ないんだけど噛む方に戻してくれない?イライラするんだけど?」
「そうじゃ!あっちの方が良いぞ!」
「じゃあ両方を使い分けまちゅね?」
「あっ・・うん・・」
「レムトに白いの着いてましゅよね?それは何とソルナ様の鱗の欠片なんです。それにワタシの龍力を付加してまっづ」
「それをコラジュの王から主に渡すように龍逢で言っておいてもらったのじゃ」
「だからあんな押し付ける感あったのか・・まるでぱしりだな」
「龍力を付加して小さい結界を圧縮してたのです。レムトの持ち主をこの空間へいつでも呼べるようにと」
「コラジュであの事件が起きてルビネラも色々大変じゃったからな」
「本当に!糞虫のせいでワタシの可愛い民達が犠牲になったんでっつから!」
「ソルナの結界にソルナ自身が居るのは分かるんだけどさ、ルビネラは自分の奉られる国に居なくていいのか?」
「良いわけないでしょうがんめん潰しますよ?」
「繋げて言うなや・・」
「魂の一部を妾の結界内に呼んでるだけで本体はコラジュにおるんじゃよ」
「もうなんでもありだな・・・」
どんな理屈で今ここに居るのかは分かったが、まだ話があって答え次第では色々大変だろうなとゲンナリ顔になっていた。そもそもここに着てどれぐらい経っているのか?外ではどうなってるか?その不安もあって内心穏やかじゃいられないのが現実だ。
「外の事は気にせんでいいのじゃよ?」
「えっ・・」
「顔にでってますいません」
「あんたのキャラが全然理解できねぇよ・・・」
「そういうキャラですよ?蛆虫君?」
「あ~もうめんどくさいのじゃ~何でもいいから言いたい事は全部言うのじゃ」
「手首とか目とかどうにかならんのかなって?」
「しょーもない事で練習を止めたんですかす?」
「そのままじゃったな、後回しでも良いかと思ったのじゃが、まぁよい先にするのじゃよ」
ソルナはここに着て座れと指でジェスチャーしているので従う。指示された位置に座ると後ろからルビネラにホールドされて身動きが取れなくなったが「ぐにぃ」がコンニチワしてるので良いか?でもなんか怖い、なんでホールドされてんだ?何されるの?
「じゃあ手からいくのじゃ!」
「手からって何するんだよ!」
「黙らないと口に拳詰め込みますよ?」
「大丈夫じゃよ?痛いだけじゃよ?」
「いや!それが問題なんだろうが!!」
エスカに焼かれた切断面を見たソルナはうげぇとした顔になっていて、後ろからはルビネラの鼻歌が聞こえていて不安しかない・・・。
「じゃあ良いんじゃな?いくのじゃ!!」
「良いも悪いもどうしようもないじゃないか!」
「黙ってろこの大鋸屑野朗!」
もうどうにでもしてくれと覚悟を決めてソルナを見つめると、彼女から光が生まれて一瞬で白い龍の姿となって現れた。ヴェルさんよりは遥かに小さい体躯だが人間から見たら十分に大きい東洋型の龍だった。
「いつ見ても綺麗です!」
「そうじゃろ?そうじゃろ?」
「すげーキラキラしてて綺麗だな」
「もっと褒めてもいいんじゃぞ?」
「こんな石コロに見せるのは勿体無いですからね」
「じゃあサクッとやるから我慢するんじゃぞ?」
「やだ怖い!」
「大丈夫じゃよ?取って喰ったりせんのじゃ!」
「・・・」
切断面に頭が近づいてくるともう嫌な予感しかしなかったがジタバタしても逃げれず、切断面から肘の手前ぐらいまで食われた。
「ぎいぃいいいいいぐふっふううううう」
叫んだ口はルビネラに塞がれて声にもならない状況でどうにもならない。初めこそ痛みが支配していたが途中から力が流れ込む感覚に切り替わり最後は気持ち良いぐらいになっている。
ソルナが口から俺の手を解放すると肘は食われておらず落とされた手が戻っていた・・・というより違う何かが付いている。指は五本あるが人間の手と言えるものから確実に変化していて、手は白と黒が混ざり合い灰色と呼ぶよりやや黒味がかった色になっていた。それだけならまだ手と呼べるが俺の手は鱗に覆われており、ヒトの手と言うより龍の手に変貌している。
「マジか・・・」
「マジじゃ」
「マジンがー」
「なんで知ってるんだよ・・」
「何をでつか?」
「いや、いい」
手をグーパーしてみたり翻してたりするとちゃんと感覚があって俺の手であることを証明している。魔力を込めてもいないのに圧倒的な力が凝縮されているのが理解できて、少しの恐怖を覚えるがこれで戦えるという充足感が勝った。
「やはり妾の力以上にランザールと言う龍の力の方が強いのじゃ」
「それ程までなのですか?」
「妾は自らの力を凝縮させるようにしたんじゃが・・・それが呼び水になったんじゃろうなコヤツの中から力が溢れ出よったのじゃ」
「いくらオトシゴでもそんなきょと」
「絶大な力を持つ龍の中に百年もいたんじゃ当然の帰結じゃの。どうじゃ?」
「この手が凄いって事だけは理解できるぞ?」
「であろうな。主が使い方を間違えるとは思わんが気を付けることじゃな」
「分かってる、ありがとうソルナ」
「妾は噛んだだけじゃから気にすることはないのじゃ。それに美味じゃった」
「次は虚ろになった穴ぼこ野朗を埋めるだけです」
「じゃな!」
今度は顔面をホールドされるとぐにぃがぎゅうううきてうひょおおおおおおしたけど恐怖がまだ勝ってます。ソルナが再び近づくと彼女の顎に生えている棘がシューと伸びてきて虚ろになった空洞に刺さってしまった・・・。
「あぐううううううぅうううぎゃむううううう」
再び口を塞がれた上に顔面もホールドされているので動けない。痛みは手の時よりすぐに引いたが、空洞となった目に熱を感じて気持ちが悪い。虚ろになった空洞の奥から染み出してくる感覚を覚えるとソルナは棘を引き抜いて初めの姿に戻ったのだった。
「どうじゃ?」
「どうもこうも・・」
「いいから目蓋をあけるのじゃ」
空洞の中に溜まっていた熱が奥から染み出てきたモノと混ざり合い熱が引いていくのが分かる。ゆっくりと目蓋を上げて行くと抉られ失ったはずの視界が戻ってくるが、左右でズレを感じ頭の中がぐわんぐわんして。
「おべぇええぇえおろろ」吐いちゃった☆
「ぬぉおゲロ吐くなんて何しておるんじゃあ!!」
「ちょお服の袖にゲロ付いた!汚いなゲロ糞!!」
ホールドから解放されると前へ蹴られてソルナの広い広い広い断崖に衝突した。
「ぬあ妾の服にゲロ付けるんじゃないのじゃあ!」
今度はビンタされてグルリと回転しルビネラのぐにぃに直撃するもショック吸収ボディに助けられた。
「ぎゃああああこっちくんな回転ゲロ太郎!!!」
衝撃と回転でまた込み上げてくるが、頭を捕まれ上に投げられ空中でトリプルアクセルしながらゲロを撒き散らすと阿鼻驚嘆地獄絵図が完成したのだった。
「うおおおお汚いのじゃあああ」
「ゲロが降り注いでくりゅうううう」
誰にも受け止められるはずも無く地面に直撃した。
「うべぇぇええ」
「だっ大丈夫ではなさそうなのじゃ」
「そのまま砕け散れゲロの権化!」
寝転んだまま上を見ると両目が見えてブレていた視界が戻っていく。
「で?どうじゃ?」
「ちゃんと見えるけど・・・風呂に入りたい」
「ゲロ太郎より先に水浴びがしたいのはこっちだ」
「じゃあ仲良く三人で水浴びでもするのじゃ」
ソルナに言葉を返そうとしたが彼女の動きの方が早く、直径四メートル程の水でできた半球が浮いていたのだった。彼女は俺を掴み上げると半球に放り投げて自らも飛び込むと、ルビネラも後に続いて飛び込んで水浴びが開始されてしまう。
「ふぅ~ゲロが洗い流されるのじゃぁ~」
「ホントにそうです!汚いでしゅ!」
「すいません」
彼女達を見ると生まれた姿になっていて何時そうなったか分からないずドギマギしていると、ソルナに服を破られた。ルビネラも笑いながら見ているがコイツらは変態だと思った。傷ついちゃったよ・・・
「なんじゃ!中身は四十超えとるんじゃろ?むしろ喜ぶ状況じゃろう?」
「仕方ないんじゃないんですか?だって童貞ですよ?このゲロ」
「どどどどどどおちゃああああ!!」
「何いっとるんじゃ?」
「こっちの裸体みて発情するとか引き千切るぞ?」
「何じゃ!興味津々なんじゃな?」
俺の気持ちなんて踏み潰してレッテル張りまくられて轟沈した。あ~あの娘達は元気だろうか?
元気で俺の帰りを待っていてくれるんだろうか?
現実逃避して水中を眺めると自分の顔に目があるのを確認して落ち着きを取り戻したがまたも変化に気が付く。
「お~気が付いたのじゃな?龍紋が出るなんぞ珍しいんじゃぞ?」
「龍紋が生まれること自体そうそう無いですにょね?」
「そうなのじゃ!妾が知ってるだけでも一人だけじゃの!それも千年も昔で龍と直接混ざった子の孫だけじゃの!!」
「あのさ龍紋って何さ?凄いの?」
「今の時代で龍紋を持っておるのは希少じゃぞ?」
「凄いじゃん!」
「自惚れるなゲロ丸!」
「でも色が蒼いな」
「主の龍力が反映されとるだけじゃから気にする必要なぞないのじゃ」
「で?龍紋って何なの?」
「妾の龍紋はこの掌にあるんじゃが主は目に出てるのじゃが、昔は龍紋を持つ龍が多く居たんじゃが目に出る者は知らんのじゃ」
「出る場所で効果が変わるの?」
「使い勝手の問題じゃよ。龍紋とは龍と契約し力を自在に操る事の出来る能力があるのじゃよ」
「ソルナは龍なのに龍と契約するのか?」
「昔は互いに連絡したりする程度にしか使っておらんかったし、自身の力以外を使うのは恥ずべき行為だったのじゃ」
「じゃあ俺も・・?」
「今は時代が違うし龍でさえそれを持っておらんから気にする事はないのじゃ」
「そうなのか?ソルナのおかげだなありがとう」
「礼には及ばんのじゃ。主の龍紋はもう一つ模様が重なっとるのじゃが?」
「はい?」
「恐らくはランザールの紋じゃろうな。そのような紋は見た事が無いから妾にも分からんのじゃが、主に恩がある者じゃ悪いモノではないじゃろう」
「ヴェルさんには貰いっぱなしだな・・・」
「何を言うておるんじゃ?魂を救ったんじゃろ?」
「そうだけど?」
「龍の魂は欠片でも貴重なんじゃよ?それも違う世界から元の世界に戻したとなるともう恩がどうのとかの話では無いんじゃよ」
「何も知らないのね~ゲロ太郎君」
「あぁ・・何にも知らない・・すまない・・・」
俺は何も知らない。
ディルカーレで生まれて十三年だけど本当に何も知らないんだよな。少し魔法を知って喜んでた程度のガキだな・・・。
「なっなにそんなにおちゅこみゃにゃいでにょ!」
「しゃべれておらんのじゃ」
「ランザールと名乗った龍は主に何と言っておったんじゃ?」
「ヴェルさんは強く、懸命に、聡明に楽しく生きろって言ってくれた」
「ならその通り生きればよいだけじゃ。主に仇名す者が今はおるが主が龍法を学び龍紋を使えばどうにでもなるのじゃ」
「あぁ・・そうだよな・・・ありがとうソルナ」
「よいのじゃ」
「あのっ・・ごめんなちゃい?」
「なんで五歳時の姿で謝るんだよ?」
「恥ずかしいんじゃろ?察してやるのも男の甲斐性じゃの」
「うん。気にして無いからいいよ」
「しょっきゃ!」
「まずは龍法を叩き込んでその後は龍紋についても教えてやるのじゃ」
「お願いします!」
再びあのスパルタの中に飛び込む事を考えると萎えそうになるが、俺頑張らないと行けないんだ・・守りたい者を守る為に。次に合う時はボコボコにしてんよ!
今回も、お読み頂いてありがとうございます。
ブックマークをして頂いた方達もありがとうございます。栄養になります。
徐々に力をつけて行く事になりますが、いきないチート能力爆発!と言う展開にはまだなりません。が、宜しくお願い致します。
総合PVが二万を超え、ユニークPVもあと少しで四千を超えそうです。
皆様に読んで頂いているお陰です。重ねて御礼申し上げます。