迎えた者達が失ったモノ
―オトシゴが死んだ。国中から祝われて流れ落ちた子だったシンが。また私のせいで死んだんだ、父も母も弟も妹も同じ者に殺された。もういい、死にたい、痛くも無いし涙も出ないや。目の前にいるエスカが私を殺してくれるからいいや生きてるのが辛い。ごめんねまた私は守れなかったね。死んだら頭を下げた謝らないといけないね許してくれるかな―
呆然と動かないフェルチにエスカが詰め寄ろうとするがマーレ達は見えない橋に恐怖しないで駆けてくる。レスタがフェルチを抱えるとレスタの部下達が援護を行いマーレがフォローして城まで撤退するが追撃とばかりに攻撃が飛ぶ。
初撃はマーレが防ぎ、次はターニャの援護魔法が飛んでくるが一手足りない。マーレがその体で防ごうとした刹那、見えない橋が輝きエスカは龍殿まで吹き飛ばされ壁にめり込んだ。マーレは何が起こったか理解出来ないが判断は冷静でそのまま城へ急ぐとルナが橋を降ろす命令を下している。
「エスカを捕まえなさい!」
「はっ!」
兵士達が架かった橋を駆けエスカに近づき捕らえる準備に入ると、エスカは在り得ない挙動で動きその場から逃走したのだった。レスタは医療魔法が使える部隊にフェルチを見せさせるとターニャと部隊に命令し追走させる。マーレは橋上へと走り顔出しで暗黒の虚空へ叫ぶ。
「シン様ぁああぁぁああ!!」
「部隊を幾つか編成してシンを探させなさい!!」
「シン様がっ!ルナリア様!シン様が!!」
バチンと乾いた音が響くと皆が注目していた。
ルナにビンタをされ動きが止まるマーレにルナは続けて言う。
「いい!マーレ!シンを探すのよ!」
「はっはい!!」
―私とした事が冷静を欠いていました。心配なのはルナリア様も同じなのですから!私共がしっかりしなければなりません。橋上からは光源となる魔法を落とさせ部隊を編成し海上から船を出させましょう。急がねばなりません!―
ターニャを見ると話すまでもなく動き出して橋上に魔法部隊を並ばせて行く。
―魔法部隊の皆で橋から光源を連続して落とさせて明るくするの。大丈夫なの皆いつも訓練するのはこんな時の為なの!今すぐ見つけてあげるの!だから無事でいてなの!お願いだから死なないで!―
―フェルチの怪我は相当ひどいね……でもシンちゃんが守ったんだもんね絶対死なせないよ!大丈夫だよ。明日には二人ともボロボロになってるけどまた一緒に皆で笑えるような時間が来るよね―
―シン!どうか無事でいて。あなたはこんな所で簡単に死んではいけないのよ……絶対見つけて出して助けるから!もう少し頑張りなさい!―
それぞれの思いは虚しく残り、それでいて叶うことも無く時間だけが過ぎて皆の心に残ったのは彼の事だけだった。そでも朝は来るし日は昇る。
捜索は打ち切られ失意の中でも犯人を捕まえる事は急務であり、彼のことを考える思考だけはなんとか外に出せている状況だった。時間を費やしても成果は得られずにルナもマーレもレスタもターニャも皆が口に出せずやるべき事に忙殺されて一週間の時が流れいった。
―痛みで目が覚めると私の所にルナリア様達が駆けつけてくれた。それぞれ顔に疲労が見えるが何かあったのでしょうか?心配そうな顔をされています。私が大丈夫ですか?何かあったのですか?と問うと心配そうな顔を向けています。シンがいません。どこかに出かけているのでしょうか?―
「あっうぐっシンは!シンはどこですか!」
「フェルチまだ動いてはダメよ!あなたの体はボロボロなのだから!」
「無理しちゃダメだよフェルチまだ寝ててね?」
「ですがシンは!」
「フェルチさん、シン様は……」
「うっぐっうぅ見つからないの……」
「そんな!まだそんなに時間は経ってませんから!探せば見つかります!」
「フェルチ……あのね、言いにくいんだけど一週間経っているのよ……」
―皆さんが話している意味が理解出来ません。一週間とルナリア様は仰いましたが冗談なのでしょうか?さっきまで橋の上にシンと私は一緒にいたんですよ?―
「何があったか覚えている範囲で教えて頂戴」
「ですがシンを先に探さないと!」
「フェルチ!シンはね……もういないの!あれから一週間毎日探させたの!アタシも探したわ!でも見つからないのよっうぅ……」
「ルナっちも疲れてるから少しだけ休憩してて?ね?話はウチが聞いとくからね?マーレにターニャ!お願いしてもいい?」
「ええ分かりました」
「わかったの。ルナちゃんお部屋に行こう?」
フラフラになるルナリアを両脇を二人が支え部屋を後にした。
「レスタさん?私は何が起こっているか分からないんですけど?」
「あっ……そうだよね?あの日何が起こったか教えてほしいんだ」
「あの日って……」
「だから!フェルチとシンちゃんがエスタに襲われた日のことだよ!!」
―シンが私を助ける為に戦う絵が鮮明に浮かんできました。手を落とされても目を潰されても私を助けようと!―
「あっああ……ああ私のせいでシン……」
「ごめんねフェルチ!」
バチン!部屋に音が響くとフェルチは頬へ手を当てて涙を流して泣いた。レスタもそんなフェルチを抱きしめて同じく泣いた。暫く二人の泣く声だけが残るとフェルチが少しづつ話始める。
「おっ覚えているのは龍殿で皆を手伝っていたら、急に大男が壁を突き破って入って来たぐらいで」
「その男にやられて捕まったの?」
「抵抗して戦いはしたんですけど力及ばずでシンは……」
レスタも彼の事が出て来ると答えに詰まり沈黙だけが生まれる。どうにもならない、もう終わってしまった話で彼は死んだのだ。
部屋へ連れられたルナリアはベットに腰をかけると二人に謝り痛々しくも笑顔を見せる。
「ルナちゃんそんな顔で笑わないでいいの!」
「そうですよルナリア様」
「二人も辛いでしょう?ごめんなさいアタシが守らないとダメなのにね」
「そうじゃないの!シンは……家族なの!」
「そうで……す。シン様は私共の家族でっすから……うっぅ」
三人も泣くしかなかった最愛の弟を無くした喪失感が消えない。埋まらないし元に戻らない。だが止まる訳には行かないという事実だけが彼女達の原動力になる。敵。圧倒的な敵の前に通すべきモノがあるから。
彼がオトシゴであろうと魔法が使えようと傍から見たらたったの十三の少年でしかない。体を痛めつけられボロボロになっていても敵を一人は倒したのだ。城を守った小さな英雄そんな呼び方が通るようになっていた。あの場で彼の姿を見た人間は怒りを忘れることは無い、手は落とされ目は潰れ挙句にエスカは見せ付けるように彼を刺し橋から落としたのだから。
橋上の悲劇から二週間が過ぎる頃にようやく彼の葬儀がソルナ龍殿で執り行われようとしたが、ソルナ龍殿の長であるランデ=ニーナが嗜めるように葬儀の延期を進言したのだった。
「なぜ葬儀の延期なんてする必要があるのかしら」
「事件はまだ終わってはいないのだろう?」
「終わらせるわよ」
「エスカがあんな事するとは思ってなかったよ」
「次に見つけたらアタシの手で殺してやるわよ」
「解決せん事にはまた被害者が出る可能性があるんじゃないのかい?」
「暫くはないと思うわ」
「言い切るんだねぇ?」
「橋の結界が違うモノになってるわ。魔法で中和しなくても行き来できるのよ」
「なら誰でも入れるようになって危ないんじゃないのかい?」
「エスカはありえない程の距離を吹き飛んだわ」
「敵には威力絶大と言うことかい」
「ええそうよ」
「でも何時までもそんな状況が続くのかい?」
「分からないわよそんな事」
「でもまだ葬儀には早い」
「だからなんで!」
「オトシゴの魂の安寧を祈る為にあの部屋で皆で祈るからだよ」
「そんな事知らないわよ」
「長く生きちゃいるがこんなこと初めてだよ」
「オトシゴの慣わしなのかしら?」
「そうだ」
「分かったわ」
彼の葬儀は延期されるがあの事件で死んだ二人の葬儀だけは特別に城で行われたのだった。皆が次第にいつもに近い生活に戻る中で事件が起きた。
「ルナリア様!!」
「どうしたの?マーレ」
「城上空に龍がっ!」
「えっ!!」
城の上空には西洋の体躯を持った茶色の竜が停滞してこちらを睨んでおり、横には翼竜に乗ったエスカが見える。
「ハッ!虚弱で汚い魂の分際でくだらねぇ抵抗してんじゃねーよ!」
叫ぶように言った龍の口から火球が吐き出されると城に向かって落下する。
「キャハ!すごーい!これでまとめて火葬だね!」
「殺してしまいだ。次は龍殿もボロボロにしてやるから見とけ役立たずが」
逃げるには時間も無く、抵抗するには力が足りない。ルナは悟ってしまったのだもう無理だと何もできないここでお終いだと。マーレが体を引っ張るが彼女は動かないどうせ死ぬのだから動いた所で大差は無い。意味なんて無いのだ。火球が城へと到達し爆ぜるであろうぐらいに膨れると風船から綺麗に空気が抜けるように萎みやがて消えた。
「ちょっと!爆発してないじゃない!」
「あん?何をしたんだ?」
「膨らんで萎んだ!」
「結界が変わってるじゃねーか!んだよこの結界?」
「でもなんか?」
「フッハハ!なんだこの惨めな結界は!!俺の一撃で崩壊しそうじゃねーか!」
「でも耐えたけど……」
「うるせーんだよゴミがっ!どうみても暫くで潰れるな!良いだろう余興だ!」
「放置するの?」
「あーそうだそっちのが楽しいだろう?俺のアレを喰らってグラつく程度の結界だぜ?もって数週間かそれより短いか……ふんっ」
最後にダメ押しとばかりに同じ火球が落とされるが結果は同じになった。龍とエスカはそのまま雲に消え残ったのは恐怖かと思いきや怒りだった。
全員があの龍とエスカに対して怒りを表していて倒すべき相手だと意識を共有するのだった。
「あれがシンの仇ねマーレ」
「そうなりますね」
「ありったけを用意させなさい」
「かしこまりました」
各自が次も来るであろう襲撃に準備を開始した。
これ以上の泣きたい気持ちは後においておくんだとばかりに皆は龍を打倒する為だけに心血を注ぐ。
時間は短いが徹底徹尾余すこと無く綿密に作戦が練り上げられ街の住民は避難が開始された。
住民の避難が完了するまでに数日を要したが大きな混乱が起こらない辺り兵士達と住民の信頼関係は強いようで、賑やかな街が静寂に包まれていることが不気味で奇妙な雰囲気をかもし出している。
連日の作業で各所に疲労が見え始めるが誰の口からも不平不満は漏れ出さず、全員の目的が一致している事を如実に表しているようだ。
三週間が過ぎるがあの日以降から目立った問題も動きも起こらず、平和と言う言葉が似合う国の姿を取り戻している住民を覗いてだが。ただルナリアから不安が消えることは一日どころか数時間たりとも無く連日の疲れと睡眠不足で足はフラつき思考が停滞している状態が続いていた。
「あとは魔法部隊の配置場所に結界を張るだけね」
「ルナちゃん結界は昨日の昼に張り終わってるの」
「そう……だったわね」
「ルナっち少しだけでも寝たほうが良いよ?」
「アタシだけ寝れる訳ないでしょ?」
「寝ることも仕事です。そのような状態では正しい判断が出来かねます」
「寝れないのよ……仕方ないでしょ」
「ですがっ」
それぞれ気丈に振舞うが疲れはピークで少しのことでイラついてしまう有様だ。そんなピリピリした空間にシェルトが口を挟んで提案をした。
「この数日で城と龍殿の防備の八割が完了してます。残りは物資の搬入だけで休憩の取れる者から順番に休憩を取らせております。ルナリア様も皆さんも休憩を取ってください。準備は本番ではありません向かい打つ時に動けぬなら何の役にも立ちますまい」
言い切るシェルトに誰もが返す言葉を持たずにその言に従うしかなかった。
―私には何も出来なかった。助けたかったのに助けられた。血を流しながら立ち上がり守ってくれたけどそのせいで……―
フェルチはあの日からまともに寝れずにグルグルと同じ思考を巡らせるだけの存在になっている。何度考えても自分が悪い、自分のせいだ、自分が居なければと堂々巡りのジレンマに陥っていた。そんな彼女の元にニーナが尋ねてきた。
「何時までそうやってるつもりなんだい?」
「・・・・・・」
「まるで死人だねぇフェルチ」
「・・・・・・」
「答える気にもならないのかい?」
「・・・・・・」
「オトシゴ様も不運だね」
「・・・・・・っ」
「あんたみたいなのに命張って助けたんだからね」
「・・・・・・さぃ」
「死んだ事が不運とするなら、あんたを助けたのは不幸だったようだね」
「うるさいっ!」
「ほぉ口だけは回るんだね」
「あなたに何が分かる!!」
「分からないしお前の気持ちになんてなれないよ」
「そっそれが龍殿の長が言う言葉ですか!」
「確かに長だが、万能な訳じゃないよ」
「私のせいでシンは……」
「あんたのせいで死んだね。無駄に命を投げてね」
「っこの!」
「甘いよ」
フェルチはニーナに突っ掛かると簡単に組み伏せられ身動きが取れなくなるが、ニーナはお構いなしに続けて言葉を浴びせる。
「あんたが情け無いからオトシゴ様が死んだ!あんたが殺した!あんたが弱いから死んだ!全部フェルチ!あんたのせいだよ」
「そんなこと分かっている!私が殺した!昔と同じことをまたしたんだ!」
「そう殺しておいて生かされておいてそうしている。だからオトシゴ様の命は無駄だったんだよ?何の価値の無いゴミと同じさね」
「違う!私を助けるために手を無くしても目を潰されても立ち向かったんだ!」
「あんたを身を投げ打ってでも守りたかったんだろう?それで守られたんだろう?」
「……うっぐ」
「そうしていたって何も変わらんことはあんたなら分かっているだろう?」
「はい……」
「なら顔を上げな!やる事は山程あるんだ」
「はい」
崩れて壊れかけたフェルチの心はニーナによって助けられたのだった。伊達に人生経験は豊富では無いと言った所で自分にも似た経験があったのだろうか?ニーナにとって龍殿に居る者は漏れなく自分の子供のように扱うのだ。偉大な母のようでいて時には聖母のように導く彼女を嫌う者などいはしない。
フェルチはニーナの指示を受けると任された仕事へと向かった。
二章はここで終わります。
次話から三章に入りますので是非とも宜しくお願いします!
読んでくださった皆様ありがとう御座います。




