もう一度
時間は常に動き続けている。同じ様なフリをしているだけで、同じ様に思わせているだけで、同じ日なんてありはしない。何かが少しでも違ってしまえば、結果も大きく変わっていくであろう。それでも人は、理解しているはずなのに変わりはしない。故に私は彼らに教えるのだ。誰かに笑われても、誰かに馬鹿にされても、折れそうになっても、立ち止まっても、前は見なさいと。
暁に染まる空、鐘の音、それは今日の私の仕事が終わる合図である。
校舎から中庭を覗いた先、帰路に着く生徒達が見えていた。特に何があった訳でも無かったが、私は微笑んでいたようだ。中庭へ降りると生徒達はそれぞれに挨拶をしてくれる。中庭の中央、一つの銅像がある。私の尊敬している人物。今代のオトシゴ様こと、ランザヴェール=シン様。見上げていると数名の女生徒が話しかけてきた。
「先生どうされたのですか?」
「いえ、特に何かがあった訳ではありませんよ」
「もしかして、先生もオトシゴ様が好きなんですか?」
「先生も……ですか?」
「だってオトシゴ様ですよ!」
「カッコいい人らしいし?」
「それにチョー強いらしいし?」
「紳士らしいし?」
「「「「最高だよねー!」」」」
少なくとも時代は動いているんだと、改めて感じた瞬間であった。
時間は少しばかり巻き戻る。
「べぇええええくしょおおおいおらああぁああ」
「主様、汚いですから手を当ててください」
「飼い主様! 飼い主様! エルジュの服で拭いていいのですよ!」
「汚いとか言うなよ。もしかしたらとてつもなくいい感じかもしれんだろうが」
「汚いものは汚いですから」
「エルジュは飼い主様に何されても嬉しいのですよ?」
とまぁこのような会話をしながら俺達は帝国まで足を伸ばしている。
何がどうしてこうなっているのか?簡単である。レミナの痕跡を辿り、問題の答えを探す旅に出ているのである。レミナがあんな事になってしまった原因の究明と調査、格好良く言えばこんな感じである。
直ぐにでも旅に出るハズであったのだが、出発までにばかりの時間を要したのだ。
さてさて、この期間の出来事を振り返ってみようかね~。
旅に出る。これはもう決定しているのだが、やはり妻と子が心配になる。
無論、クレールクレプスの防衛網に不安も無ければ、不備も無い。
頼れる人物も沢山いることは理解しているのだが、それでも色々と思案してしまうものである。
ふむ。まずはルナ達を集めて話しをするべきであろうと考え、彼女達に時間を作ってもらった。
こういう時、妖精達が居てくれると色々と早くて助かるものである。彼女達に頼めばサクッと空を飛び伝令として動いてくれる。この際、俺はスキンシップを忘れない。
「じゃあお前達、姉達と再会できたばかりで悪いけど、頼むな」
「「「「は~い!」」」」
「本当にいい子達ばかりで父様は嬉しいよ。ふ~っとな」
「あっ! 捲れちゃいます!」
「父様、えっちです!」
「あら、父様? 言ってくだされば何時でも宜しいですのに」
等々、みんな性格が違うから反応も様々であり。俺の頬にキスをして飛んで行く、振り返り様に妖艶な笑みでウインクしているのは紫雲である。父様、頑張って名前覚えたんだぜ……数は多いし、みんな顔が違うけれど、ある程度の基準があるのさ。
単純に出雲、八雲、雲母の三人の誰かに似ているってことだ。
ただし、この三タイプの以外の存在である。そう紫雲のような、妙に色っぽく、妖艶な女性という言葉がぴしゃりと当てはまるタイプである。三妖精を混ぜて割ればこうなるのであろうか? はたまた違う成分があるのだろうか? そんな思考の中、浮かんでくる人物の名前はテオスなんだけど……絶対に違うだろうな。うん違う。
「何考えてんだ!」
「おぶっ」
脇腹に衝撃、テオスです! 彼女は俺を睨んでいたので、何となく頭を撫でてみた。彼女は声にならない声と共に顔を赤く染め両手がわちゃわちゃしていた。その後にシラタマに守られるようにフェル、フェルに抱かれたサクラが到着する。レミナは久しぶりだと言うのに、心配をかけたというのに、関係ないと言わんばかりにフェルと話している。可愛いサクラたんを抱っこし、エルジュと一緒に蕩けていた。
俺はというと腰を下ろし、みんなが集合するのを待つ。テオスは三妖精の様子を見ていたのだが、元気に空を舞う様子を見ると安心したようである。そんな様子を見ていると、ふと思うのだ。以前の俺と今の俺のことを。もっとしっかり生きていれば、あの世界であってもまともになっていたのだろうか? ふとそう思ってしまった。どんな表情をしていだのだろうか? 気がつくとフェルが隣に座っていて、俺をみて微笑んでいる。
「レミナさん、良かったです」
「うん」
「エルジュさんから聞きました」
「うん」
「簡単に問題を解決したそうですけど……」
彼女は言葉を止め、そして俺の頭を撫でて言うのだ。
「怖かったですね」
「うん」
レミナを助ける為、俺はレミナを殺したのだから心配してくれているのだ。
確信や自信、ファルラのことが俺の背中を押してくれたけれど、怖かったのは間違いない。
そんな俺に気がついてくれた。あの一瞬でだ。フェルの太ももに顔を埋め充電だ。
何時もの様にフェネルギー充電中なんて言わない。それでも彼女は俺の頭を背を撫でてくれる。
みんなが集合する間、ずっと。
「寝転がったうえに嫁の太ももで睡眠とはね」
「まぁーシンちゃんも頑張ったんだからいいんじゃな~い」
「シンは何時も頑張ってるの」
体が揺さぶられる感覚、どうやら軽く寝落ちしてしまっていたようだ。
なんとなく空いた手でフェルのお尻をさわさわしてしまった。
「シン! 起きてるなら話をしなさい」
「あらら~シンちゃんは本当にえっちだね」
「そういうのはダメなの!」
体を起こす。何時の間にかルナの太ももで寝ているのでは? と思ったのだが、どうやらそれはないようだ。ちゃんとフェルの太ももで癒されていたらしいが……フェルに怒られるかもしれないと不安になる。
眼球だけを動かしてフェルの表情を伺う。俺と目が合った彼女は微笑んでいてくれた。女神だ。
そこからルナに何がどうしてこうなっているのか? について説明を求められるのは言うまでも無い。
どこからどう説明したらいいものだろうかと思案、正直に思うことは面倒臭いである。
そこで俺はひらめいてしまう。完璧すぎるほどの案を。
「ということで、お願いします!」
「何故、余が……」
「俺って説明下手だしさ~こういうのはアネモスの仕事かなって」
「はぁ~命令ですか?」
「いや命令じゃないけど……土下座すればやってくれますか?」
「ご主人様の土下座など不要です。余が頼られているのであれば良いでしょう」
アネモスは一から経緯の説明をおこない、それはともて分かりやすいものであった。
俺も途中で何度かあぁーなるほど! て顔してしまったんだけど、その時の彼女の目は忘れる事はないだろう。
「まぁ、一応全部理解したわ。それで、レミナ達とまた旅に出るってことでいいのね?」
「そうなるけど……」
不意にフェルは俺の手を握ってくれた。言葉無くとも彼女の気持ちは十分に理解出来た。
此方の心配はいいから行って下さい、そう言ってるんだと思う。
ルナ達も安心して行ってらっしゃいと言ってくれたから、俺の決心できたのである。
じゃあ翌日にでも出発! ってなると思ったのだが、レミナのことを考え休養することになったのである。エルジュなんかはヤル気スイッチが入ったようで、ソルナ達の引きこもり空間へと消えていく。
休養のハズなのにレミナも行ってしまったが……まぁソルナがいるなら大丈夫だろう。
俺は俺とて、ルナに命令されたのだ。「シンは休養しなさい」と。
個人的には何時も休養しているようなものなんだけど、家族の時間は大事だからな。
家族との時間を過ごしつつ……俺もここいらで鍛錬しようと心に決めたのだ。
この二週間は全力で楽しみ、全力で鍛えるのさ。
翌日の朝、俺は庭でサクラたんと日光浴に勤しんでいる。
「サクラ、いい景色だろ?」
「あーぅあーばっ!」
お気に召したようで何よりだ。
のっしのし歩いてくるシラタマさん、尻尾でサクラを撫でると定位置で寝転がった。
俺達を包むように座る最高級のもふもふ、わなわな揺れる尻尾をサクラは気に入っているらしい。
「あっきゃ! きゃっ!」
「るる~」
「シラタマさんや?」
「がる」
「また旅にでる。諸々安心だけど、頼んだぞ?」
「ガフッ!」
神樹のテオスさん、妖精と結界に、龍に、聖獣と我が家のセキュリティーに死角は存在しない。
これを破るのは相当難しいだろう。あとは信じて任せよう。そんな感じでまったりとしていたが、引きこもり空間から吐き出されるように変態が落ちてきた。しかもボロボロでほぼ半裸状態の美人である。彼女は息を切らしていたかと思えば、途端に寝息を発てて旅立った。果たしてどのような鍛錬をしていたのかは想像に難くない。
「はぁ~俺も頑張りますかねー」
「あ~?」
「がふっ」
立ち上がるとシラタマの尻尾が優しくサクラを包み込む。きゃっきゃ笑うのだから大したものだと思いつつ、シラタマに視線を送ると寝室方向へと歩き出す。シラタマさんは万能故に安心である。気合を入れなおし、引きこもり空間へと歩みを進めるのであった。見慣れた光景、ソルナは宙に浮かぶ透き通った球体の中で全裸だ。きょろりと動かした視線、何時もであればルビネラが隣にいるはずが今日はアネモスが居た。無論、彼女も全裸である。
とことこ近づいてくと、ソルナは全裸であることなど微塵も気にせず。あたかもそれが普通であるかのように振舞うが隣のアネモスは違っていた。俺に気が付くと同時、手で隠せるだけ隠されている……が、限界はあるのさ。寧ろそれがエロイとさえ思う訳なのだが、余計なことは言わないに限るのさ。
「うん? お~主か、どうしたんじゃ~?」
「ボロボロのエルジュが居たけど、かなり過酷な鍛錬でもしてたのか?」
「ん~もっと強くなりたいと駄々捏ねるんじゃよ」
「それで見てくれてた訳ね」
「そうじゃ。して主はどうしたんじゃ~」
「俺も真面目に鍛錬しようかなと思ったんだよ」
「ん? 主が鍛錬? 何を今更なのじゃ」
身を乗り上げたソルナ様、濡れた長い髪は彼女の体にピタッと張り付きとても美しいと思った。
俺はこういう時、きちんと言葉にすることが大切であると学んだのだ。
「うん。ソルナ、すげーエロいな。でもなんか芸術っぽい」
「もっと褒めていいのじゃ~ん? 何で妾の後ろに隠れるのじゃ!」
あえて触れないようにしていたのに、真っ赤でぷるぷる震えてるから見ないようにしてたのになー。
「うん。アネモスは完全にエロい「のじゃ」」とまぁソルナとハモったところで彼女は限界を迎えたらしい。無言で球体から外へ出て、無言のままに服を着替えていた。俺とソルナはそれを実況しつつ凝視するのである。
「う~む。アネモスは背中と尻がエロいのじゃ」
「うん。あのラインにエロスを感じた! 哀愁漂う人妻感あった!」
「こっこのような恥辱を味わうとは……」
だから俺は彼女の肩に手を置き、そして感謝の気持ちを素直に伝える。
結果、ぶん殴られることは無かったが……とても悲しそうな顔をされてしまった。
「アネモスは気をかけすぎなのじゃ~妾はこれっぽっちも気にならんのじゃ」
「ソルナ様がおかしいのです。余の反応こそ普通です」
と、球体から出たソルナは何を気にすることも無くテキパキと着替えていた。
どう言う仕組みなのか分からないけど、彼女の長い髪は既に乾いていた。
「で? 主が何をどうしたいんじゃ? 鍛錬と言っても主はもう十分強いのじゃ」
「余もそう思います。十分であると考えますが?」
「うーん。改めて何かしたいって感じじゃないんだ。今ある力の扱い方、錬度を高めたいって感じ?」
それを聞いたソルナは「まぁー主はそういう男じゃったな」
アネモスは「自分自身を改めて見つめなおすことは良いことでしょう」なんて言う。
そうしてアネモスは俺の目の前まで来るとこう言った。「ではさっそくはじめましょうか」と。
俺としては個人でこの空間内で時間を引き延ばしてもらい、一から鍛錬して以降と思案していたのだがけれど案でもあるのだろうか?ソルナはソルナで特に何をするわけでもなく、その場にぺたりと座り込み此方の様子を伺っている。何だか怖いんだけど……。
「では一度、ご主人様の龍力を出来うる限り零へするところから始めましょう」
「はい? 何すんだ?」
「ご主人様が仰ったことでしょう?」
「だから、何をどうしたらどんな結果になるか聞きたいんだけど?」
「主は昔からそうじゃの~一先ず、アネモスの言うとおりしてみればいいのじゃよ?」
「ソルナ様の仰るとおりです。別に取って食べられるわけでもありません」
「!」
数ヶ月ぶりの更新です。
なんだか、書いては消してを繰り返しているうちに「どうしたいのか?」が見えなくなってしまいました。以前に比べて仕事もかなりタイトでハードということもありますが、最終章はどうしたものか?ということを考えていると手が進まなくなってしまいました。
ですが、このまま完結しないというのは絶対にありえません。
読んで下さる方、そして自分の為にも最後まで書ききります。
もう少し時間を下さい。一応、ストックが三~四話ありますので、自動更新にて設定しておきます。
是非、読んで下さい。