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龍軌伝 異世界で龍に愛されるニート  作者: とみーと
第十七章 ボレンツ龍王国 編
201/217

龍の意思

眩しすぎる光にチカチカした目、焦点が合わずに思わず目を細める。視線の先、僅かに人の形を視認するとそこへ光が吸い込まれていった。チカチカする目に龍力を集中させるとようやく本来の視力を取り戻し、周囲の変化に驚いたのだった。


「これは余の場、本当の……本来いるべきハズの場の風景です」

「綺麗! ここ綺麗! とーさまと同じくらいキラキラしてます!」

「どこだここは……」


自分を余と呼ぶ女、もとい龍だか竜は懐かしそうな顔をしたまま掌の雲母を見つめていた。次第にその表情は後悔なのか、懺悔なのか、分からなかったけれど寂しそうっていうのだけは俺でも分かった。


「あなたの名前は雲母と言うのですね」

「雲母です! とーさまが好きです!」


「ごめんなさい。貴方に罪は無いと言うのに……ほんとうに」

「雲母は大丈夫です」


俺の位置からは二人が何を話しているのか分からなかったが、不意に女が雲母の羽……失ったそこに触れる。少しばかり辛そうな顔を見せた雲母だったが、一瞬だけ発光を見せると失ったハズの羽がそこにはあった。ただその羽は五枚あるそれらとは違っていて淡い青で、まるで雪の結晶を思わせるモノへと変化していた。


「わ~雲母の羽綺麗になりました!」


女へ笑顔を向ける雲母、だが女は驚きを隠せない表情を貼り付けて俺を見た。


「貴方はこの子に何をしたのですか……ただの妖精では無いことは分かりますが、ですがこれは……」

「とーさまは雲母達のとーさまです!」


「貴方以外にも妖精が?」

「えーっと出雲ちゃんに八雲ちゃんにあとは妹の凪雲ちゃんに~え~っと沢山います!」


うん。そりゃ百五十も姉妹がいるのだからね。あの子達の名前を全部言うのかととーさまハラハラしたよ。女は俺を見て若干ながらの嫌悪感を見せながら具体的な数を聞いてくるのだ。故に俺は間違えず百五十三人だと言うのさ。


「どれだけ……貴方には節操と言うものが無いのですか!」

「節操もクソも何を普通に話してんだよ。俺はまだ許すつもりは無いんだぞ」


「この子には悪い事をしたと思いますけれど……」

「とーさまは優しいです! とーさまはかーさまも助けてくれました!」


かーさまの言葉に何を何処まで想像されたのかは分からんけど、何やら頬が朱に染まっているようなそんな気がします。何やら聞きたそうな目、言葉を紡ごうにも喉で止まっているようなそんな感じの女。

まぁ雲母が全て誤解無く説明出来るとは思えないし、それに今以上に変なことになるかもしれないという不安。それが俺を冷静にさせてくれるのだった。



そうしたら女は「その前にどうか」そう言い膝を着いて手を差し伸べる。

なんだこれ? まるで結婚して下さい! とか言ったあとみたいで困惑するのだ。

戸惑う俺の手を雲母は引っ張り、そしてまさに架け橋となった。


「あっあっ……そういう……でもっ貴方は」

「何が言いたいのか全然分からん」


すると女は俺を見上げ、またしても涙を流す。その目はすがる様な助けを求めるような目だった。

涙は卑怯すぎる。溜息一つ落としてから俺は女の前へどかっと座るのだ。それを見た雲母は本当に嬉しそうに俺の頭頂部へと着地した。話を聞かねば何も分からんままで、俺としても腑に落ちんのだ。


曰く、目の前の女の名前はトレーネ=アネモス。

「アネモスとお呼び下さいませ」ともの凄い低姿勢に俺も自己紹介するのさ。

「ランザヴェール=シンだ」と。ところがどっこい返って来た返答は「存じ上げております」だ。


そして幾つかの謝罪を受ける訳です。「余は貴方へ何度か刺客を差し向けたことがあります」ときたもんで、刺客? となる訳です。さっきの三人、それにグリフォン達のことか? と聞けば「それに醜い獣達も……それからさらに昔にも同じ事を」と。


「あのさ? 同じことってのは……一体」

「小さきタツノコと共に居る時、それにニンフと共に居る時」


「あのペッパーにあのグリフォンのことか!?」

「えぇ」


「でも何でそんなことをする必要があんだよ」

「余はオトシゴが嫌いです! 下賤な輩を余は恨んでいるのです!」


これは根が深そうな話になってきたぞ。

そう思いながら雲母を掌へ乗せて頬をツンツンするのさ。


「余はオトシゴを恨んでいます。余はただ自由が好きで空を舞うことが何よりも好きでした……あの日まで。元々、余は龍殿を持たぬ龍。行きたい所へ行き、そして自由に世界を見て周る。疲れたら何時もの山へ戻り眠る。それが余にとって自由であり好きなことでした。この地もそんな折に見つけた場で、何時もの山と似ていたこともあって気に入ったのです。何度か訪れた時の事です。街が出来、そして龍殿が出来ていたのです。どこぞの者がこの地に住まい祭られたのだと思ったのです。余は挨拶をしに龍殿へと訪れたのですが、中は空で誰も居らず……そしてここへ閉じ込められたのです」


「閉じ込められたって……龍だか竜にってことか?」

「人間です」


「龍なのに人間の力で? 出ようと思えば出れそうなもんだけど……」

「龍殿は龍の為にあらず。人の願いにより作られただけの入れ物に過ぎません」


俺の頭には「?」が列を成していたであろう。それを見たトレーネ=アネモスは微笑を浮かべて話しだす。


「人の願いの塊、そして祈りの塊。無論、そこにいる者達は望んでそうしている者が多いでしょう。ですが余は違います。余は居たくてここに居るのではありません! 余は自由に空を飛びたいのです。なのにあのオトシゴは……」


オルゾン=ボレンツ……悪いけれど俺はあんたの肩を持つことは出来なさそうな気がする。あいつが残した文面からでしか読み取れないことばかりだけど、あいつも悪意があった訳では無いことは分かる。だがしかし、こう言った形で龍を苦しめていただなんて思いもしていないだろうことは間違いない。


「オトシゴが嫌い。でもその当時のオトシゴへ恨みつらみを晴らそうにももうアイツは居ない……だから俺にってことか?」


一応だけど俺も被害者としての立場で聞いてみると、俯いたままコクンと頭が動いた。うん。とんだとばっちりだ。でもなんというか、理由が理由だし、なんか紐解くと凄く単純で怒る気も失せたのさ。

雲母のことに関して以外はだけれどね。


「それに関しては本当に申し訳ありません。余の怒りと恨みがあの子達へ伝わったのでしょう」

「雲母は怒ってないです! 痛かったけど……羽がこんなに綺麗になりました!」


そんな純真な雲母の言葉にまたも涙がポロリ。


「で? あんたは此処から出れたとしてどうしたいんだ?」

「何時も居たあの山へ帰りたい。そうしたらまた空を飛びたい」


ふむ、物事シンプル大好きな俺が導き出す答えは単純であった。じゃあ出ればいいじゃん? だ。とはいえそう簡単な話しでは無さそうで、実際のところ彼女の意思なんて関係無く出てないらしい。出てしまえばそれで全てどうにかできるだろうと……目先のことしか考えないのが悪いところかもしれないね。

ここはそもそもどこの風景なんだろうか? そんなことを考えて見渡す雪景色、そんな俺の考えは読めていると言わんばかりに女は言った。


「神峰……それがこの場の名です。余が好んで寝床にしておりました」

「雪山ねぇ。わざわざこんな寒そうなところで」


「余が居た頃、ここに雪はありませんでしたよ」

「ん? 雪を司る系女子じゃないのか?」


「余が司るのは風ですが?」

「でもさっきの攻撃にしても、そもそもこの土地も雪凄いじゃんか」


「余が飛んでいた頃には雪はありませんでした……でもそう言うことなんでしょうね」


わっかんねぇ。自己解決するのは良いけど、それを独り言で言われたら気になるものでしょうに。

俺が女を見ると、彼女は恥じらい視線を逃がしチラチラ此方を見てくる訳で……。


「場に閉じ込められて以降ですね。そのっよく泣いていたので、もっもしかしたらそういうことかと」


わからん! え、なに? 悲しみすぎて雪降ったの? ん~? 逆に凄くない? いや、この女はそもそも風を司る訳だから大気に干渉すれば雪なんて降らせることが出来るんじゃないか? ってことを説明したんだよ。それこそ懇切丁寧に、でだ。「余が司るのは風ですが?」だ。うーん。なんか龍やら竜ってのはスケールでかいんだけど、細かい所が足らないヤツが多い気がする。


とはいえ、この女の目だ。オトシゴを恨み、悲しみに明け暮れた目。そんな中でオトシゴとしての俺を見つけた。少しでも恨みを返したいと思うのは普通な気がするのだ。それが俺個人であればまだ良いが、俺以外を巻き込むってのは……いや故に雲母を巻き込んで後悔したのだろうけど。俺とは違う、逆だと思った。彼女の場合は強制的だったのだ。そう引きこもらせだ。俺を見つけるまで長い間、諦め続けた目。そう思うと溜飲が下がった。


「とーさま?」

「いやなんでもない、というかもういいや」

「余に対して何か諦めませんでしたか?」


「大丈夫、お前は乙女すぎて純情で純粋なんだろうということでいい」


顔を赤らめる女へ俺は色々と質問してみる。

Q.閉じ込められたから恨んでいるでいいか?

A.それどころか……あの男は……。


濁したので聞かない方がいいと思い空気を読んだ訳ですが、雲母さんはそんなの気にしないで正面から聞いたのだ。そうしたらヒソヒソと女子特有の結界を生成したのです。でもね? 話しを全部聞いた雲母は躊躇無く俺にそれを言うのさ。女は「えっ!」みたな顔になっていたけれどウチの子は皆が素直なのさ。


話の中身、それは前オトシゴことボレンツにあった。閉じ込めら悲しみに打ちひしがれる彼女、それでも初めは巫女の祈りが多少の慰めになっていたそうだ。だが、またしてもボレンツはやらかしたのだ。そう、ここに待ち望んでいた者が既に居たにも関わらず、彼らにはそれが分からない。故に起った事故。いや、プレイだ。あのクソンツの野朗は嫁を連れあの場でプレイを行っていたのだそうだ。それにアイツには沢山の嫁がいるわけで、彼女がボレンツに下種野朗の烙印を押すのにそう時間は掛からなかったそうだ。


「アイツまじでクソだな……」

「クソです!」


「こら雲母、女の子がクソなんていっちゃいけません」

「え~でもとーさまも言ってます!」


「とーさまはセーフです!」

「ずるいです! 雲母もクソって言いたいです!」


「いけません!」

「ぶー!」


俺の場合は絶対に無いことだろうね。なにせウチの奥さんそもそも巫女で一番偉いんだもん。

そんなこと言ったら凄い軽蔑の目で見られるだろうし、そもそも断崖女子が切れるだろうし。

悪いが俺の気持ちはコッチ側だな。


「んじゃまぁ出ますか」


その声に反応を見せた。喜んでいるかと思いきや、またも悲しそうな目である。この女の結界を中和出来たのだから、この鳥篭まがいなものからも出れるだろうと思ったのだが……違うのか?


「余が出る事は叶いません」

「なんでさ?」

「貴方は余の結界すら中和されたので可能でしょうけれど、余の場合はこの場に縛られていますので」


ソルナも言う「場」これはどういう意味を成すのだろうか? そんなことを考えている最中、女は結界を自ら解除し俺を押した。不意の力に反応できず、二歩三歩と後退すると景色は元居た場所で目の前には穴が開いていた。


「このまま引っ張ればいいじゃん」


そうそれだけで出れるだろうと思ったのだ。ただ女の手を取った刹那、俺は後方へ吹っ飛んだ。

雲母はヒラヒラ舞いながら女へ話しかけていたけれど、そうあの目はなんか嫌だ。

悲しいあの目が俺は嫌で、どうにかしたいと、そう思ったんだ。


「本当に御免なさい。もう貴方へ危害は加えませんからどうかお帰り下さい」


何がどうしてこうなるんだ。俺の意思も言葉を伝えてないし、分かってねぇ……自己完結は嫌いだ。

結局の所、俺は女へ何も言えなかったし、何も出来なかった。ただ攻撃されて、それで終い。

モヤモヤする。外へ出て空を眺めていたら声が聞こえて衝撃が走る。


「飼い主様ぁあああああああああ! どこいってたのですよ!」

「あ? お前達が消えたんだろうが……」

「三日なのですよ! 三日も飼い主様を探していたのですよ!」


龍やら竜の訳分からん時間間隔が俺にまで来ている。

あの空間での時間の流れは良く分からん。ただ俺は思うのだ。三日程度ならいいかと。

本話もお読みくださり有難う御座います。

ブックマークにも感謝です。


龍王国編もあと数話で終わる予定です。

次話は来週更新になりますので宜しくお願い致します。


一年が凄く早い……この前までセミが鳴いていたのに……もう朝寒いです。

風邪引かないようにしましょう!ではでは。

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