送る思いと残る思い
「あんな国なんてさっさと潰せばいいのに何でわざわざ遠まわしな事するの?魔女の国でもそうだったじゃない?時間はあるんだろうけどさこっちとしてはちゃちゃっとして欲しいもんだよ」
虚空に響いた声に反応が戻るがそれは中から生まれて外には響かない
━魂ってのはな絶望した時こそ輝くからに決まってるだろうが、それに所詮は遊びなんだよ駒遊びと言っても過言じゃねーよ。
こっちも駒ってことなのかい?
━ハハッ、お前は駒でもただの駒じゃねーよ俺の魂が在るんだからな俺の手足であり目である。あの時からそうだっただろうが一々気にしてんじゃねーよ。
別にいいんだけどアンタのお陰で生きてる訳だし。
━ならゴチャゴチャいってんじゃねーよ。
それにあの城と龍殿は特別なんだよ俺にとってな。
魔女の国のことも含めてそろそろ教えて欲しいんだけど?
━なぁに魔女の国を後回しにしただけで本命が簡単に見つかったんだから、そちらを先にするのは当たり前だろうがよ。それに他のヤツらが横取りするからもしれんからな慎重に動いただけの話しだ。
本命?それに他って?
━ふん、他ってのは俺みたいなヤツが居ることだ。本命ってのはな、お前に働いて貰う以上は教えてやるよ。一つはソルナの魂、もう一つはそのオトシゴの魂だ有り難いことに一挙両得になるがな!
アンタみたいなのが他にもいるんだ、でもその魂で何すんのさ?
━馬鹿も過ぎれば殺意が沸くもんなんだな、まぁいい簡単なことだ力だよ力。
力って龍の力ってことでいいの?
━それ以外あるかよ分かってて聞いてんのかコラ?
今まで何も聞いてなかったんだからいいじゃないか、それに教えてくれるっていったのアンタでしょ?
━俺が魂を集めてるのはな世界をぶっ壊してみたいから
そんなことしたらアンタもどうなるか分からないんじゃないの?
━だから面白いんだろうが!長々生きてると飽きるんだよならしたことねぇことをするのが普通だろうが
そう分かったよ。で?何をしたらいいの?
━そうだな先ずはオトシゴから行こう、まだクソガキなんだろ?
あぁ魔法が少し使えるだけのただのガキだね
━ならそいつを絶望させてから殺せ。
ねぇ一ついい?
━あん?
あんたに助けられた後に小さな村を二つ巻き込んだことあったでしょ?
━そんなもんあったか?
アンタが龍の魔法で惑わして潰した村よ
━・・・・・・あ?
二人のガキの首刎ねて殺してもう一人を幻惑の村に連れて行ったでしょ?
━あぁ~んなこともしたっけか?で?
あの幻惑の村の子もオトシゴといるからさー
━ハハハハッ丁度いいからお前の好きなように殺れ……ハハッ
どうしたの?
━幻惑の村の龍殿でも龍逢が降りるんだと思うと可笑しいだろうが
龍殿には変わりないなら普通じゃないの?
━龍殿でも俺の力が働いてるんだぜ?そこに割って入るんだからな笑いもするさ
そんなもんなの?まぁいいやじゃあ動くから
━あぁ存分に殺れ
自分自身と対話したようなそれは屋上から城を見て笑顔でいう。
「後もう一人で遊んでから行こうかな?フフッまぁー楽しかったけどもうお終いかなっ!アハハッ」
城と龍殿を繋ぐ橋の手前に人が倒れている。
倒れていると表現するにはそぐわないかもしれないが、その体躯の脚は引きちぎれ腕は在り得ない方向に曲がっている。龍殿側から橋を少し渡った位置に夥しい量の血溜まりが出来ているのが伺える。
死んだ男から流れた血である事は間違いようが無く男の顔には悲痛が張り付いていた。兵士の死体が安置されている部屋に兵士が慌てた様子でもう一人死んでいると伝えに来ると、ルナと俺は急いでその場まで走ったのだった。
魔力を込めて橋上を行くと数人の巫女が呆然と立っていた。残光があるかどうか見ろという目でルナが視線をくれるから、俺は一人目の兵士と同じように死体を視る。同じだった、赤黒の蠢くそれが死体の脚と手に粘りつくように張り付いているのが分かった。
ルナに頷きで応えると巫女達に話しを聞き始めたので、さっきと同じようにその赤黒を消そうと動いた。それは簡単に消えたが死んだ男の顔が安らぐわけも無くただその場を見ているしかなかった。
一人目の兵士と死因は同じだろうが死体の欠損の仕方は異常でしかなかない。城と龍殿に架かる橋に結界があるのは誰もが知っている、もしかしたら城の内部とこの橋の結界でも強さが違うのだろうか? 城内部の結界は別段何もしなくても大丈夫だが橋は違う。
龍殿で働く者、城にいる者、ましてや国王たるルナでさえ橋を渡る時には魔法で中和して渡らねばならない。だから初めに死んだ兵士よりもこの橋の結界の方が反発力が大きいと考えると、体躯がへしゃげてもおかしくは無いかもしれない。
結界について自分なりの答えを導くとフェルもいつの間にか来ていたらく、死体の前で祈るような姿勢を取ると俺と目があった。
「シン!あなたは怪我などしてはいませんか?」
「大丈夫してないよ」
「そっそうですか!でもシン?ここには居ない方がいいと思います」
「え?なんで?」
「その……」
フェルが言わんとする事はすぐ察しがつく、これだけ惨たらしく死んでいる人間を見せたくはないのだろう。だが、先ほどのルナとの会話でこの体躯がへしゃげ死んでいる者を気持ち悪いなんて思わなかったのだ。
例えルナがどれだけ素敵で綺麗な話に美化して美談にしようと目の前の死体は死体でしかなく、それも見ることなんて無いであろう異質な死に様に誰もが気持ち悪がっているのにも関わらず、俺はもう何ともない様子に彼女は心配をよこしてくれたのんだ。
だから俺は決意したような目で彼女にいう。
「大丈夫だよフェル」
「そうですね」
兵士の死体を先ほどの部屋に運ぶとルナは命令を下した。
「問題が問題なだけに少し対応を強めなくてはいけないわね」
「どうするの?」
「ふーっ城と龍殿、街と龍殿の橋を上げなさい」
「でっですがルナリア様!!」
巫女が異を唱えようとするがそれを遮り続ける。
「異論は認めないわ。龍殿の巫女は龍殿へ戻りなさい兵士も同様に城へ」
「ルナリア様……私もですよね?」
「ええ、急で悪いけどフェルチも暫くは龍殿で大人しくしてて頂戴」
「はい、わかりました」
「僕はどうしたらいいの?」
「シンは城でいいわよ」
そしてルナは龍殿側に対していう。
「これは由々しき問題なの今すぐに全てを話せ無いけどなんとかするから少し待ってて頂戴!」
彼女はそういうと巫女達を初めその場にいた龍殿の関係者達は頭を下げた。城へと歩みを進めようとした矢先、フェルが俺の所まできて心配顔で頭を撫でた。
「怖いかもしれませんが頑張るのですよ?」
「大丈夫だよフェル!城には皆がいるから……」
その皆にフェルが入っていないから少し寂しいが仕方ないな。ここぞとばかりにフェルに抱きついてフェネルギーを充電し橋を渡った。
城に戻ると即座に橋が上げられヴォルマ城は絶海の古城のような風体となる。マーレとレスタがきびきびと部下に命令を出す一方でターニャも魔法兵達となにやら話し込んでいる様子。自分に出来ることが無いのがもどかしく、何が出来ることは無いか?と探すがルナに玉座の間まで手を引かれて連行された。
「あの死んだ者はどうだったかしら?」
「さっき見た兵士と同じだった」
「そう。でも何でこんな差が……」
ルナも各所への命令でてんやわんやしていて考える余裕が無かったらしい、俺はさっき感じてまとめた考えをルナに話す。彼女の目はいつも以上にクリクリになっていて黙って話を聴いてくれていた。
「なるほどね、城の結界と橋の結界では違うか。確かにそうよね今まで当たり前だったからそんなこと考えが無かったわ」
「だから悪意や害意が同質のものでも結果は圧倒的に違ってたんだと思うんだ」
「はぁ~シン?あなた本当に十三歳なのかしら?」
「ふぇっ!?」
急に的を得られて焦るがルナは自問自答のようにしているのであまり話しに突っ込まないでおこう。
「これからどうするの?まるで篭城だよ?」
「現状で一番に被害を抑えれる方法だと思うわ」
「結界に触れなければ起こりようが無いもんね」
「そうなるけどそれ以上が無いわね」
コンコンと玉座の間の扉が開かれるとぞくぞく人が入ってくる。三侍女を初め、シェルトや兵隊長など十数人が集まり今後の話をするようだ。
「ルナリア様どうなさいますか?」
「今の所はどうしようもないわね」
「ウチは部隊を分けて守護させるね」
「ええ、宜しくねレスタ」
「ターニャ達もレスタの隊と同じでいいの?」
「いいえ、ターニャ達は魔法に覚えがある者数名で調べれる限り調べて頂戴」
「コロンダンテ殿の変わりに自分が指揮を取りますが宜しいでしょうか?」
「そうね、頼めるかしらシェルト?」
「御随意のままに」
「あと各隊長はレスタとシェルトの指揮通りに」
「「「「はっ!」」」」
ぞろぞろと玉座の間を後にし俺だけが残された。
何も出来ない自分が歯がゆい。それを悟ったのかルナは俺をこっちゃこいと手で呼ぶと俺は彼女の方へ向かった。
「シンはもう十分に働いてくれたわ」
「僕は何もしてないよ……」
「龍法であると原因を発見できたのはシンしか出来なかったわよ?」
「でも、もっと役立ちたい」
「何も出来ないから歯がゆいのね」
「え?」
「そんな顔してるわよ?」
「うぅ~」
「でも本当に十二分過ぎる働きをしたのよ」
「う、うん」
ルナは疲れた表情をしているのが俺にでも見て取れてしまう。こんな時に言うべきでは無いかもしれないが少しでも寝たほうがいいと提案したら案の定の答えが来ると思ったけど、素直に少しだけ眠ると言ったのだった。相当に疲れているだろう身体もだが心の方が参っている様子だったから俺は彼女の手を引き部屋まで連れて行った。
「ルナ?寝ないとダメだよ?」
「ええ、分かっているわ」
「じゃあ僕は自分の部屋に戻るからね」
と部屋を出ようと動くと手を取られた。
「今日はここで寝なさい。城の中は安全とは言え万が一があるかもしれないしマーレ達も忙しいわ」
ベットに横たわる彼女からはいつもの感じは無く弱々しいただの女の子にしか見えなかった。ルナに言われる通りにベットに入るとぎゅーされた。いつもの様にではなく、自分の不安をかき消すように強く抱きしめられた。俺は彼女の頭を撫でてあげると直ぐに安定した寝息が聞こえ始め、俺もそのまま眠りに落ちた。
ふと何かに呼ばれたような気がして目を覚ますがどれだけ寝ていたか分からない、窓から見える空はまだまだ暗いから数時間程度だろうと当たりを付けてベットから体を起こした。ルナを見ると頬に線が二本入っていて不安な顔をしている。寝ながら涙を流したんだろうな……彼女の頬を軽く撫でてから頭を撫でてあげると少しだけ表情を緩ませて寝息が聞こえ始めたのだった。
俺はベットから降りると死んだ兵士達の部屋へと足を向けた。いつもなら静かな城なのに今日に限って色んな音が聞こえてくるが、死体がある部屋付近まで行くと喧騒は無くなり静寂だけだ支配を許されている。
横たわる二人に手を合わせて魂が無事にヴェルさんがいるルーチェリアまで行くようにと願う。龍の力が自然と高まっていく感覚のまま目を開いたら二人の死体から薄い黄色のもやもやが見えていた。
「えっ!なんだこれ!」
驚いて一歩下がるともやもやがより強くなり人の形を取った。
俺はそれが何か直ぐに理解して近づいて良く見るとそこには苦悶を浮かべた顔があった。細部まで確かめる、間違いないこれは魂だ。でもなんでこんな事になってるんだよ?死んだらルーチェリアに行くとヴェルさんは言っていたが実際は俺に見えているんだ。思考を停止させるな考えろ。
龍之介さんは器が死んで魂の状態で居て俺は器が死ぬ前に魂を取り出された。二人はどうだ? 結界の力で死んでしまったが操られていたんだよな?覚えがあった龍之介さんに体を貸した時に俺の意識は確かにあった。
一つの器に二つの魂が存在していて、二人も同じだったら?操った者の魂が二人の中にあったら?龍之介さんとは違い悪意がある者にそうされた場合はどうなるんだ?俺が消したのは蠢く赤黒だけでまだ彼らの魂は残っている。器は死んでるのにまだ魂が在るのは良くないだろうと考え、黄色い魂に手を伸ばし包むように器から掬い上げるような意識で持ち上げた。
器から魂を取り出し中に浮かべると、もう一人も同じように浮かせると人の形をとった。出来てしまった。ふわふわ浮いてるそれを前に俺は達成感からか喜びからか分からないが笑顔を浮かべていたと思う。二人の魂から音が響き耳に集中すると言葉を発していることに気がついて俺は話しかけていた。
「大丈夫ですっすか?」
「あぁ、城の入り口にいたオトシゴ様か」
「俺、やっぱり死んだんだよな……」
「すみません。何も出来ませんでした」
「君が謝る事ではないよ?寧ろさっきまでずっと苦しかったんだ」
「だよな、苦しいのは無くなったありがとう」
「あの!二人に何があったんですか?」
「いつも通り仕事をしていたら兵舎で急に意識が飛んで気が付いたら俺は俺なのに俺じゃなかった」
「俺は最近色々と忙しくて疲れが相当溜まっていたんだ。巫女様が魔法で癒して下さったんだが……」
「自分の中に違う何かがいて支配されてしまったと言うことでいいですね?」
「「そっそうだ!!」」
「俺の中に違う何かが居て俺の意思とは関係なくまるで体を乗っ取られたようだったんだ」
「俺も同じだよ!自分の声なのに違う自分がしゃべっていた……」
「多分これから二人の魂はこの世界を離れます」
「「えっ」」
「でもそれは何時になるか分かりませんがまたこのディルカーレに生れ落ちる準備期間のようなものなんです」
二人は戸惑っていた、そりゃそうだろ行き成りそんなぶっ飛んだ事言われて信じれるかよ。唸るように何かを考えた二人は俺に手を伸ばしてきた。
「なんですか?」
「いいから」
「あぁ」
「悲しいし受け止められないが君が嘘を言うなんて思えない」
「それにオトシゴ様がそう言うならそうなんだろう。君以外の人間が言ったら疑うけどな」
「最後に何かして欲しい事はありますか?」
「たくさんあるけど嫁と娘が心配だ……」
「俺はお袋と二人で住んでたから!それが……すまねぇ……お袋」
「僕がなんとかします!絶対に!約束します!」
「なんでそうまでしてくれるんだい?」
「俺は君の存在を知ってはいたが話をしたのは今が初めてだろ?」
「それでもなんとかしたいんです!」
二人はきょとんとしていたが真剣な顔してんだろうな俺。
「分かった俺には何も出来ないから君に託すよ」
「まぁしゃーないよな……なんであんな巫女を」
「その巫女って一体?」
「あっあぁ!さっきもいったろ?癒しの魔法をかけて貰ったって」
「誰に!」
「おっおいおいどうしたんだよ急に」
「いいから教えてください!」
「龍殿に行った時に声をかけられたんだ、獣人の巫女に……」
獣人の巫女ってだけで俺の中には完全あの女の顔が浮かんでいた。でも決め付けて動くのはまずいし外れてたら何されるか分からん相手だ慎重にな。
「それで魔法かけられたの何時ですか?」
「えーとルナリア様達がヴォルマを出航された日だったな」
一週間も経ってないじゃないか!くっそ!
「どうかしのかい?」
「あぁ何か分かるのか?」
「まだ推測でしかないんですが、それも任せて貰えませんか?」
二人はもう何も言わない。
ただ力強く頷いた。
「俺の腰に短刀があるからそれを持っていってくれないか?」
「なら俺もだ!俺のはボロだけどそれでも……」
「預かりますそして家族に渡します」
「ありがとうな」
「すまないな」
「いえ当然です!」
「ところでこれからどうしたらいいんだ?」
「苦しいのは無いけど自分の意思で動き回れそうにないな」
「僕がなんとかしてみます」
俺には出来る。龍法でなら出来るんだ。
二人の魂をルーチェリアへヴェルさんのいる所へ!二人の手を取り体から龍の力を伝播させるイメージで二人を包み込んでいくと球体へと変化した。
「できた!」
「「お、おう?!」」
「ここからは多分二人に気持ちも必要だと思います。イメージして見て欲しい光景があるんですが?」
「ああ」
「たのむ」
俺はヴェルさんといたルーチェリアの光景を思い浮かべて二人に対して言葉にする。二つの球体に触れながらイメージを流し込むあの世界を思い出す。
するとふわっと天井付近まで昇る球体に最期の言葉をかけた。
「その景色を思い浮かべて上へ上へと昇るような気持ちでいてください」
「あぁ理解できたよ」
「あーなんか暖かくてほかほかする」
「二人のこと全然知らないですけど、俺は忘れませんから!」
「あぁ!ありがとう!」
「ほんとにな」
「では何れ生まれ来る世界があなた達にとって幸多からん事を!」
そう言うと球体はふわ~と消えてなくなった。
「これで良かったんだよな?間違ってないよな?
俺っなんで泣いてるんだよ……わかんねぇ」
一頻り涙が流れた後、二人から二本のナイフを受け取った俺はなんとかして龍殿に行く算段を始めるのだった。
次話で二章終了となる予定です。これからも宜しくお願いします!
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