クラジョコラジュの異変
風は強く潮風を運び波は穏やか二日間の船旅は俺に新しい力をくれた。魔力と龍力を混成させたこの力はまだまだ実験の余地を俺に残している。
水平線にはジョコラがもう見えてきている。海から見たジョコラはヴォルマと違い街が赤く見え構造物も高い建物が幾つか目立つ。
「着いたらすぐに登城することになってるからそのつもりでいて頂戴ね!」
「港からは馬車になります」
「やーっと着くねー」
「ターニャは早く陸に上がりたいの」
「そうですね。早く地面をふみたいです」
そんな会話をしている皆と合流するとルナが俺を見て、その服はダメだの髪がハネてるだの駄目だしを喰らう。マーレとレスタに部屋へと連行され、何度かの衣装を着せ替えされてようやく了解を得た。
1/1俺人形状態で疲れたよ。
港へ着岸したら直ぐに馬車へと移動し城へと向かった。街を見物していると魔法を扱う者達が利用する店が立ち並び、ヴォルマ同様に女性が多く目立つ。
「コラジュも女性が多いんだね」
「仕方ないわ、ヴォルマもコラジュも周辺の地域は元々シルキーとエルフが多く住む土地なのよ」
「なるほどね」
「シンちゃんが好きなサイズのシルキーとエルフも沢山いるといいね!」
レスタが小声で投げた言葉にターニャが反応した
「不潔なの!エッチなのどうせタニャーのは!」
最後は消え入りそうだったが、俺が笑顔でターニャを見ていると顔がトマトみたいになって行くのが面白い。俺のほっぺの感触でも思い出したんだろうなぐぎゅべべべべそんなこんなしていると城へ到着した。
コラジュの城は海岸から近い位置にあり、見た目はドラキュラ住んでますと言わんばかりの雰囲気。
ここに来て初めてコラジュの兵士の姿を見るが、ルナの顔を見ると笑顔でそのまま入城できた。顔パスかよ……どんだけvipなの?
城の中の通路はかなり広く取られているようで、途中に何度か地面に魔方陣が描かれていた。玉座のある部屋の前でルナが先頭で俺とフェルが後ろに並び一番後ろに三侍女が並ぶ配置で待つ。どれだけ三侍女が強く偉くても扱いはちゃんとしてるらしい。
「龍法の事とかベラベラしゃべっちゃ駄目よ?」
「もちろんです」
「あい」
衛兵が扉を開け中へと踏み込んだ。
豪奢な造りの最奥に背もたれが以上に長い椅子があるだけで誰も居ない。中央でルナが止まるのに合わせて全員が止まるとルナが声を椅子にかけた。
「なんで毎回あんたは不可視で隠れてるのよ!」
「楽しいからやってるだけだ」
「楽しくないのよ」
「そうか残念だ」
初めから椅子に座ってたのか、見えないけど魔力を見る事が出来るエルフの皆には見えてるんだろう。次に俺が瞬きしたら玉座にはこの国のぐにぃが脚を組んで座っていた。
「久しぶりだなルナ」
「ええ本当にね!」
「怒ってる?」
「怒ってないわよ!」
「それじゃあ良かった」
「っち」
「怒ってるじゃないか」
「なんでアタシの方から来ないといけないのよ!」
「めんどいからに決まってんじゃんか」
「吹き飛ばすわよ?」
「そんなに怒るなよ?」
「あーもういいわよ!」
「ふふ。ありがとうルナ」
俺はぐにぃを凝視していた。見ないと失礼だからな!その視線に気が付いた王が話しかけてきた。
「俺のこれに興味があるのか?」
「ふぇえ!」
全方向から視線を感じる。これは怖い視線だよ怖いヤツ。
てかさ!乳とか言うなや!ぐにぃと言え!失礼だろうが!
「いえっめっしょうもごじゃいましぇん」
「構わん!男はそうでなくてはイカンだろ」
なに下ネタ?それとも俺が過剰反応してるだけなの?ルナさん目がこわいお。美人が台無しだお?
「えっと……あの?」
「んふふ。気にしなくていいぞ」
「あっあのシンと言います。以後お見知りおきを」
「礼儀はちゃんと出来るのか偉いぞ褒めてやる」
「ありがとう御座います」
「うむ。俺はクラジョ・コラジュ=リエラだ。この国を統べている」
「はいっ!王様、お目にかかれて光栄です」
「うーん……イカンな」
あれ?俺なんかミスったか?えーとでもルナからは変な空気出てないけど?
「シンだったな?」
「はっい!」
「俺の事は王様なんて呼ばなくて良いからお姉様って呼んでくれ」
「ふっざけたこといってんじゃないわよ!」
「ルナは少し黙っててくれよ。シンとおしゃべりしたいんだからさ」
「あんたは毎度の事ながらまったくもう!」
「まぁまぁそう固くならずにさ?」
「お姉様は駄目よ!」
「えー。いいじゃん減るもんでもないのにさ」
「減るわよ!」
「分かったから」
「あなたと話すと疲れるわ……」
「一度だけでいいから!最初で最後だからお願い俺をお姉様って呼んでくれ!」
ルナがもうどうでもいいという雰囲気になっていた。でもなー話進まんしなぁ一回だけならいいか!
「お姉ぇさまぁ」あざと神の力を使うと一瞬視界がブレるとぐにぃに飲まれていたんだよ。一瞬でな反応できやしねぇよこれは。
「はぅん。ちょー可愛いなシンは!!可愛すぎてもう本当に駄目かもしれん!」
「ちょっとリエラいい加減にしなさいよ!」
「いいじゃないか!いつもやってるんだろう?」
「やってないわよ!」
「可愛い子がいるのにそんなはずは無いだろ?」
あーこの人変態かもしらん……この暴力的ぐにぃは弾力が凄い!抱きしめられてるのに押し返されてるだとっ!それになんかいい香りする。ぐにぃに包まれるのは嬉しいが息をするのに必死になるとは!
「ごばっ!ごはっ!」
「んっ!やっぱり男だな。興味深々かな?」
「リエラ様、シン様が飲まれていますので解放してあげてくださいませ!」
「マーレか久しぶりだな!相変わらずでかいな!」
「ごばばば!」
「リエっち!シンちゃんが死んじゃうってば!」
「レスタも久しいな!元気そうでなによりだ!」
「ごばっは!」
「リエラちゃん離してあげるの!」
「あぁターニャか!大きくなったな!見違える程に綺麗な女になったな!」
「ごはっ……」
「リエラ様解放してあげてください」
「んーと君は??」
「ご……」
「グリザリオ=フェルチと申します。ヴォルマ国の龍殿の巫女をしております」
「おぉー巫女か!宜しくな!」
「・・・・・・」
「リエラいい加減離しなさい!!」
ルナによって解放された。マジで今のは一番やばかったぞ。これは反発性のあるG級じゃないか!なんて破壊者だ!
「ごげはっ!ごぎゃっあは!!」
「シン!大丈夫!!」
我先にとばかりに俺に近づいて心配してくれた。
「あっあ~シン済まない。許してくれ!」
正直、俺はぐにぃが怖いと思った。
このぐにぃだけはアカン!
こんなもん兵器や!人間圧殺機や!
断固として圧殺に反対するぞおおおおお!!
ぐにぃは包み込むその包容力が大事なんや!!
「あうっそっそんなに怯えないでくれなっ?」
「リエラったらシンに行き成り嫌われたわね!」
「へっ!嫌うって……そんなつもりじゃ」
「シン怖かったわね?もう大丈夫よ?」
仕返しとばかりに俺にぎゅーするルナだった。
自分もしたいだけやないか!まぁええけどな!!
いつでもワシはうぇるかむやで!
「ほっら俺は怖いくないぞ?」
両手を広げて危害は無いアピールしている。
俺は彼女を頭から全身を確認してぐにぃバンクへ登録していく。身長180 髪はルナより長くて金色ストレート、肌は褐色 後なんでそんなにスリット開いてるの?パンツ見えそうだよ?バンク登録完了しました。よしっ!完璧だ!いくか!
「本当に怖くない?」
「あぁ怖くないぞ?」
「もうあんなに怖いことしない?」
「しっしないぞ?少しだけしたいけどな」
「うっ」
「しっしない!ちゃんと了解を得てからする」
「するのね!」
「ひっぃい」
「ルナ!止めてくれ!頼むから!」
「ちゃんと圧殺しようとした事は謝りなさいよ」
「あっ圧殺なんてする訳ないだろ?」
「ひいいいい」
「シン!大丈夫だ!しないからなっ?ごめんな?」
「うっうん許してあげる」
「そっそうか!良かった」
完璧じゃないか俺!ふはははは
「で?シンに会ったけどこれだけの為に呼んだんじゃないわよね?」
「ん?これだけだが?」
「リエラあんたねぇ!」
「ふふ。嘘だってまぁその話は後でしようか」
「分かったわよ!」
「シンに一つだけお願いがあるんだが」
「どうするシン?怖いからやめておく?」
「それ以上は俺も泣きそうになるからやめてくれ」
「ふふふ。さっきの仕返しよ!」
「べっ別に王様が怖いことしないならいいよ?」
「本当か?」
「うん」
「シンにお願いがあるんだが」
「なぁに?」
「俺のことは王様じゃなくて名前で呼んで欲しい」
「リエラさん……」
「リエラがいい!」
「リっリエラ」
「ふぐっ。ありがとう」
そうしてリエラとの対面を終えた俺達はリエラとルナを残して玉座の間を後にした。夕食の時にまたなと言われて時に圧殺のぐにぃに襲われるからしらん。
「で?話ってなにかしら?」
「うむ。最近のヴォルマで怪しい動きはないか?」
「怪しいって何よ?」
「何もないならそれにでいいんだがな」
「ジョコラで何かあったのね?」
「あぁ」
「話して頂戴」
「二ヶ月前に遡るんだが、結果からだが既に数名の兵士が死んでいる」
「それで?」
「死因は恐らく呪いによるもので外に出た兵士が城内に入った直後に死んでいる」
「それはリエラが展開した結界に阻まれたって事でいいのかしら?」
「あぁ、それは間違い無いんだがな……」
「何よ歯切れ悪いわね!」
「そうだな、城内に入ると急に苦しみだしてそのまま絶命したそうなんだが、五人全員が死ぬ間際に同じ事を口にしてるんだよ」
「何を言ったのよ?」
「汚らわしい魂の分際で邪魔をするな、だそうだ」
「どういう事かしら?」
「俺の結界は三重で張ってあるんだが、四人は入場直後で最後の一人は玉座手前まで来たんだよ」
「結界の内容にもよるんじゃないの?」
「確かにそれもあるかもしれんが、悪意と害意がある者は一つ目で振るい落とされる。例えそれらを抱いた者が入城しても死ぬまでの事にはならないんだよ」
「にも関わらず二つ目まで来て死んだのね?」
「二つ目は一つ目よりさらに強力にしてあるが内容はルナにも言えないんだ」
「当然ね、いくら友好国でも線は引いておかないとダメだものね?」
「そう言ってもらえると助かるよ」
「それでヴォルマにも同じ事が起きてるかどうかが聞きたかったのね?」
「手紙に内容を書くわけにもいかんし、俺がこの時期に動くのも良くないだ?」
「それは正しい判断よ?オトシゴと面会って言い分も立つからアタシ達が来ても怪しくないわね」
「シンに会いたかったのは本心だって」
「それはシンを見てからでしょ?」
「まっまぁな……」
「それで犯人の目星は付いてるのかしら?」
「それがまったく無いんだよ」
「リエラの魔法ならなんとでもなりそうだけど?」
「死体から情報を得ようとは勿論したさ、だが何もでなかったんだよ」
「何も出ないことは無いでしょ?呪いにしたって闇魔法なんだから残光ぐらい残りそうなものだけど」
「残光すら残って無かったんだ。ただ兵士が死ぬ時は全員が血を噴出しているそれだけなんだよ」
「呪いで命を奪って血が噴出ね。闇魔法では無いなにかって事しか分からないわね」
「一応は俺の結界で十分防げているがヴォルマでも気をつけた方がいいだろう」
「ええ、もちろんよ。大丈夫なの?」
「無論だ、だが気味が悪い何かの前触れなのかもしれん」
「確かにきな臭い話ね」
「とまぁ話したいことはこれだけなんだがな」
「そう、ヴォルマも結界を強くしておくわ」
「そうした方が懸命だな」
「俺は夕食まで溜まった仕事を終わらせるよ夕食は皆で食べよう」
「ええ是非」
ルナは玉座に間から出ると先ほどの話に思考をやりながら案内されるままに部屋へと向かった。
―魔力残光が残らない、そして呪い、残光自体が残らないなら龍法って事になるんだけど。龍法の中にも呪いがあるのかしらね?知らない以上は可能性はあるかしらね。ターニャに色々聞いてみましょうか―
ルナが部屋に到着すると三侍女とフェルチがシンにべったり張り付いていた。
「ルナお帰り!」
「ただいま」
「ルナリア様!申し訳ありません」
「あールナっちおかえりー」
「ルナちゃん疲れてるの?」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だけどそれはどういう状態なのかしら?」
「リエっちがシンちゃんにベタベタするから上書きしてる。そしたら皆がウチの真似し始めたんだよ」
「別にターニャ真似してないもん」
「私はシンが苦しそうだったので」
「分かったわよ夕食はリエラと食べるからね?」
「あっあの私共もでしょうか?」
「当然よ」
「やった~夕食なにかなぁ~」
「作らなくていいならターニャはなんでもいいの」
「楽しみです」
「ねぇルナ、リエラと何のお話してたの?」
「んーそうね。あなた達には話しておくわね。ターニャに聞きたい事もあるし」
「ルナちゃん何?」
「それは先に話しをしてからね?」
「わかったの」
ルナが話したのは兵士の変死と呪い。
ターニャ曰く闇魔法で人を呪い殺す事はできるけど、そんな事するなら普通に火で焼いたりする方が遥かに効率が良くデメリットが無いと言うこと。ただの暗殺でももっとマシなやり方がある事を教えてくれた。
龍法で殺した?それとも魔力残光を消すアイテムでもあるのか今は警戒する必要があるだろう。ジョコラの街で遊ぼうと画策していたが今回はやめておこうという事でまとまったのだ。
俺は宛がわれた部屋でルナに教えて貰った魔法の訓練をすることにした。別の魔法を同時に詠唱する事は不可能だが無詠唱で魔法を展開できる俺には関係無さそうだし出来るかな?
右手と左手で別々に肉体強化をして行く感覚で魔力込めたらいけそうだな。うーん右ばっか集中してたら左が乱れちまうな。コツさえ掴めればなんとかできそうだし、後は試行回数を増やして最適化して行くだけだ。一時間と少しで俺は無詠唱で別々の魔法を展開できるようになった。後はこれをぶつけ合ってルナが見せてくれた状況を一人で再現だ。
右に水球を左を火球を展開してゆっくりぶつけるが、綺麗に消えず生まれた奔流で吹っ飛ぶ。痛い。
最初からできるわけ無いんだから、回数でカバーするしかないが何度も吹っ飛んで二時間かけて一人で再現できた。やれば出来る子なんですよ?うふふ。
さらに俺は新たな試みに挑戦する。
両手で別の魔法を展開出来るなら両手で同時に同じ魔法も展開できるはずだろ?それなりに時間食うかと思ったけど簡単に展開できる!まぁ同じ魔法なんだし左右で別の魔法展開するより楽だわな。
もしかしたらできるかな?
咄嗟に思いついたそれに挑戦する。
魔法を展開するのは両手でなく両足でだ!そもそも俺が知ってる魔法使いは杖などの媒体を用いたりしているがそうじゃない魔法使いもいたんだ。
なんで手である必要がある?身体から魔法を展開するならどこからでも出来るんじゃないのか?
単純な疑問だったがやってみればいいんだ。
手よりも魔力操作が格段に難しいが出来ない事もないか?ピンポン玉サイズを予定していたがサッカーボールぐらいの火球が足の甲の上で漂う。
もっと絞らないと駄目だな、もう少し絞るようにしてとっ……ゆっくりを意識しろ俺!
さらに二時間が経つ頃には両手両足で魔法が展開できるようになっていた。足は手より難しいかったが習得はできたし、後は背後から敵が来た時を想定して背部でも展開できるよう練習だな。
夕食の時間が来るまで練習に明け暮れていたらそれなりに板に付いていた。上級までしか行使できないとは言え応用力は高くなったのは悪い事じゃないはずだ、練習するだけはタダだし無駄にはならんだろう。
こうして俺は魔法を身体のどこからでも展開出来るようになったのだった。
使うような機会は今のところ全然ないどな。
セリフが多いと区切り方が難しいですね。
あと四話で二章は終了する予定です。
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