いつかの理
誰かにほっぺをむにぃ~されてる。
目の先にターニャがいた。
「おはようシン!もう朝だよ?食事の時間なの」
「う~ん。ターニャおはよう。なんでそんなにニコニコしてるの?」
「えっ?別にそんなにニコニコしてないの!」
「うん?」
乙女だなターニャ純情すぎるぜ!可愛いらしいぜ!
「もう一泊あるけど大丈夫?まだ気持ち悪いの?」
「ううん。大丈夫だよ?ターニャのお陰だよ」
「そっそうなの、じゃあ食事に行くの」
「うん!」
ターニャと手を繋いで皆の所まで行くと、今日は生憎の雨らしく船内で食べる運びになっていた。円卓にルナとフェルが座っており、ターニャと手を繋いでる俺を見るとルナの目がすぅーとか細くなっている。
「あら?おはよう。もう気分はいいようね」
「おはよう御座いますシン様」
「シンちゃんもう大丈夫そう?」
「おはようございますシン」
「みんなおはよう。もう大丈夫みたい!お腹ぺこぺこだよ」
「良かったわ、ジョコラまでは後一日あるから無理してはダメよ?」
「うん。ありがとうルナ」
食べ過ぎて苦しい俺は腹ごなしに船内をあっちにブラブラこっちにブラブラ。ルナが分厚い本と睨めっこしとる……うーん。行きますかね!機嫌取りに!
ルナのさっきの目は一見怖く見えるのだが、あれは完全に羨ましそうな時の目なんだよなぁ。
出来る限り可能なレベルで彼女に引っ付いて座る。
これが大事、ただ嫌がられたりする可能性があるけど俺に対してルナ達がそんな感情をぶつける訳も無い。
ちょこんと隣に座った俺に彼女は目を向けず本を読んでいる。ぴったり引っ付いて座っているのにまったく反応が無い、ターニャと手を繋いでたぐらいで怒る訳も無いんだが……顔を見たら訳が理解できた、ルナの目は白く輝いていてそれは魔法を行使していると分かる。
速読を魔法で補助してるのか?でも何も知らん人が見たら正直引くだろ。美人なルナの目がピカピカなのだホラー映像だよこれは。魔法のせいでまったく俺に気が付いてないし。
「ルナぁー?おーい」
「・・・・・・」
相手にされない俺はしばらく彼女の隣でボケーとしているしかなかった。
「シン!起きなさい」
「んふぇああ?」
頭をガシガシされる。満腹感も消化されずにほわほわだった俺は寝てたらしい。だがこれは都合がいいルナに甘えておこうかな?
「シン?」
「ふにゅ~にゅにゃ~」
今のは決して狙ったわけなんかじゃない。
寝てたんだもん、あくびしながらだったらこうなるでしょ?
「うっうぅ。可愛いわ!!」
「ふぇあああああ」
はい頂きました。ぐにぃですええ。最高レベルのぐにぃです。ありがとうございます。感謝致します。あざと神様!
「ほんとシンは可愛いわね!っとまたマーレに叱られるわね」
「んぼっ!」
抜けてしまった残念である。
「それで何してたのかしら?」
「ルナがいたから見にきたら無視された」
「魔法を使って本を読んでたのよ」
「うん」
「体を揺すってくれても良かったのよ?」
「ルナ凄く手集中してたから」
「気を使ってくれたのね?ありがとう」
「ルナは本読んでた時に絵になってたから」
「絵になってたって?」
「本を読んでるルナはとても綺麗だったんだ」
「嬉しいこといってくれるのね!」
「うううううううっうう」
ぐにぃの再来と強襲にもうどうにでもしてくれ!状態だ。
「時間もあるしぶっちゃけ暇ね!」
「ふぃふぁふぁふぇ!」暇だね
「そうね~アタシと遊びましょうかシン」
「ふぁふぉんふぇふふぇふふぉお?」
遊んでくれるの?
「じゃあ魔法で遊びましょうか?」
「ふぁふぉおでふぁふぉふふぉ?」
魔法で遊ぶの?
「何言ってるか全然分からないわ!」
「ぷはっ。ルナが悪いんでしょ!」
「んふふ。ごめんなさいね」
「で?魔法で何するの?」
「じゃあ早速始めましょう。今から魔法を無詠唱かつ最小威力で展開しなさい」
「最小威力で?」
無詠唱で魔法を行使するのは俺にとっては既に簡単すぎるんだけど、最小威力か確かに面白そうだ!自分の意思で威力を最小限に抑えることには挑戦したこと無いし丁度良い!
「なんの魔法でもいいの?」
「ええいいわよ!」
俺は掌に魔力を集中していく無理に圧縮すると展開する前に乱れてしまう。これはっ難しい、でも圧縮しきる前に少しだけ展開に導けば余力が生まれるな。この生まれた余力に一気に流す!掌にはピンポン玉サイズに圧縮された火球が生まれていた。
「無詠唱で展開する魔法は何度見ても不思議ね!」
「ルナこれでいい?」
「ええいいわ!」
「これをどうするの?」
聞くとルナが離れた位置に座り魔法展開を始めた。
「いいかしら?これから魔法の最小威力でかつ操作の練習をするわ!」
「魔法の操作?」
「やってみるのが早いわね。シンはその火球をアタシに向かって放ちなさい!」
「でも危ないよ?」
「いいからやりなさい!」
彼女の言う通りに俺は火球を放った。すると彼女は展開した水球を二人の真ん中でぶつけたのだ。最小威力でも魔法同士がぶつかれば奔流は生まれるが、実際は何も無かったような静寂だけが残った。
「え?」
これは魔法を勉強してきた俺も知らない。プラスとマイナスで打ち消したのか?いやそれだと奔流は消えないはずだろ……俺はルナに詰め寄り聞いた。
「ルナ!今なにしたの?なんで!」
「おっ落ち着きなさい!」
「だって今は知らないよ!」
「説明するから聞きなさい!」
「なんで?そんな」
「ふーそんなに驚くシンを見たのは初めてね。ねぇシン?ヴォルマで魔法を行使するのが上手いのは誰かしら?」
「僕が知ってる中ではターニャじゃないのかな?」
「あの子が恐らく一番上手いわね、でもあの子でも今のは行使できないの」
「ターニャでも無理?今の魔法だよね?」
「シンなら出来るかもしれないのよ、一度挑戦してみましょう。その後で全部教えてあげるからね?」
理解はしたけど納得できない俺の表情を読み取った彼女は微笑んで俺を撫でるのだ。ただそれが妙に心の中にスッと入ってきて頭の切り替えを助けてくれた。
「イメージが大切なのは言うまでもないわね?」
「うん」
「説明するわね。と言っても口では難しいのよね」
「えー何それ?」
「よしっ!もう一回するから見てなさい!」
彼女はゆっくりさっきと同じ工程を再現して出来上がった水球を見て理解した。これは魔法だけど魔法じゃない、例えエルフでもその差はきっと理解できない。でもなんでだ?ルナはシルキーだよな……その彼女がなんで?
「その顔はやっぱり理解できたのね」
「でもルナなんで?」
「シン出来そうかしら?やってみせて」
今まで見た中で一番真剣な顔でルナが言うから本気でやる。俺にとってそれは初めてじゃなかったからコツが分かったら三回目には再現できていた。
これは龍法だ。
俺がもっと小さい時に一度だけ使った蒼西瓜球アレと感覚が似ている。完全な龍法かと言われると違う、龍の魔力、龍力と言うのが正しいか分からないがそれが二割程混ざっている。でもルナはシルキーだろう……。
「やっぱり簡単に出来てしまうのね」
「ルナ?でもこれって」
「龍の力が混ざってるって事が証明されたのね、アタシの家系には龍の血が混ざってる」
「そうじゃないと使えないもんね」
「アタシの場合はシンに比べて純度が低いわね」
「遠い祖先だから?」
「恐らくそうなるわね」
「今まで誰にも言わなかったの?」
「言えないが正しいかもしれないわね、お婆様から教わったから時に他言無用って言われたからね」
「利用されるから?」
「多分ね。それに力に溺れさせたくなかったのかもしれないわね」
「そっか」
「シンいいかしら?これから色々な事をもっと学ぶ事になると思うのね。それこそ龍法を学ぶ事もあるかもしれないわ。ただこれだけは覚えておいて欲しいの、どれだけ力を持ってもそれに溺れてはダメよ?」
「はい」
その言葉は重かったが身体の中に綺麗に入っていったのだ。
今回は短いです。
次回更新は金曜日か土曜日になると思います!
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