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龍軌伝 異世界で龍に愛されるニート  作者: とみーと
第十一章 箱庭編
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王と王

自分より大きな物体を動かす時、力技ならそれに見合うだけのエネルギーが必要になる。でも工夫をすれば自分より大きな物体を簡単に動かすことも出来る。

ただ今、目の前で起こった現象を説明しろと言われたら誰もが言葉を失うだろう。


目の前に立っていた大男、仲間の頭部を一撃で潰したその男が一瞬で数十mの距離を飛んだ。その体躯故に大きくバックステップしたのだと言われれば納得出来るが、視線の先にいる敵の王は地面に倒れこんでいる。

ルセルの兵士が隣を見れば誰が何かをしたのかは理解出来た。


ゾルドが右腕を水平に伸ばし、その先に握り締められた拳が光を帯びていた。

フェアリーの力の最たるは癒しである。

女王の癒しの力は他を寄せ付けない程に群を抜いており圧倒的。

それは同じフェアリーのゾルドも同じはずで、彼もまたフェアリーなのだからその癒しの力も絶大。だったはずなのに、ゾルドは力の一切を癒しに使う事が出来ない。フェアリーとして生まれたその日からゾルドには癒しの力が使えなかった。


唯一、彼が使えたのは癒しでは無く破壊の一点のみ。

それは同じフェアリーの中では異質であり、脅威であり、色眼鏡で見られる対象であり、区別され、侮蔑される的だった。どんなフェアリーであっても大なり小なり癒しの力は持っているのに対して、彼には無かった。


勿論、フェアリーの怒りを買えばその癒しの力は反転し、攻撃にも転ずる事は可能で圧倒的と言わしめられる程。でもゾルドには無かった、生まれてから今に至っても『癒す』を出来ないたった一人のフェアリー。


頼るべき親からも信頼出来るハズの仲間からも見放され心は磨り減るばかり、そんな彼の乾いた心を潤したのがグラディーだった。彼女との出会いで彼は救われ他人と分かり合うことを知ったのだ。そんな彼の大切を奪うと言い、目の前で仲間を殺した敵は到底許せるはずも無い。ゾルドが拳を戻しゆっくりとした足取りで進む。その先にはダメージを受けて痛みを耐える敵の王が体を起こす所。


「おま……え」

「もうしゃべるな小僧、ただ死ねそれだけでいい」


前方から近づく小さい男の力に恐怖を覚えるのが普通だろうに、この敵の王は笑う。体に力を入れて立ち上がり魔力をもって最大強化すれば、元の恵まれた体躯にさらなる力を与える。踏み込んだ地面は抉れ、土を空へ撒いて低い姿勢で正面から首を刈り取るような一撃を放つ。


「それで足りるとでも思ったか?」

「耄碌でもまともに戦えるんだなぁ!」

「お前如き青い小僧ではやれんぞ?」

「忘れてないか? 国と国の戦いだぞ?」


空から落下音だけが耳に入れば直後に爆裂音が鳴り渡り、ゾルドは仲間達の悲鳴を聞き逃しはしなかった。ルセルの軍が固まっていた真上から攻撃が加えられた事実に他の兵達は恐怖した。宙を舞い地面に転がってきたのは腕や足、仲間の体の一部が雨のように降り注いだ。


魔道弓で射撃をしていた部隊が、何時の間にか巨大な魔道弓を三箇所に設置し狙撃した結果だ。煙が風に流されると同時に焼け焦げた匂いが充満する。

大きな穴が開き、一体どれだけの命が散ったかすら数えられない惨劇に悲鳴が上がる。


「隙がありすぎるな」

「ぐっ……」


ゾルドが見せた隙を逃すはずも無く、敵の王の左足から繰り出された蹴りがゾルドの脇腹を刺すように捉える。工夫も無い力だけの一撃に地面をバウンドしながら吹き飛ばされたゾルドは大量の血を口から吐く。追撃のチャンスを得た獣はその好機を逃しはしない。止めの一撃を加える為に高く飛んだ。




「父様! 山が見えました!」

「あれか!」

「右です!」

「あの尾根筋から出れば良いんだな!」

「はい!」


加速に次ぐ加速で八雲が何度か吹き飛びそうになったけど今は勘弁して欲しい。

走るというよりも飛ぶように進む、どれぐらいの距離をどれぐらいの時間で進んだかなんて分かるはずも無い。ひたすら我武者羅に急くように目の前の道を進む。自分でも驚くぐらいの速さだけど体には全然余裕がある。


「父様! 遠いけどあそこ! 煙が見えます!」

「くっそ……」

「私が!」

「いや! 少し斜面上がれば見えてくるだろう」

「でも!それじゃ……」

「いいから! 任せとけ」


両脚に力を込めて山の斜面を駆け上がって行けばまだ遠いけど捉える、なまじ少しでも視界に入ったら心が急いてしまうのが人だろう。かなり速度が出ていたようで八雲はフードの中でしがみ付くことに必死になっている様子、もう少し頑張ってくれと思いながらもさらに走る。


遠い。他人が見れば十分早い!そう言って来ると思う、でもまだ遅いと感じてしまう。全力で走っているのに速度が出ないそんな夢を見ているかのよう。

早く、もっと早く、そんな気持のまま走った。




王の止めの一撃を地面を転がり回避するも肩を踏み抜かれ腕がだらりと垂れた。

踏みつけられ動きを封じられたゾルドに今度こそ止めを刺す一撃が振り下ろされる。敵の王は狩り取ったと悟り笑みを作り上げる。でもその拳がゾルドの顔を潰すことは叶わなかった。


腕を見ればそこには魔法で生成された矢が肩を貫通し血が滴り落ちた。

目線だけを動かせば橙の鎧を身に纏った女王ルセルジーア=マグラディーが立っていた。追撃で矢が五本生成され彼女の真上に綺麗に並ぶ。

それらは左から順番に射出され二本目、三本目と様々な速度で敵を狙う。

一本目が頬をかすり、二本目が喉元に達しようとした所にゾルドの一撃が穿たれた肩にさらなるダメージを与える。


苦痛に顔を歪めた王が巨大魔道弓に手で指示を出せば水平にそれは放たれる。

グラディーが放つ矢より速度は速く、ゾルドが反応した時には既に眼前まで迫り直撃と共に土煙が上がった。続け様に巨大魔道弓から二度の攻撃が放たれ、抉られた土が舞い王は満足気な表情と共に一斉に兵に指示を出す。魔道弓を持った兵がさらに狙いを定め、間を縫うように多くの兵が駆け足で追撃に出る。


土煙が晴れるのを今かと待ちわびつつ、兵の突貫を見送った王が次に見たものは兵達が地面を転がり動かなくなる光景。晴れたその場所には立ち上がったゾルドとグラディーが並び第二ラウンドが始まる。さしもの王もルセルの二人を相手に立ち回ることが困難だろうと、甘く見ていた二人に対して王は笑みで答えた。


距離を一瞬で詰める王に対して、グラディーは結界を展開しゾルドはカウンターの準備を始める。攻撃を受けた直後にゾルドの魔力を帯びて強化された拳を放つ構えに対して相手は直線的に接近。展開された結界は強固、それもルセルの女王のモノともなれば鉄壁に等しいそれに五指を広げて引っ掻くような一撃。


ゾルドの体には五本の線が走り血が噴出す、油断した女王に対してアッパー気味に放たれた拳は腹を打ち体を浮く。その場に倒れて動きを止めたゾルドを見ながら、浮き上がった女王の腕を掴み地面に叩きつける。

連続で五回もそれをすればさすがにダメージは相当だと考え手を離す。


ゾルドの真横に倒れた女王は何かしたのか? そんな素振りを見せる。

本気で叩き付けたにも関わらずダメージを受けていない?

自身の力を絶大と評価している王は何が起こったか理解出来ずさらに笑う。


「何したんだ?」

「お前のような下種に話すこと微塵もありません」

「そういうなよ? それを殺したら目の前で犯すって約束してんだよ、可愛がってやるから楽しみにしてろ」

「グラディー……こいつの力はおかしい」

「あなた!」

「死に底無いは黙ってろ!」


一蹴されたゾルドはゴロゴロ転がりながら血を撒き散らし呻き声を上げる。

女王がそちらへ動こうとするも王の先回り、魔法を放つタイミングで捻り込むような一撃を受けて距離を取らされる。流石のゾルドでもあのままでは死に至ると結論を出しているグラディーは、杖と剣が混成された武器を手に正面から切りかかる。魔力を帯びたそれは閃光を持った一閃となり王の脇腹へと走った。

肉を裂く感覚を持ってすり抜ける算段だったがそれは生身の王の掌で止められていた。


「残念だがそれで俺を殺す事はできんぞ?」

「なっ! ぐっう」


顔を掴まれ浮き上がるそこに腹への一撃、二撃と連続で叩き込まれるが以前として女王は余裕があった。橙の鎧は魔力と引き換えに圧倒的な防御力を得ることができる。これを着ている以上、彼女がダメージを受けることは一切無い。

だからこそ魔法を主体に戦う女王でも近接戦闘が可能になる。


物理的な力を魔力で防ぐ。力が強ければ消費する魔力の量も比例して増える。

橙の鎧の力がいくら凄かろうと、魔力が絶大なフェアリーであろうと攻撃を受け続ければ何れ魔力は枯渇する。その前にゾルドの元へ駆け寄り治癒を施さなくては取り返しが付かない。


が、王が簡単に獲物を手放す訳も無い。

顔を掴まれたまま魔法を展開していくが、地面に叩きつけられてはまともな魔法は展開できず失敗する。顔を踏みつけられ動きを制された女王はもがくしか出来なかった。そこから王は鎧に対して何度も魔力を込めた拳を叩きこみ続けた。

響く音がその威力の凄まじさを物語り、数十発以上それが続いた時に鎧にヒビが走る。女王の動きは固まる、王はこれでもかともう一度振り上げた拳を鎧に叩き込めば鎧は砕けた。


「手間掛けさせるなよ」

「ぐっ」

「おいおい、立場を分かっているのか?」

「殺すなら殺せ!」

「馬鹿かお前は俺専用の精処理道具になったんだぞ? 喜べ! 孕ましてやるよ」


女王はゾルドを視界で捉える、彼は動きを見せず立体造形物の様にぴくりともしない。王が残った鎧は剥ぎ服を破れば女王の体が露出する。愛した相手にしか見せたくない体を見られても女王の振る舞いに変化生まれなかった。


「良い体してるじゃないか」

「離せ! 貴様のような下種が触れてよいとでも思っているのか!」

「口の聞き方から教えないと駄目か……」


顔を掴み女王を引きずる王はゾルドの足を踏み砕く。

意識を失っていたゾルドは痛みで覚醒、叫ぶが何度も踏み抜かれた足は明らかにおかしな方向へ向く。それを目の前で見せられた女王はそれでも毅然とした態度、夫に触れられる位置に来た事を好機と捉え残り少ない魔力で癒しの力を行使した。


「させると思うか?」

「はなせぇええ!」

「こいつの命ぐらいなら助けてやろうと思ったがその態度は頂けない」

「……」


唇を噛み血が流れる、その血はゾルドの頬へ落ちると彼と目が合う。

優しい顔に戻る二人だが王が女王の胸を掴み上げ、下卑た顔でゾルドをもう一度踏み抜いた。もう殺すと決め、今度こそ顔を踏み抜こうと女王にも見えるようにゆっくりと足を上げた。


「弱いお前が悪い」

「っぐっがっ」

「やめてぇえ!」

「もう遅い……」


最期は満面の笑みを持って思い切り踏み抜いた。

王にとってこの感触は好きで堪らない、死ぬその瞬間の顔と潰れた感触の二つを味わえるこの感覚は何者にも変えがたい。だから王は処刑で命を奪う時はいつもこうして殺す。これは効果が大きい、目の前で無残に死ねば周囲の者は簡単に従うのだから。潰れた頭部を見ようと己の足を上げて気付く、足を刃物が貫通し血がダラダラ流れている事実を。


「こんな真性のドMと出合ったのは初めてだから受け止めきれねぇーよ」

「父様……」

「いいか八雲? 色んな趣味とか趣向を持ったヤツがいるんだよ」

「父様みたいに?」

「こらこら、俺は極めて健全で健やかな人間だぞ?」

「でもゼスのことをゼスたそって呼んで弄り回してました!」

「あれは愛のあるスキンシップなの! こいつを見てみろよ! 自分からドラシャールの刃先踏み抜いてすげー笑顔だったんだぞ?」

「変態です!」

「そうだ! コイツは変態だ!」


「この匂い……竜殿に居たのはお前かぁあああ!」

「うおっ!」


王はドラシャールから足を引き抜いて俺の健気な顔面にパンチをプレゼントしてくれる。スピードも威力も凄いって分かるんだけど、今回の俺は真面目に本気なのだ。初めから眼帯取ってるぐらい本気。


「当たらないと意味ないよね? ねぇ?」

「ぐっふっ!」

「こうだろ?な? 当てないと駄目なんだってば!」


龍の手から放った一撃で王の体は後ろへ滑り、女王の体を掴めば綺麗にすっぽ抜けるのだ。


「大丈夫か? 二人共?」

「シン……」

「ゾルじーさんに効果あるか分からんけど」


掌をゾルじーさんの胸に当てて龍力を流し込むが、効果は余り無くてどんどん息が上がって行く。グラディーも魔力を流して癒しの力を使うけど、彼女の魔力ももう空に近いようで効果が一向に現れない。


「これマズいよなどうしたらいいんだ?」

「どっどうしたら! もう魔力が……」


「「父様!」」

「あぶっ!」

「出雲! 雲母!」


側頭部に張り付く二人は八雲をじっと睨んで抗議してくる。

「八雲ばっかりずるいです!」「ずるーーーいですっ!」

「八雲だって頑張ったもん!」

「喧嘩すんなっ! 今はそんな状況じゃないんだって!」


三人はゾルじーさんを見るとヒラヒラ飛んで胸へと着地する。

目を閉じて手を繋ぎ輪を作れば魔力が集中して光りの球を形成して行く。

球体がゾルじーさんの体へゆっくり入っていけば、時間も経たずにゾルじーさんの呼吸は安定した。


「え! 今の何! 凄くない!」

「「「褒められました!」」」

「シンの力で生まれたから、この子達の癒しの力は相当なものへ昇華しているみたい」

「へぇ~凄いな! 三人共! グラディーにも出来るか?」

「「「は~い!」」」


今度はグラディーへ同じ工程を踏み、同じ球体を形成すればグラディーの顔色も直ぐに良くなる。


「三人共偉いぞ~」

「「「いひひひ~」」」

「じゃあグラディーはゾルじーさんと三人連れて離れてて」

「「「え~~!」」」

「危ないの! 分かった!?」

「「「ぶーーーぶーーー!」」」

「出雲、八雲、雲母? 私のお手伝いをお願いできるかしら?」

「「「「はーい」」」


振り返れば王が魔道弓を両手に携え放った所だった。

卑怯極まりないヤツだ、背後からどーんとか何考えてるんだ。ぷんよ。

初めて見た杭の速度よりも数段と速いそれをドラシャールをびゅーと振れば綺麗に叩き落とせる。自分でもびっくりするぐらいの妙技に心躍るけど、真面目は俺はドラシャールを薙刀へ変形させてお返しとばかりに投擲するのだ。

ドラシャールは肩を掠めて後ろの樹を貫通して止まり、王の肩からは血が流れていた。


「お前を殺せば今後は楽に動けるか……」

「今回は本気でやるって決めてるからさ無理だと思う」

「舐めた口を!」

「ぺろぺろぺろ~ぺ~ろ~ばぅあ~~かぁ!」

「イラつかせる野朗だ。面白い匂いだと思って期待していたが所詮はゴミ程度の人間か」

「ゴミに向かって偉そうに吼えるなよクズが! ゴミのがデカイんだぞ? 

ばーか」


青筋を立てた王が一気に加速して正面から突進を行う。

避ければグラディー達の方向に近くなると考え、背負い投げの要領で腕を掴んで地面に叩きつけてやった。


「じゃあ~とっとと終わらせようか? あ?」

「っぐ!」


これを倒せば今よりはきっとマシになると思い、願い、俺は拳を顔面に叩きつける。次に王の目が開いた時、その目は血走り本気になったという合図を貰い最終局面へと以降する。着けるべき決着を付け、今度こそレミナに答えを示せると思うと体に力が入るのだった。

本話もお読み頂き有難う御座います。

ブックマークにも感謝です。


箱庭編、バトルパートです。

多分・・・割と・・あっさり終わるんじゃないかと思ってます・・多分。

文字で「戦う」を表現するのって凄い難しいです。

もっと語彙力増やさないといけませんね・・。


次話以降も宜しくお願い致します。

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