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龍軌伝 異世界で龍に愛されるニート  作者: とみーと
第十一章 箱庭編
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強襲

夜の森は冷える。

凹んだ大地にある集落には冷気が流れてくるようで気温が低い。

集落に到着して二日目の夜、王の下に集う十の集落の内ここを含めて四つもの集落が話しに乗る。どの集落でも王達からの見せしめとした罰が執行されたようで、亡くなった人数を合わせれば五十人以上にも膨れ上がっていた。


集落で八雲とただ待つだけの時間を過ごし、周囲から何度か大丈夫か? 

なんて聞かれる。どうやら色々考え過ぎていたみたいで顔にかなり出ていたらしい。ガゼリはそんな俺を連れて集落を案内してくれたり、生活様式から文化についても熱く語る。現代社会なら間違いなく社会の先生になっていただろう彼を、本当に先生として引き抜く事すら考えたぐらいだった。


他の集落へ走った戦士の内、一番遠い集落まで行っていた戦士が戻る頃には真夜中になっていた。距離的にはこれ程まで時間が掛からない事から皆が心配した様子。そんな時、息を切らせて入った戦士が慌てた様子で話を始めた。

目指した集落に住まう者達は皆で逃げ出す準備をしていたと。

なんとか説得を試みたけどそれは叶わなず、一部の戦士が女子供の護衛をもって集落から逃げた。だが、俺の話と一連の流れを話すと多くの戦士が賛同してこの集落へ集まってくれたらしい。


ガゼリを中心として集う戦士達はあれやこれやと意見を出すも全ては却下される。不安もあるのだろう、怒号にも近い声が上がり始める頃に彼は斥候を放っているから待つと言ったのだ。戦士達は熱くなりやすいが情報は武器だということをちゃんと理解しているようで一端解散となる。


俺は自分なりにどう動くかを考え続けていた。

王を相手取るのは俺だと決めてしまえば軸が出来る、後はその軸に対して何をどう埋めて行くかを考える必要がある。それらを考えるが斥候からの情報が無い状態では今ひとつ案が浮かんでこない。そんな事に時間を費やしていたら八雲が俺の眉間を指で擦り始める。


「ん? どうした八雲?」

「父様少しだけ怖いです。顔がそのまま固まってしまいます!」

「悪い、色々考え事をしてたんだ」

「父様大丈夫ですか?」

「だいじょばないかもしでないでふ……もう……がっががががが」

「父様!」


後ろへ倒れこめば胸の上から八雲が心配そうな顔で覗き込んできた。

寝転がり伸びをした流れのまま奇声を発してみれば、八雲はあたふたし始めてそんな行動に癒される。


「とっとと父様がっ! どうしよう! 出雲も雲母もいないし! う~!」

「きゃっきゃ~~ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃああああ!」

「ひぃっ! 父様! 父様! 戻ってきて下さい!」

「あぎゃ~ぴょぴょぴょおおおぉおおおお」

「うっ……うぅ~父様あぁあああ~~」


泣かしてしもた。

レミナ辺りなら「主様うっさい!」の一言で一蹴されて終わるであろう茶番を八雲は信じる。純粋過ぎるだろうよ。涙がぽたりと落ちた時に指で拭いてやってから俺は笑ってしまった。


「ぷっぐっす!」

「ふぇ?」

「嘘でした~~」

「…………!」

「八雲?」

「嘘付く父様は嫌いです!」


頬袋もった齧歯類でもこんなに頬は膨らまないであろう程に膨れた頬をツンツンしてみる。怒ってます! だからそんなので笑いませんとばかりの表情の八雲を可愛いと思う。何度か突いてみたら若干空気が漏れて「ぷぅふっ~」なんて音を発て瞬時に口を手で塞ぐ仕草がなんと言えない。


「おいおい八雲~怒りながら屁をこくヤツがあるかよ~」

「むっ~うっ! むっぅうう!」

「何? 八雲が屁をしたんじゃないのか!?」

「む~っう!」

「なんだよやっぱり八雲が屁をしたんじゃないか! あはは!」

「むっうううう! むぅううう! むっ!」

「気にするな、妖精だって屁ぐらいするわな」

「ぶっはっ~!」

「凄い屁が出たな!」

「八雲はそんな事してないもん!」


拗ねると怒るを同時に行う八雲の頬を俺は指でスリスリして機嫌を取ればほら簡単、目はまだ怒ってるけど口元は完全に緩みだし指を止めれば口元がきゅっと絞まる。そのまま手を元の位置へ戻そうと動かせば寂しそうな顔に瞬時に変化するのを俺は見逃さない。両手で八雲の腰をぐにぃしてやればケタケタ笑いながら崩れ落ちる。胸の上でバタバタする彼女の息が切れ始めたところでようやく止めるのだった。


「はぁ~はぁ~父様はずるいです!」

「ごめんごめん許してくれ」


胸を這い上がって来た八雲は、眼帯に顔を乗せて動きを止めてはにゃりと癒されているようだ。俺としては顔面に八雲が張り付いているような状態で動くに動けない状態。でも、小さいながらも頬に当たるぐにぃの感覚だけは逃しはせぬ!

小振りだがそれがいい! 微妙な温かさがあってぐにぐにしている感覚は確かにあるのだ! んへへ~。


「父様なんで変な顔してるのですか?」

「何でもないよ~」

「そうですか~、ん~」


自分から飛び込んだり、相手から求められるようなぐにぃとは違うんだ。

このぐにぃは言わば偶発的に起こったラッキー、パンチラなんてちゃちで安っぽいもんなんかじゃない。ラッキーエロスの最上級だと俺は思います。しかも相手がまったく気が付いていない所がよりそれを高みに押し上げるのだよ。


なんてことしてたら八雲は立ち上がり扉をじっと見つめる。

犬の嗅覚が人間の何倍もあるように妖精にもそんな何かがあるのかもしれない。

八雲が立ち上がった直後に扉は開きガゼリが顔を覗かせる。

どうやら斥候が戻ったらしく本格的にどう動くかが話し合われるようだ。


斥候が言うには戦士が集まってはいるが何か大きな動きがある訳ではない、王の気配が強すぎて近づいての情報収集は出来なかった。正確で確実な情報が欲しい今、不安要素を元に作戦の立案をするのは危険だと判断し俺にも意見を求めたという流れ。


「こっちが動き出せば確実に王の派閥の集落に露見するだろう。それを前提に動くならば……強襲しか無いと俺は思う」

「我々は真っ直ぐ進んで他の集落の戦士を吸収しながら一気に叩くか」

「時間が経過すればするほどこっちが不利になるんだからこれが一番だと思う」

「ふむ、皆はオトシゴ様の意見を聞いてどう思う?意見があれば聞こう」


数名の戦士が付け加えるように幾つか立案しそれらは採用された。

正面から進み他集落の戦士を吸収、城付近で隊を三つに分けて三方向からの強襲。狙うは王とその側近の各隊長格でそれらを倒しきれば事を押し通すに当たって有利だとまとまる。


作戦の開始時刻は翌日の明朝、他集落との情報の共有と準備を考えれば妥当との判断で一度解散。戦士達の準備が進む中で何か手伝おうとしても丁寧に断られて手持ち無沙汰のまま時間を過ごした。八雲のお陰で暇は潰せたが出雲と雲母は大丈夫だろうかと一丁前に心配してみるのだ。



そんな親心子知らずを地で行く雲母、森をぐにゃぐにゃ進んでいるようで飛行距離が既にルセルと竜殿を往復出来る程になっていた。初めてのおつかいを彷彿とされる様々な行動を出雲や八雲が見たら怒る事間違いない。でも今は一人なのでそんなのどこ吹く風の彼女は優雅に飛び回るのだった、背後に多くの妖精を引き連れて……さながら番長の様に舎弟を引き連れて闊歩しルセルに戻った時、その数は百を越えていた。


出雲と再会を果たした雲母はおつかいを達成した喜びを二人で分かち合う。

それを見た兵士達の顔は笑顔でさながら姉妹のような光景に見えていた事だろう。女王達がいる玉座の間でこれからの動きを真面目に聞き入ってはいたが、疲れが溜まっていたらしくゼスを挟み眠りに落ちた。そんな二人の肩を抱き寄せるゼスは母の様な笑みを持って二人を見つめるのだった。。


ルセル側は斥候の帰還を待たずして進軍を開始、道中で合流し情報の精査と共にその後の動きを決定する。ベスティア側が進軍を開始したのは翌朝のことであった。



八雲に起こされ外に出れば既に進軍の準備を整い出発となる。

森は朝でも夜でも静寂に包まれ癒し効果は本当にあるんだと感じながらひたすら気配を殺し進む。もっと速度を上げて行くものだと勘違いしていた俺としては、少しだけ拍子抜けだったけど当たり前だ。道中でバレたら意味がなくなるのだから限界ギリギリまでこの状態はキープされるのだろう。


普通に進めば三時間、体力に自信のある戦士が走ればその半分だと隣を行く戦士が教えてくれる。今回は最終合流地点まで二時間半、そこから速度を上げて一時間半、強襲まで三十分、普通に進むより二時間以上を掛けての到着となる。

八雲はまだ眠いようでフードの中で寝ていろと言うと顔に一度抱きついてからフードへボスッと入っていった。可愛いヤツめ。


朝霧に包まれ進む最中で一つ目の集落の戦士達が合流、さらに一時間程経った頃に二つ目、三つ目と四つ目は最終合流地点で待っている。視界の先は濃い霧で一般的な人間からすれば三m先が見えないような状況だった。


戦士達には何もかも見えているような足取りで進むから聞いてみれば、森の中は全て把握していると返されて驚愕した。樹の特徴や並び方を見れば今はどの辺りか直ぐに分かるらしく、それは当たり前で逆に何で分からないんだと返されたのだ。彼らにはこの森がどの様に見えているんだろうか?歩き慣れたとしても俺なら絶対に分からないであろう道を続いて歩く。


最終合流地点で戦士達と改めて挨拶を交わせば何度も頭を下げられ困惑。

中には疑念を抱いたままの戦士もいたけど、手と目を見せればそれは一瞬にして疑念は払拭されたようで謝罪される。

どの戦士も辛い思いを吐露し涙を浮かべては仲間同士で励まし覚悟を決めた瞳へと変貌して行くのが少しだけ怖かった。そんな時、ガゼリが俺の肩を大丈夫だと言わんばかりに叩き俺も改めて己の覚悟を決めた。


この間、八雲は一度も起きる事が無くて心配するも「父様ぁ~駄目ですよ~うへへへ」の寝言に笑った。周囲に居た戦士達もそれが聞こえたようで皆が笑う、本当にこれから戦いが起こるのか? そんな雰囲気が一切感じられないままに三つの隊へと別れて進軍した。そこからの三十分程度の移動はかなりの速度で進軍し、城の後方へ向かう部隊が移動する時間を考慮し少しだけ時間を待ってから攻勢に出る。


俺が配置された部隊は真正面、数はおよそ三百程で一番人数が多い部隊。

後方の右翼と左翼は二百づつ割り当てられている。

部隊が怒号を上げれば遠くから小さいながらも同じ声が上がった事を確認して一気に強襲を開始、戦士達は全員が肉体に恵まれていて圧倒的な速度で城まで駆ける。


城の周囲は自然の樹と石を利用した城壁となってはいるがどこか見窄らしい外見。だが俺の目にははっきりと見えている、魔法で展開された障壁が半球を描く様に展開されているのを。普通に通過するには何の問題も無い様子ではあるものの、外部からの物理攻撃や魔法攻撃に関しては無類の強さを誇るモノだった。


戦士が攻撃をしながら進むも、その先から弾かれて地面に落ちて行く。

城側はまだ対応出来ていない現状を最大限に生かす為に俺は龍力で身体強化を行い突っ込んだ。戦士達の一番前まで進めば視界は広くなり、朱食みを展開し一部に穴を開けて野球ボールサイズの蒼煉を三発速射で放つ。


破裂音が三回立て続けに鳴り響けば城からは煙が上がる。

城門は樹のアーチが連続で続いていて、戦士達が進む度に樹から蔦が伸びて絡め取るように動き出す。蔦に絡め取られた戦士を他の戦士が救い各々がコンビで行動を取る様に本当の信頼関係を見た。


ガゼリの案内で複数の戦士と共に城内へ突入を果たしたがここに来て違和感を感じた。強襲が成功した結果だと思いたいけど、それにしても内部に殆ど誰も居ないことが気がかりで違和感を覚える。ヴォルマのような侵入の難しい城でさえ夜間は衛兵の巡回があるのに何故?

ガゼリが玉座の間の扉を蹴破れば玉座の前に一人の人物が立っていた。


「裏切り、謀反、下克上、はっ馬鹿共が」

「王をどこに隠した!」


一番冷静に勤めていたガゼリがここに来て吼えるように叫ぶ。


「隠す? ふざけた事を抜かすな! 王の庇護なくては生きていけぬ弱小共がっ!」

「無理矢理にでも吐いて貰うぞ!」


ガゼリは手にした鋼の槍を構えて獲物を捕らえる様に思い切り投擲。

風を切る音が聞こえたと思えば槍は敵に刺さらず虚空を貫き壁を穿った。

戦士達は今の一撃で決着が付くと思っていたようで、壁に刺さる槍が何故にそうなっているか理解出来ていなかったようだ。俺は相手が一体誰であるか知りもしなかったけど、なぜ槍が敵に当たらず壁に刺さったかは見えていた。


槍は完全に相手の心臓を狙い投擲されていたし、そこを貫いていたのは事実。

相手はそもそも避けていない、微動だにしていない、初めから当たらないと分かった上でそうしていない。そう目の前のアレは実体じゃない、この目が無ければ俺も少しは戸惑うだろうが服に穴が開いてない事を考えれば辿り着けそうな答えだった。


虚像、なら本体は?いかに精巧に生み出した虚像でもその根源は魔力から精製されたモノ。であるならば当然俺には見えるモノがあって、それが指し示す場所はなんとも単純で玉座の間の真下の空間。ご丁寧にも隠し床の存在までバラしてくれていて拍子抜けだった。


「おい! 何者だ貴様! 動くな!」

「お気になさらず続けてください」

「危険です! オトシゴ様!」

「それ以上、進めば後悔することになるぞ?」

「あっうん」

「離れてください!」


「この城を爆破して皆殺しにしてやるぞ?」

「どうぞお構いなく続けてください」

「爆破っ! だと!」


これで脅したつもりだと本気で思っているのだろうか?

王が住まう場所を破壊なんて出来る訳無いだろうに……。

俺は黙ったまま虚像の前で止まり、虚像の足元を蒼煉で躊躇無く爆破した。

穴の中へ飛び込んで目の前のそれを掴んで真上へ放り投げてもう一度穴を通る。

地面に倒れていたのはガゼリ曰く宰相らしい、こんな間抜けでも宰相になれるんだと思うと今回の作戦は案外楽かもしれないと思うのだ。

本話もお読みいただきまして有難う御座います。

ブックマークにも感謝です。


本話から少しずつ戦闘が始まります。

七話前後を予定しておりますので、次話以降も宜しくお願いします。

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