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龍軌伝 異世界で龍に愛されるニート  作者: とみーと
第十一章 箱庭編
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微動

薄暗い空間に一人佇む男がいる。

体は二mを越えその姿を目の前にすれば壁のように感じる事だろう。

腕は丸太のように太く膝に届きそうな長さ、その先端の五指には鋭利な爪を備え獣の如く。


目は何かを睨みつけているかのようで、口にはギラリと光る牙を持つ。

人の顔に獣の特徴を足したそうな相貌。男の可愛い所を探せと言われたら、ピンと立った耳と尻尾ぐらいしか出てこないだろう。

背を壁に預けた男が、鋭利な爪の付いた指をクイクイと動かせば、扉の先から幾人も並べさせられた者達が入ってくる。


男と女、合わせて二十人。

五人一組にされているようで、その手足には枷が嵌められ前後同士は鎖で繋がれ逃げる事は難しい。その列が綺麗に並べば扉からはさらに十人が空間に足を踏み入れ、手には武器を持ち言葉無くとも佇む男と同じ側だと告げていた。


「ここへ来るのも久しいな、以前と違って見えるが?」

「長く生きていれば様々な出会いがあるものだ」


後者の声の発生源が一体どこから放たれているか分からない、佇む男以外の全員の表情を伺えば皆同様の表情で困惑している。空間にあるのは一つの石版だけで他に変わった所を見つける方が難しいだろう。


「準備は既に完了したぞ?」

「故に君は彼らを連れて来たのだろう・・・二十か」

「足りんか?」

「満たされる事など無いのだから数に意味はない」

「今度こそ先祖の墓標の前に報告出来そうだ」

「君は強くなったが強いて言えば油断が最大の敵とだけ言っておこうか」

「あれから今日のこの日まで俺に油断なぞ一度も無い。さっさと初めてくれ」

「よかろうではな・・」

「あぁ・・・」


男が壁から背を剥がし武器を持つ男達に指示を残して立ち去った。

指示を受けた男達が一番左の列に並んで、一斉に蹴りを放てば絶叫が木霊する。

膝を蹴り抜かれ、本来なら曲がるハズの無い方向にへしゃげた足が力なく垂れ下がればその列は一斉に倒れこむ。枷と鎖で繋がれいる以上、一人が痛みでもがけばそれは残りの四人に連鎖し更なる痛みが生まれるのだ。


一番右の列にも男達が並び目の前の列を見てニヤニヤと不敵な笑みを浮かべていた。目の前の列に並んでいるのは全員が女性、五人を繋ぐ鎖のどれもがジャラジャラ鳴り彼女達の恐怖を物語る。


服は剥ぎ取られ排泄もこの状態で行われているのか匂いが際立ち尊厳の全てを奪われていた。男達はそんな身も心も寸前で維持しているであろう女性達を一斉に殴り始める。悲鳴、絶叫、泣き声、それらに一切の救いの手は差し伸べられず列は倒れた。


全ての列が倒れる頃には男達の息も上がっていた。

それでもまた続きがあるようで手に持った武器で止めを刺して行く。

一息とは行かない、武器の全ては鈍器ばかりで刃が付いたモノは一つ足りとしてなかった。


躊躇無く腕を振り下ろし、その度に鈍い音が連続し血が飛び散り地面を伝う。

その血は地面の溝を伝って石版の回りをぐるりと一周し石版の後ろ側へと流れていった。二十の命の全てが失われた。なんの救いも無く甚振られたその命に救いがあるのならばかの世界に流れ次を待つことぐらいだろう。


「おい、全部終わったけどこれからどうるんだ?」

「さぁ?言われた通りにしただけだからな」

「外に報告に行けばいいんじゃないのか?」


そんな会話を始めれば石版の背後から光りが拡散し男達は息を飲んだ。

「ご苦労だった・・」

「だっだれだ!!」

「悪いが最期に一つ頼みたい事がある」

「なっなんだ・・」

「この石版を叩き壊して欲しい、今なら君達の持つそれで簡単に破壊できよう」


一番近くに居た者が渾身の一撃で石版を粉砕、その中にキラリと輝く何かが宙を舞い砕けて消えた。空間が動いている訳でも無いのに轟音が木霊し男達は混乱に飲まれる。一際大きな音が鳴ったと思えば次には静寂が生まれた。

石版が破壊されただけで他に変わった様子は無く、今のは一体何だったのか?


そんな戸惑いを各々が覚えた頃に絶叫が一つ生まれた。

声は一番後ろから聞こえて全員が振り返るがそこには誰も居なかった。

石版を破壊した男だけが気がついていた。一人居ない、十人いたハズなのにどう言う訳か九人になっている。現状把握の為に思考を巡らせていれば・・・。


「何だ・・・これ・・・」

「おっおい・・お前・・」


扉に現在一番近い男は頭から何かがかかった感覚を得て頭を触る。

掌を見ればそれは真っ赤に染まり思考が理解に追いつかず、気が付いた時にはその視界は暗黒に覆われた。


外に出たところで男の耳には心地良い絶叫が聞こえてその口の端が上がる。

待たせておいた数名の男達は入り口から出てきた男に駆け寄った。


「ディクシオン様!ご無事で!」

「あぁ」

「どうなりましたか?」

「万事滞りなく終わった・・・いや、始まったと言うべきだな」

「ようやく・・・」

「俺の前に何者かがここへ来ていたようだったのが気になる・・・調べろ!」

「はっ!!」

「俺は城へ戻る、半分は付いて来い!準備を待って今度こそルセルを落とすぞ」


彼らにとって馬はいらない、馬は食料だ。

恵まれた体躯を持って走り出せば馬なんて付いてこれる事など無い。

ディクシオンは己の城、ベスティア城へ向けて疾駆を始める。

竜殿内で嗅いだ匂いに気が付くが、己の目的を優先した王は気にも留めずに走り抜ける。時間にして三十分程度で城へ到着すれば玉座にドカっと座り、王の帰還を待っていた連絡兵が駆け寄りいの一番に報告を告げた。


「妖精狩りが失敗だと?」

「はいっ!初狩りをしていた三名の内、二人が何者かに殺されたと・・・」

「生き残った者を連れて来い!!」


玉座の間に連れてこられたのは見覚えのある人物、反対していた集落から召集された男。訝しそうな目を向けて男をみていたがここにも覚えたばかりの匂いがあった。


「何があったか話せ、詳しくな」

「妖精狩りを開始して暫く経った頃に強襲されました・・・一瞬で二人を殺し自分は国へ戻りこれを伝えろと・・」

「続けろ」

「妖精狩りに対して憤怒しておりましたから・・ルセルの者かとも思ったのですが男はギルドから来たと・・それ以外は・・・」


「王!コヤツはあの集落の者、到底信ずる証拠等にはなりませぬぞ!」

「黙っていろ・・コイツから漂う匂いを竜殿でも嗅いだ・・・嘘だと断言も出来ぬだろうよ。他に何か特徴、話したこと?」

「特徴は人間で、大きな鎌を持っていました!それ以外は・・自分も強襲され間々成らぬ状況でしたから・・・」


「人間如きに俺の手駒がやられた?罠か?」

「いえ!魔道弓で狙撃したのにも関わらずそれら全てを往なしされました」

「飛距離は?」

「最大距離からでした・・・」

「そのような事が人間風情に出来るものか!」


「魔法かもしれません・・・」

「分かった下がれ」


「他の狩りに行かせた隊はどうなっている?」

「全隊この城へ戻って来ております!そのまま作戦を続行すれば良いものを」

「責めるな、時期なだけに思量深く考えたのだろう」

「はっ!」

「状況の完了次第ルセルに進行する、急がせろ」


一人になった玉座の間で王は珍しい匂いを思い出して薄く笑うのだった。



その頃、ルセルを目指しながら妖精達を探す雲母、三人の中では一番ぽわーんとした彼女は六枚の羽を持ってヒラヒラ舞うように飛ぶ。綺麗に咲き誇る花を愛で美しい景色を見て感動に浸る。本来の目的を忘れてはいないだろうけど兎に角マイペース。雨で生まれた水溜まりで遊び出せば目的を忘れてはしゃぎだす。

こんな状況を父が見れば恐らく落胆するに違いない。

ふと大好きな父を思い出して次に言われたことも思い出す。


「父様から頼まれたの忘れてた!!」


六枚の羽に力を込めて強く羽ばたけば一気に樹の天辺まで到達し、手を望遠鏡の形にして周囲をぐるりと見渡せば反応を見つけてそこを目指す。

五人の妖精が魔力浴を楽しんでいる所へ雲母は真上から急降下して急制動。

妖精達は一瞬驚きの表情を見せたが相手が妖精だと分かればすぐに笑顔となる。

しかも、相手は六枚の羽がある妖精なのだから驚きもするらしく直ぐに服を着た。こんにちわと言えばこんにちわが返ってくる、雲母は概要をちゃんと伝える事に成功した。


「逃げないと危ないから逃げよう城に行こう!」


その一言だけで妖精達はそれに従う、六枚羽は彼女達にとっても特別らしくゼス以外に居ないことは知っているが見る者が見れば分かる様子。

単純な一言にも関わらず妖精達は直ぐに城へと飛んで行った。

父の力になれたと喜ぶ雲母はさらなる妖精探索を始める為に移動を開始した。



出雲、父の力によって一番初めに生まれた三人の妖精の中でも一番目に生まれた妖精。三人の力は同じ様に横並びではあるものの、その特徴は三者三様で各々がそれぞれに得意分野がある。彼女は三人の中で言えば一番女子らしいと言えるだろう。怖いものが大嫌いで実は臆病だが二人の前では少し姉のような気持を持っている。同じ力を持っていても一番使い方が上手く飛ぶ速度も速い。


樹の天辺スレスレを高速で移動すれば既にルセルは目前にまで迫っていた。

本来なら構造的にも許可無く入れるようには出来ていないルセルの神樹に躊躇無く飛び込む。兵士達が一瞬ざわめくが六枚羽の妖精の姿を見れば誰も気にと止めない。ゼスと見間違っている可能性は否定出来ないが問題無いなら大丈夫。


女王の部屋まで飛んで上がり勝手に外から覗き込めば女王とグラじーさんがしっぽり楽しんでいる。それについて何も分からない出雲では無く顔が真っ赤、顔を手で覆うも隙間からガッツリ見ていたことは内緒だ。出雲は空気が読める子である。彼女はすぐさま踵を返しゼスの元へと飛翔したのだった。


「あら出雲?竜殿へ向かったはずだったのでは?」

「あのっ!そのっ!!えっと!!!」

「落ち着いてゆっくりで良いですよ」


ゼスに対して父から託された話をしようとするが先の光景が浮かんで混乱する。

「女王様が小さい・・そのっ!!恥ずかしいことしてました!!!」


ゼスは他人から分析されたならクールビューティーだと思われるだろう。

実際、妖精達を束ねる王であるからクールという言葉の表現は間違い無いし美人だと言う事も間違いない。出雲が訊ねてくるまで妖精サイズの本を読み、お茶を嗜んで時間を過ごしていたのだから。そんな彼女ですら出雲が放った突拍子も無い言葉を受けてティーカップを落として割った。


「そっそっその出雲・・・なっなにを言ってるのですかっ」

「だから女王様と小さいおじいさんが!!生殖行為をしてました!!」

「はっぃいい??そっそれを聞いて私はどっどどうすれば良いのですか?シンはどうしたのですか!?」

「あっ!!父様!!!」


父の名前を聞いた所でようやく主旨を思い出してゼスに全てを説明すれば、ゼスに手を引かれて女王の部屋を目指した。ゼス自身この事を直ぐにでも伝えねばならないと思う反面、出雲が話した内容を聞いた後だと流石に訪ね辛いのだ。

外から入るなんて事は真面目な彼女からすれば論外なのに二人並んで覗き見る。


お互いにやっぱり最高だの何だのと恥ずかしいセリフを連呼する、その様子に二人の妖精は熱せられた鉄の如く赤くなる。


「どっどうしましょう・・・」

「あの行為をすれば子供が生まれるのですか?

「いっ出雲!今はそのようなことを言っている場合ではありません!」

「でっでも////」


ゼスは思い切って外から叫ぶように言い放った。

「はぁー今日は良い天気ですねっ!!」

「あの・・・雲が沢山流れてきてますよ?」

「・・・・」


二人のやり取りに気がついた女王はお楽しみを奪われた顔のままツカツカ歩いて来て二人を睨む。ただそこに出雲がいることに違和感を覚えれば、すぐさま何があったかを問うた。


「シンがそれを伝えろと言ったのね?」

「よもや妖精狩りをまたするとは・・」

「でもシンがその場に居たお陰で事が露見しました。それでグラディー?」

「グラディー、兵を展開させ少し様子を見てはどうだ?」

「そうね・・・森の妖精達も至急集めないと」


「あの!それなら父様が雲母に言ってました!!」

「ほぅ、既に大局を見て動いているか・・」

「出雲?シンは今どうしていますか?」

「父様は八雲と竜殿に向かいました!その後は向こうの集落を目指すって」

「なんだとっ!!」

「シンはベスティアに向かったのね・・」


出雲は事の顛末とその詳細、父が話していた内容を思い出して全て話す。


「一枚岩では無いか・・・」

「敵の進行が思っているより速い可能性があるのね・・」

「敵内部で分裂して喰い合いしてくれれば少しは楽になりそうだがな」

「シンはそんな事なんて考えてないでしょうね。グラディーも思うのでしょ?」

「えぇ、ルセルに被害が出ないように動いてくれているのは確かだけど・・・」

「王へ反感を持つ者達を束ねて戦うかもしれん」

「神樹を狙っているのは変わらない、斥候と兵の展開と警戒令を出して」


歯車が一つ動き始める。

その動きは遅いが確実に動き始めてさらに大きな歯車を動かそうとしていた。

本話もお読みいただきまして有難う御座います。

ブックマークにも感謝です。


こんな時間に投稿したことは無いのですが今回はこの時間です。

とうとう100話まで到達しました。これも読んで下さる皆さんのお陰です。

きちんと完結させるまで頑張りますので宜しくお願い致します。

次話の投稿は明日か明後日になると思います。

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