【1章】第2節~「つよし」と呼ばずに「ごう」と呼べ!~
「よっ! 大和おはようさん」
腕を組んだ男が俺の名を呼び、手を挙げて挨拶してきた。
「おはよう。今日も暑いな。剛」
後ろ手に玄関の扉を閉めつつ、毎朝迎えに来てくれる友人に感謝の気持ちを込めて笑顔で返してやる。
「剛ちゃうわ!剛や!ご・う!」
「わかったよ剛」
「自分ケンカ売っとるんやるやな? そうやろ? そうやんな?」
「そんなことないですよwww 剛さん」
「よーし。いっぺんシバいてみよか。話はそれからや」
ゴキゴキと指の節を折りながら近づいてくる剛w
「ごめんごめん。もう言わないから許してください」
「ほんまやな?」静かに拳を下ろす剛www
「もう絶対言わんよっ☆つよs」
メシャッ!と頭蓋骨が嫌な音を立てて軋んだ。ほかでもない。剛にアイアンクローをされたためである。
「もう言わん言うたよな?」
俺の顔を片手でつかみあげながら剛が問うてきた。
ヤバい目がマジだ・・・。てゆうかそんなに強く握ったら壊れちゃう。主に俺の脳が。脳のお味噌がコンニチワしてしまう。
「はい。もう言いません。剛さん。」
「よし。」
剛はスッと俺の顔から手を離した。
痛てて・・・。ふー。危ねえ。危うく自分の脳味噌と奇跡の対面を果たすところだったぜ。
この男の名前は、草薙 剛。決して、某アイドルグループの人ではない。
先ほど、頑なに「つよし」と呼ばれるのを拒んでいたが、この名前が本名なので「つよし」と呼んでいた俺が正しい。
だが、どうもヤツは「つよし」と呼ばれるのが嫌いらしい。理由は不明。
そして身長180センチでなかなかの男前。バッチリ決めた今どきのチャラチャラした髪型とガタイのいい筋肉質の姿は女子からの人気も高い。(恋愛対象というだけではなく腐女子の方からも・・・・)
そんな奴だったから始めは俺もかかわろうとは思わなかった。なぜかって? そんなの決まっている。
そうゆうやつは決まって俺のような人種を徹底的にいたぶってカモにするからだ。
教室でラノベを見ていれば、
「うわーっ!出たよオタク小説!キメー!そんなのばっかり読んでるから友達もカノジョもできねーんだよwww」
とか言ってくるし、そこに女子がいれば、
「なあ?こーゆう奴と付き合えるやつとかいんのかな?wwwお前ならどうよ?もちろん?・・・・あっはっはっは!だろうなー。いやほんっと、こんな奴とつるんでやってる俺マジやさしいよな?」
なんて女子を話に絡めながら、俺をいたぶりつつ自分の女子からも評価も上げる糞みたいな会話を展開しやがる。
剛とちゃんと話すまでは、奴らと同じような人間だと思っていた。
今になってみると本当に申し訳ない・・・・。
「おーい?どないしたんや~。変なもんでも食ったんか?」
「うおっ!」突然剛の顔が目の前に現れて思わずのけぞってしまった。
「なんやねん自分!急にわしの事じーっと見て動かんようになったと思たら、今度はわしの顔見てびっくりしよってからに。」
両手をぶんぶんしながら剛が抗議してきた。
お願いだからその巨体で両手を振り回すな。本来それは、二次元女子がやるべき行動だろうが。お前がやったらただのラリアットだ。当たったら脳震盪でも起こしかねん。
「いや、お前のこと見てボーっとしてたのは悪かったけど、急に目の前に人の顔が出てきたら誰だってびっくりするだろうが。」
おまけにお前の顔は彫りが深くてゴリゴリだから、ソッチ系の人かと思ったんだよ!掘られるかと思ったわ!とは言わないでおこう・・・・・・。
「ほう。そりゃすまんかったな。なんにせよボーっとすんのも大概にしいや」
「ああ。気を付ける」
さてと・・・・。静かに呟いて、トンットンットンッと軽快に玄関の前の階段を降りると
「ほな!今日も一日気張って行こか!」
と学校のある方向に向かってヒーロー戦隊もののような格好で指をさしながら俺に向かって言ってきた。
「おあ。」少しの高揚感とともに階段を降りる。さて、今日も楽しくなりそうだ。
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