勇者の行軍
「ふんッ!帝国の番犬如きが我が国に手を出してくるとは愚かよ!」
腹は肥えて、容姿は豚そのものと思えるソレは憤りを隠さずに喚く。
「確かに王国軍は練度が低い。しかし、すべての兵士がそうだと思ってもらっては困るのだ!我輩の私兵を使えば帝国の雑兵などなぎ払ってくれる!」
見た目は豪華な私兵。凱旋のパレードなどであれば見栄えも良いだろうが、中身が本当に強いかは定かではない。
はっきり言ってしまえば、碌に訓練などしない兵士が強い訳もないだろう。
しかし、この豚はそれを疑いはしなかった。むしろ自信を持っている。
「あの豚・・・豚の兵士じゃ帝国には勝てねぇよ・・・」
ポツリと門番である兵士が呟く。
「ここも、帝国が攻めてきたらすぐに落とされるだろう。戦上手であればあるほど、外堀の無い城がただの小屋より楽だと言えるだろうな・・・」
王都は見栄えを良くするためや、利便性を重視するあまり、中央が開けている。
市街戦となれば強いのは王国軍だろうが、開けた場所であれば、勝ち目も薄い。
その時だ。
ザッザッ
「ん・・・?・・・ッ!」
ビシッと敬礼をする。
これから遠征に出る兵士達だ。
それぞれの顔付きはどことなく、戦に出る事を誇らしく思っている。
「この者達に栄光あれ・・・」
小さく、ボソリと呟いたその言葉は誰に届いた訳でもないだろう。
誇らしく、勇ましく向かうその姿は勇者であった。
「・・・やっぱり、帝国じゃこの国は落とせないだろうな。国王様は呑気者じゃなかったと・・・聞かれたら打首は間違い無いな・・・」
小さく笑い、そして、彼らを見送った門番はそう国を評価した。
―――◆―――
「さて、我々はこれよりノウェリス平地に赴く。」
陛下のお言葉が全身を通り抜ける。
透き通るような、澄んだ声は聞いていて心地がいい。
「各将軍は手筈通りに動け。個人の勝敗は求めぬ。最終的な勝利をもぎ取ればよい。」
澄んでいて、威厳の有るお言葉。
過去、友人として過ごした日々でも、度々澄んだ声に心地よさを覚えていたのを思い出す。
しかし、今は戦争だ。と、思考を切り替える。
「陛下、我々にお任せ下さい。必ずや勝利を収め、陛下に捧げます。」
臣下の礼をその場に居る全員が取り、敬愛する陛下に忠誠を捧げる。
「面を上げよ。今はそれをする時ではない。眼前の敵を屠ってから行え。」
叱られてしまった。
が、しかし、陛下は顔がにやけている。やはり嬉しいのだろう。
その光景に、やはり若いな、と表情に出し、表情を緩める老戦士もいれば、陛下の珍しいにやけ顔に歳相応と思う人間もいた。
その雰囲気にあてられ、自分もクスクスと笑ってしまう。
「レツィオ、いきなり笑ってどうした?」
いきなり雰囲気が変わったのか、戸惑いながら聞いてくる陛下。
「いえ、少々この場の雰囲気にあてられたようです。」
と、苦笑いを浮かべ返した。
「ハッハッハ!何、そういうことだったか!よい、今この場は無礼講だ!」
少々の時間だけ、陛下の居る天幕の中は活気に溢れ、終始和やかであった。