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なーろっぱ世界の短編 婚約破棄とか聖女とかドアマットとか転生とか

こうして真実の愛はうしなわれた!

作者: マンムート
掲載日:2026/10/20

 

 彼が、わたしの仕事部屋に駆け込んできました。


「ノックをっていつ――」


「真実の愛を見つけたぞ!」


「え」


「これだっ!」


 彼が見せてくれたのは小さな瓶でした。


「これが……?」


 瓶の半分くらいまで、液体が入っていました。


 それは、太陽の黄金のように眩しく光る液体でした。


「ああ、ネズミに投与したら、メスとオスが見つめあって、死ぬまで交尾してた!」


「は、はぁ……」


「オスとオスでも、メスとメスでも同じだ。お互いしか見えなくなる!」


「え、ええと……」


「しかも! 片方が先に死ぬと、残された方も、瞬時に死ぬ! 愛は永遠になるんだ!」



 彼は平民。わたしの婚約者。優秀な研究者。


 新しい発見に喜ぶ婚約者は輝いています。



 すてき。



 この輝きに魅せられて、わたしは公爵令嬢の立場を捨て、彼の元へ飛び込み。


 彼もまた、家からも勘当されたわたしを、何のためらいもなく受け入れてくれました。


 とても愛されているのを感じます。



 ああ、彼の喜びに輝く顔をもっと見たい!



 ですが。



「あの……ひとついいですか?」


「うん! 君の忠告はいつも有意義だ! この前のバラクマイシン合成の時も――」


「その物質……真実の愛というよりは、媚薬ではないでしょうか?」


「あ……」


「それに、その……そんなものがなくてもわたしはあなたが好きです」


「ボクもだ!」


「では、いりませんね」


「でも……せっかく見つけたのにぃ」



 しょんぼりして、とっても哀しそうです。


 わたしも飲みます! と思わず言いそうになりますが、そこはグッとこらえて。



「ですが、考えてみてください。これを例えばふたりの人間に投与したとしますね」


「うん。お互い以外見えなくなる! きっとしあわせだろうなぁ」


 彼の目が叫んでいます。


 それが君とボクだったらサイコー、と。



 想像してしまいました。


 これを飲んだら、わたしたちは婚約者同士の慎みを忘れて、死ぬまで激しく愛し合うのでしょう。


 彼はわたしの全てを求め、わたしも彼の全てを求める。



 多分、結婚したらそうなるだろう、というよりも遥かに激しく熱く。


 それは、彼とならしあわせだろう、とは思うのです。


 想像するだけで体が熱くなってきます。



 これを飲みさえすれば……。



 わたしは頭を振って、その思いを追い払いました。



「……でも、死にますよね」


「うん。でも、真実の愛だし!」


「ですが、わたしとあなたに投与したら、あなた研究できなくなりますよ」


「あ」


「わたしもあなたに、アップルパイも作ってあげられなくなりそうですし」


「う……」


「わたしに、あーん、って食べさせてもくれなくなるのは……」


「あ……」


「わたしはいやです」


「うーん……。あーんが出来なくなるのか……でも、真実! いや、いや、ううっ」



 彼は悩みに悩んだ末に。



「くうっ。学者としては無念! だがっ、これは……見なかったことにしておこう!」



 こうして、真実の愛は、発見されて、喪われました。



 でも、わたしと彼はしあわせなままです。



 彼は研究し。


 わたしは研究所の仕事をとりしきり。


 休日には彼のためにアップルパイを焼き。


 彼はわたしにアップルパイを、あーんしてくれます。



 彼が大発見をして、ようやく両親にも認めて貰って。


 結婚してからは、そこに夫婦の夜がくわわりました。


 夢中で求めあって、気付いたら朝になっていることも、しばしばです。


 死ぬほどではないですけどね。



 この前、彼にベッドの中で、


「真実の愛ってどんなものかしら……?」


 と訊いたら、キラキラした目でわたしを見て、


「ボクと君の関係さ!」


 と答えてくれて、キスしてくれました。



 飲まなくてよかった……。




たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。


最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。


少しでも心に残るものがあったり、何かを感じていただけたなら、


評価や感想をいただけるととても励みになります。


別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。


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― 新着の感想 ―
つまり、死ぬまで交尾する事しか考えられなくなる、という事でしょう? そんなものを飲んだら人間として終わるじゃないですか。 考えが足りなさすぎるでしょ。薬作った側も、絆されて一瞬でも飲もうと思ってしまっ…
こんなやべぇ男をコントロールでき、うんざりして見限ることもない奇特な趣味ゲフン、タフなお嬢さんは、この娘以外に見つけるのは難しそう。 しっかり手綱を握っておいてほしい。
あー、ご馳走様でした。 末永く爆発して下さい。
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