なーろっぱ世界の短編 婚約破棄とか聖女とかドアマットとか転生とか
こうして真実の愛はうしなわれた!
彼が、わたしの仕事部屋に駆け込んできました。
「ノックをっていつ――」
「真実の愛を見つけたぞ!」
「え」
「これだっ!」
彼が見せてくれたのは小さな瓶でした。
「これが……?」
瓶の半分くらいまで、液体が入っていました。
それは、太陽の黄金のように眩しく光る液体でした。
「ああ、ネズミに投与したら、メスとオスが見つめあって、死ぬまで交尾してた!」
「は、はぁ……」
「オスとオスでも、メスとメスでも同じだ。お互いしか見えなくなる!」
「え、ええと……」
「しかも! 片方が先に死ぬと、残された方も、瞬時に死ぬ! 愛は永遠になるんだ!」
彼は平民。わたしの婚約者。優秀な研究者。
新しい発見に喜ぶ婚約者は輝いています。
すてき。
この輝きに魅せられて、わたしは公爵令嬢の立場を捨て、彼の元へ飛び込み。
彼もまた、家からも勘当されたわたしを、何のためらいもなく受け入れてくれました。
とても愛されているのを感じます。
ああ、彼の喜びに輝く顔をもっと見たい!
ですが。
「あの……ひとついいですか?」
「うん! 君の忠告はいつも有意義だ! この前のバラクマイシン合成の時も――」
「その物質……真実の愛というよりは、媚薬ではないでしょうか?」
「あ……」
「それに、その……そんなものがなくてもわたしはあなたが好きです」
「ボクもだ!」
「では、いりませんね」
「でも……せっかく見つけたのにぃ」
しょんぼりして、とっても哀しそうです。
わたしも飲みます! と思わず言いそうになりますが、そこはグッとこらえて。
「ですが、考えてみてください。これを例えばふたりの人間に投与したとしますね」
「うん。お互い以外見えなくなる! きっとしあわせだろうなぁ」
彼の目が叫んでいます。
それが君とボクだったらサイコー、と。
想像してしまいました。
これを飲んだら、わたしたちは婚約者同士の慎みを忘れて、死ぬまで激しく愛し合うのでしょう。
彼はわたしの全てを求め、わたしも彼の全てを求める。
多分、結婚したらそうなるだろう、というよりも遥かに激しく熱く。
それは、彼とならしあわせだろう、とは思うのです。
想像するだけで体が熱くなってきます。
これを飲みさえすれば……。
わたしは頭を振って、その思いを追い払いました。
「……でも、死にますよね」
「うん。でも、真実の愛だし!」
「ですが、わたしとあなたに投与したら、あなた研究できなくなりますよ」
「あ」
「わたしもあなたに、アップルパイも作ってあげられなくなりそうですし」
「う……」
「わたしに、あーん、って食べさせてもくれなくなるのは……」
「あ……」
「わたしはいやです」
「うーん……。あーんが出来なくなるのか……でも、真実! いや、いや、ううっ」
彼は悩みに悩んだ末に。
「くうっ。学者としては無念! だがっ、これは……見なかったことにしておこう!」
こうして、真実の愛は、発見されて、喪われました。
でも、わたしと彼はしあわせなままです。
彼は研究し。
わたしは研究所の仕事をとりしきり。
休日には彼のためにアップルパイを焼き。
彼はわたしにアップルパイを、あーんしてくれます。
彼が大発見をして、ようやく両親にも認めて貰って。
結婚してからは、そこに夫婦の夜がくわわりました。
夢中で求めあって、気付いたら朝になっていることも、しばしばです。
死ぬほどではないですけどね。
この前、彼にベッドの中で、
「真実の愛ってどんなものかしら……?」
と訊いたら、キラキラした目でわたしを見て、
「ボクと君の関係さ!」
と答えてくれて、キスしてくれました。
飲まなくてよかった……。
たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。
最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。
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別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。




