コモンズの設計 ――関係と関係のあいだに生まれる大地をどうつくるか
序:家だけでは都市にならない
これまでの章で描いてきた「関係の建築学」は、
一軒の家としてはすでに強靭で、美しく、現実に耐える構造を持っている。
しかし、家が一軒だけでは都市にならない。
• 家と家のあいだに道が生まれ
• 道と道のあいだに広場が生まれ
• 広場の周囲に生活が流れ
• 生活の流れが社会をつくる
つまり、
個の関係が並び始めたとき、
そのあいだに必ず「共有地」が生まれる。
この章は、
その“あいだ”をどう設計するかを扱う。
**Ⅰ コモンズとは何か
――誰のものでもないが、全員の持続に不可欠な空間**
コモンズとは、
特定の誰かの所有物ではないが、
全員の持続に不可欠な空間である。
• 道
• 広場
• 水源
• 風の通り道
• 共有された記憶
• 共同のルール
• 公共の沈黙
これらは、
誰かのものではないが、
誰かが欠けても成立しない。
コモンズは、
関係と関係の“あいだ”に生まれる大地である。
Ⅱ 水平の意志がコモンズに与える五つの原理
水平の意志は、
個の関係を支えるだけでなく、
コモンズの設計原理にもなる。
以下は、その五つの基礎原理である。
1. 排他を前提にしない
コモンズは、
「入る資格」を問う場所ではない。
• 完璧な理解
• 同じ価値観
• 同じ文化
• 同じ痛み
これらを共有していなくても、
そこに立つことができる。
水平の意志は、
“誰でも立てる場所”を確保する。
2. 使用と保全のバランスを取る
コモンズは、
使われなければ荒れ、
独占されれば壊れる。
水平の意志は、
• 過剰な使用を避け
• 過剰な保全を避け
• 適度な流動性を保つ
というバランス感覚を持つ。
これは、
関係の“呼吸”を社会全体に拡張する技術である。
3. 誰かが過剰に負担しない構造をつくる
コモンズは、
誰か一人が管理し続けると壊れる。
水平の意志は、
• 負担の偏りを避け
• 非対称を調整し
• 役割を循環させる
という構造をつくる。
これは、
社会的ケアの分散化である。
4. 壊れたときに修復できる制度を持つ
コモンズは壊れる。
• 争い
• 誤解
• 不信
• 歴史の痛み
これらは避けられない。
水平の意志は、
壊れたときに
透明化・減速・緩衝・再接続
という修復技術を社会レベルで運用する。
これは、
「壊れない社会」ではなく
“壊れても持ち直せる社会”をつくる思想である。
5. 沈黙の者もアクセスできる余白を残す
社会には、
声を上げられない者がいる。
• 子ども
• 高齢者
• 病者
• 移民
• 言語を持たない者
• 立場上語れない者
水平の意志は、
沈黙を欠如ではなく、
アクセスの形式として扱う。
沈黙の者が排除されないコモンズは、
社会の強度を決定づける。
Ⅲ コモンズの危機:荒廃・独占・硬直
コモンズは、
三つの危機に常にさらされる。
1. 荒廃(誰も使わない)
2. 独占(誰かが使いすぎる)
3. 硬直(制度が変化に耐えられない)
水平の意志は、
これら三つの危機を
**“揺れながら持続する構造”**によって回避する。
• 過度な管理を避ける
• 過度な自由を避ける
• 過度な固定化を避ける
コモンズは、
揺れ続けることで生き延びる。
**Ⅳ 社会という大きな建築
――水平の意志は“インフラ”になる**
個の関係を支える建築学は、
そのまま社会全体の設計原理へと拡張できる。
■ 社会は巨大な“関係の網”である
• 家(個の関係)が無数にある
• そのあいだに道・広場・排水・光・風が流れる
• どれか一つが壊れると、全体が揺らぐ
水平の意志は、
この“あいだ”を支えるインフラとして働く。
■ 社会における水平の意志の役割
1. 倒れにくい制度設計
2. 再接続の文化
3. 負の資産の透明化
4. 仮設性の導入
5. 非対称性の調整
これは、
水平の意志が描いてきた「倒れにくい関係」の思想を、
社会という巨大建築の耐震構造へと拡張する試みである。
結語:大地としてのコモンズ、都市としての文明
水平の意志は、
個の関係を支える家を建てるだけではない。
その家々が並び、
道が生まれ、
広場が生まれ、
風が通り、
光が差し込み、
人が行き交い、
沈黙が共有され、
歴史が積み重なる。
そのすべてが、
コモンズという大地の上で起こる。
水平の意志の建築学は、
荒野に一軒の家を建てるためのものではない。
それは、
荒野に都市を築くための最初の設計図である。




