序文
揺れる地盤の上で建てるということ
世界は揺れている。
それは比喩ではなく、私たちが毎日触れている現実の質感そのものだ。
制度は揺れ、
関係は揺れ、
言葉は揺れ、
共同体は揺れ、
そして私たち自身も揺れている。
揺れは欠陥ではない。
揺れは、世界の“地盤”そのものだ。
私たちは長いあいだ、
この揺れを克服しようとしてきた。
揺れない真理、揺れない制度、揺れない共同体、揺れない関係。
しかし、そのどれもが長くは続かなかった。
揺れを否定する文明は、
揺れによって倒れる。
では、どうすればよいのか。
この本が扱うのは、その問いである。
ここで語られるのは、
揺れを止める方法ではない。
揺れの上で倒れない構造をつくる方法である。
それは、垂直にそびえる塔ではなく、
水平に広がる梁のような意志だ。
誰かを超克するための意志ではなく、
関係を編み直すための意志。
完成を目指す意志ではなく、
持続を選び取る意志。
関係は自然には続かない。
続けるためには、技術がいる。
贈与の技術、沈黙の技術、仮設の技術、
そして壊れたときに再び立ち上がるための技術。
この本は、
あなたの生活の中にある“揺れ”を否定しない。
むしろ、その揺れこそが建築の素材になると考える。
あなたが最後に「関係が壊れた」と感じたのはいつだろう。
その痛みや失敗は、忘れるべきものではない。
それは、次の関係を倒れにくくするための重心になる。
この本は、
あなたの個人的な経験と、
社会という巨大な建築のあいだに橋を架ける。
家と家のあいだに生まれる道、
道と道のあいだに生まれる広場、
そのすべてを支える“共有地”の設計へと向かう。
私たちは、脱構築の後に立っている。
揺れ続ける地盤の上に、
何度でも壊れ、何度でも修復され、
その痕跡を強度へと変えていく建築を、
ここから始めよう。
この本は、完成した答えではない。
これは、あなたと共に運用され続ける構造である。
さあ、建て始めよう。
揺れの上に、倒れにくい文明を。




