02
鎖を切られた後、私はローウェンに抱えられて屋敷の外に出た。久しぶりにみた外はとても荒れていた。戦争のせいかな。
すぐに馬に乗せられ、街の外まで連れ出される。街道に出るとローウェンと一緒に馬車に乗った。見た目は質素なのに、内側はすごく豪華だった。
馬車の椅子がふかふかなのと、ローウェンがくれた服があったかくて、馬車に乗るとすぐに眠ってしまった。
次に起きた時には知らない部屋のベッドにいた。
部屋にはやっぱりローウェンがいて、何やら書類を見てるようだった。体を起こすと起きたことに気づいたのかこちらにやってくる。
「気分はどうだ?どこか痛いとか、具合の悪いところはないか?」
頷く。
「腹は減ってるか?一応胃腸に優しい食事を用意してもらってるが」
『たべたい』
「わかった、少し待っていろ」
テキパキと食事の用意がされていく。ローウェンはきっと偉い人だと思うんだけど、私につきっきりでいいんだろうか。私みたいな、元々平民の、屋敷に閉じ込められて奴隷みたいな扱いしてた人間の世話をしてくれているけれど。
「どうした?」
どうやらジロジロ見すぎたらしい。何か言いたいことがあると思われたようだ。
『ローウェンは、偉い人』
「ん?ああ、まあそうだな」
『なんで、私の世話をするの?』
聞くと、気まずそうに「あー……」と漏らした。
「とりあえず食事の準備ができたから食え。話すと長くなるから、食べながら話そう」
な?と言いながら粥を掬ってふーふーと冷まして食べさせてくる。
お母さんなの?
「ロゼはどれくらいの間あそこにいたんだ?」
『わからない、けど、10歳のときから』
「今いくつだ?」
『日にち、数えるのやめたからわからない』
「……そうか。どうしてあそこに閉じ込められてたのか知ってるか?」
『お母さんが、罪を犯したから償うためだって言われた』
その瞬間ローウェンの顔から表情が消える。心なしか部屋の温度が下がったような気がする。
「母親の罪とは?」
『貧民街に火をつけたって』
「お前の母親は今どこにいる?」
『その火事で死んだ』
「……お前は、母親が火をつけたとは思ってないよな?」
うん、と頷く
『聞いてもらえなかった』
「……だろうな」
粥が口に入れられる。この粥、美味しい。味がする。
「食べながら聞いてくれ」
ローウェンは私をひと撫でして話し出す。
「ロゼは、特別な力があるんだ。とても強くて、他の人には真似できないような力が。それが原因で、ロゼはあそこに閉じ込められてた」
『ちから?』
「そう、ロゼは聖女なんだ。聖女ってわかるか?」
『聞いたことはある』
「あの家ではどうやって暮らしてたんだ?」
『ご飯食べる、寝る、本を読む、たまに石を握る』
「石?」
『うん、握るとすごく疲れる石』
「……なるほどな」
口元に運ばれた粥を食べる。美味しい。
「ロゼが閉じ込められてた屋敷の主人を知ってるか?」
『ハイン公爵?』
「そう。で、娘が一人。ウェンディ・ハイン公爵令嬢がいる。金髪に緑色の目をした女だが、見たことはあるか?」
『何回か』
「そうか。彼女はな聖女として活動してたんだ。本物の聖女のお前の力を奪って。地下室にロゼを閉じ込め、おそらくその”石”で力を奪っていたんだろうな」
『そうなの?』
「ああ」
『ほんとに?』
「ほんとに」
「うちの国はもともと聖女の生まれた国でな。この国に聖女がいると聞いて面会を求めたんだが、そこに偽の聖女であるハイン公爵令嬢が来た。俺には彼女が本物の聖女じゃないのがわかったから、本物の聖女を出せと訴えた。
当然ハイン令嬢はとぼけるし話にならない。調べると本物の聖女はどうやら公爵家に囚われてそうだということがわかった。それを表沙汰にして、再度聖女との面会を要求したけが、この国は拒否。
仕方がないから本物の聖女を助けるために戦争になった。で、この国は負けた。
ハイン公爵令嬢は、雲隠れして逃げた。俺は本物の聖女であるロゼを連れ去りに来たってわけ。それが昨日の話だ」
『全然知らなかった……。聖女っていわれても、実感がない』
「ロゼが今生きてることが証明だな。普通あの環境下に置かれたら早々に死んでる」
『え』
「死んでなかったとしても、もっと深刻な状態のはずだ。お前、俺たちがくる前に何も食べずに何回夜を越したか覚えてるか」
『わかんない、たくさん。5回くらいから数えてない』
「普通は飲まず食わずで5日も夜を越えられないんだよ。お前の中の神聖力がお前を生かしてたんだ」
そうなのか。実感が沸かなくて両手を見つめてみるけど、やっぱり特別な力があるような気がしない。よくわからない。
「まずは養生しろ。食って、寝るんだ。いいな?」
言いながらまた口元に粥が運ばれてくるので、食べる。
毎回ふーふーと冷ましてから運んでくれるあたり、この男は人の世話に慣れているのかもしれない。




