第61話 なんでも……
「ちょっと、珠里! この包装、リボンがグチャグチャじゃない!」
「わ、わりぃ……私、こういう細かい作業苦手でさ」
優月の指摘に、珠里が頭をかきながら謝る。
「お兄ちゃん。こんなチンケなビーズアクセサリーを売るより、私の公式コンサートグッズを先行販売する方が、バザーにお客さんが群がって寄付金もたくさん集まると思う。今すぐ、今泉社長に届けさせるよ」
スマホを手に連絡しようとする瑠璃を、俺は慌てて止める。
「そういう反則技はダメだ瑠璃! そんな事したら、そっちばっかり売れて、売れ残った在庫を前に、今日のために頑張って作った子供たちの顔が曇るだろうが!」
あれ? おかしいな?
人手が増えて楽になると思っていたのに、ちっとも作業がはかどらないぞ。
「ねぇ、一心。珠里と瑠璃が、ちっとも戦力になってないどころか足を引っ張ってるんだけど」
優月の指摘はごもっともだった。
よくよく考えてみたら、珠里は大雑把な性格で、空手でも精緻に技の角度やらキレが要求される型の競技は苦手なタイプ。ゆえに、こういう作業には絶望的に向いていない。
そして、瑠璃は芸能界で小さな頃から活躍していて世間ずれが激しく、こういった地道な作業なんてしたことがない。
「解ってる……完全に俺のミスだ」
「だから、私と2人きりでやった方が良かったのに」
いや、優月は不満そうだが、さっき珠里と瑠璃が来る前に、俺を襲う気満々だったろうが。
あれはあれで、作業は遅々として進まなかっただろう。
「しかし、これじゃあいつまで経っても終わらないぞ」
「私はお兄ちゃんと一緒に居れるから全然問題ないよ。どうせ、この部屋にいる間は現実の世界の時間は進まないんでしょ?」
また芸能事務所の合宿所に逆戻りした瑠璃は、嬉々として俺の腕にしがみつく。
「けど、体感的な疲労は残るから、やっぱりあまり時間はかけたくないな。何かいい案は……あ、そうだ! あの機能を試してみよう」
いいアイデアを思い付いた俺は早速、セックスしないと出られない部屋の管理者ウインドウを開いてお目当ての項目を選択する。
「何するの一心?」
「まぁ見てなって」
とりあえず初めて試すから、見た目はテンプレパターン1でいいかな。
で、隷属モードで、こちらの言う事を何でも聞く設定にしてっと。
「よし出来た。いでよ、セクサロイドたち」
決定ボタンにタッチすると、目の前に成人男性を模したアンドロイドが現れた。
「何この人たち!?」
急に現れた人影にびっくりしてか、3人が俺の背中の後ろに隠れる。
無機質な白シャツに、黒いスラックスという没個性的な成人男性の姿を模したセクサロイドは、パッと見には人工物には見えず、完全に人間と同じに見える。
「ああ、驚かせてゴメン。これは、管理者権限で作り出したアンドロイドだよ」
「さっき、セクサロイドってお兄ちゃん言ってたけど……まさか、これを使って私達と複数人プレイを……」
「ええ!?」
「違う違う! たしかに本来はそれ目的みたいだけど、今回このセクサロイドには作業を手伝ってもらおうと思って。よし、セクサロイド1号から5号。商品の梱包作業を開始せよ」
「「「「「かしこまりました」」」」」
俺の指示に人間のように答えた後、セクサロイドたちは梱包作業を開始した。
「おお、凄い。出来上がりも完璧だ。簡単に作業工程と指示をプログラミングしただけなのに」
「う……私より、包装のリボンの結びが綺麗だぜ」
ぶきっちょな珠里が、セクサロイドたちの成果物を見て驚愕する。
「機械だから無駄のない動きね」
「しかし、セクサロイドたちも、まさかエッチな遊戯じゃなくて内職作業を手つだわされるとは思わなかったでしょうね」
『ここは、セックスしないと出られない部屋です。脱出するには、セックスをする必要があります!(憤怒)』
タイミングよく入ったセッ部屋さんの定型アナウンスが、心なしか怒ったように聞こえる。
「本来は、色々なことが出来るみたいだね。容姿や性格も自由に変えられるし、何でもできるみたいだ」
「「「なんでも……」」」
この時、何気なく言った言葉に3人は過剰な反応を示していたようだが、あいにく俺の方は追加のセクサロイドの配備プログラムを弄っていて、この時は気付かなかった。
「ねぇ、お兄ちゃん。ちょっと管理者用の画面を使わせてくれない? 便利なセクサロイドのアイデアを思い付いたの。お願い~」
瑠璃が、妙に殊勝な声でおねだりをしてくる。
「まぁ、作業は俺とセクサロイドたちだけで問題なさそうだしいいよ。どんなのを作るの? 執事やメイドとかの雑用をしてくれるのとか?」
「そ、それは出来てからのお楽しみだよ」
「ふーん、わかった。じゃあ、セクサロイドの設定用ウインドウを渡すよ」
セクサロイド設定のホーム画面を表示したウインドウを独立させて、瑠璃の方へ渡してよこす。
「ありがとうお兄ちゃん」
「一心、私も私も」
「わ、私もいいアイデアを思い付いたぜ」
それを見た優月と珠里が、我も我もとせがむ。
まぁ、この部屋の催淫ガスやらの設定項目については、セクサロイドの設定画面からは遷移しないから大丈夫か。
「ほいほい」
俺は優月と、珠里にもセクサロイド設定用ウインドウを渡した。
「ちょっと集中して作業するから、むこうの方で作業してるね、お兄ちゃん」
「わ、私も」
「私も集中したいから、そうするぜ」
なんで3人共コソコソしてるんだろ?
俺は疑問に思ったが、内職作業の効率の良いフォーメーションが思いついたので、更にセクサロイドを配置すべく、俺の方も設定作業に没頭した。




