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第47話 信者ファンネルがあんたの人生なんか滅茶苦茶に

「おはよう! 一心……って、瑠璃ちゃん!?」


 補習の教室に入ったら、今朝は妹の瑠璃がいるだろうからと、俺の家への迎えを遠慮していた優月が出迎えてくれたが、横に制服姿の瑠璃が居てビックリしている。


「へぇ~、瑠璃ちゃんって、この学校の生徒だったんだ」


 珍しく珠里も先に着いていて、こちらに話しかけてくる。


「うん、そうだよ。事務所から夏休みを貰ったから、しばらくはお兄ちゃんと学校行くんだ」


「……ん? 何と言うか、昨日と随分と雰囲気が違うな。険が取れたっていうか」

「何か、一晩で急激に兄妹仲が良くなってない?」


 昨日までの瑠璃の俺への塩対応ぶりを知る2人は訝し気な顔で、瑠璃を眺める。


「俺にも、よく解んないんだよ。一晩経ったら、何故かこんな調子でさ」


 俺も絶賛困惑中だ。

 誰か説明してくれ。


「あれが噂の、我が校の宝玉シリーズ独占クソ野郎か」

「おまけにラピス様が妹だと?」

「なるほど。これが殺意と言う感情か。初めて生の感情として理解が出来たよ」

「なんで、あんな冴えない奴に!」


 全員参加ではない補習だから、今日は他のクラスの人たちとも合同だ。

 故に、新鮮な敵意の視線に俺は絶賛曝されていた。



「私のお兄ちゃんにガンたれてるのは、どこの誰? 名乗ってくれる?」


 隣にいる瑠璃が、笑顔で怒りのオーラを発し、一気に教室内の空気が張り詰める。


「あの、その……」


 歌姫ラピスの本気の怒気がこもった視線に、哀れにも標的になった男子が射すくめられる。


「あなた、さっきお兄ちゃんのことを冴えないとか言ったでしょ? 私があなたの名前をSNSで出して『お兄ちゃんに迷惑かけちゃった。私がラピスなせいで……お兄ちゃんゴメン……グスン』とか呟いたら、瞬時にフォロワー3000万人の信者ファンネルがあんたの人生なんか滅茶苦茶に」


「こら、止めろ瑠璃」

「は~い♪ お兄ちゃん」


 もう、何なん!?


 やることがオーバーキル過ぎる!

 なにこれ、ヤンデレ系?


瑠璃の場合はマジで人の人生くらい簡単に終わらせられる位の力を持ってるから、始末が悪すぎる。


「お~い、お前ら席着け、補習始めんぞ~。って、豊島妹じゃねぇか」


 緊張感マックスハートな教室の中に、いつもの気だるげアラサー女教師、足柄先生が登場してアイスブレイクしてくれる。


「足柄先生おはようございます。いつも兄がお世話になっております、豊島瑠璃です」


 途端にピシッと居住まいを正し、瑠璃が丁寧に腰を折りながら挨拶をする。

 先ほどまで、信者ファンネルを差し向けようとしていたようには思えない。


「お、おう。っていうか、豊島妹も補習受けるの? たしかに、一応補習の案内はメールしてたけど」


 突然の瑠璃の登校、しかも何故か夏休みの補習初日と言う、よく解らないタイミングに足柄先生も大いに戸惑っている。


「はい! 遅れた勉学を取り戻せるよう邁進する所存です!」

「ほ~、歌手活動も忙しいのに、感心な心掛けだな」


「はい!」


 ビシッと屹立しながら、模範的生徒な回答をする瑠璃。

 先生の前での態度は完璧だ。


「んじゃ、豊島妹。お前は6組だから、補習の教室はここじゃないぞ」

「……はい?」


 ここで、瑠璃の顔に大いに動揺が走る。


「ここは1組と2組の合同補習の教室だ。6組は違う教室」

「いえ、私はここで受けます」


「優等生の仮面はがれてんぞ。ほら、6組へ行け」

「そ、そんな~。お兄ちゃんと一緒じゃないと私、不安で……何とかなりませんか先生?」


 ここで瑠璃が涙ぐみながら、足柄先生を泣き落としにかかる。


 多分、男の先生だったら、歌姫ラピスの涙目おねだり顔を至近距離で喰らったら、つい了承してしまっていただろう。


「兄妹は別クラスに分けるのがルールなの。バレたら私が教頭に叱られんだろが。ほら、出てった、出てった」


 だが、そこは流石、安定の自分の保身優先の足柄先生。

 瑠璃だろうがお構いなしにぶった切ってくれた。


 先生、俺はあなたに一生ついて行きます。


「しっかし、豊島妹があんな『お兄ちゃんお兄ちゃん』言うブラコン妹だとは思わなかった。愛されてんな豊島」


 教室から瑠璃を追い出した後の振り向きざまに、足柄先生が俺をおちょくってくる。


 やめて、先生。

 周りの視線が痛いから。


「は、はぁ……どうも」


「普通、年子や双子の兄妹って、思春期の頃は関係が微妙で、口もきかなかったりするのも珍しくないんだがな」


「うちも、つい昨日まではそんな感じだったんですがね」

「けど、お兄ちゃんが学校でハーレム築いてるって知ったら、豊島妹も気が気じゃないんじゃないか?」


 ニヤニヤしながら、足柄先生が痛いところを突いてくる。


「だから、ハーレムなんて築いてないですって」

「嫌だぞ。ヤンデレ妹が闇堕ちして、刀傷沙汰とか」


「アハハッ。そんな訳ないですよ。きっとこれも、瑠璃のちょとしたイタズラかゴッコ遊びです。あ! そう言えばこの間、月9ドラマに出演することも決まったから、ブラコン妹役の練習か何かじゃないですかね?」


 足柄先生との会話の中で答えを見出した俺は、ようやく今朝からの瑠璃の不可解な行動に、自分の中で整合性を見出した。


「なるほどな。豊島妹は、仕事にはストイックに本気で取り組むと業界でも評判だって雑誌で読んだな」


 俺の提唱した説に、足柄先生もウンウンと頷いて同意してくれる。


「そうですよ。そういうことだ!」


 第三者の評価に、自身の説への信頼を深める。

 よし、これでスッキリ!


「本当かな……」


「演技であんな本気のメス顔なんて出来ないんじゃねぇの?」


 優月と珠里がボソッと俺への説の反論を唱えていたが、俺は全力で無視する事にした。


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― 新着の感想 ―
 管理者なのに記憶が無くなるのは、もうデフォ。
[一言] 闇墜ちするのも、一人で済むのかw 記憶が無いのが、つくづく救いになっているんですね。
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