7 分かっちゃいるけど……
そうして順調に旅は進んでいくわけだが、勇者の態度は相変わらずだしアイリーン達の様子も相変わらず。
ただ戦闘時に関してはモンスターを倒せば倒す程、残っているモンスター達は強敵となっていき、戦いは激化していった。
するとどんどん露見する勇者との実力差により、アイリーン達は気まずさを感じ始めた様で、更にそれにプラスして勇者自身も「邪魔。」とハッキリ告げたらしく、いや〜な空気が漂い始める。
その結果、基本は周りの弱いモンスターはアイリーン達、強いモンスターや強敵であるユニークモンスターは勇者────という様に分担する事にした様だ。
そのため強敵と戦う際は、勇者だけで向かう事もあり、その間俺とアイリーン達はお留守番。
その日もブチブチと腐るお嬢さん達の相手をしなければならず、家事が進まない。
「あ~ん……勇者様、今頃ユニークモンスター倒しているのかしら〜。近くで応援したいのにぃ~……。」
「きっといつも通りのちょちょいちょいだぜ!ホントにすげぇよな~勇者様は。」
メルクが大きなオッパイに手を添えながら、ふぅ……と悲しげに呟くと、隣でルーンが顔に手を当ててウットリした顔をする。
するとキュアが大きく頷きながら、話に割り込んだ。
「ヒカリ様は、歴代勇者と比べても比較にならない程の力をお持ちですね〜。
残念ですが、私達の出る幕はなさそうです。」
「本当に残念だわ……。せっかくのアピールチャンスがなくなっちゃうものね。」
アイリーンがキュアの言葉に残念そうにため息をつくと、メルクがぷるるんと胸を揺らしながらニヤッ〜と笑う。
「じゃあ戦闘以外の場所でアピールしていくしかないって事かな~♡例えば────夜とか……?」
不穏な言葉に、全員の目がギラッと光った。
「……ちょっとお乳お化け、それはちょっと卑怯じゃない?夜は抜け駆け禁止よ。」
「そうですよ〜。メルクさん、それは下品すぎませんか?」
アイリーンとキュアが同時にメルクを睨んだが、メルクはどこ吹く風。
そんなメルクにルーンが追い討ちをかける。
「へへーんだ!勇者様はそんなおっぱい如きに負ける様な男じゃねぇよーだ!」
「ルーンはまだまだ分かってないわね~。男はみ~んなおっぱい好きなの。ねっ?雑用さ~ん♡」
メルクは突然近くでバサバサとテントの泥を落としている俺に近づいてきて、プルル〜ン♬とおっぱいをつけてくる────が、俺は完全なる無反応。
そのまま気にせず、サッサっ!とテントの泥を落としていると、メルク以外のお嬢さんが大爆笑し始めた。
「全然相手にされてねぇーじゃん!!な~っはっはっ!!」
「プププ~!!普段からお乳自慢してるくせに、ダメじゃなーい!www 」
「 あ……あんまり笑っては可哀想ですよ〜!……で、でも……ふ……ふぐっ!! 」
散々笑われたメルクは、ゴッ!!とドス黒いオーラを垂れ流し、それを全て俺に向けてきた。
「底辺不細工男の分際でぇぇぇ────!!何様のつもりよ!!
こ~んな!美しくてナイスバディの美女が迫ってるんだから、ここは目をハートにして喜ぶところでしょう!!
モブ男!豆粒男!ブ男代表!!ドブネズミ!!」
「あのなぁ〜……。そんな一回り以上も歳が離れたお嬢さんに反応しまくる方が問題だからな?
そもそも俺のストライクゾーンは、40歳以上なんで〜!年上超大好きなんで~!」
ぶっちゃけつい最近立ち寄った、飯屋の女将さんがドストライクだった。
キラッ!と眼を光らせて言うと、お嬢さん達は総出で「キモっ!」「ウザっ!」「きっもち悪りぃ〜!」と散々な言いようだ。
熟女の魅力語ってやろうか!
ププン!と湯気を出し、小一時間程語ってやろうかと思った、その時────。
「……いい気なもんだね。
たかが荷物番しかできない役立たずのくせに、おしゃべりなんて。」
心底蔑む様な目で俺を見下ろす勇者が静かに背後に立っていた。
「「「「勇者様!」」」」
アイリーン達はパァァ!と表情を明るくして駆け寄ろうとしたのだが、ヒカリ君の機嫌は良くないことを悟り、空気を読んで黙り込む。
俺もチラッとヒカリ君の方を見て、めちゃくちゃご機嫌斜めな事を知った。
「おかえりおかえり〜。温かいお茶沸かしたから飲めよ。お疲れ様。」
鍋に入れて沸かしていたお茶をコップに入れて、差し出したが────……。
────パンッッ!!
その手を振り払われてしまい、そのままコップは吹っ飛んでいってしまった。
「ムカつくからやめろって何度も言ってるのに……何でそんなにしつこいの?
あんたのヘラヘラした能天気な顔見ると腹が立つんだ。
まぁ、誰かに媚びへつらうしかないから必死なんだろうけど。」
嫌そうに歪められた顔は、心底俺の事を嫌っている事が分かる。
しかし……。
「まぁまぁそう言うなって。もう一週間も戦いっぱなしじゃないか。
いくら物凄く強いからって人間、寝ないともたないぞ。」
俺が荷物番をしている所にヒカリ君が帰ってくるのは、基本はご飯の時だけ。
それすらもほとんど帰って来ないもんだから、心配でこうして帰ってくると、あれやこれやと面倒をみようとしてしまい────こうして大激怒をくらう。
話しかけるなオーラをビュンビュンと漂わせる勇者様。
それに嫌われたくないお嬢さん達は、こうした時は示し合わせた様に静かだ。
俺もねぇ〜分かっちゃいるんだよ。分かっているけどさ──……。
「せめてかぼちゃの煮物作ったから食べてけよ。あと豚の角煮も作ったからさ。」