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6 悪くない

ワンワンワンワン!!


餌をよこせ!と騒ぎ出し、食べる時は静か……そしてその後は、やんちゃして遊び、泥だらけで帰ってくる。



その後洗うのが大変だったんだよな~……。



両親がまだ生きていた頃の思い出をフッと思い出し、四人は一応自分でお風呂に入ってくれるのだからそれよりイージーだ!と笑ってしまった。


そしてそんなワンワン達の中、モソッとやってきたのは唯一のツンツン猫ちゃん枠。


勇者ヒカリ君。


猫ちゃんは、他のワンワンがはしゃいでいても我関せず。


マイペースにやってきてツンっ!としながら文句一つ言わずに渡したシチューを食べ始める。


それをニヤニヤしながら見ていると、ヒカリくんが突然俺を冷たく睨み返しながら話し出した。



「あんたさ、体だけじゃなくて頭も弱いよね。

無理やり召喚されて、こんな雑用させられて何で怒んないの?」



大ちゅき~な勇者様が俺の悪口を言い出したもんだから、ハーレム美女たちはココぞとばかりにそれに乗って、『加齢臭おじじ』だの『ひょろひょろおっさん』などブーブー言い出したが……。



『おかわりあげないよ?』



そう言わんばかりに手に持っていたおたまを振ると、大人しく口を閉じた。



「そりゃ、確かに凄く困っているけどさぁ、何かここまできたら諦めるよ。

どうしようもないみたいだし……。

幸い今は仕事も暇な時期だったし、俺がいなくても仕事は回るだろうしな。」



「…………。」



それを聞きヒカリくんは一瞬黙った後、黙々とシチューを食べる。



ヒカリ君は基本は常に無表情、無感情でモンスターも淡々と倒していく、何処か機械的なモノを感じる青年だった。



ただ目の前にいるから倒す。


それだけの様で、そこに何も感情はないような感じ。



なんだか不思議な青年だな~。



そう思いながら、俺も鍋に残ったシチューを黙々と食べていると、食べ終わったヒカリ君はそのまま空になった木製のお皿をポイッと俺の足元に投げ捨てた。



「いてもいなくても誰も困らない存在って生きている意味、あんのかな?何だかあんた、可哀想だね。

ほら、仕事あげるよ。嬉しいでしょ?」



無表情で淡々とそう言った勇者様に、全員がプププ~と笑いを漏らす。


クスクスと全員が笑う中、俺は足元に投げつけられたお皿を拾い、割れてない事を確認してホッと息を吐いた。



何故か勇者様の俺への当たりがドキツイ。


正直理由はサッパリ分からないが、多分せっかく神様から貰ったプレゼントが美少女じゃなかったからだと思われる。



もう既に感心すらなく、目線を逸らしてしまったヒカリくんへ俺はチラッと視線を向ける。



まぁ、確かに気持ちは分からないでもないんだよな~……。



あぁ~……と唸り声をあげながら、労わるように目元を覆って揉み込んだ。



例えば漫画とかのヒロイン枠。


そこにおっさんがキュムっと入っちゃえば……。



『勇者様……私を庇って……!』


『……大丈夫。君を守るためなら、こんな怪我……大したことない……。』


『ゆ……勇者様ぁぁ~……!』



ヒロインを庇った勇者は怪我を負い、それをヒロインは泣きながら手当する。


そして芽生えていく恋心に身を任せやがて二人は~……────展開のヒロイン枠に俺をいれてごらんよ。


ちょっと何やってんの?ってなっちゃうもんな。


吹き出さない様にニッコリ笑顔で固まると、ヒカリ君は非常に嫌そうに顔を歪めた。



「気持ち悪い……。こんな事言われてもヘラヘラして、プライドもないんだね、あんた。

俺、あんたみたいな中年を見ると気持ち悪くて嫌な気分になる。

これから出来るだけ俺の視界に入らないでね?」



まるで虫を見るかの様な目で俺を見下ろしたヒカリ君は、そのまままたさっさとモンスターを倒しに行ってしまった。


そしてその姿を見たアイリーン達は慌ててシチューをかきこみ、同じく皿を俺に投げつけそのまま後を追っていく。


その姿を見つめながら、全く……と俺はため息をつきながら皿を拾った。



ちょっとした若者によるおじさん虐めみたいな状態になっているこの勇者パーティー。


そんな不穏な雰囲気でも、とにかくヒカリ君が強いため順調にユニークモンスターなる普通よりもうんと強いモンスターもバッサバッサと問題なく倒されていっているらしい。



正直ヒカリ君一人で全く問題ない程に……。



俺はお皿を持って川の方へ行くと、それをコシコシ……と洗い始めた。


すると遠くの方でドンドン!という戦闘音が聞こえて、頑張れ~頑張れ~と心の中でエールを送る。



アイリーン達はそんなアホみたいに強いヒカリ君に必死についていくわけだが、きっとそれはヒカリ君だけで本当は十分である事を知っているからこそ必死なんだと思う。



「多分、自分は役に立っているんだ!と大好きな勇者様に見せたいんだろうな。」



そう考えると、癖の強いお嬢さん達も微笑ましい。


そして────同時にあんなにも皆に必要とされ誰もが求める勇者様に複雑な気持ちを抱いた。



「う〜ん……。何だかまるで死んでる人みたいなんだよな……あの意地悪猫ちゃん。」



どうにも俺はあのガンガン意地悪してくる勇者様の方が『生きてる』って感じがして、実は落ち着いたりする。



意地悪してやるにゃん!


俺はこ〜んな悪い子だからこっち見て!!



モワッと頭に浮かんだヒカリ君のイメージに、誰もいないのをいいことに、ふぶ────っ!!と思い切り吹き出した。



おいおい、相手は無敵のチート勇者様だぞ〜?



ヒーヒー好き放題笑った後、たまに見える変な線のことも同時に思い出した。


ヒカリ君と『その他』を分ける変な境界線。



それは不思議な事にフッとした瞬間に現れ、また気まぐれに消えてしまう。


しかも、どうやらその線……アイリーン達には見えない様なのだ。


更に────。



「何だかヒカリ君が悪い事を俺に言っている時、少し近づく様な気がするんだよな~……。」



う~ん……と考え込んだが、結局考えても分からず、基本変な夢的な扱いでいいだろうと納得しておく。



まぁ、結局のところ、今の状況もそんなに悪いもんではない。


色んな綺麗な景色見れるし!



貴重な体験に意識が向き過ぎて、怒りも特に湧かない俺は、大きく伸びをすると、パンっと両頬を叩く。


引き続きアイツらが戦い易い様に、裏方頑張るか!



そう決意をし、皿を洗い終わった俺は次の夕飯を作るため、荷物がある場所へと戻っていった。



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