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5 俺の職業

ゲームクリアー後の特典、能力そのままでニューゲーム的な?


聖職者のお兄さん改めシンさんは、相変わらず一切興味なしな様子の勇者様を指し示し、ペコリと頭を軽く下げる。



本当に凄いんだ、勇者様って。



改めて勇者ヒカリ君を見ると、まるで当たり前だと言わんばかりに黙って堂々と立っている。


更にそんなヒカリ君を周りにいる誰も彼もが、キラキラした目で見つめていて────。


『理想』


『憧れ』


そんな想いが向いているのを感じた、その瞬間……突然大きな大きな境界線が、皆とヒカリ君との間に見えた気がした。



何じゃこれ??



突然勇者様の足元に轢かれた横一線の線を、目で追っていくと、どうやら王宮の壁も超えどこまでも続いているようだ。



一体どこまで続いてるんだろう……??



突然目の前に現れた境界線。


その端を見つけようと、窓の外までその線を見て辿っていたその時────突然パンッ!と肩を叩かれた衝撃で、ハッ!と我に帰る。



「では、異世界人様!水晶に手を触れて下さい。必ずや稀有な能力があるに違いません!

是非その能力で勇者様の手助けを〜……。」



シンさんに肩を叩かれた瞬間、見えていたはずの線は、跡形もなく消えてしまった。



あれ?線が消えちゃったぞ……?



さっきまでハッキリ見えていた線が消え、何だか狐に摘まれた様な気分でキョロキョロしたが、そのままシンさんに背中を押され、水晶の前まで連れて行かれてしまった。



水晶の前に立ち、チラッともう一度周囲を見渡すと、一応は全員興味はあるみたいで一斉にこちらを見ている様だ。


そんな生まれて初めての大注目にドキドキー!!と心臓は大きく跳ね上がる。



「今まで容姿がアレな人達は、それはそれは素晴らしい戦闘能力をお持ちで、最後まで勇者様の背中を守り切ったそうです。

異世界人様も恐らく、そのか弱き枯れ木の様な肉体にそぐわぬ戦闘能力が……!」



「なんかさっきから、俺すっごい悪口言われてませんか……??」



サラッと言われる暴言の嵐に、流石に怨みがましい目を向けてしまったが、シンさんは『ノノノノ〜!』と首を横に振って否定した。



まったく……とため息をつきながら、目の前の水晶に視線を移す。



話を聞く限り、恐らく容姿が優れている者はいわゆるヒロイン枠。

そして優れてない者は勇者の相棒枠────といった所だろう。



冷静にそう考えると、俺はじわじわと喜びの感情が湧き上がってきたのを感じた。



平凡な俺が、勇者の相棒という最高に目立つ立場に!

オール平凡おじさんの俺に、そんな転機が訪れるとは……神さまどうもありがとうございます!



誘拐犯紛いの神様に一応感謝を告げた後、頭の中でそのチート能力が判明した時に言うセリフを考え込んでいると────……。



「早くしなさいよ、このノロマ。」



いつの間にか背後にいたアイリーンに思い切り蹴飛ばされ、そのままベチャッ!!と水晶にくっついてしまった。


するとその瞬間、何やら頭上に浮かび上がったらしく、シーン……と痛いほどの沈默が場に降りる。



「────し、しまった!!

え、ええっ〜と!『あれれ〜?俺、何かやっちゃいました〜?』」



とりあえず職場の後輩から聞いた、有名らしいセリフを言ってみたが、突然ドッ!!と全員が大笑いをし始めてしまった!



そ、そんな面白いセリフだったの!?



驚いてキョロキョロしていると、後ろにいたアイリーンが水晶の上辺りを指差し苦しそうに息を吐く。



「あっ……アンタに似合いすぎる職業だわ〜!!だ、だめ!お腹痛〜い!」


「んん〜??俺に似合う職業って……?」



ソロ〜と上を向いた俺の目に飛び込んできた文字達。


それを見て、俺の顔から全ての表情は消え失せた。




<荷物番>


【イシ】


雑用全般、魔力ゼロ、適正ゼロ。


特殊能力<覗く>




ガガ────ン!!



ショックで固まる俺。


そして大爆笑の周りの人たち。


そんな中、唯一笑ってない勇者様はボソッと言った。




「役立たず。」



そうして今に至る。




「ハァ〜……。散々だよ、全く。」



俺は洗い終わった洗濯物を、木と木を繋いだ紐の上に掛けていくと、そのままその後の事を思い出した。


結局これでは旅に連れていくわけには……と、言葉を濁す面々に『待った!』をかけたのは、勇者パーティーの美女達だ。



「いいんじゃない?雑用係。戦っている間は、荷物番して貰えるし。

こんなおじさんなら安心してこき使えるし、使いやすそう。」



アイリーンがニヤッと笑いながらそう言うと、それにリーンやメルク、キュアと賛同する。



「野宿の時なんか、そういう奴がいた方が楽だし、何より────……。」



「美少女じゃない方が都合良いものねぇ〜♡ライバルが減って♡ 」



「これだけ弱いと襲われそうになってもボコボコにできますしね〜。

『覗く』って言う能力は気持ち悪いですけど。」



四人はお互いアイコンタクトをしながら、最後はニッコリと笑いながら俺を見た。


いや、襲わないし、覗いたりもしないよ!


心外だ!とばかりにププン!と頭から湯気を吹き出したが、鼻で笑われて、そのまま勇者パーティーに強制参加させられる。


そして、何とも壮大な旅が始まってしまったというわけだ。



勇者パーティー相棒役でも、ましてやヒロイン枠ではなく、雑用として……。



────ぱんっ!!


最後に丸まった洗濯物を振ってピンッ!とすると、そのまま紐に掛けて洗濯は終了。


続けて俺は、先程火を付けたシチューが入った鍋の様子を見に行った。



グツグツと煮込まれた鍋からは、シチューのいい香りが漂ってきて、ゴクリっと喉を鳴らす。


つい食べてしまいたくなるが、皆戦って腹を空かせているだろうし、我慢我慢。


非戦闘員の俺は、黙々とみんなの為に鍋をお玉でかき混ぜた。



「あ〜お腹すいた〜!おじさん、ご飯ー。」


「肉がたくさんがいい!大盛りな〜!」



その直後、アイリーン、ルーンが真っ先にその姿を現すと、続いてその後ろからはかったるそうな様子のメルクとキュアが続く。



「肉少なめ〜野菜多めでお願いねー。」


「汗を拭きたいので、冷たいタオル下さる?」



ギャーギャーとやかましいお嬢さん達にハイハイと言いながら、まずはキュアに冷たいタオル。


そして順番にシチューが入った皿を渡し、黙々と食べ始める四人を見つめると、思わず遠き日へ意識が飛びそうになった。


その姿は、小さい頃に飼っていた犬とほぼ同じ。


俺的には今の状況は、ただただ懐かしい。



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