28 栄光のロード
直ぐに起き上がり「バカヤロー!!」「一言謝れ!」と、空に向かってたらふく文句を言ってやった。
すると、正面からアイリーンに口元を捕まれ、左右の腕はキュアとメルクに、そして背中にはルーンが飛び乗り、ギャーギャーと止めてくる!
「神様になんて罰当たりない事を!今直ぐ土下座して下さい!」
「いや、なんでだよ!俺あいつに無理やり攫われてプレゼントされたんだぞ?!流石の俺だって物申す!」
キュアに怒られたがどう考えてもおかしいので、頭に湯気を出しながら言い返すと、その瞬間メルクがププーッ!と吹き出す。
「ええ〜こんなプレゼントいらな〜い。」
「「「私も〜。」」」
「お前ら……もう二度と砂糖パンあげないからな。」
揃いも揃って酷い事を言ってくる四人に、最終宣告してやった。
砂糖パンは、砂糖をまぶしたパンの耳をサクッと揚げた、地球ではスタンダードなおやつパン。
この四人、一回作ってやったらすっかり気に入った様で、緩やかな山道をテクテク歩く時は、結構な頻度でおねだりしてくる。
一昨日揚げてストックしておいた砂糖パンを、多次元ボックスから出してピラピラ振ってやると、揃いも揃って『ごめんなさ〜い!』とばかりにくっついてきた。
それに大きなため息をつきながら、砂糖パンをあげようとした、その時──────。
「……ねぇ、何やってんの?」
ヒヤッ……と、真冬もびっくりな冷たい目をしたヒカリ君がご登場。
思わず動きをピタリと止めるとその直後、アイリーン達の顔は真っ青になって汗をダラダラと垂らしながらその場に尻餅をついてしまった。
ちょっとオーバーリアクションじゃない……?
呆れた様に四人を見下ろしていると、突然グィッ!と腕を引っ張られて、正面から睨まれる。
な、なんかすっごい怒ってる……。
今まで見た事ないレベルで怒ってるヒカリ君にオロオロしていると、突然ヒカリ君が怒鳴りだした。
「イシは俺のギフトだろっ!!!汚い手で触るな!!」
初めて聞いた本気の怒鳴り声にとにかく驚いてしまったが、とりあえず怒り狂っている理由はなんとなく理解する。
『俺のハーレム女子達に触るな!!』
これかぁ〜……。
その事実と、先程のショックも同時に思い出し、ハハッと乾いた笑いが漏れてしまった。
確かにさっきの光景だけをパッと見ると、俺が美女達にチヤホヤされているバーレム主人公の様に見える。
しかし実際はイケメンチート青年を差し置いて、モブおじさんがモテモテ……な〜んて、絶対ないない。
そこはホント安心して〜。こいつらの目的は、甘いパンだから!
遠い目でニッコリ微笑み、頑張ってモンスターを倒してきたらしいヒカリ君の肩を労わる様に優しく叩いた。
「誤解させるような事してごめん。もう触ったりしないから安心してくれ。
あいつらの目的は、ハッキリしてるから勘違いもしないよ。(砂糖パン欲しい。)」
「本当に?本当にもう大丈夫?もう絶対触らないでね?
…………まぁ、原因を消しちゃうのが一番良いと思うけど。イシの体に悪いだろうし……。」
ヒカリ君はそう言うと、ジロっ……とアイリーン達を睨みつけた。
『俺のハーレム女子にもう触らないでね?原因である砂糖パンは全部処分しよう。砂糖は体にあんまり良くないし。』
手に持っていた砂糖パンをキュッと握って庇い、ブンブン!と首を横に振る。
「消しちゃうのはやめてくれよ。体に悪いものでも、多少は必要なんだ(糖分摂取でストレス解消〜♬ )」
「……そうなんだ。でも邪魔だし嫌だ。頭にくる。消せないならどうすればいいの?」
「????? 」
砂糖が邪魔って……なんだか変な表現だな……。
ちょっと悩んでしまったが、多分糖分を摂取し過ぎて増えてしまう脂肪の事を言っている様だ。
う〜ん?と、俺は知恵を絞ってその解決法を考えてみた。
基本それを消すには運動一択じゃないかと思う。
しかし、モンスター討伐しているヒカリ君に、これ以上動けは無理だし……様々なストレスからくる肥満もあるし?
だから一応自分のストレス解消法でも教えてやるか……と決めた。
「俺は嫌なことがあると、茶色い排泄物の絵をとにかく沢山描くんだ。
隙間なく描かれたそれを見ると、ストレスがなくなる気がするんだよね。
ヒカリ君も、今度やってみるといいよ。最高にスッキリするからさ。」
誰にも理解されないストレス解消法だけどねぇ〜!
ハハッと笑いながらそう教えてあげて、更にさっき肩を叩いた際についてしまった砂糖パンの砂糖達をパッ!パッ!と払ってあげる。
「ふ〜ん……分かった。」
ヒカリ君はアイリーン達を睨みながら頷くと、そのまま来た時同様俺をおぶさり、また空を飛びながら王宮まで戻ってくれた。
◇◇◇◇
「お帰りなさいませ────!!!勇者様!!」
「「「「お帰りなさいませ────────!!!」」」」
王宮に帰ると、まるでお祭りの様な大騒ぎになっていて、誰も彼もが涙を流して喜んでいた。
世界が救われたのだから、そりゃ〜そうか!
その場の楽しそうな雰囲気に自然と胸が弾む。
ヒカリ君の背中から降ろしてもらいワクワクしながら周囲を見回していると、突然遠い所から勇者様のお出迎え用の真っ赤な絨毯が一瞬で敷かれた。
まさに栄光のロード!
ふわふわキラキラの道が目の前に出来て感動していると、ササッ!と道の脇から飛び出してくるのは、沢山のご馳走やキンキラキンの宝石、見るからにお高そうな金細工のアクセサリーなどなどを持ったコックや商人の人達。
全員が跪いて手に持つ宝物の様なモノを、惜しみなくヒカリ君に差し出す。
ティッシュ配りのスーパーセレブバージョンだ!
多分この先二度とお目にかかれない光景に目を輝かせていたが──────ヒカリ君はそれにピクリとも反応しない。
キラキラしたものやボリューミーなお食事は、好みではない様子。
それを見て……なんだか俺は複雑な気持ちを抱いた。




