27 えっ?そうなの??
そうして気がつけば朝日を迎えていて、ぬくぬく極上の眠り心地の中、俺は目を覚ます。
しかも寝ぼけて昨日の事をすっかり忘れている俺ときたら、目の前の暖かい固まりにスリスリと顔を擦り付け、貪欲に睡眠を貪ろうとしたが……頭を撫でられる感触を受け、意識は完全に覚醒した。
暖かいが、非常に硬い物体。そして体に回るガッチリした両腕……。
一瞬で昨日の出来事を思い出して、慌てて顔をその暖かい固まりから離せば────そこには幸せそうに微笑み、俺を撫でているヒカリ君の顔があった。
「……ご……ごめん。」
チョロっと顔を覗かせたおヒゲを、年若い勇者様の胸に擦り付けてしまった……。
流石にヒェッ!と肝を冷やしていたが、ヒカリ君はそのまま撫で撫でと俺の頭を撫で続けた。
「何で謝るの?イシは何をしてもいいのに。でも……なんでだろうね?
イシがそうやって俺を見て、俺に触れると……何だか心臓がギュッと掴まれた様な気分になるんだ。……不思議。」
不快MAXにより、勇者様の心臓がもたない。
『心臓を鷲掴みされるほどの不快を感じているぞ!』
そう直接的に伝えられ、ドバッと嫌な汗が流れ落ちる。
今更だが、少しでも離れるか……と考え、モソモソと離れようとすると、ヒカリ君の顔から笑顔が消えて、そのまま俺の顔を自身の胸に叩きつけた!
「そっか……逃げようとするんだ。……早く消さないとね、帰り道。」
何かをボソボソと呟いていた様だが、叩きつけられたせいで息ができないプラス「モガモガモガ〜!!?」と必死に叫んでいたため、何も聞こえない。
それにやっと気付いてくれたヒカリ君は、直ぐに俺の顔を開放し、九死に一生を得た俺にまた優しく微笑んだ。
「じゃあ、はやく旅を終わらせよう。──────うん、決めた。今日中に終わらせる。楽しみだね。」
「えっ?……あ、う、うん……??」
唐突な話に驚いたが、何とか返事を返しておく。
ヒカリ君はその後ご機嫌で俺を抱っこしながらテントの外に出ると、そのまま優しく下へと降ろしてくれて、一瞬で消えてしまった。
「今日中に終わらせる……?」
その背中を見送りながら、ジワジワと言葉の意味を理解すると、大きなショックを受ける。
『早く終わらせて変なおじさんを地球へ返してやる!』
想像の中のヒカリ君に罵られながら、もはや条件反射の様に朝ごはんの準備に取り掛かった。
「今日中に……変なおじさんを帰す……。」
半分意識を飛ばしながらスープをかき混ぜていると、大あくびをしながら女子用テントからアイリーン達が出てくる。
「あら?勇者様は?」
アイリーンが目を擦りながらそう言うと、俺は意識半分で「なんか……今日中に旅を終わらせるって……。」と、先程のヒカリ君のセリフをそのまま伝えると────四人は顔を見合わせ、ニヤリッと笑った。
「へぇ〜〜?やっぱり勇者様はアンタといるのが苦痛だったって事じゃない。やっぱりね〜!」
「こ〜んな冴えないおじさん相手に可笑しいと思ったのよねぇ〜?
────って事は、今までからかって遊んでたって事じゃない?プププ〜!ご愁傷様ぁ〜♡」
アイリーン、メルクの立て続けの言葉に、いつもはどうってことないのに、グサグサと心に突き刺さる。
やっ……やっぱり俺、嫌われていたのか……。もしくは昨日、何か気に障る事をしちゃって……?あ、さっきの髭スリスリの可能性も……?
ガガ────ン!と更にショックを受けていると、今度はルーンとキュアまでトドメをさしてきた。
「おっさんが弱すぎて迷惑ばっかりかけるからだぜ!だっておっさんといると、勇者様が何でもやってやらなきゃ駄目だもんな!」
「異世界人だからといって調子に乗らない事です。
どうせ直ぐにご自分の世界に帰って二度と会えないのですから、このまま大人しくお帰り下さいね。」
────ズギャギャン!!!
とんでもなく重い攻撃を心に受けて、大ダメージ!
ズズズン……と、肩を大きく落とした俺を見て、四人はヒソヒソと囁き合う。
「……ちょっと言い過ぎたかしら……?」
「そうねぇ……。でも、何かが芽生える前に摘み取らなきゃね☆」
「早くあのおっさん帰さねぇとヤバいって、獣人の勘が言ってるぜ!」
「きっと吊橋効果というモノでしょうから、イシさんが帰れば落ち着くでしょう。」
ボソボソボソボソ〜!と言い終わった四人は、その後お互いの手を叩き合い、今度はニコニコ笑顔でご飯のお皿を持って待機。
ショックで固まってしまった俺は、まるでゾンビの様にフラフラとそのお皿にスープを入れていった。
そうしてボンヤリしたまま洗濯物を川で洗っていると、突然空が薄暗くなりオーロラの様な七色の光が空に出現したため、ギョッ!と目を見開きながら空を見上げる。
「なっ……何だ!?これは……!」
謎の現象にオタオタ慌てる俺と違いアイリーン達は冷静で、更にその場に跪いてお祈りまで始めてしまった。
何をしているのかと訪ねようとした、その時────空から女とも男とも判別がつかない声が聞こえ始めたので、口をピチッと閉じてその声に耳を傾ける。
《神に選ばれし勇者よ。お主のお陰でたった今、世界は救われた。最大限の感謝の言葉を贈ろう。
よって大義を果たした勇者には褒美として明日の明け方、王宮の祈りの間にて【全能杯】を授ける。
そして異世界より召喚されし者よ、お主もご苦労であった。勇者が願いを【全能杯】に捧げた後、元の世界に戻してやろう。
戻る時間は、召喚された瞬間に戻れる様にした故、安心して時を待て。────では、さらばじゃ。》
言うだけ言ってさようならされた後、空は元に戻った。
「な……何だったんだ??」
呆然と突っ立ってた俺に気づいたアイリーン達は、突然ガミガミと怒り出す。
「あんた、何突っ立ってんのよ!!神様に対して不敬にも程があるわ!!」
「えっ!!今の神様なの?!そ、そっか、それは失礼だったな。」
今更ながらビシッと90度、サラリーマンのお手本の様なお辞儀をしたが、ハッ!我に帰る。
客観的に見れば、俺は勝手にプレゼントとか言って攫われた被害者。
文句言っていいんじゃ……?




