25 ……すればいいか
この時点でもう食べたい────が、ここで最後の仕上げ!
特性だし入り醤油を垂らせば……霜降り牛もびっくりのトロ旨香ばしキノコステーキになるのだ!
ホカホカ〜熱々〜!
出来たてほやほやのびっくりキノコステーキを前に、衝動的に齧り付きそうになったが……直ぐに顔を背けて、その魅惑の香りから遠ざかる。
「ヒカリ君が戻るまで、食べるのは我慢だ。我慢……我慢……っ。」
頑張ってモンスターを倒しているヒカリ君に、一番最初のをあげよう。
そう考えて、出来たてホヤホヤのびっくりキノコを皿に乗せようとした、その時────……。
「イシ、それ何?」
上から覆い被さる様に見下ろすヒカリ君と目が合った。
「あ、あれ?ヒカリ君忘れ物?」
あまりにも早いご帰宅だったのでそう尋ねたが、ヒカリ君は首を横に振る。
「沢山倒してきたよ。早くイシのご飯が食べたかったから。」
「そっかそっか〜。」
気分は、常連さんが出来たお店の店長!
照れ臭くて、へへっと笑いながら、手に持ったびっくりキノコを差し出した。
「沢山焼くからいっぱいお食べ!美味しいぞ〜。」
するとヒカリ君は素直にそれを受け取り、そのままムニニ〜と齧り付く。
────ジュワッ!!
その瞬間、熱々の旨味汁が溢れ出した様で、ヒカリ君はハフハフと熱そうに息を短く吐きだした。
そして────……。
「うん……美味しい。カボチャの煮物の直ぐ下……ぐらいかな?」
真剣に考え込む様な顔に、堪らず吹き出してしまった。
自分なりに『好き』の順位をつけるとは可愛いではないか!
ニコニコしながら、次の分を焼こうとすると、目の前のズイッと差し出されたびっくりキノコに、目が寄る。
「美味しいから一緒に食べよう。」
「えっ?!いいの?────うわぁ、ありがとう!じゃあ、早速────……。」
串に刺さっているキノコに齧りつくと、口の中に飛び出すキノコ汁とバター醤油の美味しさに、思わず目を閉じて唸り声をあげてしまった。
これは美味しい!!
そのままアグアグと必死に食べていると、ヒカリ君は嬉しそうに笑う。
その笑顔が凄く綺麗で思わず見惚れていると、それから怒涛の質問ラッシュを受ける俺。
「コレ、どうやって作ったの?」
「コレはなんて料理名?」
「何処でそれを知ったの?」
ヒカリ君は、とにかく世の中の色々な事が気になり出したのか……俺が寝たきりの時も、あれこれと俺がする行動や言動の全てに説明を求めてきた。
そしてそれは継続中のようで、今はびっくりキノコのバター醤油焼きについて興味津々の様だ。
だから俺は、それを丁寧に教えて差し上げる。
「バターで炒めて醤油をタラリッだよ。」
「『びっくりキノコのバター醤油焼き』だね〜。」
「もっと小さいキノコだけど、俺の故郷でよく食べられる料理だからさ、作ってみた。」
そうやって答えると、最初は嬉しそうにするヒカリ君だったが……何故か最後の言葉に不快感を漂わせる。
「故郷……ねぇ?ふぅ〜ん……。イシは、早く故郷に帰りたいの?」
「うう〜ん……一応あっちには、仲良しの友達もいるからね。帰らないと。きっと急にいなくなった俺を心配していると思うんだ。
仕事も何も言わずにこんなに休んで、きっと迷惑掛けているだろうから、クビになってても誠心誠意謝罪するつもりだよ。」
あちゃちゃ〜!と、悲しみに嘆き、頭を抱えた。
俺、異世界から『へいへ〜い!』とノリノリで帰ったら、絶対無職!
再就職の道は狭き門……こればっかりは根性で何とかするしかないぞ!
────ゴゴゴッ!
一人で気合の炎を燃やしていると、ヒカリ君がボソッと……小さな声で呟いた。
「────を、────ば……いいか……。」
小さすぎて良く聞き取れなかったため、聞き返そうとしたその時────「待って〜!」という、アイリーン達の声が聞こえてそちらを向く。
すると、ヒィヒィと汗を垂れ流してコチラに向かって走ってくる四人の姿を見つけた。
「そ、空を飛んでくなんて……そんなの絶対追いつけないじゃない!
でもそんな勇者様素敵!」
「そうよ、そうよぉ〜。でも勇者様凄いですぅ〜♡まさか魔力をそんな使い方するなんて♡ 」
汗だくでキラキラと目を輝かせるアイリーンと、両肘でムギュッ!とおっぱいを寄せながら顎に手をつけるメルクは、本当にブレない。
そして、そんな二人の後に続いてキャキャっ!と騒ぐルーンとキュアも────悲しいほどいつも通り〜!
俺が呆れてため息をつきながら、せっせッとびっくりキノコを焼き始めると、四人はいつも通り俺を標的にしてギャーギャーと騒ぎ出す。
「そもそも、なんでおっさんが勇者様におんぶして貰ってんだよ!ずりぃ〜ぞ! 」
「そうです!勇者様に負担をかけるなんて、許されませんよ!」
ルーンとキュアが俺を指差しそう怒鳴ると、それに便乗してヒートUPする四人娘達。
そんな皆の八つ当たりをバックミュージックに、ハイハイと流しながらひたすら家事。
それが異世界の日常だったのだが────……。
「イシに近づかないでくれる?それに煩くてイシの邪魔。」
────ズバッ!
ヒカリ君が、ものすご〜く冷たい目で睨みながら言い切ったため、四人は特大のショックを受けて消沈する。
そして、『フンっ!言ってやったぞ!』的な顔をするヒカリ君を見て────今までのヤンチャな勇者にゃんにゃんが頭を過った。
『キモい!』
『ウザい!』
『消えろ!』
毎日の暴言は、もはやお祭りヤッホイレベル。
毎食後のお皿投げは、ワンちゃんのフリスビー投げの如し……。
片や家政婦扱いにパシリ、片や軽いDV、モラハラ、八つ当たり……果たしてどっちがマシなんだろう?
「……うう〜む?」
本気で悩んでしまったが、結局ショックを受けたアイリーン達はおきあがりこぼしの様に即座に復活し、『いつも無視されるけど、話しかけられちゃった〜♡』と嬉しそうにしていたので、結局流す事にした。
まっいっか!
ワンワンとニャンニャンにパンチされたと思って、昔の事は忘れよ〜っと!
完全に割り切った後、俺は無言のまま不機嫌オーラを出している勇者様と、キャピキャピしている勇者ハーレム女子達のために、ひたすらご飯を作った。




