22 これぞ、ざまぁ!
「こ……怖かった……。本当にどうしたんですか?あの変わりようは……?」
「多分精神が落ち着いたからだと思うんですよね。ほら、ヒカリ君ってついこの間まで反抗期でしたから。
どうもそれをぶつけちゃった俺に、恩義を感じてしまったみたいです。あと煮物が好きだからでしょう。」
「は……反抗期……??ちょっと遅すぎませんか?それに煮物って……。」
複雑そうな顔で唸るシンさんに、俺はヤレヤレとため息をついた。
大人の反抗期は本当に大変で(って職場のおばちゃんが言ってた)、やはり適正な時期に反抗期はあるにこしたことはない(って職場の……)。
ヒカリ君は現在20歳。
あのツンツンっぷりは絶対に反抗期!もしくは中2さんの病気。
そして何故か、俺がそのターゲットになってしまったと……俺はこの数日間寝ながら結論を出した。(寝てて暇だったから。)
「アイリーン達に話を聞いたんですけど、生まれて直ぐに親御さんと離してしまったのは、良くない事だったと俺は思いました。こちらにはこちらの事情があったかもしれないですが……。」
親がいない寂しさは、おいそれとなにかで埋められるモノじゃないし、そもそも反抗期だって結局は安心できる場所で起こすもの。
もしかしたら、この世界の人=守らなければならないモノと思って緊張していたのかもしれない。
そう考えると、ヒカリ君は俺の事を一応は安心できる場所であると思ってくれていたのだろうか……?
それを考えると、ムズムズとした感覚が身体を走る。
何かそれって嬉しいな!
『イシ』
『イシ』
記憶の中で俺の名前を呼ぶヒカリ君を思うと、嬉しい気持ちが溢れてきた。
なんだか反射的に『ありがとう』と言ってしまいそうだ。
ジ〜ン…………。
感動に震える胸を抑えていると、シンさんが困った様に笑った。
「私もそれはよくない事だったと思っています。
……勇者とは、皆の希望と同時に偶像崇拝の対象でもあります。つまり嫌な言い方をすれば、神様の身代わりですね。
それには常に完璧で、神のイメージを壊す人の『感情』をできるだけ抑える必要がありました。
だからまだ赤子の頃から人の世から離れて教育をするよう、古来から決まっていたのですよ。」
「えっ!!ちょっとそれは酷過ぎませんか?ブラック企業どころじゃない!」
思った以上に酷いやり方に怒りを口に出すと、シンさんは益々困った顔をする。
「仰る通りですよ。声を大にして言えませんが……こんな事、上層部の神官長達や一部の貴族達にとって都合の良い『神様』を創り出す行為でしかないと思っています。
しかし、それに否を唱えればきっと憎まれ、最悪殺されるでしょうね。
利益に目が眩んでいる上層部の者達には勿論、勇者を神と妄信している国民達にも……。
人は都合の良いモノを作りたがるモノですから……。」
「…………。」
なんとも酷い話で、ズンッ……と心は重くなってしまった。
様々な思惑と、人々の想いが絡まり、ヒカリ君は神様になっている。
……うん、それは良くない。
俺はすっかり肩を落としてしまっているシンさんに視線を向け、ニヤリと悪い顔で笑ってやった。
「じゃあ、今の状況は『ざまぁみろ!』ってヤツですね!
ヒカリ君には、これからどんどん自分の意思が生まれるでしょうから。
反抗期を終えた子たちの成長は、止まりませんよ〜。
それを押さえつけようとした親たちなんて、あっという間に置いてかれて前に進んで行っちゃいますから!────って職場のおばちゃん上司が言ってました。」
オロオロと慌てふためく悪い上層部の人達や、ガガ────ンッ!とショックを受ける国民さんたちを想像して吹き出してしまった。
そうそう!結局は一人に負担を掛けて楽したって、結局いつかはそのしっぺ返しがくるもんだ。
国民さん達も、負担のない程度にヒカリ君を崇拝してあげて〜。本人可哀想だから!
ニッコニッコとご機嫌に笑う俺を見て、シンさんは一瞬驚いた顔をした後、突然吹き出した。
「……ったっ、確かに今の状況は『ざまあみろ!』ですねっ!!
上層部は今、大慌てですよ。今まで文句一つ言わずに言う事を聞いていた勇者様が、突然殺気を込めて『────はっ?』と言って睨んでくるそうですから!
これは一筋縄ではいかなくなりましたね〜。実は私は今、凄くスッキリしてます!」
スカッ!とした笑顔を見せたシンさんを見て、本当にヒカリ君を想ってくれている人もいるんだと嬉しく思った。
きっとヒカリ君は、これから今まで手にしてこなかったモノ達を取り戻しにいく。
そして自分を本当に思ってくれる想い達は────その背中を優しく押してくれる筈だ。
「ヒカリ君が、一体どんな成長するか楽しみですね〜。どんな成長であれ、周りは見守るしかないですからもどかしさは感じますが……。
とにかく普通に世を生きていける子になってくれれば、俺としては万々歳だと思います。」
結局は、それが一番。
親だろうと友達だろうと、大事な人が普通にこの世を生きていけるなら、それ以上嬉しい事はない。
大きく頷きながらそう言うと、シンさんはまた困った様に笑いそのまま俺に頭を下げる。
ギョッ!と驚く俺に、シンさんはそのままの状態で話し始めた。




