2 始まり始まり〜
そもそものこのパーティーが結成された発端は、約半年前の事。
俺はその時までは普通に地球という星に生きていた普通のサラリーマンというやつで、その日はめでたく32歳を迎えた日であった。
その日は平日であったため、祝うのは自分のみ。
そのまま家に帰るのは何となく嫌で、コンビニでカップ酒を買って一人寂しく近くの公園で飲んでいた。
両親はとっくの昔に交通事故で死に、こんな平凡な容姿に平凡収入の自分と付き合ってくれる様な女性はおらず、年齢=独り身となってしまった俺。
それでも精一杯生きてきたが、フッと突然寂しさを感じてしまった。
自分が生まれて32年。
俺は誰かにとって必要な存在になれたのかな……?
そう空に浮かぶまんまるお月さまに問いかけてみたが勿論答えてなどくれず、なんだか凄く悲しくなってきた。
両親がいなくなってからは、その悲しみを乗り越えたと思ってもフッとした瞬間にこうした暗い想いに囚われる。
唯一無二、無条件で自分を必要としてくれた両親がいない事。
それは自分になんとも言えない寂しさを与えた。
「寂しいな……。」
ポツリッ……と呟いた、その時────突然座っていたベンチの下が光り出したため、慌てて立ち上がり光る地面を見下ろす。
すると、そこには漫画に出てくる様な沢山の光る文字の集合体……いわゆる魔法陣と呼ばれる様な模様が浮き出ていた。
「えっ!!えええ────!!??な……なんじゃこりゃ────!!」
そんな叫び声を上げた直後に俺の姿は消え、その場に残されていたのは飲みかけのビール缶だけであった。
ゴゴゴゴゴ────ッ!!!
まるで台風の強風が吹き荒れる中に立っている様な……?
とにかく強い風と大きな太鼓の様な音を聞きながらなんとかそれに耐えていると、突然フッとその風が止み、下へと引っ張られる重力を感じた。
「えっ?えっ?ええええ────〜……??」
驚いて目を開けると、自分は結構な高さに浮いていて、その直後にそこから落下。
物凄い早さで身体は地面に向かって引っ張られていく。
そして上手く受け身も取れず、無様にボテッ……と落ちてしまった俺を待ち受けていたのは、沢山の人!人!人!の視線。
「い……いてぇぇ〜……!え、えぇぇ〜……??何だ、何だ??
あの〜……ド、ドッキリか何かでしょうか……?」
周囲に立っている沢山の人達の視線に晒されドキドキしながら、俺は冷静にその人達と部屋の様子を観察した。
周りにいる人達の格好と部屋の内装は────何と言うか……中世ヨーロッパ風で、少なくとも日本の面影は微塵もない。
中央の上座的な場所に王様の様な格好をしているひげの生えた男性が、金色の大きな椅子に座っていて、その隣には王妃様?らしきキラキラのドレスを着た女性もいた。
まるで、映画とかで見たお城の中みたいだ……。
石造りの広い広間?みたいなその場所には、他にも鎧を着た騎士の様な人達や、それより軽装の黒いローブ?を着た人達などがいて、パッと見れば何処かのコスプレ会場にも見えるかもしれない。
そしてその中でも圧倒的存在感で佇んでいたのが【勇者】であるヒカリ君であった。
状況が分からずポカ〜ンとする俺に、突然ジャラジャラ黄金の装飾品を沢山つけた白い聖職者の法衣?みたいなものを着たお兄さんが近づいてくる。
薄いグレーの髪色に清潔感漂う真ん中分けのサラサラヘアー。
この人も結構なイケメン青年だ。
そのイケメンお兄さんは俺の前で止まり、一礼。
その後はペラペラと此度の事について説明を始める。
曰く、ここは<ホライティア王国>という国で、激化するモンスター被害を食い止めるべく何百年に一度 勇者なる存在が国の何処かに生まれる……と、何だかゲームの設定の様なことを言い出した。
「はっ??ゆ、勇者……とは??」
俺の思い浮かべる『勇者』で合っているのか分からず、おずおず尋ねると、長い長〜い話を要約すると、いわゆる圧倒的なパワーを持つスーパーチート様!……なのだそうだ。
うん、合ってた。
俺の子供時代に流行ったゲームそのものだ……。
頭の中でピコピコと懐かしいドット絵の勇者が魔王に挑んでいる姿を想像しながら、うんうんと頷いた。
「な、なるほど……そこまでは分かりました。
でも、なぜ私がここに〜?」
ササッ!と姿勢を正し、表情を引き締める。
その姿は、お得意様の会社に行く時と同じ!
悲しきサラリーマンの習性〜!
少々の憂いもあったがニコニコ!と笑うと、向こうもお仕事モード全開の笑みを満面に浮かべてそれに答えてくれた。
「勇者様にはこれより神の導かれるまま各地に点在している、ユニークモンスターという周悪の根源を倒して頂きます。
つきまして〜異世界人様にはそのお手伝いをして頂きたく〜……」
「────へっ??……いやいやいや!何故そこで私の話が出てくるのでしょう??
私は極一般的な一市民でして……そもそも戦うなどはできませんし……?」
正直そんな壮大な戦いを手伝えと言われても、絶対何もお役に立てる事がないのは明白だ。
自衛隊とか、何かの軍隊に所属している人とかが召喚されるなら分かる。
しかし一般サラリーマンである自分が、突然召喚されて勇者様のお手伝いをしろと言われても、会社に持っていくノートパソコンくらいしか持てる筋力がない。
困った様にチラッと勇者様であるヒカリ君に視線を送ると、彼は既に興味なし!と言わんばかり視線一つ合わせてくれなかった。
「…………。」




