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精霊の森は辺境伯領の方が本拠地となった旨は皇帝陛下に伝えると言って、皇太子さまとレイシア様とセルゲン様はオーロで再び皇都へと戻っていかれました。
日帰り視察なんて、本当に疲れるだろうに。
オーロも皇都でしっかり休むように伝えて、アイラにも好評だった硬めに焼いたビスケットを持たせるととっても喜んでいた。
そうして見送った現在は、辺境伯邸の中庭でアイラとリルに固焼きビスケットをあげている。
「さ、二人の分もあるからゆっくり食べるのよ」
揃って小さく鳴くと、ゆっくり食べ始めたアイラとリルの隙間から、ひょっこり顔を出したのは小さな猫。
「あら?こんなところに、まだ小さいわね。親猫はいるかしら?ちょっと様子を見ましょうか」
私はアイラに告げると、アイラはこともなげにさらっと言った。
「この子、親猫はもう居ないわよ。昨日の夜に、魔獣にやられたわ。兄妹もカラスとかにやられて、一匹だけ残ったのよ」
「まぁ、そうだったの。独りぼっちは寂しいわよね?こっちにいらっしゃい」
手を差し出して声をかけると、ゆっくり伺うようにこちらに来た猫は、私の手にスルっと体や頭を擦り着け、すりすりするとクンクンと嗅いだ後に「にゃあ」と鳴いた。
「あらまぁ、この子よく見れば普通の猫じゃなくて、ケット・シーだわ。今はまだ赤ちゃんだから話さないけれど、そのうちお喋りもするようになるわよ」
なんと、普通の子猫だと思ったら猫妖精のケット・シーだとは思わなかった。
「そうなんだ。どっちにしても独りぼっちは可哀想だもの。家に行きましょうね」
声をかけて抱っこすれば、にゃぁと可愛い声で答える。きっとお腹もすいているだろうからクロムス様のところに報告に行ったら、厨房にも行きましょう。
一階にあるクロムス様の執務室を目指していると、ドルツがちょうどクロムス様の執務室から出てくるところだった。
「シエラ奥様、旦那様に御用ですか?」
小さくなったリルと一緒に来た私に、にこやかに声をかけてくれるドルツ。
「えぇ、この子の報告に」
腕の中のケット・シーを見せるとドルツはにこやかに言った。
「飼うのは間違いなく許可下さるでしょう。奥様と猫の組み合わせはなかなかに最強ですので」
どういうこと?と小首をかしげると、腕の中のケット・シーもこてッと首をかしげていた。
子猫はどんなしぐさも可愛いわね。
思わず首筋に頭を撫でていると、廊下の向こうからサラサがやって来る。
「そろそろ、旦那様も休憩の時間です。奥様の分もしっかりありますからお話は執務室の中がよろしいかと」
サラサのもっともな言葉に、私はサラサとドルツを連れたままクロムス様の執務室へと入っていった。




