パズルアンド天ぷらバタフライ
すみませんでした。
車が丘の上を走っていく。道路は風景の向こうから延々細く伸びて、車は一台のみ。車は排気筒のように、2つの天ぷらを装着していた。エビの。
「はんだ付けならいいじゃない、最高。」
亜麻色の髪の美女は髪をかきあげて言った。隣でハンドルを握るパンダは頭だけがバケツだった。美女は自分も負けじと寿司を握った。
「コロッケなんてあたたかい、カイロにするものよ」
「回路?はんだ付けのこと?」と、パンダ。
「そう、コロッケをはんだ付けしたら、どうなるの?」
バケツパンダと美女はキリンを見ながら言った。丘の向こうのキリンは雲に顔が突っ込んでいる。
「そうめんね……」
空からそうめんが降る。べちゃ、べちゃ。
一口大のそうめんたちを、拾い集めて洗濯機へ入れていく。そんなカニたちを一瞥して、笠をかぶった老人はひとりでカーニバルしていた。仏頂面の激しい舞い。
「そうめんカーニバル!マカロニ!カニとカーニバル!サバとサーバル!ウニと……?う、うわあああー!」
「そうめんがちぎれちゃうよー、おねえさん」
「そう。ならばはんだ付けよ、くっつけなさい。ささくれのように」
美女は言った。
「ささくれ!笹を!くれ!」
バケツパンダは叫んだ。
するとエビマヨが隕石のように空から降り注ぐ。車はそれで吹き飛んだ。
「おかしい、なぜエビマヨ……エビチリじゃないなんて……!」
美女は悲しみながら爆散し、無数の折り紙になった。すべて力士を折ったものだった。力士折り紙は羽ばたいて、雨上がりの輝く空へ消えた。
「そっか!わたしも風になれるんだ!」
それを見上げたカニたちはハサミを振り回して飛んでいった。
「マカロニからー、環状線が!」
「何駅から?何駅から?」
「……名古屋港駅から!」
「6のループしてないとこじゃねーか!」
にゅる。マカロニは苦しみながら環状線を吐き出した。名古屋港駅は終着駅だった。
「海へいこうぜ……」
「じゃあ、わたしは畳に乗って行くね!」
エビマヨは畳に乗り、海へ着いた。海は赤くなっていた。
「ざんねん!これはチリソースだよ!エビマヨはエビチリになるから入れないよ!」
「ぎゃー!うどんになってやるー!」
しかし、エビマヨはうどんにはなれない。
エビマヨは香川県へ旅立った。真実から目を背け……。
かわりに、香川県からは薬味のネギが来た。
「チリソースの海、はじめてです!あとで自撮りしてインスタにあげよー!」
しかし、ネギはチリソースに交じると、ただただ見えなくなっていった……。
「ネギー!」
プリンはネギを追いかけようとした。寿司のシャリだけの部分はプリンを羽交い絞めにして止めた。
「やめろ!」
「で、でも……!」
「おまえがチリソースの海に沈んだら、確実にマズイだろ!二重の意味で!味の組み合わせ考えろ!」
「わかんねえよ!上のネタの部分だけに逃げられたお前なんかには!」
「お前……!許さねえ!」
プリンとシャリは殴り合った。すると、その向こうで寿司ネタのエビの部分だけが、チリソースの海に向かって準備運動していた。
「あ、お前はまさか!」とシャリ。
「ふふ、わたしは確かにあんたの上にいたネタ……。だけどこれからは……エビチリになるのよ!」
「やめてくれー!」
エビがチリソースの海に飛び込むと、シャリは泣き叫んだ。プリンはシャリの肩を抱いた。
「味の組み合わせ、だよ。」
車が丘の上を走っていく。道路は風景の向こうから延々細く伸びて、車は一台のみ。車は排気筒のように、9つの天ぷらを装着していた。レンコン、しめじ、イカ、プリン、ネギ、チリソース。何も入っていない海苔巻きも3つ。
「はんだ付けならいいじゃない、最高。なんでもつけて、カスタムしましょう、うちの愛車を、かき揚げにするのよ。」
亜麻色の髪の美女は髪をかきあげて言った。隣でハンドルを握るパンダは頭だけがバケツだった。美女は自分も負けじと寿司を握った。しかし、ふと我に返ると、はらりと涙を流した。
「エビはエビチリよね……寿司もいいけど……わたしは忘れられない……あとさっきの天ぷらも……」
「エビマヨは?」
「え、まあ普通に好き。」とエビを握る美女。
「……普通に好きなんだ。」
パンダは言った。
「じゃあエビチリは?」
「論外」
「さっきの涙は?」
そこへ、こんどはエビチリの波が打ち寄せ、車は流されて溝にはまった。
エビチリは海、エビマヨは空。
世界はあなたを見ている。
しかしエビはとくに、なにも気にしていない。
おつかれさまでした。