2.00MHz 写真に写るラジオ
俺が中学生のときの話だ。
修学旅行で京都に訪れた俺は教師達も寝静まった頃、クラスメイトの悪ガキ数人と一緒にこっそりホテルを抜け出していた。
コンビニに寄ったり、神社の階段をダッシュしたり、スマホで夜景を撮影したりして、俺達不良だぜと健全にイキっていた。
俺達を縛るものなんて何もない。
楽しいひととき。
――だが俺達はその愚行を、激しく後悔する事になる。
「お前達!こんな時間までなにをやっていたんだ!」
「「「げぇッ!?先生ッ!?」」」
ホテルに帰った俺達は、鬼のような形相の教師に捕まってこっぴどく絞られたとさ。
ちゃんちゃん。
――それから数日後のこと。
日常に戻った俺は、弁当をつつきながら京都で撮影した写真を整理してた。それで、例の夜中に抜け出したときの写真を眺めてたときだ。
「――なんだこりゃ?」
それは、神社の鳥居をバックに撮った自撮り写真だった。4人の馬鹿面と、少し離れた所にある古ぼけた赤い鳥居が良い感じに写っている。
その鳥居の上に妙なものが乗っていた。
そう、【壊れたラジオ】だ。
「どうしたんだよ変な声出して」
「見てみろよこれ」
「え?――うわっ!?」
スマホを見せられたやつが卵焼きを落とした。
「ビックリさせんなよ!」
「悪い悪い!けど乗ってただろ?鳥居の上に――」
「――上?いや!鳥居の間に浮いてるじゃねえか!」
「へっ?」
俺はもう一度写真を見る。
【ラジオ】は――鳥居の上には居なかった。
間に浮いても居なかった。
俺から数十歩後ろの地面で、長い【アンテナ】を振り乱し、襲いかかるようなポーズで止まっていた。
「下に降りてる」
「いや、そんなはずは」
スマホをひったくった友人は『ひっ』と小さく悲鳴をあげる。
「後ろにいる、お前の、数歩くらい後ろだ」
「まさか――見るたびに近づいてるってことか!?」
友人は首を縦に振り、震える唇を開く。
「なあそれ、ヤバいんじゃないか?お祓いとか――」
「は、バーカ!アプリのバグかなんかだろ」
俺は自分に言い聞かせるように語気を強めると、それ以上は写真を見ないようにしながら削除し、いつも通り午後の授業を終えて帰宅した。
その夜。
俺は風呂場でシャワーを浴びてたんだが、消したはずの写真に写った光景がどうしても目に焼き付いて離れない。
それになんだか、肩も重い。
「アレが近づいてきてるって?馬鹿馬鹿しい、そんなわけないだろ」
頭を洗い、シャンプーを流し、タオルで拭く。
そして何気なく備え付けてあった鏡を見た俺は――絶叫しそうになった。
鏡越しに見た俺の肩に、あの【壊れたラジオ】が、俺の顔を覗き込むようにもたれかかっていたのだ。