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同じ登場人物シリーズ

悪役令嬢に転生しましたが、物語通りではないようです

作者: 琴葉

以外とほのぼのした悪役令嬢とヒロインの話です。


「ざまぁされるヒロインは悪役令嬢を味方につける」を、読んだ方には同じセリフに飽きてしまうかもしれませんが、楽しんでもらえたら幸いです。


悪役令嬢側見たらヒロインはこんな人柄になります。





本日は、魔法王立学園の入学式です。

公爵邸での王子妃教育が無事終了し、次は王太子妃教育が学園入学してから始まります。

その為、学園入学する前日から王城の一室に移り住むことになりました。


学園に向かう馬車には、婚約者であるアンソニー・ハリス第一王子とその護衛のウィリアム・アンダーソン侯爵令息と私リリアン・ローズマリー公爵令嬢が乗っております。


馬車が学園に到着すると、まずアンダーソン様が降りました。

周りを確認してからアンソニー様が降ります。

私のエスコートの為、アンソニー様から手を差しのべられ、その手に私の手を添えてステップに足を乗せた瞬間、私の脳裏に膨大な情報量が入ってきました。


「リリー?どうしたんだい?」

一瞬動きを止めた私にアンソニー様が声をかけられました。


「…っなんでもありませんわ」

声をかけられハッと我を戻した私は動き始めました。

何事もないようにエスコートされ、入学式のホールへ向かいましたが、私の頭の中はぐちゃぐちゃでした。

入学式中は話も聞かず、頭の中を整理してました。



この記憶は、前世?

私は異世界転生しましたの?

日本に住む女性で、ここは小説の中と同じ?


え…?

待って?待ってください?


私は悪役令嬢ですの?そんな…


あら?でも待って?

皆様の名前から、ここは小説の話の長編で書かれた悪役令嬢のハッピーエンドと短編で書かれたヒロインのハッピーエンドの世界ではなくて?


長編小説は、卒業パーティーでヒロインとアンソニー様から私は悪役令嬢として断罪されます。

断罪された時に隣国の王太子が私に加勢して、ヒロイン達を逆ざまぁします。

その後、隣国の王太子に求婚された私は、王太子に溺愛されハッピーエンドになります。

その後のヒロインは処刑され、アンソニー様は廃嫡されます。


もう1つは、悪役令嬢が溺愛される長編が終わってから、攻略対象者それぞれの短編小説で書かれましたヒロインのハッピーエンドです。


どのルートでも悪役令嬢の私は、ヒロインとアンソニー様に断罪されます。

ルートによって悪役令嬢の私は修道院又は国外追放になります。



え…?

この世界はどちらですの!?

隣国の王太子に溺愛されるより、私はアンソニー様と結婚したいのですけど!?

修道院も国外追放も嫌ですわ!?

ヒロインと近づかなければ何とかなりますか!?


…ハッ…待って!

この後すぐに出会いイベントがありません!?


確かヒロインの髪色は希少な光魔法をお持ちのはずだから、ほんのり淡いストロベリーピンク色になっているはずです。


入学式が終わり、皆様が退場した後に私、アンソニー様、護衛騎士、側近候補の3人が退場するときに、遅刻してきたヒロインとアンソニー様がぶつかりイベントが発生するはずです。


…これは回避不可能ですわね?



「本日の入学式はこれで終了ですが、新入生の皆さんに周知してもらいたい事があります」


これからどうしたらと考え始めた頃、学園長の声が聞こえまして、また壇上に現れた事に気付きました。


「王族の方が入学する年は、王子と王女には護衛騎士が着くことはご存知でしょうが、今年は異例にミラ・ハークスレイ伯爵令嬢にも護衛兼執事見習いが付きます。

本人が入学式にいないようなので紹介は出来ませんが、ハークスレイ伯爵から相談を受けましてご令嬢と面談した結果、怪我をする危険性が多くありすぎるため、護衛兼執事見習いが付きますので周知してください。


それから、教室からの距離のある移動などでは、護衛兼執事見習いの者がハークスレイ嬢を抱き上げて廊下を移動する事がありますが、時間短縮のためなので気にしないようにしてください。

周知してもらいたい事は以上です」


学園長の話に皆様ポカンとされてます。

護衛騎士ではなく、護衛兼執事見習いって言われてましたよね?

んんん?抱き上げて移動するとも言われました?


周りを見渡すと不思議そうに考えていらっしゃる方もいます。

その後、後ろの席から順に退場していきます。


ハークスレイ様が入学式にいないと言われましたので、もしかして彼女がヒロインでしょうか?


私達も退場しましたが、何事もなく教室へ着きまして席に座りました。


あら…?

出会いイベントは?


不思議に思っていると、教室の入り口からほんのり淡いストロベリーピンクにグラデーションのように毛先に向けて淡いピンクベージュになっている髪色をしたご令嬢が入ってきました。


私の席の前に来ると躓かれ、体が倒れていくところを、後ろにいたご子息がさっと抱き止めたかと思うと、ご令嬢を縦抱きにして歩き出して窓際の一番後ろの席へ向かいご令嬢を席に座らせ、ご子息はその後ろにある椅子に座りました。


……え?今のは…??


一連の流れがスムーズ過ぎまして、皆様の思考は停止しました。


そこで学園長の話を思い出しました。

皆様は、各々察しました。

護衛兼執事見習いが令嬢に付く事にご不満がありそうな方々も何やらご納得されたようです。


彼女がミラ・ハークスレイ伯爵令嬢なのでしょう。

そしてご子息が護衛兼執事見習いの方なのでしょう。

何もない所で躓かれたら、怪我の可能性が高い事と話された学園長の話に納得です。


ハークスレイ様の髪がほんのり淡いストロベリーピンクにグラデーションのように毛先に向けて淡いピンクベージュになってます。

髪色が少し違いますが、光魔法の特徴にある髪色をしているのは、ハークスレイ様だけです。

小説ではヒロインと同じクラスでしたので、彼女がヒロインなのでしょうか?


その後すぐに先生が教室に入って来ました。

本日は自己紹介と明日からの日程と教材を受け取り終了です。


自己紹介の時にハークスレイ様の護衛兼執事見習いの方の名前がリアム・マーフィー様と聞き、思い出した事があります。


小説では、彼は同い年でアンソニー様の護衛騎士であり、攻略対象です。

今アンソニー様の横にいる護衛騎士は、ウィリアム・アンダーソン様。

侯爵家の次男で騎士団長の息子です。


あら?

アンダーソン様は攻略対象ではないのかしら?

……違うわ。そこではなくてよ私。


マーフィー様は年齢も立場も違います。

この事がとても重要案件ではなくて?


この時点で小説と違っているのです。

ヒロインの髪色とマーフィー様の立場が違います。

これは、未来が変わっていく可能性があると言う事では…?

もしかしたらアンソニー様と結婚出来るかもしれないです。

その可能性に気付くと嬉しくなってきました。


いいえ。喜ぶのはまだ早いです。

今の私とアンソニー様の関係は親愛と呼べるものです。

私は恋愛としてお慕いしてますが、アンソニー様に恋愛として見られなければなりません。

これから愛を深め、ラブラブして幸せの未来を掴まなくてはなりません。

これからヒロインがどう動くか分かりませんが、私はアンソニー様の心を親愛から恋愛の愛に変わるように頑張ろうと思います。

目標が定まり、どうすれば愛に変わるのか悩みつつアンソニー様とは穏やかな日常を過ごして1週間が経ちました。

毎日平和に過ごしてます。


あら…?

イベントは?


この1週間でアンソニー様と護衛騎士の2人にイベントが発生するはずだったのですが、何も起きませんでした。

2人は私と一緒にイベント場所に行ってますのに、ヒロインに出会いません。


そうなると側近候補の3人のうちの1人を狙っている可能性があります。

攻略対象者には全員婚約者がいるため、私が注意する立場になり、どのルートでも私は悪役令嬢になるのです……



………?



小説ではどのルートでも悪役令嬢よね?

待ってください?


側近候補は3人います。

1人目はノア・ホワード様。

辺境伯爵家の次男で婚約者はいません。


2人目はリヴァイ・フィリップス様。

侯爵家の3男で魔法師団長の息子ですが婚約者はいません。


最後の3人目はグレイソン・ケリー様。

公爵家の嫡男で宰相の息子で婚約者がいます。


全員婚約者がいると思い込んでいましたが、婚約者がいるのはケリー様のみです。


あら……?


ヒロインがホワード様かフィリップス様ルートを選ばれたら、私は悪役令嬢にならない……?


小説では、今週に側近候補の3人のイベントがそれぞれあります。

イベントが発生すれば、来週からヒロインと教室で話すようになります。

イベント場所は分かりますが、それぞれが1人の時にイベントが発生します。

アンソニー様と一緒の時ではないので、私はその場所にいません。

今週は、アンソニー様にヒロインが近づかない様に気にしましょう。


「アンソニー様、学園の一部に手すりがありますわ」


「リリーも気付いた?なんでもハークスレイ伯爵が支援して、春休暇の内に1学年の夏休暇までに使う場所を急遽付けたそうだよ」


「そうなんですの?」


「夏休暇中には全校舎に付ける予定だと聞いたよ。ご令嬢の癖を学園在籍中になくさせたいようだよ」


クスクス笑いながらアンソニー様が言います。

笑われているのは、ハークスレイ伯爵の過保護ぶりに微笑ましく思われているようです。

確かに成人して社交界に出たら、今のままでは大変ですものね。

そんな事を話していたら、あっという間に1週間が過ぎました。


今週は、どなたがヒロインと教室で話すかドキドキしてます。

講義の合間の休みのたびにハークスレイ様を気にしていましたが、ご自身の席でご令嬢と話しているだけでした。

側近候補の3人も特にハークスレイ様に話しかける事もありません。


あら…?

イベントは?

どういうことかしら?


それから私はハークスレイ様を観察し始める事にしました。

講義の合間の休み時間は、基本的に席でご令嬢方と話しています。

時々席を立たれる時は、壁にある手すりに手を添えて移動しようとしてますが、教室を出るだけで躓く事数回。手すりがとても役に立ってます。


マーフィー様は基本的には見守っているようですが、懐中時計を出して時間を確認される時はさっとハークスレイ様を抱き上げて移動していきます。

その時にハークスレイ様がマーフィー様の首に腕をまわされ密着した時は驚きました。

それはもうぎゅうぎゅうと抱きついて見えたからです。

初めて見た時は、教室から小さくですが黄色い声があちこちから出てました。


それから何回か目撃しているとハークスレイ様の耳が赤く見えた時があり、顔が見えない様にマーフィー様の肩口に俯かれていたので、彼に抱き上げられて恥ずかしくて顔を隠すために抱きついている様です。


その様子が可愛らしく、思わず微笑んでいましたが、ふと周りを見ると微笑ましそうに見ているクラスメイトが多い事に気付きました。


ハークスレイ様は、ご令嬢の平均身長よりも頭半分ほど低く、目が少し垂れ目の可愛らしい容姿をしています。可愛いではなく、可愛らしいのです。

希少の光魔法をお持ちですが、得意げにする事も傲慢(ごうまん)でもなく、中身はほんわかした様子です。

まだ一月(ひとつき)も経っていないですが、クラスのご令嬢、ご子息からは見守る会でもあるかの様に彼女を見ています。


さすがヒロインです。

違う意味ですが、皆の心を鷲掴みしてます。


「ハークスレイ様を見てると微笑ましいですわ」


「リリーもかい?異性とあんなに密着してるのに、一生懸命に頼らないようにしてるのが微笑ましくて、マーフィー様に抱き上げられるとほっとしてしまうよ」


「恥ずかしがられて可愛らしいですわ」


「そうだね。彼に抱き上げられるのに慣れないうちに癖が治るといいね」


その言葉で、アンソニー様の彼女に対しての気持ちが微笑ましく思うだけで、恋愛感情でない事が分かり安心しました。

ちょこちょこアプローチしてみてはいますが、アンソニー様はニコニコ微笑むばかりで伝わっているのか分かりません。

嫌がれてはいない様子なので、これからも頑張ります。


ハークスレイ様の観察を始めてから数日。

気付いた事があります。

私が1人になる時に、ハークスレイ様の姿が視界の隅に映る日が増えてきてるのです。

ご令嬢達といる時や、アンソニー様達といる時は、ハークスレイ様は近づく気配はありません。


そして今、私は一人で廊下を歩いてます。ハークスレイ様も私の後ろで廊下の手すりに手を添えて同じ方向へ歩いてます。


んん?

攻略対象者達ではなく私に用があるのかしら?

…ハッ…悪役令嬢に物申すとかかしら!?

もしかしてハークスレイ様も転生者!?


……ほんわかした様子ですからそれはないかしら?



首を捻りつつ、試しに角を曲がってゆっくり歩いて後ろを気にしながら歩いてみました。

するとすぐにハークスレイ様の姿が見えて、手すりに手を添えてこちらに歩いてきます。


あら?

角を曲がるの早くない?


本当は真っ直ぐ行く予定でしたが、角を曲がり遠回りしてみます。

角を曲がるとやはり追い付くのが早いです。


もしかして見えなくなるとマーフィー様が抱き上げて移動してるのかしら?

そのまま来て声をかけてくれてもいいのにと思いましたが、普通のご令嬢はその様な事はしないわね。

ハークスレイ様は、他のご令嬢とは違い非日常が当たり前になってます。

そもそも抱き上げられる事がない事が日常でした。

慣れとは怖いです……

もしかして作法が悪いと思ってご自身1人で声をかけようとしてるのかしら?


一度気にしてしまうと確認したくなります。

1人の時を増やしてみると、ハークスレイ様は手すりに手を添えて何度も躓きながら私の後をついて来てます。


これは彼女から声をかけられるのを待つより、私が場を設けた方が早いですわね。


明日は週末です。

ちょうど王太子妃教育はお休みです。

講義がすべて終わった後なら時間も気にしなくてもいいですわね。


本日の講義が終わるとアンソニー様に声をかけてから、ハークスレイ様が気付く前に教室を出て、学園の中にある食堂の隣にある談話室の一部屋を予約しました。

もちろん教室から一番近い談話室にしました。

アンソニー様とアンダーソン様の待つ教室に戻り、一緒に王城へ帰ります。

この日の王太子妃教育の時間はあまり(はかど)らず、先生に心配されてしまいました。


次の日の朝の馬車の中。

「アンソニー様、私今日の講義が終わった後に用事がありますので、アンダーソン様と先に王城へお帰りください」


「そうなのかい?今日は王城での教育はないから待っていられるよ?」


「ありがとうございます。ですが終わる時間がわからないのですわ」


「それなら仕方ないね。アンダーソンと先に帰るとするよ。僕が王城に着いたら馬車は学園へ戻るよう伝えておくよ」


「はい、ありがとうございます」


残念そうな顔をするアンソニー様はしょんぼりされています。


いつもなら2人でのんびりお茶してる日ですものね。

しょんぼりされているアンソニー様が可愛く見えます。

私もしょんぼりですが、ハークスレイ様が私に用がある様子なので聞いておきたいのです。


講義は心ここにあらずですごしてしまいました。

すべての講義が終わり、アンソニー様に声をかけてから、私が1人でいる事をハークスレイ様が気付いた事を確認してから、ゆっくりと廊下へ出ました。

向かう先は食堂の隣にある談話室の一室です。


角を曲がるたびにハークスレイ様が近づきますが、手すりに手を添えて歩くと躓いてしまうのでまた距離が空いてしまいます。

何度も繰り返すので少し笑えてきました。


2人はどんなやり取りをしながら来てるのかしら?


談話室の前に到着すると、扉とは反対側の窓の外を見つめ、ポケットから懐中時計を出して時間を気にするふりをしてハークスレイ様を待ちます。


「ごきげんよう、ローズマリー様」

ハークスレイ様が手すりに手を添えたまま挨拶をしました。


「ごきげんよう、ハークスレイ様」

ハークスレイ様から声をかけられたので、懐中時計をポケットへ戻しました。


良かったわ。無事来てくれたわね。


「ローズマリー様とお話がしたいのですが、今お時間ありますでしょうか?」

ハークスレイ様は緊張されているのか、微笑み方がぎこちないです。


「談話室で1人でお茶をしようと思っていましたが、大丈夫ですわ。よろしければ談話室で話をしませんか?」


「え!?お一人のお時間にお邪魔して申し訳ありませんっ」

「昨日食堂のスイーツを食べたくなって予約しただけですから大丈夫ですわ」

ハークスレイ様が頭を下げそうになったので、慌てて止めました。


「ハークスレイ様が良ければ、一緒にお茶をしませんか?」


「ありがとうございます!」


「では、私が食堂へ行き、ご用意します」


「まぁよろしいのですか?」

マーフィー様の申し出に驚きましたが、そう言えば護衛兼執事見習いでしたわねと思い出してお願いしました。


「では、ハークスレイ様、中に入りましょう」

マーフィー様が談話室の扉を開けてくれたので、ハークスレイ様を(うなが)し2人で中に入りました。


JK(じょしこうせい)ってご存知でしょうか?」


マーフィー様を外に待たせて部屋に入りドアを閉めてソファーに促そうと振り向くと、ハークスレイ様から日本語らしい言葉が出て、私は一瞬固まってしまいました。


只今、学園の中にある食堂の隣にある談話室の一室に案内した所です。


TKG(たまごかけごはん)の料理はどう思われますか?」


「え…っあれは料理とは……っ」

思わず反応してしまい言葉にしてしまいましたが、ハッと我に返り口を閉じましたが、ハークスレイ様にはその反応で十分だったようです。


「ローズマリー様は日本人の転生者ですね?」

ハークスレイ様は胸の前に両手を握りしめ、懇願するように上目遣いで見つめてきました。


さすがヒロインです。

あざと可愛らしく見つめてきます。


思わずしばらく彼女を見下ろしじっと見つめて堪能してしまいました。

可愛らしい姿を見て、口元が緩んでいたら大変です。

彼女が返事を待っている事を思い出し、手元に持っていた扇を開いて口元を隠します。


「…そうですわ。貴方も転生者ですのね?」


「はい」


「…それでは、どの様な事がお聞きになりたいのかしら?」

ヒロインの目的が(ようや)く聞く事が出来ます。

どの様な事を言われるのか緊張してきました。


「ローズマリー様は、この世界が小説の中と酷似しているのはご存知でしょうか?」


「ええ…学園に入学してからあなたの外見を見て、小説の中ではないかとは思いましたの…申し訳ございませんがこの一週間あなたの動向を(うかが)っておりました」


ハークスレイ様の言い方から考えて、この世界が小説の中だと知っていますね。

そして私が悪役令嬢である事も認識しているようです。

小説では長編と短編がありますが、ハークスレイ様はどちらを知っているのでしょうか?


「…ローズマリー様は今の婚約者様をどう思われていますか?」


ハークスレイ様の言葉に私はほんのり頬を染めました。

アンソニー様が関係してくるのかしら?


「…ローズマリー様は、このまま婚姻を望まれていると思ってよろしいでしょうか?」


私は、ハークスレイ様の言葉に固まること数秒。

言葉にするのは恥ずかしく、私はこくりと頷くのみにしました。

ハークスレイ様は、私の扇を持ってない手に向かってそれはもう勢いよく両手で握りしめてきました。


「ロ…ッローズマリー様は隣国の王太子様に溺愛されるルートは望まれていないと…!そう言うことでよろしいでしょうか!?」


ハークスレイ様の勢いに私は少し身を引きましたが、頷きました。

すると突然ハークスレイ様が泣き始めたのです。

彼女の突然の号泣に私は目を見開きます。


泣かしてしまうような事は言ってないですよね!?

気付かないうちに悪役令嬢になってましたか!?


私は動揺しすぎて淑女の仮面も剥がれてしまいました。


「…ハークスレイ様大丈夫ですか?」


私は持っていた扇を閉じ、制服のポケットから、ハンカチを取り出して、ハークスレイ様の目元をそっと拭いました。

するとさらに泣き出してしまったハークスレイ様にどうしていいか困惑してしまいました。



トントン



「お茶のご用意が出来ましたが、入室してもよろしいでしょうか?」


扉をノックしたのはマーフィー様でした。

私はハークスレイ様を見ると泣きながら頷くのを見て、代わりに入室の許可をします。


中に入ったマーフィー様は、目を見開きましたが、何事もなく私とハークスレイ様を対面のソファーに促して、お茶とお菓子をテーブルにセットしてくれました。

ハークスレイ様の横にマーフィー様が行くと、片膝を床に跪かせ、ハンカチを取り出して、彼女の目元を優しく拭っています。


「ミラ様、どうでしたか?」

マーフィー様の言葉にハークスレイ様は頷きます。


「ではその後の話は出来ましたか?」

その言葉にハークスレイ様は左右に首を振ります。

私は、2人のやり取りを見て思った事を口に出します。


「あの、マーフィー様も転生者なのですか?」


「いいえ、違います」

マーフィー様の返事に私は目を丸くしました。


「幼少期の頃にミラ様に話を聞きました」


「え…その…話を信じられたのですか?」

私は信じている事に戸惑いました。


「はい。内容を聞いて旦那様に相談しまして調べてもらったところ、信じるべき事柄がいくつかありました。そして奥様のご実家になる隣国には、魂は何度も繰り返すというお伽噺話もあるとの事で、前世の記憶を思い出す事もあり得るのではないかとなり、信じるに値することだと結論いたしました」


マーフィー様の言葉に私は目をパチパチしました。


え…?

伯爵夫妻……柔軟すぎませんか?


「その…伯爵様達は学園の中での出来事をご存知で?」


「はい」


マーフィー様の言葉にシンと部屋に沈黙が流れました。

私は首を傾け、しばらく考えます。


ハークスレイ様の態度から、私が隣国の王太子とハッピーエンドを望んでいない事が重要案件と見て良いですよね?

ヒロインとしてざまぁされたくないと思っているのですよね?

と言うことは、短編のハッピーエンドは知らないと考えられます。

ハークスレイ様にとって悪役令嬢がどう動くか気になり近づこうとしていたのかしら?


私の中で納得する事が出来たので、1つ頷いて聞いてみました。


「…もしかしてこの一週間の間でハークスレイ様が私の近くで躓くことが多かったのは…」


「はい。ローズマリー様にお話をお聞きしたかった事と、結果次第では何通りかの中の案を聞いて頂けないかと思っていたのですが…ミラ様はその、よく躓く方なので上手くいかず…ローズマリー様が気を利かせていただいたおかげでお話ができております。ありがとうございます」


マーフィー様が残念な子を見る眼差しでハークスレイ様を見てますが、その目は優しい眼差しです。

私とマーフィー様が話をしている間、マーフィー様の手はハークスレイ様の背中をずっと擦っていました。

マーフィー様のおかげか、ハークスレイ様も落ち着いてきたようで涙も止まりました。

ハークスレイ様は用意されたお茶を一口飲み、落ち着いたようです。


「ローズマリー様、突然泣き出してしまい申し訳ございません」


「大丈夫ですよ。マーフィー様からお話を伺いましたが、ハークスレイ様が私にお願い事があるそうですが、どの様な事でしょうか?」

私は悪役令嬢ですので、聞く事に緊張します。


「ローズマリー様は、リアム含めて攻略対象が5人で、その中に婚約者の王太子様が入ってるのはご存知ですね?」


「ええ。私はヒロインに断罪されますが、最後はヒロインをざまぁして隣国の王太子様に救われ溺愛されますわね」


「はい。ですが現実はローズマリー様は今の婚約者と婚姻を望まれてます」


「そうですわね」


「その話を聞いて安心してしまい泣いてしまいました」


え……?

安心して号泣しましたの?


「わたくしはリアム以外の攻略対象者とは近づきたくないのです。断罪ざまぁ回避したいのです。特にローズマリー様の婚約者の瞳に映りたくありません」


あら?

アンソニー様は嫌われているのかしら?


「ローズマリー様にお願いしたい事は、残り4人の攻略対象者とわたくしに接点が出来ないように協力してほしいのです」


………ん?


「え…?4人?…マーフィー様以外…?え…?恋人ですの?」

私の言葉にハークスレイ様の顔がみるみる赤くなり、硬直してしまいました。


ふふっ

ハークスレイ様可愛らしいですわ。

私はしばらく動かないハークスレイ様を微笑ましく見つめていました。


「えと、そう、でふ」


やっと言葉にしたハークスレイ様ですが、恥ずかしさからか最後は噛んでしまいました。

私にとってハークスレイ様のお願いは嬉しいものでした。


「他の攻略対象者とのイベントが起こらないように、お互いが幸せになるように協力しあえばいいと言うことですわね」


「はい。協力をお願いできますか?」


「もちろんよ」

即答する私と、いつの間にかハークスレイ様の隣に座っているマーフィー様がハークスレイ様に向かって微笑みました。



次の日。

週の2日はご令嬢達と週の3日はアンソニー様と他の攻略対象者達とランチをしているのですが、今日はアンソニー様達とのランチの日です。

食後のティータイムの時にハークスレイ様の話を皆様にしてみました。


「アンソニー様、私ハークスレイ様からマーフィー様との関係を教えてもらえましたの」


「いつの間に仲良くなったんだい?」


「ふふっ秘密ですわ」


「それは妬けるね。それで何を教えてもらったの?」


「ふふ…っそれはですね、お2人は恋人なのだそうですわ」


私はそう言うと、皆様の様子を見逃さない様に注意深く見渡しました。


「なるほど…それなら微笑ましく見えるはずだね」

アンソニー様は楽しそうに微笑んで言いました。


「そうなんですか?恋仲だったとは気付きませんでした」

アンダーソン様は驚くだけでした。


「へぇ…あの2人は恋人同士なのにイチャイチャした感じしないね?」


「確かに。マーフィー様が抱き上げて移動してても微笑ましく思うだけだよね」


「見ていて微笑ましい恋人同士なんて珍しいね」


側近候補の3人も驚きはしたものの、嫉妬する様子もなく2人の関係に微笑ましそうに話すだけでした。

これはこのままハークスレイ様と接触しないように日常を過ごしていけば、大きな問題にはならないかもしれません。

アンソニー様と私が順調ならば、隣国の王太子に求婚される事もないかもしれません。

両想いになれるようこれからもアプローチを頑張りましょう。


ハークスレイ様と直接話すと何処でフラグが立つか分かりません。

この出来事をハークスレイ様へ手紙を送ると、ハークスレイ様から近況報告と対策、他愛ない話の返信が来て、その中には伯爵夫妻の手紙も入っており、驚きました。


ここから私とハークスレイ伯爵家総出で、私とハークスレイ様とマーフィー様の幸せになるための私達の文通が始まりました。


文通を何通か交わした私達は、お互いの名前で呼び合うようになり、仲良くなりました。

学園に在籍している間は学園では話せませんが、無事学園を卒業出来たら、お会いして交流する約束もしました。






最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


同じ登場人物シリーズでまとめてます。




誤字報告ありがとうございます!訂正しました。




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