Hの逃走を描く
通りを一人で歩きました。
特に目的も何もなく、進んでいきました。
すれ違う人たちは、私が見えていないかのようでした。
その時の彼ら、彼女らの表情は明るかった。
私のように暗く沈んでいる人はいなかったように思えます。
取り留めのないことを、さも楽しそうに話していました。
どこからともなく、人が沸いて出るようでした。
数え切れないほどの人の波の中に、私はいます。
が、その瞬間私一人だけ、世界から切り離されていました。
社会は、私を必要としていない。
私の周囲には汗水流して働く人や、知っている人たち同士で人生を楽しんでいる人。
将来のために勉強している人も。
少なくとも、皆さん社会に何らかの形で関わっています。
社会でそれぞれが役割を持って、生活しているのです。
私にはそのような役割は、ありません。あるかもしれませんが、指名手配中の凶悪犯。
このような役割を、誰が欲しがるでしょうか。
周りは、楽しそうな顔をしている人ばかりだというのに。
部屋に引きこもって、窓から空を見上げて、何をしたらいいか分からなかった時がありました。
親は、そんな私の存在が恥ずかしかったのに違いありません。
言われる通りに勉強し、生活態度でも問題を起こさなかった。期待に応えようと努力もした。おかげで、評判の良い学生を演じることができました。
成績が低かったことは置いておいて。
それでも、親の思い描く私のイメージを、私自身が否定することは、いけないことだったのですか?
薄暗い部屋の中で、私は自分自身がどれほどダメな人間だろうか、考えることが多くなりました。
私は、親のイメージ通りの人間になる自信なんかなかった。
Sさんも、そうだったのでしょうか。




