H、さまよい続ける-2
親がいくらきれいごとで理由を飾っても、親のエゴや見栄が混ざっている期待に応えられるようには、私は出来ていない!
私をどこまで頑張らせるつもりか!
私はホームレスの親子に近づいていった。
ホームレスの親父は私に薄く掠れた声で何かを言っていた。
すがりつくような視線が私に向けられた。
子供の澄んだ瞳も私を見つめた。
Sさんなら、どうするだろう。
あの人なら財布を開くだろう。
私は、あの人のようには出来ない。
「誰が、お前らみたいなのに、金をやるか! こんな……座っているだけでお金もらっているなんて……こんな生活をしているから、働く気がなくなるのですよ!」
二人を怒鳴りつけ、茶碗の中の金に手を突っ込んだ。
少なく見積もっても、五千円はありそうだった。
時給850円だと6時間分ほどだった。
つまり、それだけの労働をせずに、ただ座っているだけで稼いでいたというわけだ。
ホームレスは私に縋りついてきた。
「な、何をなさる。それは……」
「放せ!」
ホームレスのあごを蹴り上げる。
ホームレスは吹き飛び、仰向けに倒れた。
「父ちゃん!」
子供がホームレスに駆け寄る。
その間に、私は取り上げた金をポケットに入れた。
それから、立ち去ろうとホームレス親子に背を向けたとき、後ろから呼び止められた。
子供が自分に向かって「待て」と叫んだのだった。私は足を止め、振り返る。
子供が立ち上がり、私を涙ぐんだ目でにらんでいる。
私は子供に一歩近寄り、見下ろした。
「なんです、その目は」
「と、父ちゃんに……」
途端に声が小さくなった。
聞こえなくなった部分は「謝れ」という言葉が続くのだろう。
子供は私をにらもうと、時々視線を上に上げる。
「なんか、文句あるのか!」
私は子供の顔を平手で打った。
甲高い音と同時に、子供は吹き飛んでいった。
私は今、コイツラと同じ位置にいる。
私が誰かを殺して金を奪うことしか出来ないのに対し、こいつらは人々に哀れんでもらうことしか出来ない。
学生時代、あれほど勉強したのに、学生時代は遊んでいたのに、今では立場が逆転した位置に……。
背後から声が聞こえた。誰かが「ひどい」と言っていた。
振り向くと、通りを歩く結構な人数が足を止め、私を見ていた。私の言動を非難するかのように、眉をひそめ、私をにらんでいる。遠巻きに。私を汚いものでも見るかのように。
「何を見ている!」
観衆どもを一望し、一喝。
この時の、私の顔や声がよほど恐ろしかったようだ。
奴らは一斉に私から目をそらし、歩き始めた。
私に近づかないように、迂回するように歩く者もいた。
以前なら、私がいくら正しい主張をしても、多人数で責められ、私は悪に仕立て上げられたというのに。
今は、私が明らかな悪であるのにも関わらず、連中は私の行動を見て見ぬ振りしている。
私自身、品行方正である必要はなかったわけだ。




