H、さまよい続けている-2
コインパーキングに駐車し、公園に入りました。
今日は晴れていますが、雲も出ていて日差しもそれほど強くない、過ごしやすい日でした。
平日の昼間ということもあり、それほど人はいませんでした。
公園を走っているお年寄りの人が何人か、デートしている学生風のカップルが何組か、サボっているらしきサラリーマン風の男や、私と同じ格好をした就職活動中の人たちも何人か見かけました。
池に沿って歩いているとき、風が吹いてきました。
涼しい風でした。
木の葉がこすれあい、涼しげな音を立てていました。
茂みの向こう側に見える池には何槽かのボートが浮かび、ゆっくりと進んでいました。
私はベンチに座りました。
すぐ真上で木の枝が日陰を作っていたので、少し汗ばんでいた私には心地よく感じられました。
誰も、私に目もくれません。
皆さん、私のことをただの就活中の学生としか思っていないのでしょう。
それなら、そのほうが、都合がいいというものです。
空気が穏やかなのです。
平和な空間があるのです。
ポケットには銃があり、警棒や手錠も隠し持っている私ですが、この場では使う気にはなれません。
ここにいる人たちはいずれも楽しげなのです。
各個人や、グループでのつながりはないでしょう。でも、それぞれが示し合わせたかのように、今のこの空間の雰囲気を作っているのです。
その中に、私もいる。
これでも私は、今まで十人近く人を殺して、警察から逃げている身です。警察も私を捕まえるために、血眼になっている頃だと思います。
でも、私は今この場所にいられる。
私を追う人も、馬鹿にするような人もいない。
私は放っておかれている。その上で、私がこの場所にいることが許されている。
ただの気のせいかもしれないけれど、私はこの場の空気を乱すことは、したくはありません。
「Sさん……」
ふと思い出しましたが、もしこの場にSさんがいたら、どうなっているのか。
Sさんが殺人なんか犯さずに、私の前に現れたら……。私も誰かを手にかけることなく、引きこもることもニートと罵倒されることもなく、普通の一般市民として生きられたでしょうか。
警察署で「私はSの彼女だ」と口走ってしまった。
私とあの人とで、そういう関係になれたでしょうか。
目の前を通り過ぎていった何組ものカップルみたいに、並んで歩くことができたと思いますか。
今では、ただ考えるだけしか出来ない。それに私の頭では、今この場で私とSさんが一緒にいたらどうなっていたかなんて、想像すらできないのです……。




